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本編
4.近づく距離②
しおりを挟む「一年三組、須崎さん、須崎ちはるさん。昼休みに生徒会室まで来てください」
翌日の校内放送で、ぼくは思わず、取り出した弁当を落とすところだった。いや、聞き間違いかもしれない。ぼくの耳が、何か違う言葉を聞き取ったのかもしれない。無視して弁当を開けようとすると、もう一度放送が響いた。
「須崎、呼ばれてるぞ」
向かい合わせで大きな弁当を広げた瀬戸が、にかっと笑顔で教えてくれる。
「……うん、何だろう」
心当たりは十分あったが、少しも嬉しくない。しかし、放送で呼び出されては注目が集まるじゃないか。ぼくは仕方なく弁当箱を置いて、生徒会室に向かった。
コンコン、とノックすると、どうぞ、と返ってくる。中に入れば、志堂が迎えてくれた。
「呼び出してごめん。……どうしても、気になって。具合はどうなのかなって」
(そんなの、自分で歩いて様子を見に来たらいいだろうが!)
ぼくの眉が上がったのに気がついたのか、志堂は困ったように笑う。
「うちの高校は、上級生が下級生のクラスに行くのは原則禁止なんだよ」
「……」
「特に一年生はまだ学校に慣れてない子も多いから、上級生が近づいて不安を与えないように、って決まってるんだ」
「そうなんですね。でも、もう大丈夫です。昨日はありがとうございました」
さっさと教室に戻ろう。そう思って顔を上げると、綺麗な顔が近づいて来る。
「よかったら、一緒に昼を食べないか?」
「えっ? でも、お弁当教室に置いてきちゃったし」
「待ってるから。その、ごめん。一緒に食べてもらえたら嬉しい」
(……何でだ?)
ああ、そうか、と思いついたことがあった。
「先輩、今日、友達がお休みなんですか?」
「え?」
「いや、一緒に食べる人がいなくて寂しいのかなって」
「え、うん。いや、まあ……」
「わかりました。じゃあ、待っててください」
ぼくは急いで教室に戻り、弁当箱を持って生徒会室に向かった。
(一人きりの食事は寂しい。ぼくでよければ、今日ぐらい付き合おう。昨日は心配かけちゃったしな)
この日の昼食は、思ったよりもずっと楽しかった。これがきっかけで、一緒に昼食を食べることが増えるなんて、想像もしなかった。
「いつの間に、そんなに急接近なさってるんです?」
友永がサンドイッチを食べながら、ぼそぼそと話す。ぼくたちは中庭で一緒に昼ご飯を食べていた。
「そ、そんなに接近してるつもりはないんだけど」
「十分話題になってますよ! 副会長と毎日一緒にお昼を食べてる子がいるって! 転校生だって!」
「週に二日だけだよ。毎日のわけがないだろう。学年も違うのに」
「噂ってのは尾ひれがつくものなんです」
確かに友永の言う通りだ。いつのまにか、ぼくは『副会長のお気に入りの転校生』になってしまった。ぼくたちはお昼を時々一緒に食べているだけなのに。それも、ぼくは部外者だから生徒会室はまずいと思って、中庭のベンチで食べましょうと言ったのがいけなかった。その方が逆に注目を浴びてしまったのだ。
ぼくは大きくため息をついた。
「こっそり噂を集めたり、本人を見ていられればいいと思ったのに」
「でも、ちょうどいいじゃありませんか。つかず離れずの距離でしょう?」
「うん。おかげで色々な情報が耳に入ってくる。……いらないものもあるけど」
志堂は校内で大層人気が高かった。見た目がいいだけじゃない。成績優秀でスポーツもできる。アルファらしい能力を備えているのに、驕るところがなく性格もいい。そのくせ、目下のところ恋人がいないとなれば、自分こそがと思う者が出ないわけがなかった。
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