本当にあなたが運命なんですか?

尾高志咲/しさ

文字の大きさ
12 / 21
番外編 二人のバレンタイン

3.🍫🍫🍫

しおりを挟む
 
 ちょっと待ってね、と言われてリビングのソファーに腰かけていた。
 一星のマンションはいつも、とても綺麗に片付いている。出しっぱなしの本も、ソファーに散らかっている服もない。生徒会役員だし、成績だっていつも学年で上位なのに。誰か本宅から人が来て掃除や料理をしているのかと思ったら、いや、自分でやってるよと笑う。

(アルファだから出来るって言うより、元々の人間の器の違いなんだよなあ……)

 ぼくはクッションを抱えて、ふかふかのソファーに深くもたれかかった。自分だったらゴロゴロしてるうちに友永に世話を焼かれてることだろう。

「千晴、ごめんね。待たせちゃって」

 制服から部屋着に着替えた一星が部屋から出てきた。ブルーのシャツにざっくりしたダークブラウンのニットを着て、下は黒のデニムだ。制服姿とはまた違ってかっこいい。勝手に頬が緩んでしまう。一星は、すっかりくつろいでいるぼくを見て、嬉しそうに微笑んだ。

「よかった。今日、千晴に用があると言われたらどうしようと思ってたんだ。先に誘わなきゃいけなかったのに、すっかり忘れてて」
「珍しいね。一星はいつも、真っ先に予定を聞いてくるのに」
「……ああ。今回は自分でも驚いた」

 一星は少し目を伏せて瞳を瞬いた。最近気がついたんだけど、一星は何か思うことがあると、微かに瞳を瞬くんだ。そんな時は大抵、言いたいことを飲み込んでる。ぼくは喜怒哀楽がはっきりしてる方だけれど、一星はあまり自分の気持ちを表に出さない。

 じっと見つめたら、一星は困ったように笑う。食事が出来てるけど、一緒にどう? と言われて、すぐに頷いた。一星はキッチンに向かうと、冷蔵庫から次々に料理を出した。
 スモークサーモンとレタスのサラダに、ほうれん草とハムと茸のキッシュ。お鍋にはビーフシチュー。

「こ、こここれは……」
「千晴が気に入ってくれたら嬉しいんだけど」
「大好き!」
「うん。そうだと思った」

 冷蔵庫脇のカウンターに並んでいるのは、ぼくの好物ばかりだ。一星の嬉しそうな顔を見ながら、はっと気がついた。

「もしかして、これ全部……、ぼくの為に作ってくれたの?」
「……うん」

 はにかんだ綺麗な顔に、くらっと眩暈がしそうになる。

(こ、これは反則なんじゃないだろうか)

 自分の好物を恋人が愛情込めて作ってくれる。ぼくがじわじわと幸せを嚙みしめていると、一星がぽつりと呟いた。

「……夢中になりすぎたから、一番大事なことを忘れたんだ」
「へ?」 
「少し前から、千晴の好きなものピックアップして何度か試作してたんだ。つい夢中になってしまって、全部作った後に気がついた。肝心のバレンタインに、千晴と約束してないって」

 一星はきっちり計画をたてて綿密に準備するタイプだ。連絡を忘れることなんて滅多にない。しゅんとしているのは、かなりショックだったんだろう。

「もしかして、何日も前から今日のことを考えてくれてた?」

 頷く一星の頬は、うっすらと赤い。
 自分を振り返って、何とも言えない気持ちになった。突貫工事のようにチョコを作って満足しているぼくとは大違いだ。何しろぼくには友永という優秀な現場監督がいる。彼の指示の元に何とか目の前のことをこなすぼくと一星では雲泥の差だ……。お気楽に生きているようで情けないが、もう、仕方がない。

「ありがと、一星。すごく嬉しい!」

 一星の手を握って真っ直ぐに目を見た。一星はまるで宝物に触れるみたいにぼくの体を引き寄せてぎゅっと抱きしめる。
 辺りに爽やかなレモンの香りが漂って、頭の中がふわふわしてきた。

(ああ、これは一星の香りだ。好き……大好き……)

「ご、ごめん!」

 体から力が抜けそうになったところを、一星がそっと離してくれる。ふわふわした頭のまま、ぼくは自分から一星に抱きついた。

「千晴、ちょっと待って。ご飯」
「……一星がいい」
「ちはる……」

(だって、こんなにいい匂いがする。温かくて広い胸がここにある)

 ぼくは一星の背中に手を回して力を込めた。ぼくの力なんかたいしたことないのに、一星は振り払うことが出来ない。胸に顔を埋めていたら、髪にキスをされた。

「食事、後でもいいの?」
「一星がいい」
「……うん」

 一星はぼくをひょいと抱き上げた。体が大きくないとはいえ、高校生男子を軽々と抱えていく。一星の部屋のベッドに横にされると、ぼくは慌ててしがみついた。少しも離れたくない。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

番解除した僕等の末路【完結済・短編】

藍生らぱん
BL
都市伝説だと思っていた「運命の番」に出逢った。 番になって数日後、「番解除」された事を悟った。 「番解除」されたΩは、二度と他のαと番になることができない。 けれど余命宣告を受けていた僕にとっては都合が良かった。 2026/01/23 19:00 アルファポリス版限定SS公開予定  累計で6300♡いいねと累計ポイント285000突破の御礼SSになります

陰日向から愛を馳せるだけで

麻田
BL
 あなたに、愛されたい人生だった…――  政略結婚で旦那様になったのは、幼い頃、王都で一目惚れした美しい銀髪の青年・ローレンだった。  結婚式の日、はじめて知った事実に心躍らせたが、ローレンは望んだ結婚ではなかった。  ローレンには、愛する幼馴染のアルファがいた。  自分は、ローレンの子孫を残すためにたまたま選ばれただけのオメガに過ぎない。 「好きになってもらいたい。」  …そんな願いは、僕の夢でしかなくて、現実には成り得ない。  それでも、一抹の期待が拭えない、哀れなセリ。  いつ、ローレンに捨てられてもいいように、準備はしてある。  結婚後、二年経っても子を成さない夫婦に、新しいオメガが宛がわれることが決まったその日から、ローレンとセリの間に変化が起こり始める…  ―――例え叶わなくても、ずっと傍にいたかった…  陰日向から愛を馳せるだけで、よかった。  よかったはずなのに…  呼ぶことを許されない愛しい人の名前を心の中で何度も囁いて、今夜も僕は一人で眠る。 ◇◇◇  片思いのすれ違い夫婦の話。ふんわり貴族設定。  二人が幸せに愛を伝えあえる日が来る日を願って…。 セリ  (18) 南方育ち・黒髪・はしばみの瞳・オメガ・伯爵 ローレン(24) 北方育ち・銀髪・碧眼・アルファ・侯爵 ◇◇◇  50話で完結となります。  お付き合いありがとうございました!  ♡やエール、ご感想のおかげで最後まではしりきれました。  おまけエピソードをちょっぴり書いてますので、もう少しのんびりお付き合いいただけたら、嬉しいです◎  また次回作のオメガバースでお会いできる日を願っております…!

結婚間近だったのに、殿下の皇太子妃に選ばれたのは僕だった

BL
皇太子妃を輩出する家系に産まれた主人公は半ば政略的な結婚を控えていた。 にも関わらず、皇太子が皇妃に選んだのは皇太子妃争いに参加していない見目のよくない五男の主人公だった、というお話。

【本編完結済】巣作り出来ないΩくん

こうらい ゆあ
BL
発情期事故で初恋の人とは番になれた。番になったはずなのに、彼は僕を愛してはくれない。 悲しくて寂しい日々もある日終わりを告げる。 心も体も壊れた僕を助けてくれたのは、『運命の番』だと言う彼で…

アルファな彼とオメガな僕。

スメラギ
BL
  ヒエラルキー最上位である特別なアルファの運命であるオメガとそのアルファのお話。  

俺はつがいに憎まれている

Q矢(Q.➽)
BL
最愛のベータの恋人がいながら矢崎 衛というアルファと体の関係を持ってしまったオメガ・三村圭(みむら けい)。 それは、出会った瞬間に互いが運命の相手だと本能で嗅ぎ分け、強烈に惹かれ合ってしまったゆえの事だった。 圭は犯してしまった"一夜の過ち"と恋人への罪悪感に悩むが、彼を傷つける事を恐れ、全てを自分の胸の奥に封印する事にし、二度と矢崎とは会わないと決めた。 しかし、一度出会ってしまった運命の番同士を、天は見逃してはくれなかった。 心ならずも逢瀬を繰り返す内、圭はとうとう運命に陥落してしまう。 しかし、その後に待っていたのは最愛の恋人との別れと、番になった矢崎の 『君と出会いさえしなければ…』 という心無い言葉。 実は矢崎も、圭と出会ってしまった事で、最愛の妻との番を解除せざるを得なかったという傷を抱えていた。 ※この作品は、『運命だとか、番とか、俺には関係ないけれど』という作品の冒頭に登場する、主人公斗真の元恋人・三村 圭sideのショートストーリーです。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

捨てられた生贄オメガ、魔王城で極上の『巣作り』始めます!~不眠症の魔王様、私のクッションで爆睡して溺愛モードに突入~

水凪しおん
BL
「役立たずのオメガ」として冷遇され、血も涙もない魔王への生贄として捨てられたリノ。 死を覚悟して連れてこられた魔王城は、寒くて硬くて、居住性最悪のブラック環境だった!? 「こんなところで寝られるか!」 極限状態で発動したオメガ特有の『巣作り本能』と、神業レベルの裁縫スキルが火を噴く! ゴミ同然の布切れをフカフカのクッションに、冷たい石床を極上のラグマットにリフォーム。 すると、不眠症で常にイライラしていた魔王ザルドリスが、リノの作った「巣」のあまりの快適さに陥落してしまい……? 「……貴様、私を堕落させる気か」 (※いいえ、ただ快適に寝たいだけです) 殺されるどころか、魔王様に気に入られ、気付けば城中がリノの虜に。 捨てられた生贄オメガが、裁縫一つで魔王城を「世界一のマイホーム」に変える、ほのぼの逆転溺愛ファンタジー!

処理中です...