本当にあなたが運命なんですか?

尾高志咲/しさ

文字の大きさ
16 / 21
番外編 君に出会う日

1.🌸

しおりを挟む

🍬バレンタインの番外編を書いたのでホワイトデーも書きました🍬
 
 
「早すぎる!」
「何がです? 千晴様」
「何でこんなに早く次のイベントが来るんだ。い、一か月後なんて、そんなにすぐ腕が上がるわけないじゃないか!」

 ぼくが震えながら叫ぶと、友永はああ! と言って納得したように頷いた。

「なるほど、ホワイトデーですね。千晴様の仰る通りですが、別にお返しをなさらなくても構わないでしょう」
「え?」
「僭越ながら、お返しの御心配をなさっていたのかと。千晴様も志堂様もバレンタインはお互いにチョコを贈られたのですから、相殺でよろしいのでは?」

(──相殺?)

「た。たしかに……」

 友永の言うことは一理ある。ロマンチックなイベントにしっかり付き合うくせに、合理的なことを言う男だ。

 宝珠高校はバレンタインはお祭り騒ぎだが、ホワイトデーは静かなものらしい。
 同級生の瀬戸に言わせれば「もう勝敗は決してるからな!」とわかりやすい説明が返って来た。なるほど、バレンタインは可能性でホワイトデーは結果か。
 ホワイトデーに盛り上がるのは、無事、恋人同士になった者たちだけということだ。

 ぼくは昼休みに中央廊下を歩いていた。一星が堂々と認めているので、最近はもう誰に隠すこともなく、ぼくたちは一緒にお弁当を食べている。今日は天気もいいし風も穏やかだから、外のベンチで食べる約束をした。
 昇降口で靴を履き替えてから中庭に向かうと、欅の木の陰に人の気配がする。すらりと背の高い彼が見つめる先にいるのは、一星だ。

 ……一星のこと、見てる?

 ぼくは、はっとして、その場に立ち止まってしまった。

 木の影にいた彼は、身動きもせずに一星を見ている。何だか見てはいけないものを見ている気がして、胸がざわざわした。どうしよう。これは、そ知らぬふりをして、さっと歩いて行った方がいいだろう。
 そう思っていたら、くるりと木陰の人物が振り返った。目が合った彼は、さらさらと流れる栗色の髪に吸い込まれるような明るい茶色の瞳をしている。
 整った顔立ちに見惚れていると、眉間にぐっと皺を寄せられた。

「あっ! ごめ……」

 彼はプイと顔を背けた。校舎に向かって、さっと歩いて行ってしまう。
 謝る必要はなかったのかもしれないけれど、きっと嫌な思いをさせたのだろう。まるで、こっちがずっと覗き見をしていたみたいだ。

「千晴?」

 名を呼ばれて振り向くと、一星が手を挙げる。とぼとぼとベンチまで歩けば、心配そうな顔をされた。隣に座った途端、一星がぼくの顔をじっと覗き込む。

「どうしたの? 元気がないね」
「いや、一星は人気だなって……」

 何かあったのかと、一星は目で尋ねてきた。

「さっき、木陰から一星を見てた人がいたんだ。だから」

 ちょっと気になって、という声がどんどん小さくなる。すっと手が伸びてきて、頬に温かい手が当てられた。胸がドクンと高鳴って、一星がにっこり笑う。

「俺は千晴しか見てないから」
「……な……んで、そういう……こと」

(さらっと言っちゃうんだよ。どんどん顔が熱くなるし、何言っていいんだかわかんなくなるし)

 うつむいていたら、広い胸の中にぎゅっと抱きしめられた。

「ちょっ! 何してんの!」
「少しこうしてたら、千晴は落ち着くでしょ?」
「逆だよ! こんなの、全然落ち着かない!」

 はいはい、と言いながら一星は少しも気にせず、ぼくをぎゅーぎゅー抱きしめた。文句を言っているのに、いつのまにか体から力が抜けていく。胸の中で大人しくしていたら、そっと体を離される。もう大丈夫だね、と一星が微笑んだ。

「今日はね、千晴の好きなもの作ってきた。わけっこしよう」
「あ! オムにぎりだ。嬉しい」

 一星のお弁当箱の一段目には、一口大の丸いおにぎりが整然と並ぶ。綺麗に焼かれた薄焼き卵でくるりと巻かれているのはチキンライスだ。見ただけで、お腹がぐぅと鳴る。

「毎日お弁当作るの、大変じゃない?」
「慣れてるから。それに、アルファは大事なオメガに自分で食べさせたいものなんです」
「食べさせたい?」
「うん、給餌は愛情表現だからね。はい、どうぞ」

 口元に運ばれたおにぎりをぱくりと頬張ると、とても美味しかった。
 きゅうじって、こういうの? と口をもごもごさせながら聞けば、一星はくすくす笑う。ぼくはいつのまにか、食事に夢中になっていた。

 ごちそうさま! と礼を言うと、一星は蕩けるように微笑む。ぼくの落ち込んだ気持ちは、すっかり消えていた。

 しかし、その後の数日間、ぼくは落ち着かない日々を送ることになった。

 ──視線を感じる。

 廊下で立ち話をした後や、図書室で本を選んでいる時。自販機で飲み物を買った時にも感じた。誰かにじっと見られているような気がする。ふっと視線の先を見ても、誰もいない。

「……自意識過剰なのかな」
「千晴様?」
「いや、最近誰かに見られている気がして」

 帰り道にぽつりと漏らすと、友永は首を傾げて小声になった。

「おかしいですね。お目障りになる者は一通り除いたはずですが」

(除くって何だ。さりげなくお前は何をしてるんだ)

 最近は呼び出しも嫌がらせもなくて平穏な学校生活を送っていた。てっきり一星がぼくと付き合っていることを公言しているからだと思っていたけれど、それだけではなかったらしい。ぬくぬく安心している場合じゃなかった。

「友永、ここは学校だ。ほどほどに」
「心得ました」

 一瞬、猛禽のような目をした男に、ぼくの背はぴんと伸びた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】運命なんかに勝てるわけがない

BL
オメガである笹野二葉《ささのふたば》はアルファの一ノ瀬直隆《いちのせなおたか》と友情を育めていると思っていた。同期の中でも親しく、バース性を気にせず付き合える仲だったはず。ところが目を覚ますと事後。「マジか⋯」いやいやいや。俺たちはそういう仲じゃないだろ?ということで、二葉はあくまでも親友の立場を貫こうとするが⋯アルファの執着を甘くみちゃいけないよ。 逃さないα✕怖がりなΩのほのぼのオメガバース/ラブコメです。

運命のアルファ

猫丸
BL
俺、高木颯人は、幼い頃から亮太が好きだった。亮太はずっと俺のヒーローだ。 亮太がアルファだと知った時、自分の第二の性が不明でも、自分はオメガだから将来は大好きな亮太と番婚するのだと信じて疑わなかった。 だが、検査の結果を見て俺の世界が一変した。 まさか自分もアルファだとは……。 二人で交わした番婚の約束など、とっくに破綻しているというのに亮太を手放せない颯人。 オメガじゃなかったから、颯人は自分を必要としていないのだ、と荒れる亮太。 オメガバース/アルファ同士の恋愛。 CP:相手の前でだけヒーローになるクズアルファ ✕ 甘ったれアルファ ※颯人視点は2024/1/30 21:00完結、亮太視点は1/31 21:00完結です。 ※話の都合上、途中女性やオメガ男性を貶めるような発言が出てきます(特に亮太視点)。地雷がある方、苦手な方は自衛してください。 ※表紙画像は、亮太をイメージして作成したAI画像です。

アルファな彼とオメガな僕。

スメラギ
BL
  ヒエラルキー最上位である特別なアルファの運命であるオメガとそのアルファのお話。  

僕はあなたに捨てられる日が来ることを知っていながらそれでもあなたに恋してた

いちみやりょう
BL
▲ オメガバース の設定をお借りしている & おそらく勝手に付け足したかもしれない設定もあるかも 設定書くの難しすぎたのでオメガバース知ってる方は1話目は流し読み推奨です▲ 捨てられたΩの末路は悲惨だ。 Ωはαに捨てられないように必死に生きなきゃいけない。 僕が結婚する相手には好きな人がいる。僕のことが気に食わない彼を、それでも僕は愛してる。 いつか捨てられるその日が来るまでは、そばに居てもいいですか。

器量なしのオメガの僕は

いちみやりょう
BL
四宮晴臣 × 石崎千秋 多くの美しいオメガを生み出す石崎家の中で、特に美しい容姿もしておらず、その上、フェロモン異常で発情の兆しもなく、そのフェロモンはアルファを引きつけることのない体質らしい千秋は落ちこぼれだった。もはやベータだと言ったほうが妥当な体だったけれど、血液検査ではオメガだと診断された。 石崎家のオメガと縁談を望む名門のアルファ家系は多い。けれど、その中の誰も当然の事のように千秋を選ぶことはなく、20歳になった今日、ついに家を追い出されてしまった千秋は、寒い中、街を目指して歩いていた。 かつてベータに恋をしていたらしいアルファの四宮に拾われ、その屋敷で働くことになる ※話のつながりは特にありませんが、「俺を好きになってよ!」にてこちらのお話に出てくる泉先生の話を書き始めました。

【本編完結済】巣作り出来ないΩくん

こうらい ゆあ
BL
発情期事故で初恋の人とは番になれた。番になったはずなのに、彼は僕を愛してはくれない。 悲しくて寂しい日々もある日終わりを告げる。 心も体も壊れた僕を助けてくれたのは、『運命の番』だと言う彼で…

知らないだけで。

どんころ
BL
名家育ちのαとΩが政略結婚した話。 最初は切ない展開が続きますが、ハッピーエンドです。 10話程で完結の短編です。

36.8℃

月波結
BL
高校2年生、音寧は繊細なΩ。幼馴染の秀一郎は文武両道のα。 ふたりは「番候補」として婚約を控えながら、音寧のフェロモンの影響で距離を保たなければならない。 近づけば香りが溢れ、ふたりの感情が揺れる。音寧のフェロモンは、バニラビーンズの甘い香りに例えられ、『運命の番』と言われる秀一郎の身体はそれに強く反応してしまう。 制度、家族、将来——すべてがふたりを結びつけようとする一方で、薬で抑えた想いは、触れられない手の間をすり抜けていく。 転校生の肇くんとの友情、婚約者候補としての葛藤、そして「待ってる」の一言が、ふたりの未来を静かに照らす。 36.8℃の微熱が続く日々の中で、ふたりは“運命”を選び取ることができるのか。 香りと距離、運命、そして選択の物語。

処理中です...