本当にあなたが運命なんですか?

尾高志咲/しさ

文字の大きさ
15 / 21
番外編 二人のバレンタイン

6.🍫🍫🍫🍫🍫🍫 (終)

しおりを挟む
「食べて!」

 まさに、心臓が口から飛び出しそうな気持ちだった。
 沈黙が降りた後、チョコを持った自分の手が一星の大きな手で包まれる。恐る恐る顔を上げると、一星は瞳を何度も瞬いた。

「俺に?」
「うん! 一星のために作った!」

 握られた手に強く力が加わる。綺麗な顔がくしゃっと歪んでうつむく。小さな小さな声が聞こえた。

「……もう、死にそう」
「え?」
「千晴がチョコを作ってくれるなんて」
「作るって言っても、と、溶かして固めただけなんだけど」
「……十分だ」

 一星がぼくの手を離さないので、よろけながら隣に座る。

「あのさ、一星。開けてみて?」

 一星はようやくぼくからチョコを受け取って、膝の上に置いた。長い指が丁寧にリボンを解いて、包装紙を開く。箱の中には、昨日真剣に選んだチョコが、行儀よく並んでいた。一星の口元が緩んで、見たことがないほど嬉しそうに笑う。

「ありがとう。すごく……嬉しい」

 一星は、チョコを摘まんでぱくりと口に入れた。心臓がドクンと大きく跳ねた。美味しい、と言われた瞬間、ぼくは心の中で友永に感謝の言葉を叫びまくった。

「よ、よかった」
「……千晴と過ごせて、チョコまでもらえるなんて」
「友永に作り方を教えてもらったんだ。でも、教わった後は一応、一人で作ったからね」

 一星は、くすくす笑っている。
 きっと、ぼくが何を贈っても、失敗したチョコでも、一星は美味しいって食べてくれるんだろう。
 思い切って、気になっていたことを一星に聞いてみた。

「あの、あのさ、一星。……他の人からもチョコ、もらった? 毎年、たくさんもらうんでしょ?」
「断った」
「え?」
「俺には千晴がいるから」

 好きな人がいるからもらえない、と言って誰からも受け取らなかったらしい。

「そ……うなんだ」
「千晴はもらったの?」

 ぼくは ぶんぶんと首を振った。そういえば、友チョコ一つもらっていない。

 一星が、ほっとしたように息を吐く。ぼくは、思わず笑ってしまった。
 一星みたいに大人気のアルファならまだしも、ぼくみたいに勢いだけのオメガに興味を持つ者もいないだろう。いつぞや他のオメガから平手打ちをくらったように、恨みを買う方が多そうだ。

「千晴に手を出そうとする奴がいたら……、叩きのめす」

 眉を寄せて不穏なことを言う。全く顔に似合わない冗談を言うなあ、と一星の頬をふにふにと摘まんだ。

「大好き、一星」
「俺も」

 互いに顔を近づけて唇を重ねると、甘くてほろ苦いチョコの味が口の中に広がった。


 ◇◇


 翌朝。学校で会った友永は、ぼくの顔を見て、うんうんと頷いた。

「万事うまくいったようですね、千晴様」
「助かったよ、友永! あのメッセージがなかったら、どうなっていたか……」
「念には念を、と申します。お役に立てましたなら何よりです」

 満足げに笑う友永に、ぼくはいつか、この恩を返そうと思った。友永にしてみれば当然のことかもしれないが、ぼくはいつも彼に助けられてる。

「友永!」
「はい?」
「友永に好きな人が出来たら、今度はぼくが応援するから! いつでも言って!」

 友永はピクリと眉を寄せて、怪訝な表情を浮かべている。どう言葉を返したらいいのかと悩んでいる顔だ。

「お気持ちだけ、ありがたくいただきます」
「……お前、ぼくじゃ、全然役に立たないって思ってるだろう! これからは、もう少し頑張るからな」
「千晴様は、そのままでよろしいかと」

 真剣な顔で言う友永に、ため息が出た。

(友永に世話をかけるばかりじゃいけない……。それに、来年はもう少しいいものを一星にあげられるように頑張ろう。今から頑張れば、ものすごく上達するかもしれない)

 ちなみに、一星はぼくの為にチョコケーキを焼いてくれていた。シンプルでコクのあるクラシックショコラだ。ハート型のシュガーパウダーがかかっていて、とても美味しかった。

「一星には追いつかなくても」
「は?」
「ぼくも、一歩ずつ行こ!」
「お供します」
「うん!」

 一星との初めてのバレンタインは、ぼくを少しだけ、大人にしてくれた。



 ー----------------

 お読みいただき、ありがとうございました。
 またお目にかかれますように!
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

俺はつがいに憎まれている

Q矢(Q.➽)
BL
最愛のベータの恋人がいながら矢崎 衛というアルファと体の関係を持ってしまったオメガ・三村圭(みむら けい)。 それは、出会った瞬間に互いが運命の相手だと本能で嗅ぎ分け、強烈に惹かれ合ってしまったゆえの事だった。 圭は犯してしまった"一夜の過ち"と恋人への罪悪感に悩むが、彼を傷つける事を恐れ、全てを自分の胸の奥に封印する事にし、二度と矢崎とは会わないと決めた。 しかし、一度出会ってしまった運命の番同士を、天は見逃してはくれなかった。 心ならずも逢瀬を繰り返す内、圭はとうとう運命に陥落してしまう。 しかし、その後に待っていたのは最愛の恋人との別れと、番になった矢崎の 『君と出会いさえしなければ…』 という心無い言葉。 実は矢崎も、圭と出会ってしまった事で、最愛の妻との番を解除せざるを得なかったという傷を抱えていた。 ※この作品は、『運命だとか、番とか、俺には関係ないけれど』という作品の冒頭に登場する、主人公斗真の元恋人・三村 圭sideのショートストーリーです。

捨てた筈の恋が追ってきて逃がしてくれない

Q矢(Q.➽)
BL
18歳の愛緒(まなお)は、ある男に出会った瞬間から身も心も奪われるような恋をした。 だがそれはリスクしかない刹那的なもの。 恋の最中に目が覚めてそれに気づいた時、愛緒は最愛の人の前から姿を消した。 それから、7年。 捨てたつもりで、とうに忘れたと思っていたその恋が、再び目の前に現れる。 ※不倫表現が苦手な方はご注意ください。

【本編完結済】巣作り出来ないΩくん

こうらい ゆあ
BL
発情期事故で初恋の人とは番になれた。番になったはずなのに、彼は僕を愛してはくれない。 悲しくて寂しい日々もある日終わりを告げる。 心も体も壊れた僕を助けてくれたのは、『運命の番』だと言う彼で…

【完結】運命なんかに勝てるわけがない

BL
オメガである笹野二葉《ささのふたば》はアルファの一ノ瀬直隆《いちのせなおたか》と友情を育めていると思っていた。同期の中でも親しく、バース性を気にせず付き合える仲だったはず。ところが目を覚ますと事後。「マジか⋯」いやいやいや。俺たちはそういう仲じゃないだろ?ということで、二葉はあくまでも親友の立場を貫こうとするが⋯アルファの執着を甘くみちゃいけないよ。 逃さないα✕怖がりなΩのほのぼのオメガバース/ラブコメです。

アルファな彼とオメガな僕。

スメラギ
BL
  ヒエラルキー最上位である特別なアルファの運命であるオメガとそのアルファのお話。  

運命のアルファ

猫丸
BL
俺、高木颯人は、幼い頃から亮太が好きだった。亮太はずっと俺のヒーローだ。 亮太がアルファだと知った時、自分の第二の性が不明でも、自分はオメガだから将来は大好きな亮太と番婚するのだと信じて疑わなかった。 だが、検査の結果を見て俺の世界が一変した。 まさか自分もアルファだとは……。 二人で交わした番婚の約束など、とっくに破綻しているというのに亮太を手放せない颯人。 オメガじゃなかったから、颯人は自分を必要としていないのだ、と荒れる亮太。 オメガバース/アルファ同士の恋愛。 CP:相手の前でだけヒーローになるクズアルファ ✕ 甘ったれアルファ ※颯人視点は2024/1/30 21:00完結、亮太視点は1/31 21:00完結です。 ※話の都合上、途中女性やオメガ男性を貶めるような発言が出てきます(特に亮太視点)。地雷がある方、苦手な方は自衛してください。 ※表紙画像は、亮太をイメージして作成したAI画像です。

僕はあなたに捨てられる日が来ることを知っていながらそれでもあなたに恋してた

いちみやりょう
BL
▲ オメガバース の設定をお借りしている & おそらく勝手に付け足したかもしれない設定もあるかも 設定書くの難しすぎたのでオメガバース知ってる方は1話目は流し読み推奨です▲ 捨てられたΩの末路は悲惨だ。 Ωはαに捨てられないように必死に生きなきゃいけない。 僕が結婚する相手には好きな人がいる。僕のことが気に食わない彼を、それでも僕は愛してる。 いつか捨てられるその日が来るまでは、そばに居てもいいですか。

器量なしのオメガの僕は

いちみやりょう
BL
四宮晴臣 × 石崎千秋 多くの美しいオメガを生み出す石崎家の中で、特に美しい容姿もしておらず、その上、フェロモン異常で発情の兆しもなく、そのフェロモンはアルファを引きつけることのない体質らしい千秋は落ちこぼれだった。もはやベータだと言ったほうが妥当な体だったけれど、血液検査ではオメガだと診断された。 石崎家のオメガと縁談を望む名門のアルファ家系は多い。けれど、その中の誰も当然の事のように千秋を選ぶことはなく、20歳になった今日、ついに家を追い出されてしまった千秋は、寒い中、街を目指して歩いていた。 かつてベータに恋をしていたらしいアルファの四宮に拾われ、その屋敷で働くことになる ※話のつながりは特にありませんが、「俺を好きになってよ!」にてこちらのお話に出てくる泉先生の話を書き始めました。

処理中です...