本当にあなたが運命なんですか?

尾高志咲/しさ

文字の大きさ
14 / 21
番外編 二人のバレンタイン

5.🍫🍫🍫🍫🍫

しおりを挟む

 ふっと目を開けた時には、ベッドに一人で寝ていた。体はいつのまにか柔らかい生地のパジャマを着て、肌はさらりと綺麗になっている。いつの間にか眠っていたらしい。

「一星……?」

 ぽつりと呟くとドアが開いた。部屋着を着た一星が入って来る。

「千晴、起きた?」
「……ん」
「千晴の家には連絡しておいたから、今日は泊まっていって」

 ベッドの隣に来た一星にぼくは手を伸ばす。一星は笑いながら屈みこんで、顔を近づけた。

「甘えてる千晴も可愛いけど、お腹すいてない? ご飯食べる?」

 ご飯と言われた途端に、ぐうっとお腹が鳴った。時計を見ると、まだ日付が変わるには一時間ある。
 こくんと頷くと、一星はぼくを抱きあげた。体が怠くて重いから、一星の腕の中がいい。リビングのソファーにそっと下ろされると、ローテーブルにはもう、二人分のお皿やカトラリーが並んでいた。
 いつものダイニングじゃなくて、ソファーでご飯だ。何だかわくわくする。声がかすれているぼくに、一星は申し訳なさそうに目を向けた。

「スパークリングの葡萄ジュースも用意したけど、喉にしみるかな。お茶にしようか」
「すこし……ほし……」

 一星が頷いて、ぼくの額にキスをした。まるでワインのような瓶が運ばれてきて、目の前に二つのグラスが置かれた。金色の泡がとくとくと静かにグラスに注がれる。一星の長い指が瓶を軽々と持つ仕草が綺麗で、好きだなあと思う。
 二人で乾杯すると、やっぱり喉に炭酸がしみた。一星がすぐに麦茶を持ってきてくれる。優しいなあと嬉しくなって、お茶を少しずつ飲んだ。目の前にはビーフシチューに軽く焼かれたバゲット、サラダやキッシュが並ぶ。たちまち、ぐうぐうとお腹が鳴った。

「はい、千晴」

 小さく切ったキッシュを差し出されて、思わずぱくんと食べた。

「おいしい!」

 外側のパイがサクサクしてバターの風味が口いっぱいに広がる。ぼくが口を開けると、一星がひょいひょいと口に入れてくれる。これじゃあまるで、鳥の餌付けだ。

「ふふ、食べさせるのもいいな」
「ひや! ふしゅーは、ぶぶんで!」
「そう……。残念だなあ」

 まるでリスみたいにもぐもぐ食べながら答えると、一星は名残惜しそうな顔をした。さすがに病人や赤ん坊じゃないからシチューは自分で食べる。艶やかに煮込まれたシチューは、口にした瞬間に肉がほろりと崩れた。あまりのおいしさに夢中になって口に運ぶと、たちまち深皿が空になる。
 顔を上げると、一星はスプーンを置いたまま、ぼくをじっと見ていた。

「一星も、たべよ?」 
「千晴が食べるのを見るのが好きなんだ」

 幸せそうな一星の顔に何だか照れてしまって、ぼくはシチューのお代わりが欲しいと頼んだ。一星は、すぐに持ってきてくれた。今度は一星も一緒に食べ始めると、さらに美味しく感じる。
 満腹になってほっと息をついた時、リビングにあった時計が目に入った。時刻はもうすぐ十二時になろうとしている。

(……? 何か……忘れてるような)

 その時、ソファーの端に置きっぱなしになっていたスマホの着信音が鳴った。急いで取れば、画面には友永の名が光っている。

『千晴様、ご首尾は?』

(――そうだ!!!)

 頭からざぶんと冷水がかかった気がした。

 ぱっと立ち上がって、ソファーの脇に置いた鞄の前にしゃがみこむ。中にチョコがあるのを確かめて、箱をしっかり掴んで振り返った。一星がびっくりして、こちらを見ている。

「い、いっせい。あの!」
「ん?」
「初めてなんだ!」
「はじめて?」
「そう! これ!」

 ぼくは一星に、チョコの入った箱を差し出した。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

【完結】運命なんかに勝てるわけがない

BL
オメガである笹野二葉《ささのふたば》はアルファの一ノ瀬直隆《いちのせなおたか》と友情を育めていると思っていた。同期の中でも親しく、バース性を気にせず付き合える仲だったはず。ところが目を覚ますと事後。「マジか⋯」いやいやいや。俺たちはそういう仲じゃないだろ?ということで、二葉はあくまでも親友の立場を貫こうとするが⋯アルファの執着を甘くみちゃいけないよ。 逃さないα✕怖がりなΩのほのぼのオメガバース/ラブコメです。

【本編完結済】巣作り出来ないΩくん

こうらい ゆあ
BL
発情期事故で初恋の人とは番になれた。番になったはずなのに、彼は僕を愛してはくれない。 悲しくて寂しい日々もある日終わりを告げる。 心も体も壊れた僕を助けてくれたのは、『運命の番』だと言う彼で…

運命のアルファ

猫丸
BL
俺、高木颯人は、幼い頃から亮太が好きだった。亮太はずっと俺のヒーローだ。 亮太がアルファだと知った時、自分の第二の性が不明でも、自分はオメガだから将来は大好きな亮太と番婚するのだと信じて疑わなかった。 だが、検査の結果を見て俺の世界が一変した。 まさか自分もアルファだとは……。 二人で交わした番婚の約束など、とっくに破綻しているというのに亮太を手放せない颯人。 オメガじゃなかったから、颯人は自分を必要としていないのだ、と荒れる亮太。 オメガバース/アルファ同士の恋愛。 CP:相手の前でだけヒーローになるクズアルファ ✕ 甘ったれアルファ ※颯人視点は2024/1/30 21:00完結、亮太視点は1/31 21:00完結です。 ※話の都合上、途中女性やオメガ男性を貶めるような発言が出てきます(特に亮太視点)。地雷がある方、苦手な方は自衛してください。 ※表紙画像は、亮太をイメージして作成したAI画像です。

アルファな彼とオメガな僕。

スメラギ
BL
  ヒエラルキー最上位である特別なアルファの運命であるオメガとそのアルファのお話。  

僕はあなたに捨てられる日が来ることを知っていながらそれでもあなたに恋してた

いちみやりょう
BL
▲ オメガバース の設定をお借りしている & おそらく勝手に付け足したかもしれない設定もあるかも 設定書くの難しすぎたのでオメガバース知ってる方は1話目は流し読み推奨です▲ 捨てられたΩの末路は悲惨だ。 Ωはαに捨てられないように必死に生きなきゃいけない。 僕が結婚する相手には好きな人がいる。僕のことが気に食わない彼を、それでも僕は愛してる。 いつか捨てられるその日が来るまでは、そばに居てもいいですか。

器量なしのオメガの僕は

いちみやりょう
BL
四宮晴臣 × 石崎千秋 多くの美しいオメガを生み出す石崎家の中で、特に美しい容姿もしておらず、その上、フェロモン異常で発情の兆しもなく、そのフェロモンはアルファを引きつけることのない体質らしい千秋は落ちこぼれだった。もはやベータだと言ったほうが妥当な体だったけれど、血液検査ではオメガだと診断された。 石崎家のオメガと縁談を望む名門のアルファ家系は多い。けれど、その中の誰も当然の事のように千秋を選ぶことはなく、20歳になった今日、ついに家を追い出されてしまった千秋は、寒い中、街を目指して歩いていた。 かつてベータに恋をしていたらしいアルファの四宮に拾われ、その屋敷で働くことになる ※話のつながりは特にありませんが、「俺を好きになってよ!」にてこちらのお話に出てくる泉先生の話を書き始めました。

知らないだけで。

どんころ
BL
名家育ちのαとΩが政略結婚した話。 最初は切ない展開が続きますが、ハッピーエンドです。 10話程で完結の短編です。

36.8℃

月波結
BL
高校2年生、音寧は繊細なΩ。幼馴染の秀一郎は文武両道のα。 ふたりは「番候補」として婚約を控えながら、音寧のフェロモンの影響で距離を保たなければならない。 近づけば香りが溢れ、ふたりの感情が揺れる。音寧のフェロモンは、バニラビーンズの甘い香りに例えられ、『運命の番』と言われる秀一郎の身体はそれに強く反応してしまう。 制度、家族、将来——すべてがふたりを結びつけようとする一方で、薬で抑えた想いは、触れられない手の間をすり抜けていく。 転校生の肇くんとの友情、婚約者候補としての葛藤、そして「待ってる」の一言が、ふたりの未来を静かに照らす。 36.8℃の微熱が続く日々の中で、ふたりは“運命”を選び取ることができるのか。 香りと距離、運命、そして選択の物語。

処理中です...