翼が生えた王子は辺境伯令息に執心される

尾高志咲/しさ

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翼が生えた王子、辺境伯領へ

13.辺境伯一家との対面

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「……ミシュー」
「ははははいっ!」

 思わず背筋がぴんと伸びてしまった。宵闇色の瞳がぱちぱちと瞬きをした後、エドマンドは顔を背けた。背中が細かく震え、僕の背の翼も同時にぴくぴくと動く。

「な、なに?」
「……ふっ。す、すみません。あまりに可愛らしい反応をなさるので、ちょっと……」

 どうやら笑いを堪えているのだとわかって、僕の口は勝手に曲がった。握られたままの手を離そうとすると、エドマンドがこちらを向いた。謝りながらも目尻に涙を浮かべている。

「そんなに笑わなくてもいいのに!」
「すみません、ミシュー。本当はすごく心配だったんです」
「心配?」
「はい。怒られて、部屋を替えろといわれたらどうしようと思っていました」
「部屋を替える?」

 そんなこと、思いもしなかった。

「私の寝室からは勝手に入らないことをお約束します。ですから」

 まるで縋るような目で「どうか側にいてほしい」と言うのはずるいと思う。長い睫毛に縁どられた宵闇色の瞳はとても綺麗だ。見つめられると落ち着かなくて、すぐにわかったと言ってしまいたくなる。

「……じゃあ、何か困ったことがあったら、その扉から行く」
「困った時だけと言わず、いつでも」
「……わかった」

 エドマンドが笑うと同時に、背の翼がふわりと大きく広がった。



 その日、僕は晩餐の席で辺境伯一家と対面することになった。

 以前、王宮で辺境伯とは会ったことがある。エドマンドと同じ金色の髪と宵闇色の瞳をして、見事な体躯の人物だ。騎士かと思ったのを覚えている。父と話があるからとエドマンドが部屋を出た後、僕は思わずペテルの腕を掴んだ。

「ペテル! ほ、本当に大丈夫だと思う?」
「何がです?」
「翼だよ、この翼! 伯爵たちに受け入れてもらえるだろうか」
「エドマンド様からお話は伺っているはずですから、皆様、心構えはできていらっしゃるでしょう」 
「でも、聞くと見るとじゃ大違いって言うだろう? 自分に起きたことなのに、僕だってなかなか受け入れられなかったんだ。目にした途端、化け物だと思われたら……」
 
 段々不安になってきて、とてもじゃないが落ち着くことなんてできない。
 ペテルは弱気になる僕を見て、眉を吊り上げた。

「殿下にそんなことを仰るような方々なら、馬車を一台奪って隣国に逃げましょう!」
「へ?」
「翼の一つや二つ生えたところで、何だと言うんです! ミシュー殿下のお美しさと気品がさらに増しただけです!」
「ペテル……」
「エドマンド様は愛情深い御方だと思います。ですが、万一、殿下が嫌な思いをなさるようなことがあれば、話は別です。こちらから出ていけばいいのです」

 いつも冷静な侍従の熱い言葉に驚いた。ペテルは僕の乳母の甥だ。兄たちと違って日の当たらない王子の僕に、幼い時から文句ひとつ言わず仕えてくれる。僕は胸がじんわりと温かくなって、ちょっと泣きそうな気持ちになってしまった。

「……ありがと。じゃあ、いざという時は一緒に逃げて」
「もちろんです!」

 どんと胸を叩いて見せるペテルに元気をもらい、僕は晩餐に向かう支度を整えた。ロフォール伯爵家お抱えの職人たちが腕を振るってくれた衣装はたくさんある。僕は白地に金と青の刺繍の服を選んだ。エドマンドが「貴方の色です」と同色のベールと共に嬉しそうに渡してくれたものだった。

 晩餐の前に部屋まで迎えに来てくれたエドマンドは、眩しそうな瞳で僕を見る。お似合いですよと言われて、少しだけ緊張がほぐれた。

「では、参りましょう。ミシュー」
「うん」

 差し出されたエドマンドの腕に手を添えて、晩餐室へと入った。部屋の中には辺境伯の家族たちが既に席に着いていた。僕の姿を見た途端、皆が椅子から立ち上がる。
 エドマンドが僕のベールを外すと、部屋の空気が揺れた。小さなため息が幾つも漏れ、喜びにあふれた宵闇色の瞳が幾つも見えた。

「ミシュー殿下、ようこそおいでくださいました。殿下のお越しを心より歓迎申し上げます」

 当主である辺境伯の言葉に礼を返そうとした時。僕は辺境伯の傍らの椅子から顔を覗かせたものに目をみはった。

「……え?」

 晩餐の席にいるはずがないものだった。三角の耳がぴんと立ち、毛がきらきらと輝く。
 そこにいたのは、白銀の毛に澄んだ青の瞳の……美しい狼だった。
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