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翼が生えた王子、辺境伯領へ
12.辺境伯の地
旅は順調に進み、予定通り一週間で辺境伯の領地に入った。
「エドマンド! あれが辺境伯の城?」
「はい。今までミシューがご覧になった城とは違って無骨かと思います」
「確かに違うけど、すごい……」
ロフォール伯爵家の城は周囲を城壁に囲まれ、優美というより堅牢だ。数百年もの間、他国の侵入を退け過酷な自然に耐えてきた。エドマンドの祖父の代からは隣国との関係も改善し、和平が保たれている。
城に近づくにつれ道はより整備され、行き交う荷馬車も多くなる。辺境伯の領地は国防の要だけでなく、他国や他領との貿易の中心でもあることがよくわかった。一方、青々と草が茂り馬がゆったりと走る姿も目に入る。
「馬がたくさん走ってる!」
「我が領地は軍馬の産地でもあります。ミシューは乗馬の経験はおありですか?」
「少しだけ。王宮の周りを兄と遠駆けしたぐらい」
「では、今度ご一緒に走りましょう」
「うん!」
城がどんどん近づき、圧倒されるうちに城門をくぐった。使用人たちの出迎えを受けた時も、相変わらず護衛騎士たちが僕の周囲を守る。僕の披露目がすむまでは、どうやらこの状態が続くらしい。
「ミシュー、部屋は私の隣に用意させました」
エドマンドの言葉に頷き廊下を進む。案内された部屋は広く、王宮にも劣らない調度品が置かれている。窓からは十分な採光が入って明るかった。
「足りないものがあればすぐに用意します。殿下のお住まいとして不足な点があれば仰ってください」
王子を迎えるとあって心を配ってくれたのだろう。部屋のあちこちには花が生けられ、甘い香りが漂う。温かな気持ちが嬉しい。僕は感謝を込めてエドマンドの手を握った。
「ねえ、エドマンド。僕は王子とは言っても五番目だ。母を早くに亡くして、王宮の片隅でひっそり生きてきた。だから、こんなに心を尽くしてもらえたら、もう十分だよ」
父王も兄たちも僕に優しかった。でも、それは王宮の権力争いからとうに外れた存在だったからだ。辺境伯家との縁がなかったら、国のためにどこか他国へ嫁がされていたことだろう。
ありがとう、と言葉を続けるとエドマンドはぎゅっと目を瞑った。そしてごくんと唾を飲み込むと、意を決したように言った。
「……その優しさにつけこむ私をお許しください」
「え?」
エドマンドは続き部屋になっている寝室へと僕の手を引いていく。窓の近くの壁に扉があった。
「あれ、この扉?」
「私の部屋の寝室と繋がっています。……内鍵はありますので」
「……」
(確かに、鍵はついている。でも、ここを通ればいつでも隣に行けるわけで。表扉を守る護衛騎士たちの目にも付かないわけで……)
ぼんっと火が出るように一気に頬が熱くなった。
エドマンドは僕の手を握ったまま、もう片方の手で扉を開けた。半開きの扉からは落ち着いた色調で整えられた寝室が見える。
「ほんとに繋がってる!」
思わず叫ぶと、エドマンドが頷く。
「ミシューはずっと翼を隠していらっしゃるのです。ご自分の部屋にいる時ぐらい、ベール無しでお寛ぎになりたいでしょう?」
「う、うん」
「この扉をお使いになれば、翼も人目も気にすることなく会うことができます。いつでも私を訪ねてくださって構いません」
エドマンドの心遣いは嬉しい。ずいぶん慣れたとはいえ、ベールを付けたままの生活は緊張を伴う。それでも、いきなり寝室を訪問するなんて非常識ではないかと思ってしまう。
「ミシューは私の伴侶となられる方です。何も遠慮なさることはありません」
「遠慮するなと言われても……」
まるで僕の心を読んだかのように、エドマンドは端正な顔を近づけた。ドクンと大きく胸が鳴る。
「エドマンド! あれが辺境伯の城?」
「はい。今までミシューがご覧になった城とは違って無骨かと思います」
「確かに違うけど、すごい……」
ロフォール伯爵家の城は周囲を城壁に囲まれ、優美というより堅牢だ。数百年もの間、他国の侵入を退け過酷な自然に耐えてきた。エドマンドの祖父の代からは隣国との関係も改善し、和平が保たれている。
城に近づくにつれ道はより整備され、行き交う荷馬車も多くなる。辺境伯の領地は国防の要だけでなく、他国や他領との貿易の中心でもあることがよくわかった。一方、青々と草が茂り馬がゆったりと走る姿も目に入る。
「馬がたくさん走ってる!」
「我が領地は軍馬の産地でもあります。ミシューは乗馬の経験はおありですか?」
「少しだけ。王宮の周りを兄と遠駆けしたぐらい」
「では、今度ご一緒に走りましょう」
「うん!」
城がどんどん近づき、圧倒されるうちに城門をくぐった。使用人たちの出迎えを受けた時も、相変わらず護衛騎士たちが僕の周囲を守る。僕の披露目がすむまでは、どうやらこの状態が続くらしい。
「ミシュー、部屋は私の隣に用意させました」
エドマンドの言葉に頷き廊下を進む。案内された部屋は広く、王宮にも劣らない調度品が置かれている。窓からは十分な採光が入って明るかった。
「足りないものがあればすぐに用意します。殿下のお住まいとして不足な点があれば仰ってください」
王子を迎えるとあって心を配ってくれたのだろう。部屋のあちこちには花が生けられ、甘い香りが漂う。温かな気持ちが嬉しい。僕は感謝を込めてエドマンドの手を握った。
「ねえ、エドマンド。僕は王子とは言っても五番目だ。母を早くに亡くして、王宮の片隅でひっそり生きてきた。だから、こんなに心を尽くしてもらえたら、もう十分だよ」
父王も兄たちも僕に優しかった。でも、それは王宮の権力争いからとうに外れた存在だったからだ。辺境伯家との縁がなかったら、国のためにどこか他国へ嫁がされていたことだろう。
ありがとう、と言葉を続けるとエドマンドはぎゅっと目を瞑った。そしてごくんと唾を飲み込むと、意を決したように言った。
「……その優しさにつけこむ私をお許しください」
「え?」
エドマンドは続き部屋になっている寝室へと僕の手を引いていく。窓の近くの壁に扉があった。
「あれ、この扉?」
「私の部屋の寝室と繋がっています。……内鍵はありますので」
「……」
(確かに、鍵はついている。でも、ここを通ればいつでも隣に行けるわけで。表扉を守る護衛騎士たちの目にも付かないわけで……)
ぼんっと火が出るように一気に頬が熱くなった。
エドマンドは僕の手を握ったまま、もう片方の手で扉を開けた。半開きの扉からは落ち着いた色調で整えられた寝室が見える。
「ほんとに繋がってる!」
思わず叫ぶと、エドマンドが頷く。
「ミシューはずっと翼を隠していらっしゃるのです。ご自分の部屋にいる時ぐらい、ベール無しでお寛ぎになりたいでしょう?」
「う、うん」
「この扉をお使いになれば、翼も人目も気にすることなく会うことができます。いつでも私を訪ねてくださって構いません」
エドマンドの心遣いは嬉しい。ずいぶん慣れたとはいえ、ベールを付けたままの生活は緊張を伴う。それでも、いきなり寝室を訪問するなんて非常識ではないかと思ってしまう。
「ミシューは私の伴侶となられる方です。何も遠慮なさることはありません」
「遠慮するなと言われても……」
まるで僕の心を読んだかのように、エドマンドは端正な顔を近づけた。ドクンと大きく胸が鳴る。
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