23 / 39
翼が生えた王子、辺境伯領へ
23.魔女の血
しおりを挟む
「ミシュー、私は……」
「知ってる。僕のことをずっと考えてくれてたこと」
僕を守ると約束してから、護衛騎士の数が多くなった。贈られるベールの生地はどんどん厚手のものに変わった。どこへ行くにも自ら行動を共にしようとしてくれた。
何よりも……僕を見る瞳には愛情だけじゃない。いつだって、うっすらと罪悪感が張りついていた。
「エドマンドのせいだなんて思わなくていいんだ。罪悪感なんてもたないで」
ミシュー、とエドマンドが声を震わせる。僕はエドマンドの頬を両手で包んだ。僕の大好きな宵闇色の瞳が揺れている。エドマンドは僕の左手を掴んで強く握りしめた。
「……辺境伯家の嫡子として強くあれ、と。誰かを求めた時も心迷うなとずっと言われてきたのに。自分の心一つ、御することもできない。貴方に申し訳ないと思う気持ちを捨てることも、貴方を自分から解放して差し上げることもできません」
静かな言葉なのに、今にも泣き出しそうな悲痛な叫びを聞いているのだと思った。
優しいエドマンドの心は、ずっと張りつめていたんだと思う。僕を守ろうと心を砕いて、同時に魔女の呪いで僕を縛り付けていると悩んで。少しずつ少しずつ、笑顔よりも不安に揺れる顔を見ることが増えていった。
「エドマンド、僕ね、森に来るまでの間ずっと領地を見たんだよ。賑わう城下町はすごいと思ったし、馬車を見ると手を振ってくれる人たちがいて嬉しかった。辺境伯やエドマンドが領地と民を大切にしていることが、よくわかったんだ」
「ミシュー……」
「少しの間にたくさんの笑顔を見たよ。領民が笑顔でいられるのは、領主が人々のために力を尽くしているからだ」
僕は右手でエドマンドの頬をゆっくりと撫でた。大丈夫だよ、と伝えたくて。エドマンドの心が少しでも軽くなってほしいとの祈りを込めて。エドマンドは、すがり付くように僕の左手を握りしめた。
ふう、と小さなため息が机の向こうから聞こえた。
「何て言うかさぁ……彼には生真面目なご先祖の魔女の血が強く出ちゃったんだろうね。辺境伯の方の血は、もっと後先考えないのにね」
アヴィは机に両肘をつき、顎に両手を当てながらのんびりと言う。目で「そうなの?」と尋ねれば、頷いて「そうだよ」と返される。
「だって、その昔の辺境伯が恋して押しまくったから、魔女は絆されて結婚したんでしょ。おかげで子孫は散々な目に遭ってるわけだし。でもね、そこの彼みたいな子のために俺たちがいるんだよ」
「……え?」
「辺境伯家は魔女の血を繋ぐ。つまり、俺たちの遠い親戚のようなものだ。その昔、子孫に何かあったら助けてほしいと妹に願われて姉の魔女たちは了承した。だから、森に棲む魔女の一族……俺たちは、辺境伯たちの願いを叶えてる」
アヴィの金色の目がきらきらと輝く。その瞳は、ランプの灯を思わせた。暗闇の中のただ一つの希望のように。
「だから、リリアナ様の姿を人に戻したの?」
「そう。辺境伯が願ったから」
「で、でも命を取るなんて!」
「何でも無料ってわけにはいかないでしょ。魔女に願うのに代償は必要なんだし。それに、辺境伯の血筋なら多少命の欠片をもらっても大丈夫なんだよね」
僕とエドマンドが目を丸くしていると、アヴィが片目をつぶった。
「言ったじゃない。魔女は長生きだって」
「?」
「だから、魔女と交わった辺境伯の血筋の者は長命なんだよ。俺たちに差し出すぐらいの方が、人として生きるにはちょうどいいんだ」
そんなことってあるんだろうか。いや、実際に魔女が言うならそうなんだろうけど。
「そんなわけで、王子からもらうのは危険すぎるから止めた方がいいけど、エドマンド。君からなら構わないよ」
まるで……どうする?と言っているかのように魔女の瞳が光った。
「知ってる。僕のことをずっと考えてくれてたこと」
僕を守ると約束してから、護衛騎士の数が多くなった。贈られるベールの生地はどんどん厚手のものに変わった。どこへ行くにも自ら行動を共にしようとしてくれた。
何よりも……僕を見る瞳には愛情だけじゃない。いつだって、うっすらと罪悪感が張りついていた。
「エドマンドのせいだなんて思わなくていいんだ。罪悪感なんてもたないで」
ミシュー、とエドマンドが声を震わせる。僕はエドマンドの頬を両手で包んだ。僕の大好きな宵闇色の瞳が揺れている。エドマンドは僕の左手を掴んで強く握りしめた。
「……辺境伯家の嫡子として強くあれ、と。誰かを求めた時も心迷うなとずっと言われてきたのに。自分の心一つ、御することもできない。貴方に申し訳ないと思う気持ちを捨てることも、貴方を自分から解放して差し上げることもできません」
静かな言葉なのに、今にも泣き出しそうな悲痛な叫びを聞いているのだと思った。
優しいエドマンドの心は、ずっと張りつめていたんだと思う。僕を守ろうと心を砕いて、同時に魔女の呪いで僕を縛り付けていると悩んで。少しずつ少しずつ、笑顔よりも不安に揺れる顔を見ることが増えていった。
「エドマンド、僕ね、森に来るまでの間ずっと領地を見たんだよ。賑わう城下町はすごいと思ったし、馬車を見ると手を振ってくれる人たちがいて嬉しかった。辺境伯やエドマンドが領地と民を大切にしていることが、よくわかったんだ」
「ミシュー……」
「少しの間にたくさんの笑顔を見たよ。領民が笑顔でいられるのは、領主が人々のために力を尽くしているからだ」
僕は右手でエドマンドの頬をゆっくりと撫でた。大丈夫だよ、と伝えたくて。エドマンドの心が少しでも軽くなってほしいとの祈りを込めて。エドマンドは、すがり付くように僕の左手を握りしめた。
ふう、と小さなため息が机の向こうから聞こえた。
「何て言うかさぁ……彼には生真面目なご先祖の魔女の血が強く出ちゃったんだろうね。辺境伯の方の血は、もっと後先考えないのにね」
アヴィは机に両肘をつき、顎に両手を当てながらのんびりと言う。目で「そうなの?」と尋ねれば、頷いて「そうだよ」と返される。
「だって、その昔の辺境伯が恋して押しまくったから、魔女は絆されて結婚したんでしょ。おかげで子孫は散々な目に遭ってるわけだし。でもね、そこの彼みたいな子のために俺たちがいるんだよ」
「……え?」
「辺境伯家は魔女の血を繋ぐ。つまり、俺たちの遠い親戚のようなものだ。その昔、子孫に何かあったら助けてほしいと妹に願われて姉の魔女たちは了承した。だから、森に棲む魔女の一族……俺たちは、辺境伯たちの願いを叶えてる」
アヴィの金色の目がきらきらと輝く。その瞳は、ランプの灯を思わせた。暗闇の中のただ一つの希望のように。
「だから、リリアナ様の姿を人に戻したの?」
「そう。辺境伯が願ったから」
「で、でも命を取るなんて!」
「何でも無料ってわけにはいかないでしょ。魔女に願うのに代償は必要なんだし。それに、辺境伯の血筋なら多少命の欠片をもらっても大丈夫なんだよね」
僕とエドマンドが目を丸くしていると、アヴィが片目をつぶった。
「言ったじゃない。魔女は長生きだって」
「?」
「だから、魔女と交わった辺境伯の血筋の者は長命なんだよ。俺たちに差し出すぐらいの方が、人として生きるにはちょうどいいんだ」
そんなことってあるんだろうか。いや、実際に魔女が言うならそうなんだろうけど。
「そんなわけで、王子からもらうのは危険すぎるから止めた方がいいけど、エドマンド。君からなら構わないよ」
まるで……どうする?と言っているかのように魔女の瞳が光った。
43
あなたにおすすめの小説
宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている
飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話
アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。
無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。
ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。
朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。
連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。
※6/20追記。
少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。
今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。
1話目はちょっと暗めですが………。
宜しかったらお付き合い下さいませ。
多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。
ストックが切れるまで、毎日更新予定です。
売れ残りオメガの従僕なる日々
灰鷹
BL
王弟騎士α(23才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、国王陛下から「第3王弟に謀反の疑いがあるため、身辺を探るように」という密命を受け、オメガ嫌いと噂される第3王弟ラインハルトの従僕になった。
無口で無愛想な彼の優しい一面を知り、任務とは裏腹にラインハルトに惹かれていくユリウスであったが、働き始めて3カ月が過ぎたところで第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるという噂を聞き、従僕も解雇される。
ギルド職員は高ランク冒険者の執愛に気づかない
Ayari(橋本彩里)
BL
王都東支部の冒険者ギルド職員として働いているノアは、本部ギルドの嫌がらせに腹を立て飲みすぎ、酔った勢いで見知らぬ男性と夜をともにしてしまう。
かなり戸惑ったが、一夜限りだし相手もそう望んでいるだろうと挨拶もせずその場を後にした。
後日、一夜の相手が有名な高ランク冒険者パーティの一人、美貌の魔剣士ブラムウェルだと知る。
群れることを嫌い他者を寄せ付けないと噂されるブラムウェルだがノアには態度が違って……
冷淡冒険者(ノア限定で世話焼き甘えた)とマイペースギルド職員、周囲の思惑や過去が交差する。
表紙は友人絵師kouma.作です♪
悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで
二三@冷酷公爵発売中
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。
愛していた王に捨てられて愛人になった少年は騎士に娶られる
彩月野生
BL
湖に落ちた十六歳の少年文斗は異世界にやって来てしまった。
国王と愛し合うようになった筈なのに、王は突然妃を迎え、文斗は愛人として扱われるようになり、さらには騎士と結婚して子供を産めと強要されてしまう。
王を愛する気持ちを捨てられないまま、文斗は騎士との結婚生活を送るのだが、騎士への感情の変化に戸惑うようになる。
(誤字脱字報告は不要)
【完結】冷酷騎士団長を助けたら口移しでしか薬を飲まなくなりました
ざっしゅ
BL
異世界に転移してから一年、透(トオル)は、ゲームの知識を活かし、薬師としてのんびり暮らしていた。ある日、突然現れた洞窟を覗いてみると、そこにいたのは冷酷と噂される騎士団長・グレイド。毒に侵された彼を透は助けたが、その毒は、キスをしたり体を重ねないと完全に解毒できないらしい。
タイトルに※印がついている話はR描写が含まれています。
竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】
ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。
花街だからといって身体は売ってません…って話聞いてます?
銀花月
BL
魔導師マルスは秘密裏に王命を受けて、花街で花を売る(フリ)をしていた。フッと視線を感じ、目線をむけると騎士団の第ニ副団長とバッチリ目が合ってしまう。
王命を知られる訳にもいかず…
王宮内で見た事はあるが接点もない。自分の事は分からないだろうとマルスはシラをきろうとするが、副団長は「お前の花を買ってやろう、マルス=トルマトン」と声をかけてきたーーーえ?俺だってバレてる?
※[小説家になろう]様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる