翼が生えた王子は辺境伯令息に執心される

尾高志咲/しさ

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翼が生えた王子、辺境伯領へ

24.大切な人

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「だ、だめ! エドマンド、アヴィの話を聞いちゃだめだ」
「はぁ? 王子、俺のこと全然信用してないでしょ」
「自分の命の長さも知らないくせに命の欠片を渡すのか、ってアヴィが言ったんじゃないか! エドマンドの命が特別短かったらどうするんだよ!」
「えええぇ……それは、いきなり無謀なことを言ってくるから釘を刺しただけ。辺境伯の血筋なのに命が短いだなんて有り得ない」
「いくら魔女だと言っても神様じゃないんだ。何でも知ってるわけじゃないだろ!」

 アヴィが眉を寄せても、僕は引き下がらなかった。万が一ってことがあるかもしれない。エドマンドの命が短くなるなんて絶対にだめだ。

「エドマンドは、すごく大事な人なんだから! 僕にも皆にもっ」
「ミシュー……」
「なに!?」

 アヴィに叫んだ勢いのまま顔を向けると、エドマンドが突然、体を折った。小刻みに背中が震え、それに合わせるように僕の背の翼も震える。

「エドマンド? どうしたの!?」
「く……ふっ……」

 僕が声をかけてもエドマンドは顔を伏せたままだ。どこか具合でも悪いんだろうか。顔を覗き込もうとすると、翼の動きが突然大きくなった。

「わわわッ!」

 いきなり、椅子から体がふわりと浮き上がった。まるで紙が突風に舞うように。

「ぅわあ!」

 部屋の天井までぐんと浮かび上がった僕を、アヴィが真ん丸な目で見ている。そして、弾かれたように叫んだ。

「王子! 君、飛べるの?」
「これは浮かぶって言うんじゃ……」
「でも、ちゃんと翼が動いてるよ」

 ぱたぱた、ぱたぱた。翼が軽やかに動くのとは反対に僕は呆然としていた。
 足が地に着いてないのってこんなに変な感じなんだ。それに、どうやって床に下りたらいいんだろう。

「ミシュー」

 顔を上げたエドマンドと目が合った。頬は薔薇色で、眩しいものを見るように目を細めている。たちまち口元がほころんで、ずっと見たいと思っていたエドマンドの笑顔が現れた。立ち上がったエドマンドが、僕に向かって両手を伸ばす。

「下りられないんだよ、エドマンド。どうしよう」

 互いの指先が触れ合っても、浮いた体はそのままだ。自分でも情けない顔をしているのがわかる。ふふ、とエドマンドが笑った。

「あまりに嬉しいことをうかがったので、心が舞い上がったままなんです。少しだけお待ちを」
「これって、エドマンドが嬉しかったからなの?」

 はい、と笑顔で頷かれると何も言えない。

(何がそんなにエドマンドの心を打ったんだろう?)

 ふわふわと頼りなく浮かんだまま、僕は首を傾げるしかなかった。
 天井近くに浮かびながら何とか翼を動かしていると、アヴィがにやにやしながら「今度はほうきに乗って飛んでみる?」なんて聞いてくる。僕はぶんぶんと首を横に振った。冗談じゃない、空を飛ぶ修業がしたいわけじゃないんだ。

「ミシュー、もう大丈夫です。こちらへ」

 優しい声が聞こえたので、僕はすぐにエドマンドに向かって翼を動かした。差し出された手を握りしめると、ゆっくり体が下りていく。床に足が着き、ほっと息をついたところで翼が畳まれた。空を飛ぶよりも、やっぱり足がちゃんと地に着いてる方がいい。そんな気持ちが顔に出ていたのか、アヴィが真剣な顔を向けた。

「いや、慣れるとなかなか空もいいもんだよ。もっとうまい飛び方を教えてあげるからさ、今度二人で一緒に飛ばない?」
「飛ばない!」
「……魔女殿、ミシューと二人きりになるのはご遠慮願いたい。殿下は私の大切な方なので」
「た……い、せつ」
「ええ、さっき、ミシューもそう言ってくださったでしょう?」
「え? 言った?」

 エドマンドは頷いて満面の笑みを浮かべた。そして、鼻と鼻が触れ合いそうになるほど僕に顔を近づけた。

「嬉しくて、少しも自分の心を抑えることができませんでした」

 エドマンドの顔が近くて、自分の頬が熱くて、言ったことを思い出すどころじゃない。やたら胸の音が早くなる。
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