翼が生えた王子は辺境伯令息に執心される

尾高志咲/しさ

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翼が生えた王子、辺境伯領へ

25.魔女との契約

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「あぁあ~~もう! 君たちはさっさと帰った方がいいよ。待ってる奴らもいるし!」
「あっ! そうだ。ペテルたちが泉の前にいるんだ!」
  
 アヴィの手に引きずり込まれてここに来たのに、彼らのことをすっかり忘れていた。

「全く、王子が魔女に会いたがっていると聞いたからここに呼んだのに。時間がかかりすぎだって怒られる」
「アヴィを怒る人なんているの?」
「いるよ、銀狼。あいつら怖いんだからな。昔から辺境伯の一族が好きでこの森を守ってるんだけど、平和が乱されると怒り出すんだ」

 エドマンドを見れば、目を丸くしていた。

「父や騎士たちがよく話していた。森で迷った時に必ず助けてくれる、美しい白銀の狼がいると」
「ああ、銀狼は辺境伯たちが森や領地を大事にしているのを気に入ってるからな」

 森はあんなに恐ろしく見えるのに、ずっと守ってくれる者たちがいるんだ。そう思うと心がじわじわと温かくなる。

「あっ! まずい!」
「アヴィ?」
  
 アヴィが立ち上がった途端、部屋の中の空気が大きく揺れた。

『――遅い!!』

 腹の奥まで響く声だった。眩暈がするように空気が揺れ、声がぐわんぐわんと辺りに響く。

「ぅっわ……悪かった! 待っ」
『――待てるか!』

 アヴィの声を塞ぐように大音量の声が重なり、銀色の光が溢れた。目を開けていても光ばかりで何も見えない。ぐっと抱きしめられた胸の中が温かくて、微かに清涼な香りをかいでエドマンドの胸の中にいるのだとわかる。大丈夫、と囁く声はいつも僕を安心させようとしてくれる。
 椅子が大きく倒れた音に続いて、グルルルル……と唸り声が聞こえ、エドマンドが僕を抱きかかえたまま立ち上がった。

 銀色の光が収まったと思うと、アヴィの姿は見えず小山のように巨大な白銀の狼がいる。さっきの光はこの狼だったんだろうか。僕はアヴィがいた場所に、狼が鼻先を突っ込んでいるのを見てぞっとした。

「アヴィっ! た、食べられッ」
『誰が食べるか! こんなもの!』

 ダンッと前脚で床を踏んだ狼に仰天すると、「生きてるよぉ」と細い声が聞こえる。どうやら狼に踏みつけられているらしい。

(この狼……アヴィの言ってた銀狼?)

『話は手早く済ませろと言ったのに何をやってる!』
「えぇ―……済ませようとしたんだよ。それをさぁ、王子がエドマンドの寿命を短くするなんて絶対だめだとか言うから」

 ダン!ダダンッ!!と床が踏み鳴らされて、アヴィが黙った。

「お前もだめなのかよ……」
『だめに決まってるだろう! もっとうまい方法を考えろ!』
「だから魔女が願い事を叶えるのに代償は必要なんだって――ひっ!」

 アヴィの叫び声と共に小山のような狼はさらに大きくなった。このままいくと部屋ごと潰れると思った瞬間、アヴィが「わかった!」と叫んだ。
 巨大化はぴたりと止まり、狼の体がしゅるしゅると小さくなる。ちょうど騎士たちが連れ歩く犬たちぐらいになった時、狼がこちらを向いた。青の瞳は冬の湖のようで、深い知性が感じられる。
 明らかにむっとした顔のアヴィが起き上がると、散々踏まれたのか服も髪もぼろぼろになっていた。

「ぅわ……ひどい」
「誰のせいだよ!」

 僕を睨みつけたはずが、グルルルルと唸る声を聞いてアヴィの柳眉が跳ね上がる。

「ああ、も――! 何でこんな面倒なことになるんだ。いいかい、王子。今回だけ特別に姿魔法をかけてあげる。ただし、きっかり今から三日間だけ。お試しってやつだよ」
「!?」
「その間に、いろんなことがわかるはずだから」
「いろんなこと?」
「そう、君も……彼もね」

 ――いいかい、三日だけだよ。

 アヴィが念を押すように言い、胸の前で両手を合わせた。金色の瞳が炎のように燃え上がって、少しずつ開かれた手と手の間に光の珠が浮き上がる。黄金の珠は僕の目の前に漂ってきたかと思うと、たちまち全身を包みこんだ。
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