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番外編 王太子の訪問
1.時ならぬ嵐
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僕が翼を隠さなくなってから、辺境伯城には時ならぬ嵐が吹き荒れた。
騎士たちは顔色を失くし、侍女の中には僕の姿を見て倒れる者までいた。「殿下に対して不敬である!」「お許しを」なんて会話があちこちで飛び交い、いちいち取り成す羽目になった。城内の混乱を収めるために、エドマンドはすぐさま家令と側近たちを呼んだ。
「大広間に使用人たちを集めよ。上級使用人から下働きまで出来るだけ多くの者を! 騎士団にはあらためて招集をかける!」
エドマンドの言葉に、家令たちは城中を走り回った。
侍従や侍女、庭師や料理人、果ては下働きの子どもまでが集められて大広間はぎゅうぎゅう詰め。普段とは違う熱気で溢れ返っている。
僕がエドマンドと共に大広間に入ると、その場は静まり返った。呆然として動けない者、床に伏して震え出す者、どの瞳にも動揺と困惑が見える。「はね!」「御使いさま!」と叫ぶ子どもの口を大人たちが慌てて抑えている。
「皆、忙しい中よく集まってくれた。周知しておきたいことがある。こちらにおられるのはファンタン王国の第五王子ミシュー殿下だ。我が婚約者であらせられる。殿下のお体に、このたび麗しい翼が生えた。これは私の愛情から生まれたものだ。そして、我が辺境伯家が神に祝福された証である!」
次期当主の言葉に人々はどよめいた。ちなみに僕も、動揺を堪えるのに苦労していた。
(……嘘じゃない。少なくともエドマンドの言葉の前半は嘘じゃない)
「私が殿下を想う気持ちを大いなる神が祝福され、翼と為すとの思し召しを受けた。これは、ここにいる神官長も認めるものだ」
エドマンドの言葉と共に、一人の老人が進み出た。辺境伯領にある北方神殿の神官長だ。彼が頷くと、人々の間におおお……と声が上がる。神官長が、ゆっくりと口を開いた。
「大神はエドマンド閣下の殿下への深き愛情を格別にお喜びです。王家と伯爵家の結びつきを祝われ、このように目に見える僥倖と為されました。尊き御使いのお姿を殿下のお体に現わしてくださったのです」
騎士たちの顔が紅潮している。使用人たちの瞳が輝いている。中には感激のあまり泣き出す者までいた。
(……いつの間に、そんな壮大な話になっていたんだろう?)
背中に冷や汗が流れた。アヴィが聞いたら「へえ、そうだったんだ」とにやにや笑いそうである。北方神殿の神官長と会ったのはこれが初めてだが、エドマンドとはぴったり息が合っていた。
エドマンドに手を取られて、僕は一歩前に進んだ。
「私はこの翼を自由に動かすことも、鳥のように空を飛ぶこともできない。ただ、深い愛情によって翼が生まれたことを知っている。エドマンドと共に、皆の愛する北の地をより豊かにしていきたい」
傍らに立つエドマンドを見ると、眩しそうに目を細めて微笑んでいる。その笑顔にほっとした途端、ふわりと翼が広がった。大広間にわあぁ…ッと歓声が上がる。多くの者が跪き、騎士たちは揃って忠誠の礼を取った。
大広間はお祭り騒ぎになり、人々の興奮はなかなか醒めなかった。その日のうちに、城内での騒ぎは城下町まで伝わっていったという。
僕は大広間での挨拶を終えた後、エドマンドと神官長と三人でお茶を飲んだ。神官長は柔らかな笑みを浮かべながら、さらりと言った。
「人心の掌握は始めが肝心でありましょう。閣下の御判断は真に適切でありました。殿下のお言葉にも大変心打たれました」
「貴殿がすぐに出向いてくれたことに感謝する。まだ多少の混乱はあろうが、神殿の後押しがあれば安心だ。今後ともよろしく頼む」
「かしこまりました。全ては閣下と殿下の御心のままに」
(そこは、「大神の御心のままに」じゃないのか? そんなに人心に配慮しまくりでいいのだろうか……)
神殿を治める神官長は昔から老獪な者が多い。清廉なだけでは神官たちの統率や貴族たちとの付き合いができないからだ。老いた外見とは違って、足取りも軽やかに神官長は去っていった。
騎士たちは顔色を失くし、侍女の中には僕の姿を見て倒れる者までいた。「殿下に対して不敬である!」「お許しを」なんて会話があちこちで飛び交い、いちいち取り成す羽目になった。城内の混乱を収めるために、エドマンドはすぐさま家令と側近たちを呼んだ。
「大広間に使用人たちを集めよ。上級使用人から下働きまで出来るだけ多くの者を! 騎士団にはあらためて招集をかける!」
エドマンドの言葉に、家令たちは城中を走り回った。
侍従や侍女、庭師や料理人、果ては下働きの子どもまでが集められて大広間はぎゅうぎゅう詰め。普段とは違う熱気で溢れ返っている。
僕がエドマンドと共に大広間に入ると、その場は静まり返った。呆然として動けない者、床に伏して震え出す者、どの瞳にも動揺と困惑が見える。「はね!」「御使いさま!」と叫ぶ子どもの口を大人たちが慌てて抑えている。
「皆、忙しい中よく集まってくれた。周知しておきたいことがある。こちらにおられるのはファンタン王国の第五王子ミシュー殿下だ。我が婚約者であらせられる。殿下のお体に、このたび麗しい翼が生えた。これは私の愛情から生まれたものだ。そして、我が辺境伯家が神に祝福された証である!」
次期当主の言葉に人々はどよめいた。ちなみに僕も、動揺を堪えるのに苦労していた。
(……嘘じゃない。少なくともエドマンドの言葉の前半は嘘じゃない)
「私が殿下を想う気持ちを大いなる神が祝福され、翼と為すとの思し召しを受けた。これは、ここにいる神官長も認めるものだ」
エドマンドの言葉と共に、一人の老人が進み出た。辺境伯領にある北方神殿の神官長だ。彼が頷くと、人々の間におおお……と声が上がる。神官長が、ゆっくりと口を開いた。
「大神はエドマンド閣下の殿下への深き愛情を格別にお喜びです。王家と伯爵家の結びつきを祝われ、このように目に見える僥倖と為されました。尊き御使いのお姿を殿下のお体に現わしてくださったのです」
騎士たちの顔が紅潮している。使用人たちの瞳が輝いている。中には感激のあまり泣き出す者までいた。
(……いつの間に、そんな壮大な話になっていたんだろう?)
背中に冷や汗が流れた。アヴィが聞いたら「へえ、そうだったんだ」とにやにや笑いそうである。北方神殿の神官長と会ったのはこれが初めてだが、エドマンドとはぴったり息が合っていた。
エドマンドに手を取られて、僕は一歩前に進んだ。
「私はこの翼を自由に動かすことも、鳥のように空を飛ぶこともできない。ただ、深い愛情によって翼が生まれたことを知っている。エドマンドと共に、皆の愛する北の地をより豊かにしていきたい」
傍らに立つエドマンドを見ると、眩しそうに目を細めて微笑んでいる。その笑顔にほっとした途端、ふわりと翼が広がった。大広間にわあぁ…ッと歓声が上がる。多くの者が跪き、騎士たちは揃って忠誠の礼を取った。
大広間はお祭り騒ぎになり、人々の興奮はなかなか醒めなかった。その日のうちに、城内での騒ぎは城下町まで伝わっていったという。
僕は大広間での挨拶を終えた後、エドマンドと神官長と三人でお茶を飲んだ。神官長は柔らかな笑みを浮かべながら、さらりと言った。
「人心の掌握は始めが肝心でありましょう。閣下の御判断は真に適切でありました。殿下のお言葉にも大変心打たれました」
「貴殿がすぐに出向いてくれたことに感謝する。まだ多少の混乱はあろうが、神殿の後押しがあれば安心だ。今後ともよろしく頼む」
「かしこまりました。全ては閣下と殿下の御心のままに」
(そこは、「大神の御心のままに」じゃないのか? そんなに人心に配慮しまくりでいいのだろうか……)
神殿を治める神官長は昔から老獪な者が多い。清廉なだけでは神官たちの統率や貴族たちとの付き合いができないからだ。老いた外見とは違って、足取りも軽やかに神官長は去っていった。
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