『さよなら、彼に依存していた私―30日間の失恋回復ストーリー』

月下花音

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Day 23:さよなら、「追いかけてしまう」私

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 その日、それは本当に偶然だった。

 仕事の打ち合わせで訪れた、普段はあまり来ないエリア。駅に向かって雑踏の中を歩いていると、ふと、前方に見覚えのある後ろ姿を見つけた。

 間違いない。少し猫背気味な歩き方、彼が好んで着ていたネイビーのジャケット、特徴的な髪の癖。

 優也だった。

 心臓が、ドクン、と大きく跳ねた。全身の血が、逆流するような感覚。

 身体が、反射的に動きかけた。

「優也!」

 その名前を叫びそうになり、一歩、足を踏み出しかけた。

 でも、その足は、アスファルトに縫い付けられたように、ぴたりと止まった。

 追いかけて、どうする?

 なんて声をかける?

 どんな顔をすればいい?

 彼の隣には、もしかしたら、あの女の子がいるかもしれない。

 SNSで見た、笑顔の女性。

 思考が、一瞬で頭の中を駆け巡る。

 以前の私なら、きっと何も考えずに駆け寄っていただろう。泣いて、縋って、やり直したいと言ったかもしれない。

 でも、今の私は、違った。

 私は、ただ、その場に立ち尽くした。

 彼が、ゆっくりと人混みの中に消えていくのを、最後まで見送った。

 彼の背中は、もう私のものではない。私の知らない物語を、これから生きていく背中だ。

 彼が完全に見えなくなった後も、私はしばらくその場から動けなかった。

 胸が、痛くなかったわけではない。心臓はまだバクバクと鳴り、指先は冷たくなっていた。

 でも、それ以上に、大きな安堵感と、ほんの少しの誇らしさが、私を包んでいた。

 追いかけなかった。

 自分の意志で、過去との接触を回避できた。

 それは、彼を忘れたからではない。彼への気持ちが完全になくなったわけでもない。

 ただ、私の人生の主導権が、完全に私自身に戻ってきた、という証だった。

 彼に会うか会わないか、声をかけるかかけないか。その選択権は、今、この私にある。

 駅のホームで電車を待ちながら、窓ガラスに映る自分の顔を見た。ショートボブの、知らない、でも力強い顔。

「よくやったね」

 鏡の中の私が、そう言ってくれた。

 電車が滑り込んでくる。乗り込んだ車両は、驚くほど空いていた。

 まるで、私の新しい人生の始まりを、祝福してくれているみたいだった。
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