幼馴染に「つまらない」と捨てられた俺、実は学校一のクール美少女(正体は超人気覆面配信者)の「生活管理係」でした。

月下花音

文字の大きさ
3 / 14

第3話:その視線は、絶対零度の監視カメラ

しおりを挟む
 翌日の放課後。
 教室は、いつものように騒がしい動物園だった。

 スクールカースト上位の連中は、窓際で大きな声で笑っている。
 その中心にいるのは、サッカー部の拓海先輩と、その腕にぶら下がっているミサだ。

「拓海センパイ、マジうけるー!」
「だろ? あいつマジでさー」

 幸せそうで何よりだ。
 俺の心臓は、雑巾みたいに絞られる感覚があるけどな。
 昨日まで俺に向けていた笑顔を、躊躇いなく別のアオスジカミキリみたいな男に向けているのを見るのは、精神衛生上よろしくない。

 俺は教科書を鞄に詰めて、さっさと帰ろうとした。
 その時。

「あ、相沢くん。ちょっといい?」

 声をかけてきたのは、クラスメイトの図書委員、小野寺(おのでら)さんだった。
 地味だけど愛想のいい子だ。

「昨日の日直日誌、書き忘れてるとこあって……ここ、お願いできる?」
「ああ、ごめん。すぐ書くよ」

 俺はシャーペンを取り出して、日誌に書き込み始めた。
 小野寺さんが隣で、「ごめんね、急がせて」と申し訳なさそうに覗き込んでくる。
 石鹸の匂いがした。
 
 平和な日常。
 ……のはずだった。

 ゾワリ。
 背中に、氷柱(つらら)を突き立てられたような寒気が走った。

 なんだ?
 エアコンの設定温度が壊れたか?
 それとも、俺の動物的本能が「捕食者」の気配を感知したのか。

 恐る恐る、視線を感じる方向――窓際の特等席を見る。

 そこに、天道玲奈がいた。
 今日も完璧に美しい姿勢で、本を読んでいる。
 ……はずなんだけど。

 本のページ、さっきから全然めくられてない。
 そして、前髪の隙間から覗く瞳が、完全に俺を見ていた。
 いや、俺じゃない。
 俺の隣にいる、小野寺さんをロックオンしてる。

 『 殺 す 』

 声は聞こえない。
 でも、その目は雄弁にそう語っていた。
 
 目が据わっている。
 昨日の「餓死するぅ」っていう甘えた目じゃない。
 縄張りを荒らされた野生動物の、ガチの威嚇だ。

 ヤバい。
 
「……あ、あの、相沢くん?」
 小野寺さんが震え声を出した。
「な、なんか急に寒くない……? あと、すごい視線を感じるんだけど……」

「気のせいだ。……ほら、書けたよ」
「あ、ありがとう! じゃ、じゃあね!」

 小野寺さんは逃げるように去っていった。
 賢明な判断だ。これ以上いたら、社会的に抹殺されていたかもしれない。

 俺は冷や汗を拭った。
 玲奈のやつ、何を考えてるんだ。
 契約違反だろ。「学校では他人のフリ」って言ったのはお前だぞ。

 俺も荷物をまとめて、教室を出ようとした。
 その時、通路を塞ぐように、ミサと拓海先輩がイチャついていた。

「ねー、今度の日曜、あの新しいカフェ行きたいー」
「おー、いいよ。お前のためなら並ぶわ」
「優しいー! やっぱ拓海センパイ最高!」

 ……聞こえるように言ってんのか?
 俺が日曜に連れて行ってやった時は、「並ぶの疲れるから嫌」って言ったくせに。
 
 俺は視線を逸らして、脇を通り抜けようとした。
 惨めだ。
 負け犬は尻尾を巻いて退散するしかない。

 ガタッ!!

 教室中に、凄まじい音が響いた。
 
 全員が動きを止める。
 音の発生源は、窓際。
 玲奈が立ち上がっていた。その足元には、彼女が読んでいた分厚いハードカバーの本が落ちている。
 わざと落としたとしか思えない、不自然な落下音。

「……うるさい」

 玲奈は、ミサと拓海先輩を見下ろして言い放った。

「公衆の面前で見苦しい。盛るなら他所でやって」

 教室の温度が、さらに五度下がった。
 ミサが顔を真っ赤にして、「な、なによ……」と反論しようとするが、言葉が出ない。
 圧倒的な「格」の違い。
 美貌、オーラ、冷徹さ。全てにおいて、天道玲奈は君臨している。

 玲奈はゆっくりと本を拾い上げ、埃を払った。
 そして、俺の方を一瞥もしないまま、教室を出て行った。
 ミサたちの横を通り過ぎる時、鼻で笑ったような気がした。

 ……あいつ。
 俺のために怒ったのか?
 いや、まさかな。単にうるさかっただけだろ。

 俺は動揺を隠して、早足で教室を出た。
 廊下の角を曲がったところで、スマホが震えた。

 『LINE:玲奈』
 『1. 小野寺さんと喋りすぎ。距離が近い。半径50cm以内立ち入り禁止』
 『2. あのバカップル、視界に入って不快だったから駆除しといた』
 『3. 今日の夜ご飯、ハンバーグじゃなきゃ許さない』

 ……全部見てたのかよ。
 そして「駆除」ってなんだよ。害虫扱いかよ。

 俺はスマホの画面を見ながら、苦笑いした。
 重い。怖い。
 でも、あの教室で、俺の味方をしてくれたのは、あの性格の悪い『氷の令嬢』だけだった。

 その事実が、どうしようもなく嬉しかった。
 俺はスーパーの特売チラシアプリを開きながら、挽肉の値段を確認した。
 
(つづく)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが

akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。 毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。 そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。 数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。 平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、 幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。 笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。 気づけば心を奪われる―― 幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり

鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。 でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。

幼馴染の許嫁

山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。 彼は、私の許嫁だ。 ___あの日までは その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった 連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった 連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった 女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース 誰が見ても、愛らしいと思う子だった。 それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡 どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服 どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう 「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」 可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる 「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」 例のってことは、前から私のことを話していたのか。 それだけでも、ショックだった。 その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした 「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」 頭を殴られた感覚だった。 いや、それ以上だったかもしれない。 「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」 受け入れたくない。 けど、これが連の本心なんだ。 受け入れるしかない 一つだけ、わかったことがある 私は、連に 「許嫁、やめますっ」 選ばれなかったんだ… 八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

【完結】大好きな彼が妹と結婚する……と思ったら?

江崎美彩
恋愛
誰にでも愛される可愛い妹としっかり者の姉である私。 大好きな従兄弟と人気のカフェに並んでいたら、いつも通り気ままに振る舞う妹の後ろ姿を見ながら彼が「結婚したいと思ってる」って呟いて…… さっくり読める短編です。 異世界もののつもりで書いてますが、あまり異世界感はありません。

処理中です...