11 / 14
第11話:氷の令嬢の「所有権宣言」
しおりを挟む
その日の昼休み。
ついに爆弾が破裂した。
俺が教室で弁当(自分用)を食べていると、バンッ!と机を叩かれた。
ミサだ。
彼女の目は充血し、肩は怒りで震えていた。
「……ねえ、みんな聞いてよ!」
彼女は突然、教室中に響く大声で叫んだ。
ザワついていた教室が、一瞬で静まり返る。
全員の視線が、俺たちに集中する。
「相沢湊はね! 私が付き合ってる時から、他の女と浮気してたの!」
……は?
何を言い出すんだ、こいつは。
俺は呆れて箸を止めた。
「ひどくない!? 私が拓海先輩とちょっと仲良くしただけで、『お前とは違う』とか言って振ってきたの! 自分は裏でコソコソ新しい女を作ってたくせに!」
事実無根の大嘘だ。
彼女は「被害者」のポジションを確立し、俺を「加害者」に仕立て上げる気だ。
そうすれば、自分のプライドが守れるから。
周りのクラスメイトたちがヒソヒソと囁き合う。
「マジで? 相沢が?」
「見損なったわー、地味なくせにやるじゃん」
「ミサちゃん可哀想……」
空気は完全にミサの味方だ。
ミサは勝利を確信したように、勝ち誇った顔で俺を見下ろした。
「言い訳あるなら言ってみなよ! その浮気相手、どこの誰よ! どうせ私よりブスで、地味で、つまらない女なんでしょ!?」
彼女の叫び声が、鼓膜に響く。
喚くな。うるさい。
俺は反論する気すら起きなかった。
レベルが低すぎる。
こんな茶番劇、相手にするだけ時間の無駄だ。
俺が無視して弁当を食べようとした、その時。
カツ、カツ、カツ……。
硬質なローファーの音が、静寂を切り裂いて近づいてきた。
教室の空気が、急激に冷えていく。
誰もが本能的に道を空ける。
現れたのは、天道玲奈だった。
彼女はいつもの無表情で、ミサの背後に立った。
「……うるさい」
その一言で、ミサの金切り声が止まった。
「て、天道さん……? な、何? 今私、大事な話してて……」
「聞いてたわ。浮気? 新しい女?」
玲奈は冷ややかな瞳でミサを見下ろした。
そして、ゆっくりと俺の隣――つまり、ミサが立っている場所へと歩み寄った。
ミサが思わず後ずさる。
玲奈は俺の机に手をつき、ミサに向かって言い放った。
「それ、私のことだけど。文句ある?」
――時が止まった。
え?
今、なんて?
クラス中が凍りついた。
ミサが目を極限まで見開き、パクパクと口を動かしている。
「は……え、はぁ!? て、天道さんが……相沢の……?」
「そうよ。この人が浮気してたわけじゃない。貴女が捨てたから、私が拾ったの」
玲奈の声は、淡々としていた。
でも、そこには絶対的な「事実」の重みがあった。
「貴女、言ったわよね? 『つまらない』『便利屋』って」
「そ、それは……」
「見る目がないのね。……彼は最高よ? 料理はプロ級、気遣いは完璧、私の言葉を全部理解してくれる」
玲奈は俺の肩に手を置いた。
その手は震えていなかった。堂々とした、所有者の手つきだった。
「貴女みたいな子供に、この人の価値は分からない。……高性能な宝石をガラス玉だと思って捨てた、愚かな人間」
「な……なによそれ……!」
ミサの顔が真っ赤になる。
「それに、浮気相手が『ブスで地味でつまらない女』ですって?」
玲奈はふっと笑った。
それは、見る者全てを魅了し、同時に凍りつかせる、美しすぎる嘲笑だった。
「鏡、見てきたら? ……私と貴女、どっちが『上』か、一目瞭然でしょう?」
オーバーキルだ。
誰も反論できない。
学校一の美少女である彼女にそう言われて、勝てる女子なんてこの学校には存在しない。
ミサは、わなわなと震え出し、涙目になった。
プライドをズタズタに引き裂かれ、公衆の面前で「敗北」を突きつけられたのだ。
「う、うわあああああんっ!」
ミサは泣き叫びながら、教室を駆け出していった。
惨めな退場だった。
残された教室は、爆心地のような静けさに包まれていた。
全員が、俺と玲奈を凝視している。
玲奈は、そんな視線など意に介さず、俺のネクタイをくいっと直した。
「……言っちゃった」
「お前なぁ……これ、どうすんだよ」
「知らない。……湊が悪いんだからね」
彼女は俺の耳元に顔を寄せ、悪戯っぽく囁いた。
「私のものって、みんなにバラしちゃった。……もう、逃げられないね?」
その瞬間、教室が爆発したような騒ぎになった。
俺は天井を仰いだ。
ああ、終わった。
でも不思議と、胸のつかえは取れていた。
俺の隣には、世界で一番面倒くさくて、世界で一番美しい「共犯者」がいる。
それだけで、これからの騒がしい日常も、悪くないと思えたんだ。
(つづく)
ついに爆弾が破裂した。
俺が教室で弁当(自分用)を食べていると、バンッ!と机を叩かれた。
ミサだ。
彼女の目は充血し、肩は怒りで震えていた。
「……ねえ、みんな聞いてよ!」
彼女は突然、教室中に響く大声で叫んだ。
ザワついていた教室が、一瞬で静まり返る。
全員の視線が、俺たちに集中する。
「相沢湊はね! 私が付き合ってる時から、他の女と浮気してたの!」
……は?
何を言い出すんだ、こいつは。
俺は呆れて箸を止めた。
「ひどくない!? 私が拓海先輩とちょっと仲良くしただけで、『お前とは違う』とか言って振ってきたの! 自分は裏でコソコソ新しい女を作ってたくせに!」
事実無根の大嘘だ。
彼女は「被害者」のポジションを確立し、俺を「加害者」に仕立て上げる気だ。
そうすれば、自分のプライドが守れるから。
周りのクラスメイトたちがヒソヒソと囁き合う。
「マジで? 相沢が?」
「見損なったわー、地味なくせにやるじゃん」
「ミサちゃん可哀想……」
空気は完全にミサの味方だ。
ミサは勝利を確信したように、勝ち誇った顔で俺を見下ろした。
「言い訳あるなら言ってみなよ! その浮気相手、どこの誰よ! どうせ私よりブスで、地味で、つまらない女なんでしょ!?」
彼女の叫び声が、鼓膜に響く。
喚くな。うるさい。
俺は反論する気すら起きなかった。
レベルが低すぎる。
こんな茶番劇、相手にするだけ時間の無駄だ。
俺が無視して弁当を食べようとした、その時。
カツ、カツ、カツ……。
硬質なローファーの音が、静寂を切り裂いて近づいてきた。
教室の空気が、急激に冷えていく。
誰もが本能的に道を空ける。
現れたのは、天道玲奈だった。
彼女はいつもの無表情で、ミサの背後に立った。
「……うるさい」
その一言で、ミサの金切り声が止まった。
「て、天道さん……? な、何? 今私、大事な話してて……」
「聞いてたわ。浮気? 新しい女?」
玲奈は冷ややかな瞳でミサを見下ろした。
そして、ゆっくりと俺の隣――つまり、ミサが立っている場所へと歩み寄った。
ミサが思わず後ずさる。
玲奈は俺の机に手をつき、ミサに向かって言い放った。
「それ、私のことだけど。文句ある?」
――時が止まった。
え?
今、なんて?
クラス中が凍りついた。
ミサが目を極限まで見開き、パクパクと口を動かしている。
「は……え、はぁ!? て、天道さんが……相沢の……?」
「そうよ。この人が浮気してたわけじゃない。貴女が捨てたから、私が拾ったの」
玲奈の声は、淡々としていた。
でも、そこには絶対的な「事実」の重みがあった。
「貴女、言ったわよね? 『つまらない』『便利屋』って」
「そ、それは……」
「見る目がないのね。……彼は最高よ? 料理はプロ級、気遣いは完璧、私の言葉を全部理解してくれる」
玲奈は俺の肩に手を置いた。
その手は震えていなかった。堂々とした、所有者の手つきだった。
「貴女みたいな子供に、この人の価値は分からない。……高性能な宝石をガラス玉だと思って捨てた、愚かな人間」
「な……なによそれ……!」
ミサの顔が真っ赤になる。
「それに、浮気相手が『ブスで地味でつまらない女』ですって?」
玲奈はふっと笑った。
それは、見る者全てを魅了し、同時に凍りつかせる、美しすぎる嘲笑だった。
「鏡、見てきたら? ……私と貴女、どっちが『上』か、一目瞭然でしょう?」
オーバーキルだ。
誰も反論できない。
学校一の美少女である彼女にそう言われて、勝てる女子なんてこの学校には存在しない。
ミサは、わなわなと震え出し、涙目になった。
プライドをズタズタに引き裂かれ、公衆の面前で「敗北」を突きつけられたのだ。
「う、うわあああああんっ!」
ミサは泣き叫びながら、教室を駆け出していった。
惨めな退場だった。
残された教室は、爆心地のような静けさに包まれていた。
全員が、俺と玲奈を凝視している。
玲奈は、そんな視線など意に介さず、俺のネクタイをくいっと直した。
「……言っちゃった」
「お前なぁ……これ、どうすんだよ」
「知らない。……湊が悪いんだからね」
彼女は俺の耳元に顔を寄せ、悪戯っぽく囁いた。
「私のものって、みんなにバラしちゃった。……もう、逃げられないね?」
その瞬間、教室が爆発したような騒ぎになった。
俺は天井を仰いだ。
ああ、終わった。
でも不思議と、胸のつかえは取れていた。
俺の隣には、世界で一番面倒くさくて、世界で一番美しい「共犯者」がいる。
それだけで、これからの騒がしい日常も、悪くないと思えたんだ。
(つづく)
30
あなたにおすすめの小説
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
隣の家の幼馴染と転校生が可愛すぎるんだが
akua034
恋愛
隣に住む幼馴染・水瀬美羽。
毎朝、元気いっぱいに晴を起こしに来るのは、もう当たり前の光景だった。
そんな彼女と同じ高校に進学した――はずだったのに。
数ヶ月後、晴のクラスに転校してきたのは、まさかの“全国で人気の高校生アイドル”黒瀬紗耶。
平凡な高校生活を過ごしたいだけの晴の願いとは裏腹に、
幼馴染とアイドル、二人の存在が彼の日常をどんどんかき回していく。
笑って、悩んで、ちょっとドキドキ。
気づけば心を奪われる――
幼馴染 vs 転校生、青春ラブコメの火蓋がいま切られる!
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり
鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。
でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。
幼馴染の許嫁
山見月あいまゆ
恋愛
私にとって世界一かっこいい男の子は、同い年で幼馴染の高校1年、朝霧 連(あさぎり れん)だ。
彼は、私の許嫁だ。
___あの日までは
その日、私は連に私の手作りのお弁当を届けに行く時だった
連を見つけたとき、連は私が知らない女の子と一緒だった
連はモテるからいつも、周りに女の子がいるのは慣れいてたがもやもやした気持ちになった
女の子は、薄い緑色の髪、ピンク色の瞳、ピンクのフリルのついたワンピース
誰が見ても、愛らしいと思う子だった。
それに比べて、自分は濃い藍色の髪に、水色の瞳、目には大きな黒色の眼鏡
どうみても、女の子よりも女子力が低そうな黄土色の入ったお洋服
どちらが可愛いかなんて100人中100人が女の子のほうが、かわいいというだろう
「こっちを見ている人がいるよ、知り合い?」
可愛い声で連に私のことを聞いているのが聞こえる
「ああ、あれが例の許嫁、氷瀬 美鈴(こおりせ みすず)だ。」
例のってことは、前から私のことを話していたのか。
それだけでも、ショックだった。
その時、連はよしっと覚悟を決めた顔をした
「美鈴、許嫁をやめてくれないか。」
頭を殴られた感覚だった。
いや、それ以上だったかもしれない。
「結婚や恋愛は、好きな子としたいんだ。」
受け入れたくない。
けど、これが連の本心なんだ。
受け入れるしかない
一つだけ、わかったことがある
私は、連に
「許嫁、やめますっ」
選ばれなかったんだ…
八つ当たりの感覚で連に向かって、そして女の子に向かって言った。
【完結】大好きな彼が妹と結婚する……と思ったら?
江崎美彩
恋愛
誰にでも愛される可愛い妹としっかり者の姉である私。
大好きな従兄弟と人気のカフェに並んでいたら、いつも通り気ままに振る舞う妹の後ろ姿を見ながら彼が「結婚したいと思ってる」って呟いて……
さっくり読める短編です。
異世界もののつもりで書いてますが、あまり異世界感はありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる