幼馴染に「つまらない」と捨てられた俺、実は学校一のクール美少女(正体は超人気覆面配信者)の「生活管理係」でした。

月下花音

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第一章 捨てられた俺と、ポンコツ美少女の生活管理係

第10話:元カノの決意

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 翌日の昼休み。
 俺はミサに呼び出され、屋上の金網の前に立っていた。
 風が強い。
 セットした髪が乱れるし、埃が目に入る。
 玲奈との快適な空調管理された部屋に慣れきった体には、この「青春の舞台」は環境が悪すぎる。

「……別れたよ、拓海先輩と」

 ミサは、ドラマのヒロインみたいな角度で振り返り、そう宣言した。
 期待している目だ。
 「えっ、本当!?」「大丈夫?」という心配と、「じゃあ俺にもチャンスが?」という期待。
 その両方を、俺が向けると思っている。

「……そうか。お疲れ」

 俺の反応は、コンビニでお釣りを渡された時くらい淡白だった。

「ちょ、それだけ? もっとあるでしょ、何か」
「何がだよ」
「だから……私がフリーになったんだよ? 湊にとって、これ以上ないニュースじゃないの?」

 ミサは腕を組み、不満げに口を尖らせた。
 その仕草も、昔は可愛いと思っていた気がする。
 でも今は、「安っぽいな」としか思えない。

 玲奈の、あの命を削るような必死な上目遣いを知ってしまった後では、ミサのこれはただの「演技」に見える。
 解像度が低すぎるんだ。

「あのね、湊。私、考え直してあげたの」

 彼女は一歩近づいてきた。
 香水の匂いがキツい。玲奈の自然なバニラの香りとは違う、人工的なフローラルの香り。

「やっぱり、あんたには私が必要だと思うの。あんた地味だし、私みたいな華やかな彼女がいないとパッとしないでしょ?」
「……」
「だから、特別にやり直してあげてもいいよ。またお弁当作らせてあげるし、荷物も持たせてあげる。……嬉しいでしょ?」

 彼女はニッコリと笑った。
 完全に、俺が喜ぶと信じて疑っていない。

 俺は溜息をついた。
 哀れだ、と思った。
 彼女は俺を「便利な道具」として再評価したつもりなんだろう。
 でも、彼女は分かっていない。
 俺はもう、誰にでも機能を提供する「フリーソフト」じゃない。
 特定のユーザーと独占契約を結んだ、専用アプリケーションなんだ。

「……ミサ」
「な、なに? 照れなくていいよ?」
「断る」

 風が止まった気がした。
 ミサの笑顔が凍りつく。

「……え? 今、なんて?」
「断るって言ったんだ。俺はもう、お前と付き合うつもりはない」

 はっきりと告げた。
 ミサの顔が、みるみるうちに赤く染まっていく。
 羞恥と、怒りで。

「は、はぁ!? 意味わかんない! あんた、自分の立場分かってる? 私が『戻ってあげる』って言ってるんだよ!?」
「ありがたい提案だけど、需要がない。在庫過多だ」
「なっ……!」

 ミサが俺の胸倉を掴もうと手を伸ばしてきた。
 俺はそれを半歩下がって避けた。

「それにさ。……『お弁当作らせてあげる』なんて、レベルの低い報酬じゃ、俺は動かないよ」

 俺は、昨夜の玲奈の言葉を思い出していた。
 『心臓も、胃袋も、全部私のでしょ?』
 あの重たくて、ドロドロとした独占欲。
 それに比べれば、ミサの提案はあまりにも軽すぎて、退屈だ。

「……好きな子、できたの?」

 ミサが低い声で言った。
 女の勘というのは、こういう時だけ鋭い。

「……さあな」
「いるんでしょ! 誰よ! どうせ私よりランク低い地味な女でしょ!?」

 彼女はヒステリックに叫んだ。
 
「あんたにお似合いの、家庭的で、地味で、つまらない女なんでしょ!?」

 ――ピキ。
 俺の中で、何かが切れる音がした。

 俺のことは何と言われてもいい。
 「つまらない」も「道具」も、甘んじて受け入れよう。
 でも。
 
 俺の「オーナー」を侮辱することだけは、許せない。
 あいつは、お前より遥かに高潔で、不器用で、そして脆い生き物なんだ。

「……訂正しろ」

 俺は低い声を出した。自分でも驚くほど、冷たい声だった。

「え?」
「彼女は、お前とは違う。……比べられるのも不愉快なくらい、格が違う」

 俺はミサを睨みつけた。
 彼女が息を呑んで後ずさる。
 俺はこんな顔ができるのか。多分、今の俺は、玲奈と同じ「氷の瞳」をしている。

「二度と、彼女を愚弄するな。……次言ったら、ただじゃおかない」

 俺はそれだけ言い捨てて、背を向けた。
 もう、これ以上話すことは何もない。

 屋上のドアを開ける時、背後でミサの絶叫が聞こえた。

「あああああっ! ふざけんな! 絶対許さない! 後悔させてやるんだからぁっ!!」

 ……後悔させてやる、か。
 そのセリフ、そっくりそのままお返しすることになるのにな。

 俺は階段を降りながら、スマホを取り出した。
 『LINE:玲奈』
 『屋上寒かったでしょ? カイロ持ってる? なければ温めに行ってあげる』

 ……全部見てたのかよ、あのストーカー。
 俺は苦笑しながら、冷え切った指先で返信を打った。
 『大丈夫。お前のLINEだけで十分熱いわ』

 さあ、戦争だ。
 元カノのプライドと、現オーナーの独占欲。
 俺を巡る泥沼の戦いが、幕を開けようとしていた。

(つづく)
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