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1. 空きコマが一番あぶない
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12月15日。
大学の空きコマ。
この時間が一番危険だ。
やることがないから、余計なことを考えてしまう。
例えば、隣に座っているユウトのこととか。
場所は学食。
昼休みを過ぎているから人はまばらだけど、揚げ物の油っぽい匂いと、誰かがこぼしたコーラの甘ったるい匂いが漂っている。
私たちは一番奥の窓際の席を陣取っている。
「……なぁ、これ食う?」
ユウトが自分のトレイから唐揚げを一つ摘んで、私の口元に差し出してきた。
箸で。
直箸で。
「……食べる」
私は迷わず口を開けた。
パクり。
冷めてる。
衣がベチャッとしてる。
でも、ユウトの箸から食べたという事実だけで、胸の奥がキュンとした自分に腹が立つ。
「お前、ほんとよく食うよな」
ユウトがニヤニヤしながら自分のカレーに戻る。
「うるさい。餌付けすんな」
「リスみたいで可愛いじゃん」
「は?」
サラッと言うな。
そういうこと簡単に言うな。
心臓に悪い。
ユウトとは、同じサークルの同期だ。
一年生の時からなんとなく一緒にいることが多くて、周りからは「お前ら付き合ってんの?」って聞かれるけど、二人とも「ないない」って否定してる。
でも、最近のユウトは距離が近い。
ボディタッチが多いし、こうやって餌付けしてくるし、夜中に意味のないLINEを送ってくる。
期待させといて突き落とすパターンか?
それとも、マジで脈ありなのか?
答えが出ないまま、私はユウトの「都合のいい女友達(仮)」ポジションに甘んじている。
「……なぁ、クリスマスどうすんの?」
ユウトがスプーンをくわえたまま聞いてきた。
ドキッとした。
唐揚げが喉に詰まりそうになった。
「……別に。バイトかな」
嘘をついた。
バイトなんて入れてない。
全空きだ。
でも「暇だよ」って即答するのは、なんか負けた気がして嫌だった。
「ふーん。バイトか」
「ユウトは?」
「俺? 暇」
「……彼女いないの?」
ついに聞いてしまった。
パンドラの箱だ。
もし「いるよ」って言われたら、私は今の唐揚げを吐き出して走り去るしかない。
「いねーよ。別れたばっかだし」
セーフ。
いや、別れたばっか?
チャンスじゃん。
「……そっか」
努めて冷静を装う。
内心ガッツポーズだ。
「じゃあさ、バイト終わったら連絡してよ」
ユウトがさらりと言った。
「え?」
「暇同士、飲みに行こうぜ。どうせ暇なんだろ?」
「……まあ、夜なら空いてるけど」
「決まりな」
ユウトが私の頭をクシャッと撫でた。
子供扱い。
でも、その手が大きくて温かくて、私は何も言えなくなった。
これってデートの誘い?
それともただの暇つぶし?
どっちとも取れるグレーな誘い方。
ズルい。
ユウトはこういうとこがある。
私の気持ちを試してるのか、それとも天然で人たらしなのか。
「じゃ、俺そろそろ講義あるから行くわ」
ユウトが立ち上がる。
「あ、これ片付けといて」
自分の食べたカレーの食器を指差す。
「はあ? 自分で片付けなよ」
「頼むよ~、リスちゃん」
ウインクして去っていく。
ムカつく。
あざとい。
でも、結局片付けちゃう私がいる。
ユウトの食べ残しのカレーと、私が食べたパスタの皿を重ねて、返却口へ向かう。
食器がぶつかるカチャカチャいう音が、私の乱れた心拍数みたいだ。
プラスチックのコップに残ったユウトの口紅(ついてないけど)を想像して、間接キスとか考える中学生みたいな思考回路に陥ってる自分が情けない。
学食を出ると、冷たい風が吹いていた。
クリスマス。
二人で飲みに行く。
これって、そういうことだよね?
期待していいんだよね?
でも、もし勘違いだったら?
「え、友達として誘っただけだけど?」って言われたら?
立ち直れない。
死ぬかもしれない。
期待と不安が入り混じって、胃がキリキリする。
唐揚げの油が悪かったのかもしれない。
それとも、これが恋の病ってやつなのか。
だとしたら、随分と胃もたれする恋だな。
私はため息をついて、次の講義の教室へ向かった。
足取りは重いような、軽いような、ふわふわした変な感じだった。
(つづく)
大学の空きコマ。
この時間が一番危険だ。
やることがないから、余計なことを考えてしまう。
例えば、隣に座っているユウトのこととか。
場所は学食。
昼休みを過ぎているから人はまばらだけど、揚げ物の油っぽい匂いと、誰かがこぼしたコーラの甘ったるい匂いが漂っている。
私たちは一番奥の窓際の席を陣取っている。
「……なぁ、これ食う?」
ユウトが自分のトレイから唐揚げを一つ摘んで、私の口元に差し出してきた。
箸で。
直箸で。
「……食べる」
私は迷わず口を開けた。
パクり。
冷めてる。
衣がベチャッとしてる。
でも、ユウトの箸から食べたという事実だけで、胸の奥がキュンとした自分に腹が立つ。
「お前、ほんとよく食うよな」
ユウトがニヤニヤしながら自分のカレーに戻る。
「うるさい。餌付けすんな」
「リスみたいで可愛いじゃん」
「は?」
サラッと言うな。
そういうこと簡単に言うな。
心臓に悪い。
ユウトとは、同じサークルの同期だ。
一年生の時からなんとなく一緒にいることが多くて、周りからは「お前ら付き合ってんの?」って聞かれるけど、二人とも「ないない」って否定してる。
でも、最近のユウトは距離が近い。
ボディタッチが多いし、こうやって餌付けしてくるし、夜中に意味のないLINEを送ってくる。
期待させといて突き落とすパターンか?
それとも、マジで脈ありなのか?
答えが出ないまま、私はユウトの「都合のいい女友達(仮)」ポジションに甘んじている。
「……なぁ、クリスマスどうすんの?」
ユウトがスプーンをくわえたまま聞いてきた。
ドキッとした。
唐揚げが喉に詰まりそうになった。
「……別に。バイトかな」
嘘をついた。
バイトなんて入れてない。
全空きだ。
でも「暇だよ」って即答するのは、なんか負けた気がして嫌だった。
「ふーん。バイトか」
「ユウトは?」
「俺? 暇」
「……彼女いないの?」
ついに聞いてしまった。
パンドラの箱だ。
もし「いるよ」って言われたら、私は今の唐揚げを吐き出して走り去るしかない。
「いねーよ。別れたばっかだし」
セーフ。
いや、別れたばっか?
チャンスじゃん。
「……そっか」
努めて冷静を装う。
内心ガッツポーズだ。
「じゃあさ、バイト終わったら連絡してよ」
ユウトがさらりと言った。
「え?」
「暇同士、飲みに行こうぜ。どうせ暇なんだろ?」
「……まあ、夜なら空いてるけど」
「決まりな」
ユウトが私の頭をクシャッと撫でた。
子供扱い。
でも、その手が大きくて温かくて、私は何も言えなくなった。
これってデートの誘い?
それともただの暇つぶし?
どっちとも取れるグレーな誘い方。
ズルい。
ユウトはこういうとこがある。
私の気持ちを試してるのか、それとも天然で人たらしなのか。
「じゃ、俺そろそろ講義あるから行くわ」
ユウトが立ち上がる。
「あ、これ片付けといて」
自分の食べたカレーの食器を指差す。
「はあ? 自分で片付けなよ」
「頼むよ~、リスちゃん」
ウインクして去っていく。
ムカつく。
あざとい。
でも、結局片付けちゃう私がいる。
ユウトの食べ残しのカレーと、私が食べたパスタの皿を重ねて、返却口へ向かう。
食器がぶつかるカチャカチャいう音が、私の乱れた心拍数みたいだ。
プラスチックのコップに残ったユウトの口紅(ついてないけど)を想像して、間接キスとか考える中学生みたいな思考回路に陥ってる自分が情けない。
学食を出ると、冷たい風が吹いていた。
クリスマス。
二人で飲みに行く。
これって、そういうことだよね?
期待していいんだよね?
でも、もし勘違いだったら?
「え、友達として誘っただけだけど?」って言われたら?
立ち直れない。
死ぬかもしれない。
期待と不安が入り混じって、胃がキリキリする。
唐揚げの油が悪かったのかもしれない。
それとも、これが恋の病ってやつなのか。
だとしたら、随分と胃もたれする恋だな。
私はため息をついて、次の講義の教室へ向かった。
足取りは重いような、軽いような、ふわふわした変な感じだった。
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