大嫌いな令嬢

緑谷めい

文字の大きさ
6 / 12

6 16歳になったよ

しおりを挟む


 アンヌは学園の4年生に進級し、16歳の誕生日を迎えた。
 何の因果かアンヌの誕生日の前日がオレリアの誕生日なので、オレリアも既に16歳になっている。


 誕生日当日。ボージェ侯爵家ではアンヌの為にパーティーが開かれていた。
 さほど大きなパーティーではない。ボージェ家と特に親交の深い貴族のみを招待した、ある意味【身内】だけのパーティーである。現在のアンヌは王太子の【婚約者候補】という微妙な立場のままなので、いろいろと探りを入れてくるような貴族を呼ぶとメンドクサイから、というのが両親と兄、そしてアンヌの一致した考えであった。

「誕生日まであの女と近いとか、本当に何の呪いなのかしらね?」
 ぼやくアンヌに、ジスランは苦笑いだ。
「お前、誕生日が来ると毎年同じことをボヤいてないか?」
「え? そう?」
 アンヌの母とジスランの母は学生時代からの親友で、お互いが結婚してからも家族ぐるみでずっと仲良く付き合っている。なのでアンヌとジスランは、赤子の頃からの幼馴染なのだ。
 今日のパーティーにも当然、ビゴー伯爵家(ジスランの家)は全員が招待されている。ちなみにビゴー伯爵家は当主夫妻とジスラン、妹、弟の5人家族である。

「ほれ。俺からの誕生日プレゼント!」
「ありがとう。ジスラン」
 笑顔で大きな包みを受け取るアンヌ。
 ジスランからアンヌへの誕生日プレゼントは、毎年何かしらの動物の縫いぐるみと決まっている。誰が言い出した訳でもないのだが、いつの間にか恒例になってしまった。子供の頃は本気で嬉しかったが、16歳にもなるともはやお互いに【ネタ】である。
「今年は生徒会副会長の縫いぐるみなのね」
 包みを開けて馬の縫いぐるみを取り出すアンヌ。
「アハハ。お前、人前で言うなよ。相手は公爵家の跡取りだぞ」
「へ? いつも本人の前で言ってるよ」
「えぇぇっ!?」
「先輩は心が広いからダイジョーブ!」
「アンヌ。お前、相変わらずの強心臓だな」
「えへっ♡」

「王太子殿下からの誕生日プレゼントは何だったんだ?」
 ジスランの問い掛けに、アンヌは得意気に身に着けているペンダントを指差した。
「これよ、これ。このサファイアのペンダントを贈ってくださったの」
「さすが王族。でかいサファイアだな(てか、サファイアって殿下の瞳の色なんじゃね?)」
「昨日のあの女の誕生日にはエメラルドのペンダントを贈られたみたい。金、持ってるよね。王太子殿下って」
「昨日のプレゼントの情報をもう掴んでるのか? すごい情報網だな(殿下はオレリア様にはご自分の色を贈らなかったってことか……)」
「ああ。前もって王太子殿下に直接お聞きしたのよ。あの女には何をプレゼントなさるんですか?ってね」
「えぇぇっ!? 直接? 聞いた? 王太子殿下にかよ?!」
「だって気になるじゃん!」
「お前……そういうとこやぞ!」
「は? 何が?」
 他の令嬢に贈るプレゼントを直接王太子に尋ねるなど、慎みがないにも程がある。
 そういう上位貴族の令嬢らしからぬ雑な感覚も、淑やかなオレリアと比較され、アンヌが軽んじられる一因になっているというのに……ジスランは頭を抱えた。

「どうしたの、ジスラン? 頭が痛いの?」
 心配そうにジスランの顔を覗き込むアンヌ。
「……ああ。ある意味、頭が痛いな」
「どうしよう? 今頃呪いが効いてきたのかな?」
「呪い?」
 訝し気な表情になるジスラン。
「ほら、学園に入学してすぐの頃。ジスランが私の前であの女のことを褒めちぎったでしょう? あの時、あんまり腹が立ったから、つい呪いをかけてしまったのよ」
「……ちなみにどんな呪いだ?」
「ジスランが禿げ散らかしますように」
「お前とは絶交だ!!」 
 そう言い捨てると、ジスランはアンヌに背を向けた。
 慌ててジスランの背中に縋り付くアンヌ。
「ジスラン! ごめんってぇ~!」
 
 いつものようにじゃれ合っている二人の様子を温かく見守る、アンヌの母とジスランの母。
「おほほ。相変わらず仲良しね」
「ホントにね。二人とももう16歳だというのに、いつまでも子供の頃と変わらないわね」
「昔はアンヌとジスラン君が将来結ばれてくれればな~なんて思っていたけど、あの二人は結局【家族】なのよね……」
「そうね。ジスランの初恋はアンヌちゃんだったけど、今は王太子妃を目指してるアンヌちゃんの事を心から応援しているみたいよ。アンヌちゃんを本当に【異性】として好きだったら、そんな応援はさすがに出来ないと思うから、やっぱり二人は【家族】なのよ」
「まぁ、そういう関係も素敵じゃない?」
「うん、うん。そうよね。素敵よね」
 二人の母は顔を見合わせて微笑んだ。


しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

ドレスが似合わないと言われて婚約解消したら、いつの間にか殿下に囲われていた件

ぽぽよ
恋愛
似合わないドレスばかりを送りつけてくる婚約者に嫌気がさした令嬢シンシアは、婚約を解消し、ドレスを捨てて男装の道を選んだ。 スラックス姿で生きる彼女は、以前よりも自然体で、王宮でも次第に評価を上げていく。 しかしその裏で、爽やかな笑顔を張り付けた王太子が、密かにシンシアへの執着を深めていた。 一方のシンシアは極度の鈍感で、王太子の好意をすべて「親切」「仕事」と受け取ってしまう。 「一生お仕えします」という言葉の意味を、まったく違う方向で受け取った二人。 これは、男装令嬢と爽やか策士王太子による、勘違いから始まる婚約(包囲)物語。

彼女が高級娼婦と呼ばれる理由~元悪役令嬢の戦慄の日々~

プラネットプラント
恋愛
婚約者である王子の恋人をいじめたと婚約破棄され、実家から縁を切られたライラは娼館で暮らすことになる。だが、訪れる人々のせいでライラは怯えていた。 ※完結済。

あの、初夜の延期はできますか?

木嶋うめ香
恋愛
「申し訳ないが、延期をお願いできないだろうか。その、いつまでとは今はいえないのだが」 私シュテフイーナ・バウワーは今日ギュスターヴ・エリンケスと結婚し、シュテフイーナ・エリンケスになった。 結婚祝の宴を終え、侍女とメイド達に準備された私は、ベッドの端に座り緊張しつつ夫のギュスターヴが来るのを待っていた。 けれど、夜も更け体が冷え切っても夫は寝室には姿を見せず、明け方朝告げ鶏が鳴く頃に漸く現れたと思ったら、私の前に跪き、彼は泣きそうな顔でそう言ったのだ。 「私と夫婦になるつもりが無いから永久に延期するということですか? それとも何か理由があり延期するだけでしょうか?」  なぜこの人私に求婚したのだろう。  困惑と悲しみを隠し尋ねる。  婚約期間は三ヶ月と短かったが、それでも頻繁に会っていたし、会えない時は手紙や花束が送られてきた。  関係は良好だと感じていたのは、私だけだったのだろうか。 ボツネタ供養の短編です。 十話程度で終わります。

婚約破棄を言い渡された側なのに、俺たち...やり直せないか...だと?やり直せません。残念でした〜

神々廻
恋愛
私は才色兼備と謳われ、完璧な令嬢....そう言われていた。 しかし、初恋の婚約者からは婚約破棄を言い渡される そして、数年後に貴族の通う学園で"元"婚約者と再会したら..... 「俺たち....やり直せないか?」 お前から振った癖になに言ってんの?やり直せる訳無いだろ お気に入り、感想お願いします!

大好きな婚約者に「距離を置こう」と言われました

ミズメ
恋愛
 感情表現が乏しいせいで""氷鉄令嬢""と呼ばれている侯爵令嬢のフェリシアは、婚約者のアーサー殿下に唐突に距離を置くことを告げられる。  これは婚約破棄の危機――そう思ったフェリシアは色々と自分磨きに励むけれど、なぜだか上手くいかない。  とある夜会で、アーサーの隣に見知らぬ金髪の令嬢がいたという話を聞いてしまって……!?  重すぎる愛が故に婚約者に接近することができないアーサーと、なんとしても距離を縮めたいフェリシアの接近禁止の婚約騒動。 ○カクヨム、小説家になろうさまにも掲載/全部書き終えてます

実在しないのかもしれない

真朱
恋愛
実家の小さい商会を仕切っているロゼリエに、お見合いの話が舞い込んだ。相手は大きな商会を営む伯爵家のご嫡男。が、お見合いの席に相手はいなかった。「極度の人見知りのため、直接顔を見せることが難しい」なんて無茶な理由でいつまでも逃げ回る伯爵家。お見合い相手とやら、もしかして実在しない・・・? ※異世界か不明ですが、中世ヨーロッパ風の架空の国のお話です。 ※細かく設定しておりませんので、何でもあり・ご都合主義をご容赦ください。 ※内輪でドタバタしてるだけの、高い山も深い谷もない平和なお話です。何かすみません。

どなたか私の旦那様、貰って下さいませんか?

秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
私の旦那様は毎夜、私の部屋の前で見知らぬ女性と情事に勤しんでいる、だらしなく恥ずかしい人です。わざとしているのは分かってます。私への嫌がらせです……。 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆ 政略結婚で、離縁出来ないけど離縁したい。 無類の女好きの従兄の侯爵令息フェルナンドと伯爵令嬢のロゼッタは、結婚をした。毎晩の様に違う女性を屋敷に連れ込む彼。政略結婚故、愛妾を作るなとは思わないが、せめて本邸に連れ込むのはやめて欲しい……気分が悪い。 彼は所謂美青年で、若くして騎士団副長であり兎に角モテる。結婚してもそれは変わらず……。 ロゼッタが夜会に出れば見知らぬ女から「今直ぐフェルナンド様と別れて‼︎」とワインをかけられ、ただ立っているだけなのに女性達からは終始凄い形相で睨まれる。 居た堪れなくなり、広間の外へ逃げれば元凶の彼が見知らぬ女とお楽しみ中……。 こんな旦那様、いりません! 誰か、私の旦那様を貰って下さい……。

傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。

石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。 そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。 新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。 初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は、別サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

処理中です...