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6 16歳になったよ
しおりを挟むアンヌは学園の4年生に進級し、16歳の誕生日を迎えた。
何の因果かアンヌの誕生日の前日がオレリアの誕生日なので、オレリアも既に16歳になっている。
誕生日当日。ボージェ侯爵家ではアンヌの為にパーティーが開かれていた。
さほど大きなパーティーではない。ボージェ家と特に親交の深い貴族のみを招待した、ある意味【身内】だけのパーティーである。現在のアンヌは王太子の【婚約者候補】という微妙な立場のままなので、いろいろと探りを入れてくるような貴族を呼ぶとメンドクサイから、というのが両親と兄、そしてアンヌの一致した考えであった。
「誕生日まであの女と近いとか、本当に何の呪いなのかしらね?」
ぼやくアンヌに、ジスランは苦笑いだ。
「お前、誕生日が来ると毎年同じことをボヤいてないか?」
「え? そう?」
アンヌの母とジスランの母は学生時代からの親友で、お互いが結婚してからも家族ぐるみでずっと仲良く付き合っている。なのでアンヌとジスランは、赤子の頃からの幼馴染なのだ。
今日のパーティーにも当然、ビゴー伯爵家(ジスランの家)は全員が招待されている。ちなみにビゴー伯爵家は当主夫妻とジスラン、妹、弟の5人家族である。
「ほれ。俺からの誕生日プレゼント!」
「ありがとう。ジスラン」
笑顔で大きな包みを受け取るアンヌ。
ジスランからアンヌへの誕生日プレゼントは、毎年何かしらの動物の縫いぐるみと決まっている。誰が言い出した訳でもないのだが、いつの間にか恒例になってしまった。子供の頃は本気で嬉しかったが、16歳にもなるともはやお互いに【ネタ】である。
「今年は生徒会副会長の縫いぐるみなのね」
包みを開けて馬の縫いぐるみを取り出すアンヌ。
「アハハ。お前、人前で言うなよ。相手は公爵家の跡取りだぞ」
「へ? いつも本人の前で言ってるよ」
「えぇぇっ!?」
「先輩は心が広いからダイジョーブ!」
「アンヌ。お前、相変わらずの強心臓だな」
「えへっ♡」
「王太子殿下からの誕生日プレゼントは何だったんだ?」
ジスランの問い掛けに、アンヌは得意気に身に着けているペンダントを指差した。
「これよ、これ。このサファイアのペンダントを贈ってくださったの」
「さすが王族。でかいサファイアだな(てか、サファイアって殿下の瞳の色なんじゃね?)」
「昨日のあの女の誕生日にはエメラルドのペンダントを贈られたみたい。金、持ってるよね。王太子殿下って」
「昨日のプレゼントの情報をもう掴んでるのか? すごい情報網だな(殿下はオレリア様にはご自分の色を贈らなかったってことか……)」
「ああ。前もって王太子殿下に直接お聞きしたのよ。あの女には何をプレゼントなさるんですか?ってね」
「えぇぇっ!? 直接? 聞いた? 王太子殿下にかよ?!」
「だって気になるじゃん!」
「お前……そういうとこやぞ!」
「は? 何が?」
他の令嬢に贈るプレゼントを直接王太子に尋ねるなど、慎みがないにも程がある。
そういう上位貴族の令嬢らしからぬ雑な感覚も、淑やかなオレリアと比較され、アンヌが軽んじられる一因になっているというのに……ジスランは頭を抱えた。
「どうしたの、ジスラン? 頭が痛いの?」
心配そうにジスランの顔を覗き込むアンヌ。
「……ああ。ある意味、頭が痛いな」
「どうしよう? 今頃呪いが効いてきたのかな?」
「呪い?」
訝し気な表情になるジスラン。
「ほら、学園に入学してすぐの頃。ジスランが私の前であの女のことを褒めちぎったでしょう? あの時、あんまり腹が立ったから、つい呪いをかけてしまったのよ」
「……ちなみにどんな呪いだ?」
「ジスランが禿げ散らかしますように」
「お前とは絶交だ!!」
そう言い捨てると、ジスランはアンヌに背を向けた。
慌ててジスランの背中に縋り付くアンヌ。
「ジスラン! ごめんってぇ~!」
いつものようにじゃれ合っている二人の様子を温かく見守る、アンヌの母とジスランの母。
「おほほ。相変わらず仲良しね」
「ホントにね。二人とももう16歳だというのに、いつまでも子供の頃と変わらないわね」
「昔はアンヌとジスラン君が将来結ばれてくれればな~なんて思っていたけど、あの二人は結局【家族】なのよね……」
「そうね。ジスランの初恋はアンヌちゃんだったけど、今は王太子妃を目指してるアンヌちゃんの事を心から応援しているみたいよ。アンヌちゃんを本当に【異性】として好きだったら、そんな応援はさすがに出来ないと思うから、やっぱり二人は【家族】なのよ」
「まぁ、そういう関係も素敵じゃない?」
「うん、うん。そうよね。素敵よね」
二人の母は顔を見合わせて微笑んだ。
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