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【後日談】 その2
しおりを挟む私達の娘ミレーヌがむくれている。
「お父様、お母様、アルマンドが私と手を繋いでくれないのです。『女と手なんか繋がない!』って」
ハロルド様がいきり立つ。
「何だと! 可愛いミレーヌが手を繋ぎたがっているのに、そんな事を言うガキとは婚約解消だ!」
はぁ~またですわ。
「ハロルド様、そんなことでいちいち婚約解消していたらキリがありませんわ。まだ子供ですのよ。ねぇミレーヌ、アルマンド君は恥ずかしがっているだけだと思うわ。可愛いミレーヌから『手を繋ぎたい』って言われて照れてしまったのよ」
「そうなの? お母様?」
「きっとそうよ。だから気にすることはないのよ」
「アルマンド、私のこと嫌いじゃない?」
あらあら、ミレーヌったら。
「ミレーヌを嫌いな男なんて、この世にいるわけないだろう! こんなに可愛いのに! まるで天使のようだ! なあ、ジオルド!」
ハロルド様……ジオルドがあきれた目で見ていますわよ。
ハロルド様と私の間には2人の子供がいる。
12歳の長男ジオルド、そしてさっきまでむくれていた7歳の長女ミレーヌだ。
ハロルド様は相変わらず子煩悩だが、ジオルドは12歳になり思春期にさしかかってきて、さすがに親に甘えなくなった。というわけで、最近のハロルド様はもっぱらミレーヌを可愛がっている。可愛がり過ぎだ。いわゆる「溺愛」というやつですわね。やれやれ。
私も実家のお父様に溺愛されて育ったから分かるけれど、父親の溺愛というのは娘の立場からするとうっとおしいと感じる時が多々あるのだ。ハロルド様に言うと絶望しそうなので内緒ですけれどね。
そんなハロルド様がミレーヌの婚約を決めたのは何と4年前。ミレーヌはまだ3歳だった。最初にハロルド様から話を聞かされた時はさすがに驚いた。いくら何でも早過ぎませんこと?
それにミレーヌを溺愛しているハロルド様が、早々に婚約者を決めようとしていること自体にもびっくりしてしまった。てっきり「ミレーヌは絶対、嫁にはやらんぞー!」って言うパターンだと思っていましたわ。
◇◆◇◆◇◆
4年前のこと。
「ハロルド様、早過ぎませんか? あと数年経ってからでも良いのでは?」
私が言うと、ハロルド様は苦いお顔になった。
「ミレーヌを遠くに行かせたくないんだ。その為には、他国の王族から婚約の申し出をされる前に、なるべく早く国内の貴族令息と正式婚約をさせたい」
「確かに、他国からの婚約申し込み……多いでしょうね」
「ああ、もちろん第2王子の娘という立場はもともと政略結婚の相手として目をつけられやすいが、加えて俺は外交の仕事をしている。付き合いのある他国の王族も多い。あと数年もしたら他国から降るように縁談話が来るのは間違いない。おそらくジオルドの時の何倍も縁談がくるだろう。あの頃よりも俺と縁続きになりたがる国は確実に増えている」
ハロルド様は年を追うごとに外交の成果を積み上げていらっしゃいますものね。今では我が国の外交の最高責任者を任されていらっしゃるのだ。
ジオルドは6歳の時に、同い年の幼なじみの侯爵令嬢マリーと婚約している。その時も他国の王族との縁談がちらほらあったのだが、ジオルド自身が「マリーと結婚したい! 他の女の子は絶対イヤだ!」と言い張るので、ハロルド様が決めた。
ただあの時縁談があった国は小国ばかりで、立場的に我が国の方が強いし政略的にもこちらには大して利もなかったから断れたのだ。
今のハロルド様ならもっと有力な国から話が来る可能性が高い。
「断るのは難しいですわよね?」
「我が国との力関係次第だ。大国の王族の正妃に迎えると申し込まれたら、まず断れない」
「ハロルド様はミレーヌを外交の駒にしたくないのですね」
「もちろん、それもある。でも1番の理由はミレーヌをとにかく国内に置きたいからだ。ミレーヌが他国に嫁に行くなんて耐えられない!」
……完全にハロルド様のエゴですわね。でも私もミレーヌを他国に嫁がせるのは心配ですわ。確かにハロルド様のおっしゃるように3歳で婚約者を決めるのもアリかもしれませんわね。
「それで、婚約者の目星はつけていらっしゃいますの?」
「フチノーベ公爵家に打診しようと思う」
えっ? それってまさか……
「レイモンドの長男が5歳だろう? いずれは公爵家の当主となる立場だし、年齢もミレーヌより2つ年上で釣り合う。フチノーベ公爵家は代々王家とも良い関係を続けているし、次期当主のレイモンドは個人的にも信頼できる人間だ」
私は驚いて黙ってしまった。
レイモンド様……私の初恋の人。全く相手にされず振り向いてもらえなかった悲しい初恋の相手だ。
レイモンド様の御子息と私の娘が婚約……
「カトリーヌ。まさか今もレイモンドが気になるとか言うなよ!」
ハロルド様の瞳が不安そうに揺れている。
どうしてそんな目をなさるの?
「ハロルド様、レイモンド様のことは少女時代の思い出ですわ。私が愛しているのはハロルド様だけでございます」
ハロルド様は私を抱き寄せ、囁いた。
「カトリーヌ、レイモンドと縁続きになるのはイヤか? お前が辛いなら他を探す」
ハロルド様……私を信じていらっしゃらないの?
レイモンド様のことは過ぎたことだ。遠い思い出。
「いいえ、辛くなんてありませんわ。今はただ懐かしい思い出です」
「本当に?」
「ハロルド様、私をもっと信じてくださいませ」
「……わかった」
「レイモンド様も夫人も人柄には定評がありますわ。夫人は穏やかで優しい方ですから、あの方が姑なら安心してミレーヌを嫁がせられます。この縁談、是非とも進めましょう」
「そ、そうだな。ミレーヌが意地悪な姑に苛められたら……あーっ! 想像するだけで苦しくなる! そんな家は潰してやる!」
「ハロルド様、落ち着いてくださいませ。フチノーベ公爵家に嫁げば、そんな心配は無用ですわ」
◇◆◇◆◇◆
そうして決まったミレーヌの婚約。
7歳になったミレーヌは婚約者のアルマンド君が大好きで、どんどん自分から甘えていくのだが、9歳のアルマンド君は恥ずかしいのか戸惑っているのか、あまり優しくしてくれないようだ。
まあ、男の子はそうですわよね。ものすごく拗らせたハロルド様の子供時代を知っている私から見れば、アルマンド君はミレーヌに意地悪もしないし暴言も吐かないし全然問題ありませんわ。
フチノーベ公爵家に出かけていたミレーヌが帰るなり、私達に興奮気味に言った。
「お父様、お母様、アルマンドが『ミレーヌちゃんは可愛くない』って!」
ハロルド様が立ち上がる。ハロルド様、落ち着いてくださいませ!
「何だと!? 俺の大事なミレーヌに何ということを! ミレーヌは可愛い! 絶対可愛い! フチノーベ家のガキの言うことなんか気にするな! ミレーヌはカトリーヌの子供の頃にそっくりなんだから可愛いに決まってるだろ! なあ、ジオルド!」
ジオルドがボソッと呟く。
「父上、何気に母上のことを惚気てますね……」
「えっ? そうか?」
「お父様、最後までちゃんと聞いてくださいませ」
「続きがあるのか?」
ミレーヌは頬を染めながら続けた。
「アルマンドがね、『ミレーヌちゃんは可愛いくないよ。”綺麗”だよ』って」
…………一同、無言…………
「でね、でね。嬉しくてアルマンドのほっぺにお礼のチューをしたら、アルマンドが、真っ赤っかになっちゃって!」
ミレーヌ! もうやめてあげて! ハロルド様が廃人になってしまうわー!?
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