むしゃくしゃしてやりましたの。後悔はしておりませんわ。

緑谷めい

文字の大きさ
10 / 10

【後日談】 その4 ☆ハロルド視点

しおりを挟む
「結婚するまでダメだと言ったはずだ」

 ジオルドは神妙な顔をしている。
「父上、申し訳ありませんでした」

 俺は今、ジオルドを叱っている。
 ジオルドの従者から、ジオルドがマリーにキスをしてしまったと報告を受けたのだ。 

 ジオルドも婚約者のマリーもまだ12歳だろう?
 ませ過ぎだろう、ジオルドよ!
 俺なんかカトリーヌにキスしたのは結婚式当日の夜だぞ! 初夜にようやく初めてのキス! まあ、そのままキスの先もしたが……

「ジオルド。お前、まさか無理やりしてないよな?」
「まさか! ちゃんとマリーは承諾してくれました」
「マリーには気持ちを伝えているのか?」
「はい! この前父上に言われてから、自分の素直な気持ちを言葉にするようにしています」
「どんなふうに言っているんだ?」
「えーと、『僕の可愛いマリー、大好きだよ』とか『マリーのことずっと大事にするよ』とか『マリー以外、何も要らないんだ』とか『マリーは僕の女神だよ』とか『僕が一生マリーを守るからね』とか、そんな感じです。遠回し過ぎますか?」
 どこが遠回しなんだ!?
 ジオルド、お前すごいな!


 俺なんか、自慢じゃないが10代の頃は酷いもんだった。
 カトリーヌのことが好きでたまらないのに優しくできないし、カトリーヌの気を引きたくて意地悪をして嫌われて、焦って心にもない言葉をぶつけて更に嫌われて……空回って拗らせて……カトリーヌは俺のせいでどれだけ傷ついただろうか?……はぁ、今思い出しても自分で自分がイヤになる。
 結婚してから、昔のことをカトリーヌに謝って彼女は許してくれたけど、でも少女時代のカトリーヌを傷つけたことは取り返しがつかない。俺のせいでいっぱい泣いたんだろうな。昔の俺を殴ってやりたい!


「父上、やっぱり結婚するまでダメですか?」
「ダメだ! 『今度からは実力行使してもいいから止めろ』と従者に命じた。マリーを大事に思うなら我慢しろ!」
「父上」
「なんだ?」
「美しい花を大切に守りたい気持ちと、手折って自分のものにしたい気持ちがせめぎ合うんです」
 
 ジオルドよ、お前は12歳のくせに何ということを!
「花を手折る」とか意味わかって言ってるのか?
 わかって言ってるんなら恐ろしいな、おい。
 そろそろ、そっちの教育もしないとまずいかな?
 俺は初夜までキスすらしたことのない純情ボーイだったというのに、一体誰に似たんだ?!
 父上か? 兄上か?
 そうだ! 忘れてたけど、我が王家は色好みが多かった!
 これは至急、ジオルドに教育を施したほうがいいな。マリーに手を出したら大変だ! カトリーヌにも相談しよう。




**********************




 一緒に執務をしている兄上が暗くてウザい。王太子がそんな顔してると周りが気を遣うだろうが!

「兄上。その暗いオーラ何とかしてください。周りの者が困惑してますよ」
「ハロルド……妻が怒ってる。ついでに古くから居る側妃や愛妾も怒ってるんだ」
「それは、兄上が若い愛妾をどんどん”蝶の宮”に連れて来るからでしょう? これ以上増やしてどうするんですか?」
「ちゃんと全員の相手をしてるぞ」
 えーっ!? 兄上、どんだけ体力あるんですか?! 

「さすがに疲れませんか?」
「全然! ハロルド、お前は真面目だな。いまだににカトリーヌだけなんだろ? せめて2~3人でも側妃か愛妾を作ればいいのに」
「俺はカトリーヌしか要りません!」
「……うーん、まあ確かにカトリーヌは魅力的だけどな。あの気の強そうな目で睨まれたいなー。できれば罵ってほしい。あ、ヒールで踏み付けてもらうのもいいな」
「兄上! カトリーヌに近寄ったら殺しますよ!」
「そこはせめて”幽閉”にしてくれよ。兄弟だろ?」
「はぁ~、全く兄上は……冗談言ってる場合じゃないんですよ! さあ、仕事してください!」
「はーい!」




**********************




 夏の宮にて。
 夜、子供達が眠りについた後、カトリーヌと二人で語らう。

「兄上にも困ったもんだ。”春の宮”も”蝶の宮”も雰囲気は最悪らしい」
「また若い愛妾が増えたと、王太子妃殿下が怒っていらっしゃいましたわ」
「俺には兄上の気持ちが全然わからないよ」
 そう、5歳の時から32歳になる現在までカトリーヌ一人しか好きになったことのない俺には兄上の気持ちはわからない。
 でも、ずっと好きだったけど、俺がカトリーヌに気持ちを伝えて優しく出来るようになったのは、結婚してからだもんな。遅い! 遅すぎるだろ! 俺のバカヤロー!

「カトリーヌ、すまなかった」
「何のお話ですか?」
「10代の頃、お前をたくさん傷つけた」
「もう何十回も謝っていただきましたわ。ハロルド様、いつまでもお気になさらないで。私の方こそハロルド様に暴力を振るって騒動を起こして申し訳ございませんでした。」
「そのことはもういいって前にも言っただろ。あれだって元はといえば俺のせいだしな。レイモンドに嫉妬して俺がお前に酷い事を言ったせいなんだから。なんで俺はあんなに捻くれたガキだったんだろうな? 最近ジオルドが大きくなってきて、あの頃の俺に容姿が似てきたからか、やたらと自分の10代を思い出すんだ。お前を傷つけてばかりだったあの頃を……」

 カトリーヌはそっと俺の胸に頬を寄せた。
「ハロルド様、昔のことですわ。本当にもう気に病まないでくださいませ」
「カトリーヌ……」
「ジオルドから聞きましたわ。ハロルド様はご自分の反省を踏まえてジオルドにアドバイスなさったのでしょう?」
「ああ、でもあいつはすごいな。どこで覚えたんだっていう歯の浮くような愛の言葉は囁くし、キスはしてしまうし……」
「ジオルドはハロルド様の少年時代とはまた違った意味での”困ったちゃん”ですわね」
「12歳のくせにませ過ぎなんだよ、ジオルドは」
「マリーちゃんに手を出したりしないように教育しませんとね」
「ああ、そのつもりだ」

 俺はカトリーヌを抱きしめる。

「愛してる。ずっと俺の側にいてくれ」
「たぶん……ずっとお側におります?」
「『たぶん』とか言うな! あと何で疑問形だ?!」
 俺達は顔を見合わせて笑った。

「懐かしいな。その台詞」
「よく覚えていらっしゃいましたね?」
「カトリーヌが俺に言った言葉は全て覚えてるぞ」
「相変わらずハロルド様は重いですわね」
「言っただろ。『俺の愛は深くて重いぞ』って」
「そうでございました」
 カトリーヌが可笑しそうに笑う。


 31歳になっても少女時代と変わらぬ気取らない笑い方。
 いつまでも見ていたくなる笑顔。









 カトリーヌ。お前は俺の全てだ。


















  完

 
しおりを挟む
感想 32

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(32件)

mananyan
2025.08.22 mananyan

もう何度も読み返しています。楽しい。そもそもの出だしの父とのやり取りから、そしてその後の地名、もとい人名その他の固有名詞についついフフフ・・・となってしまいます。2人のみょ〜な行き違いがいいですね。次回作も楽しみにしています。

解除
日向ララ
2024.05.17 日向ララ

もう何回読み直おしただろう大好きなお話しです!
定期的に読みに来てしまいます😌

解除
せち
2024.04.20 せち

あと、題名も好き✨☺️

解除

あなたにおすすめの小説

頑張らない政略結婚

ひろか
恋愛
「これは政略結婚だ。私は君を愛することはないし、触れる気もない」 結婚式の直前、夫となるセルシオ様からの言葉です。 好きにしろと、君も愛人をつくれと。君も、もって言いましたわ。 ええ、好きにしますわ、私も愛する人を想い続けますわ! 五話完結、毎日更新

旦那様、愛人を作ってもいいですか?

ひろか
恋愛
私には前世の記憶があります。ニホンでの四六年という。 「君の役目は魔力を多く持つ子供を産むこと。その後で君も自由にすればいい」 これ、旦那様から、初夜での言葉です。 んん?美筋肉イケオジな愛人を持っても良いと? ’18/10/21…おまけ小話追加

婚約者に好きな人ができたらしい(※ただし事実とは異なります)

彗星
恋愛
主人公ミアと、婚約者リアムとのすれ違いもの。学園の人気者であるリアムを、婚約者を持つミアは、公爵家のご令嬢であるマリーナに「彼は私のことが好きだ」と言われる。その言葉が引っかかったことで、リアムと婚約解消した方がいいのではないかと考え始める。しかし、リアムの気持ちは、ミアが考えることとは違うらしく…。

王子様への置き手紙

あおき華
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯ 小説家になろうにも掲載しています。

せっかくですもの、特別な一日を過ごしましょう。いっそ愛を失ってしまえば、女性は誰よりも優しくなれるのですよ。ご存知ありませんでしたか、閣下?

石河 翠
恋愛
夫と折り合いが悪く、嫁ぎ先で冷遇されたあげく離婚することになったイヴ。 彼女はせっかくだからと、屋敷で夫と過ごす最後の日を特別な一日にすることに決める。何かにつけてぶつかりあっていたが、最後くらいは夫の望み通りに振る舞ってみることにしたのだ。 夫の愛人のことを軽蔑していたが、男の操縦方法については学ぶところがあったのだと気がつく彼女。 一方、突然彼女を好ましく感じ始めた夫は、離婚届の提出を取り止めるよう提案するが……。 愛することを止めたがゆえに、夫のわがままにも優しく接することができるようになった妻と、そんな妻の気持ちを最後まで理解できなかった愚かな夫のお話。 この作品は他サイトにも投稿しております。 扉絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID25290252)をお借りしております。

この恋に終止符(ピリオド)を

キムラましゅろう
恋愛
好きだから終わりにする。 好きだからサヨナラだ。 彼の心に彼女がいるのを知っていても、どうしても側にいたくて見て見ぬふりをしてきた。 だけど……そろそろ潮時かな。 彼の大切なあの人がフリーになったのを知り、 わたしはこの恋に終止符(ピリオド)をうつ事を決めた。 重度の誤字脱字病患者の書くお話です。 誤字脱字にぶつかる度にご自身で「こうかな?」と脳内変換して頂く恐れがあります。予めご了承くださいませ。 完全ご都合主義、ノーリアリティノークオリティのお話です。 菩薩の如く広いお心でお読みくださいませ。 そして作者はモトサヤハピエン主義です。 そこのところもご理解頂き、合わないなと思われましたら回れ右をお勧めいたします。 小説家になろうさんでも投稿します。

【完結】どうかその想いが実りますように

おもち。
恋愛
婚約者が私ではない別の女性を愛しているのは知っている。お互い恋愛感情はないけど信頼関係は築けていると思っていたのは私の独りよがりだったみたい。 学園では『愛し合う恋人の仲を引き裂くお飾りの婚約者』と陰で言われているのは分かってる。 いつまでも貴方を私に縛り付けていては可哀想だわ、だから私から貴方を解放します。 貴方のその想いが実りますように…… もう私には願う事しかできないから。 ※ざまぁは薄味となっております。(当社比)もしかしたらざまぁですらないかもしれません。汗 お読みいただく際ご注意くださいませ。 ※完結保証。全10話+番外編1話です。 ※番外編2話追加しました。 ※こちらの作品は「小説家になろう」、「カクヨム」にも掲載しています。

私を簡単に捨てられるとでも?―君が望んでも、離さない―

喜雨と悲雨
恋愛
私の名前はミラン。街でしがない薬師をしている。 そして恋人は、王宮騎士団長のルイスだった。 二年前、彼は魔物討伐に向けて遠征に出発。 最初は手紙も返ってきていたのに、 いつからか音信不通に。 あんなにうっとうしいほど構ってきた男が―― なぜ突然、私を無視するの? 不安を抱えながらも待ち続けた私の前に、 突然ルイスが帰還した。 ボロボロの身体。 そして隣には――見知らぬ女。 勝ち誇ったように彼の隣に立つその女を見て、 私の中で何かが壊れた。 混乱、絶望、そして……再起。 すがりつく女は、みっともないだけ。 私は、潔く身を引くと決めた――つもりだったのに。 「私を簡単に捨てられるとでも? ――君が望んでも、離さない」 呪いを自ら解き放ち、 彼は再び、執着の目で私を見つめてきた。 すれ違い、誤解、呪い、執着、 そして狂おしいほどの愛―― 二人の恋のゆくえは、誰にもわからない。 過去に書いた作品を修正しました。再投稿です。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。