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第1章 黒領主の婚約者
18 ロシスター家の人々
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そんな宣言を高らかにしたユージーンと、怒涛の展開について行けない私のもとに、楽しそうに近づいてくる人がいた。
「へぇー。君がクローディアちゃん? 俺はケネス。こいつの親友だよ。これからよろしくねー。やっと、ユージーンの月の女神様に会えて嬉しいよ」
「ケネス……いたのか」
ユージーンの親友ケネス様はとても明るい方で、ウインクを飛ばしながらご挨拶をしてくれた。
「あんなに目立っていたら、物陰で女性を口説いていても君たちに気づくよ」
ですよね。認識したくはなかったけれど、私たちの回りには人だかりができていた。気を取り直し、ケネス様にご挨拶をする。
「はじめまして、ケネス様。クローディア・ハイドです。どうぞよろしくお願いいたします。――ところで、月の女神様とは?」
「聞いていないの? ユージーンったら、六年前に君と初めて会った時『俺の月の女神をいつか攫ってやろう』って心に決めたらしいよ? マセガキだよねー」
バチンと背中を叩かれたユージーンが、ばつが悪そうにケネス様を一睨みする。
「きゃあぁぁー。“月と太陽”のお伽噺ね」
「素敵ぃー。そんな風に想われてみたーい」
耳をそばだてていたご令嬢方から悲鳴があがる。……いたたまれない……。
「ケネス……。事実だが、クローディアが赤面するようなことを皆の前で言うな。もったいない!」
「もったいないってさ……。可愛い表情は減るもんじゃないんだし、多くのご令嬢たちに夢を与える良い話なんだから、別に構わないだろー。そんな調子だと、早々とクローディアちゃんに呆れられるぞ?」
じゃれ合う親友たちの会話を聞いている人たちがいちいち『ユージーン様って意外と情熱的なのね』とか、『一目惚れされるなんて羨ましいですわ』やら反応するので、私はまた違ったダメージを負いクラクラしていた。
「クローディア!」
低くて落ち着いた安心感のある懐かしい声に、遠のいていた意識が一気に浮上する。
「まあ、オリバー小父様!!」
大きく広げられた腕に子どものころを思い出してしまったのだろう。私は迷わず飛び込んだ。
「ああ、ああ。クローディア。手紙の返事を書く前に会えるなんて思ってもみなかった。やっと私の娘になるのだね? きっとクライヴも喜んでいるよ」
騎士としても大変有名な小父様が、そのたくましい腕でギュウギュウと私を締め上げる。結構痛い。
それでもその感覚は私の幸福な記憶なままで、嬉しいものだ。
「父上! クローディアが砕けてしまいます! 早く離してください!」
「嫌だ! 私だってずっと我慢していていたんだ! ちょっとは堪能させろ!」
ユージーンによって解放されると、少し寂しそうにした小父様が神妙な面持ちになる。
「連絡もせずにごめんよクローディア……。クライヴから釘を刺されていたんだ……。『お前のところは男しかいないから、お前は絶対クローディアを甘やかす。お前に嫁ぎたいと言われて、後妻にでも入られたら、俺は一生お前を許さん。クローディアの事はユージーンに任せろ』ってね」
父の声を真似て話す小父様に、父の姿が重なり目頭が熱くなる。そんな話もしていたのね……。
「遠慮しているうちに、まさかあんな事になるなんて……」
「小父様がエリカを遣わしてくれたお陰で、私は大丈夫だったんです。ありがとうございました」
私はけして一人ぼっちではなく、小父様やユージーン、エリカにも守られて生きていたんだ。私と小父様が久しぶりの感動の再会をしていたが、背後に不穏な空気を感じる。
「はあ? 本気でクローディアに惚れられるとでも思ってたのか? とんだ色ボケジジイだな!」
「なんだ!? 親に向かってその口の利き方は! クライヴが心配するのも当たり前だろう? お前よりも私の方が断然良い男だ! それにお前がずっとハイド領に居座るから、私が行けなくなったんだろう?」
父子喧嘩がはじまってしまった……。
「父上もユージーンも、いい加減に止めてください。今日の警護の責任者が抜け出したって、騎士たちが騒いでいますよ?」
「ロシスター家のイメージが崩壊したな」
「おお、ウォルトとブルーノも来たか。紹介しよう。私の娘のクローディアだ!」
「私の婚約者のクローディアです!」
「はいはい。では、私たちの妹のクローディアですね」
「うるさい奴ばかりで申し訳ないな」
ユージーンのお兄様二人も登場し、ロシスター家が勢揃い。今日のロシスター家は社交をユージーンに任せ、宮廷の警護を担当していたのだろう。
皆さんここに居ていいのだろうか?
「しかし、執念ってすごいよな。ある意味勉強になったぞ?」
「そうですね。六年想い続けて結果を出したのですから、わが弟ながら大したものですよ」
「クライヴとの約束を果たしたことは褒める」
「まあな!」
騎士道を重んじるロシスター家が全員集合し、何やらのんびりしはじめている……。
「なんて微笑ましいのでしょう……」
「クライヴ殿も、オリバー殿も、ユージーン殿も約束をたがえぬ……。漢の中の漢だな……」
「ずっと待ち望まれていた婚約者様ですのねぇ」
ご婦人方も殿方も目に涙を浮かべ、長年の想いを貫いたロシスター家の面々と私を見守る。
愛欲と嫉妬が渦巻く宮廷舞踏会が、ほんわか悠揚とした雰囲気になっていた――
「へぇー。君がクローディアちゃん? 俺はケネス。こいつの親友だよ。これからよろしくねー。やっと、ユージーンの月の女神様に会えて嬉しいよ」
「ケネス……いたのか」
ユージーンの親友ケネス様はとても明るい方で、ウインクを飛ばしながらご挨拶をしてくれた。
「あんなに目立っていたら、物陰で女性を口説いていても君たちに気づくよ」
ですよね。認識したくはなかったけれど、私たちの回りには人だかりができていた。気を取り直し、ケネス様にご挨拶をする。
「はじめまして、ケネス様。クローディア・ハイドです。どうぞよろしくお願いいたします。――ところで、月の女神様とは?」
「聞いていないの? ユージーンったら、六年前に君と初めて会った時『俺の月の女神をいつか攫ってやろう』って心に決めたらしいよ? マセガキだよねー」
バチンと背中を叩かれたユージーンが、ばつが悪そうにケネス様を一睨みする。
「きゃあぁぁー。“月と太陽”のお伽噺ね」
「素敵ぃー。そんな風に想われてみたーい」
耳をそばだてていたご令嬢方から悲鳴があがる。……いたたまれない……。
「ケネス……。事実だが、クローディアが赤面するようなことを皆の前で言うな。もったいない!」
「もったいないってさ……。可愛い表情は減るもんじゃないんだし、多くのご令嬢たちに夢を与える良い話なんだから、別に構わないだろー。そんな調子だと、早々とクローディアちゃんに呆れられるぞ?」
じゃれ合う親友たちの会話を聞いている人たちがいちいち『ユージーン様って意外と情熱的なのね』とか、『一目惚れされるなんて羨ましいですわ』やら反応するので、私はまた違ったダメージを負いクラクラしていた。
「クローディア!」
低くて落ち着いた安心感のある懐かしい声に、遠のいていた意識が一気に浮上する。
「まあ、オリバー小父様!!」
大きく広げられた腕に子どものころを思い出してしまったのだろう。私は迷わず飛び込んだ。
「ああ、ああ。クローディア。手紙の返事を書く前に会えるなんて思ってもみなかった。やっと私の娘になるのだね? きっとクライヴも喜んでいるよ」
騎士としても大変有名な小父様が、そのたくましい腕でギュウギュウと私を締め上げる。結構痛い。
それでもその感覚は私の幸福な記憶なままで、嬉しいものだ。
「父上! クローディアが砕けてしまいます! 早く離してください!」
「嫌だ! 私だってずっと我慢していていたんだ! ちょっとは堪能させろ!」
ユージーンによって解放されると、少し寂しそうにした小父様が神妙な面持ちになる。
「連絡もせずにごめんよクローディア……。クライヴから釘を刺されていたんだ……。『お前のところは男しかいないから、お前は絶対クローディアを甘やかす。お前に嫁ぎたいと言われて、後妻にでも入られたら、俺は一生お前を許さん。クローディアの事はユージーンに任せろ』ってね」
父の声を真似て話す小父様に、父の姿が重なり目頭が熱くなる。そんな話もしていたのね……。
「遠慮しているうちに、まさかあんな事になるなんて……」
「小父様がエリカを遣わしてくれたお陰で、私は大丈夫だったんです。ありがとうございました」
私はけして一人ぼっちではなく、小父様やユージーン、エリカにも守られて生きていたんだ。私と小父様が久しぶりの感動の再会をしていたが、背後に不穏な空気を感じる。
「はあ? 本気でクローディアに惚れられるとでも思ってたのか? とんだ色ボケジジイだな!」
「なんだ!? 親に向かってその口の利き方は! クライヴが心配するのも当たり前だろう? お前よりも私の方が断然良い男だ! それにお前がずっとハイド領に居座るから、私が行けなくなったんだろう?」
父子喧嘩がはじまってしまった……。
「父上もユージーンも、いい加減に止めてください。今日の警護の責任者が抜け出したって、騎士たちが騒いでいますよ?」
「ロシスター家のイメージが崩壊したな」
「おお、ウォルトとブルーノも来たか。紹介しよう。私の娘のクローディアだ!」
「私の婚約者のクローディアです!」
「はいはい。では、私たちの妹のクローディアですね」
「うるさい奴ばかりで申し訳ないな」
ユージーンのお兄様二人も登場し、ロシスター家が勢揃い。今日のロシスター家は社交をユージーンに任せ、宮廷の警護を担当していたのだろう。
皆さんここに居ていいのだろうか?
「しかし、執念ってすごいよな。ある意味勉強になったぞ?」
「そうですね。六年想い続けて結果を出したのですから、わが弟ながら大したものですよ」
「クライヴとの約束を果たしたことは褒める」
「まあな!」
騎士道を重んじるロシスター家が全員集合し、何やらのんびりしはじめている……。
「なんて微笑ましいのでしょう……」
「クライヴ殿も、オリバー殿も、ユージーン殿も約束をたがえぬ……。漢の中の漢だな……」
「ずっと待ち望まれていた婚約者様ですのねぇ」
ご婦人方も殿方も目に涙を浮かべ、長年の想いを貫いたロシスター家の面々と私を見守る。
愛欲と嫉妬が渦巻く宮廷舞踏会が、ほんわか悠揚とした雰囲気になっていた――
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