嫌われ黒領主の旦那様~侯爵家の三男に一途に愛されていました~

めもぐあい

文字の大きさ
18 / 37
第1章 黒領主の婚約者

18 ロシスター家の人々

しおりを挟む
 そんな宣言を高らかにしたユージーンと、怒涛の展開について行けない私のもとに、楽しそうに近づいてくる人がいた。

「へぇー。君がクローディアちゃん? 俺はケネス。こいつの親友だよ。これからよろしくねー。やっと、ユージーンの月の女神様に会えて嬉しいよ」
「ケネス……いたのか」

 ユージーンの親友ケネス様はとても明るい方で、ウインクを飛ばしながらご挨拶をしてくれた。

「あんなに目立っていたら、物陰で女性を口説いていても君たちに気づくよ」

 ですよね。認識したくはなかったけれど、私たちの回りには人だかりができていた。気を取り直し、ケネス様にご挨拶をする。

「はじめまして、ケネス様。クローディア・ハイドです。どうぞよろしくお願いいたします。――ところで、月の女神様とは?」

「聞いていないの? ユージーンったら、六年前に君と初めて会った時『俺の月の女神をいつか攫ってやろう』って心に決めたらしいよ? マセガキだよねー」

 バチンと背中を叩かれたユージーンが、ばつが悪そうにケネス様を一睨みする。

「きゃあぁぁー。“月と太陽”のお伽噺ね」
「素敵ぃー。そんな風に想われてみたーい」

 耳をそばだてていたご令嬢方から悲鳴があがる。……いたたまれない……。

「ケネス……。事実だが、クローディアが赤面するようなことを皆の前で言うな。もったいない!」

「もったいないってさ……。可愛い表情は減るもんじゃないんだし、多くのご令嬢たちに夢を与える良い話なんだから、別に構わないだろー。そんな調子だと、早々とクローディアちゃんに呆れられるぞ?」

 じゃれ合う親友たちの会話を聞いている人たちがいちいち『ユージーン様って意外と情熱的なのね』とか、『一目惚れされるなんて羨ましいですわ』やら反応するので、私はまた違ったダメージを負いクラクラしていた。




「クローディア!」

 低くて落ち着いた安心感のある懐かしい声に、遠のいていた意識が一気に浮上する。

「まあ、オリバー小父様!!」

 大きく広げられた腕に子どものころを思い出してしまったのだろう。私は迷わず飛び込んだ。

「ああ、ああ。クローディア。手紙の返事を書く前に会えるなんて思ってもみなかった。やっと私の娘になるのだね? きっとクライヴも喜んでいるよ」

 騎士としても大変有名な小父様が、そのたくましい腕でギュウギュウと私を締め上げる。結構痛い。
 それでもその感覚は私の幸福な記憶なままで、嬉しいものだ。

「父上! クローディアが砕けてしまいます! 早く離してください!」
「嫌だ! 私だってずっと我慢していていたんだ! ちょっとは堪能させろ!」

 ユージーンによって解放されると、少し寂しそうにした小父様が神妙な面持ちになる。

「連絡もせずにごめんよクローディア……。クライヴから釘を刺されていたんだ……。『お前のところは男しかいないから、お前は絶対クローディアを甘やかす。お前に嫁ぎたいと言われて、後妻にでも入られたら、俺は一生お前を許さん。クローディアの事はユージーンに任せろ』ってね」

 父の声を真似て話す小父様に、父の姿が重なり目頭が熱くなる。そんな話もしていたのね……。

「遠慮しているうちに、まさかあんな事になるなんて……」
「小父様がエリカを遣わしてくれたお陰で、私は大丈夫だったんです。ありがとうございました」

 私はけして一人ぼっちではなく、小父様やユージーン、エリカにも守られて生きていたんだ。私と小父様が久しぶりの感動の再会をしていたが、背後に不穏な空気を感じる。

「はあ? 本気でクローディアに惚れられるとでも思ってたのか? とんだ色ボケジジイだな!」

「なんだ!? 親に向かってその口の利き方は! クライヴが心配するのも当たり前だろう? お前よりも私の方が断然良い男だ! それにお前がずっとハイド領に居座るから、私が行けなくなったんだろう?」

 父子喧嘩がはじまってしまった……。

「父上もユージーンも、いい加減に止めてください。今日の警護の責任者が抜け出したって、騎士たちが騒いでいますよ?」
「ロシスター家のイメージが崩壊したな」

「おお、ウォルトとブルーノも来たか。紹介しよう。私の娘のクローディアだ!」
「私の婚約者のクローディアです!」

「はいはい。では、私たちの妹のクローディアですね」
「うるさい奴ばかりで申し訳ないな」
 
 ユージーンのお兄様二人も登場し、ロシスター家が勢揃い。今日のロシスター家は社交をユージーンに任せ、宮廷の警護を担当していたのだろう。
 皆さんここに居ていいのだろうか?

「しかし、執念ってすごいよな。ある意味勉強になったぞ?」
「そうですね。六年想い続けて結果を出したのですから、わが弟ながら大したものですよ」
「クライヴとの約束を果たしたことは褒める」
「まあな!」

 騎士道を重んじるロシスター家が全員集合し、何やらのんびりしはじめている……。

「なんて微笑ましいのでしょう……」
「クライヴ殿も、オリバー殿も、ユージーン殿も約束をたがえぬ……。漢の中の漢だな……」
「ずっと待ち望まれていた婚約者様ですのねぇ」

 ご婦人方も殿方も目に涙を浮かべ、長年の想いを貫いたロシスター家の面々と私を見守る。
 愛欲と嫉妬が渦巻く宮廷舞踏会が、ほんわか悠揚とした雰囲気になっていた――
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された侯爵令嬢ですが、帝国の次席秘書官になりました ――王の隣ではなく、判断を誤らせない場所へ

ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として王宮に仕える侯爵令嬢ゼクレテァ。 彼女は華やかな場に立つことはなく、ただ静かに、しかし確実に政務と外交を支えていた。 ――その役割が、突然奪われるまでは。 公の場で告げられた一方的な婚約破棄。 理由はただひとつ、「愛している相手がいるから」。 ゼクレテァは感情を見せることなく、その決定を受け入れる。 だが彼女が王宮を去った後、王国には小さな歪みが生じ始めた。 些細な行き違い、遅れる判断、噛み合わない政策。 それらはやがて、国家全体を揺るがす事態へと発展していく。 一方、行き場を失ったゼクレテァの前に、思いもよらぬ「選択肢」が差し出される。 求められたのは、身分でも立場でもない。 彼女自身の能力だった。 婚約破棄から始まる、 静かで冷静な逆転劇。 王の隣に立つことを拒んだ令嬢は、 やがて「世界を動かす場所」へと歩み出す――。 -

白い結婚のはずが、旦那様の溺愛が止まりません!――冷徹領主と政略令嬢の甘すぎる夫婦生活

しおしお
恋愛
政略結婚の末、侯爵家から「価値がない」と切り捨てられた令嬢リオラ。 新しい夫となったのは、噂で“冷徹”と囁かれる辺境領主ラディス。 二人は互いの自由のため――**干渉しない“白い結婚”**を結ぶことに。 ところが。 ◆市場に行けばついてくる ◆荷物は全部持ちたがる ◆雨の日は仕事を早退して帰ってくる ◆ちょっと笑うだけで顔が真っ赤になる ……どう見ても、干渉しまくり。 「旦那様、これは白い結婚のはずでは……?」 「……君のことを、放っておけない」 距離はゆっくり縮まり、 優しすぎる態度にリオラの心も揺れ始める。 そんな時、彼女を利用しようと実家が再び手を伸ばす。 “冷徹”と呼ばれた旦那様の怒りが静かに燃え―― 「二度と妻を侮辱するな」 守られ、支え合い、やがて惹かれ合う二人の想いは、 いつしか“形だけの夫婦”を超えていく。

十年間虐げられたお針子令嬢、冷徹侯爵に狂おしいほど愛される。

er
恋愛
十年前に両親を亡くしたセレスティーナは、後見人の叔父に財産を奪われ、物置部屋で使用人同然の扱いを受けていた。義妹ミレイユのために毎日ドレスを縫わされる日々——でも彼女には『星霜の記憶』という、物の過去と未来を視る特別な力があった。隠されていた舞踏会の招待状を見つけて決死の潜入を果たすと、冷徹で美しいヴィルフォール侯爵と運命の再会! 義妹のドレスが破れて大恥、叔父も悪事を暴かれて追放されるはめに。失われた伝説の刺繍技術を復活させたセレスティーナは宮廷筆頭職人に抜擢され、「ずっと君を探していた」と侯爵に溺愛される——

処刑前夜に逃亡した悪役令嬢、五年後に氷の公爵様に捕まる〜冷徹旦那様が溺愛パパに豹変しましたが私の抱いている赤ちゃん実は人生2周目です〜

放浪人
恋愛
「処刑されるなんて真っ平ごめんです!」 無実の罪で投獄された悪役令嬢レティシア(中身は元社畜のアラサー日本人)は、処刑前夜、お腹の子供と共に脱獄し、辺境の田舎村へ逃亡した。 それから五年。薬師として穏やかに暮らしていた彼女のもとに、かつて自分を冷遇し、処刑を命じた夫――「氷の公爵」アレクセイが現れる。 殺される!と震えるレティシアだったが、再会した彼は地面に頭を擦り付け、まさかの溺愛キャラに豹変していて!? 「愛しているレティシア! 二度と離さない!」 「(顔が怖いです公爵様……!)」 不器用すぎて顔が怖い旦那様の暴走する溺愛。 そして、二人の息子であるシオン(1歳)は、実は前世で魔王を倒した「英雄」の生まれ変わりだった! 「パパとママは僕が守る(物理)」 最強の赤ちゃんが裏で暗躍し、聖女(自称)の陰謀も、帝国の侵略も、古代兵器も、ガラガラ一振りで粉砕していく。

聖女として白龍の生贄になると思ったらなぜか騎士様と契約結婚することになって愛されています

鳥花風星
恋愛
「白龍使いの騎士は虹の力を持つ聖女を白龍への生贄として捧げる」 そんな言い伝えのある国で、虹の力を持つ聖女セシルは教会でひっそりと暮らしていた。 生贄になど選ばれないように、目立たないようにひっそりと。 けれど、その日はやってきた。生贄なんて絶対にごめんだわ!と教会から逃げ出そうとするも騎士ランスに見つかってしまう。 観念してランスに同行するセシル。騎士団本部で騎士団長の話を聞いていると、どうやら言い伝えとは何かが違うようで……? 「まさか本当にこんな気持ちになるなんて。君の体も心も全てを食べてしまいたい」 白龍使い成り立ての騎士ランスと、聖女セシルのドタバタラブファンタジー。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

勘違い令嬢の離縁大作戦!~旦那様、愛する人(♂)とどうかお幸せに~

藤 ゆみ子
恋愛
 グラーツ公爵家に嫁いたティアは、夫のシオンとは白い結婚を貫いてきた。  それは、シオンには幼馴染で騎士団長であるクラウドという愛する人がいるから。  二人の尊い関係を眺めることが生きがいになっていたティアは、この結婚生活に満足していた。  けれど、シオンの父が亡くなり、公爵家を継いだことをきっかけに離縁することを決意する。  親に決められた好きでもない相手ではなく、愛する人と一緒になったほうがいいと。  だが、それはティアの大きな勘違いだった。  シオンは、ティアを溺愛していた。  溺愛するあまり、手を出すこともできず、距離があった。  そしてシオンもまた、勘違いをしていた。  ティアは、自分ではなくクラウドが好きなのだと。  絶対に振り向かせると決意しながらも、好きになってもらうまでは手を出さないと決めている。  紳士的に振舞おうとするあまり、ティアの勘違いを助長させていた。    そして、ティアの離縁大作戦によって、二人の関係は少しずつ変化していく。

ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…

ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。 一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。 そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。 読んでいただけると嬉しいです。

処理中です...