嫌われ黒領主の旦那様~侯爵家の三男に一途に愛されていました~

めもぐあい

文字の大きさ
20 / 37
第2章 黒領主の旦那様

20 和やかな年明け

しおりを挟む
 私がユージーンの婚約者となって初めて迎えた年明け――

「メレディス、お疲れ様。赴任してすぐ、年末年始の行事開催にあたってくれてありがとう」

「いえいえ。今までは街中の警護ばかりで楽しむこともできませんでしたから、騎士に比べたら存分に領地のイベントを堪能する良い機会になりましたよ」

 ロシスター侯爵家から派遣されたメレディスがハイド伯爵家の新しい家令となり、私とユージーンの執務に費やす時間が大幅に軽減された。

「また一段落しましたし、今日はゆっくりなされてください」

「では、少し皆の所に顔を出してくるわ。メレディスも早めに休んでね」

 最近はまっている事は、雨雪模様の日には、ドナ付きだったメイドのカーラに刺繍を教えてもらう事と、日射しがある暖かい日なら、庭師のトーマスと一緒に球根を植える事だったりする。


『植え付けには少し遅い時期じゃが、この寒さならきっと大丈夫ですじゃ』
『寒いのに、無理を言ってごめんなさいね』

『クローディア様はお優しいのう。だが、それが四十年続けてきたわしの仕事じゃよ』

 歯の抜けた顔をクシャリとしてトーマスは笑う。寡黙で怖いおじいさんだと思っていたけれど、照れ屋で少なくなった歯を気にしていただけだと最近知った。


『一針一針を縫うのに時間がかかってしまうわ……』
『とても丁寧な仕上がりですよ? 時間がかかっていても、クローディア様の作品は大変美しゅうございます』

『一番最初にクローディア様の作品をいただいたのはこの私!』
『エリカったら』

 仕舞っていたハンカチを誇らしげに取り出し、カーラに見せつけている。ユージーンより先に貰ったと喜んでいたが、それで二人が言い合いになったので、その後はユージーンへ贈る刺繍に取りかかっていた。

 子どもの頃に少しかじっただけの刺繍は、予想していた通り難しかった。けれど、上達していく過程が作品毎に表れるのでやりがいがある。

 球根の植え付けも、球根どうしの距離や植える深さ、花が咲く季節など、細かくトーマスに教わり、興味は尽きない。

 騎士が本職のエリカは、女性らしいもの事が好きだけれど、経験値としてはカーラに追いつかないらしい。私とカーラが刺繍しているところを、いつも悔しそうに見ているので、「エリカも一緒にやってみない?」と誘ったら、「針ではクローディア様をお守りできませんから結構です」と全力で断られた――




 今日もトーマスと二人で庭園に春咲きの球根を植えていると、ユージーンがお茶の準備をしてくれていた。

「少し休憩をしたらどう?」
「はーい」

 放っておかれた事にいじけているのか、トーマスとばかり一緒にいたからか、純粋に気遣ってくれたのかは分からないけれど、ユージーンはなんだかご機嫌斜め。
 最近になって、彼の隠してきた性質も見えるようになってきたので、私は急いで手を洗いサロンに向かった。

「ずいぶんと精が出るね」
「冬のうちに植えないといけないからよ? もうギリギリみたい。でも、あと少しで終わるわ」

「そう? じゃあ、その作業が終わったら、ロシスターの本邸に行ってみないか? 婚約して初めての旅行が実家で申し訳ないけれど」

 あっという間に春が来て、また忙しくなりそう。色々自由に過ごすなら今のうちと思っていたけれど、ユージーンが幼い頃過ごしたカントリーハウスにはまだ行ったことがないので素敵な提案だ。

「ぜひ行きたいわ! いつも小父様をお迎えするばかりで、私はロシスター領が初めてなのよね? すごく楽しみだわ!」

 オリバー小父様やユージーンが、ハイド領に来たことはあったみたいだけれど、私がロシスター領に行った記憶はない。
 ユージーンとの“初めての旅行”も、そのフレーズだけで心が弾む。

「なんで父が来たのを覚えていて、俺が来ていたのは忘れているんだろうな……」

 あ……、またちょっぴり面倒な雰囲気になってきた。
 ユージーンの愛情の深さは今までの経験で分かっていたけれど、私の想像以上に彼の愛は深いらしい。

 ここはフォローしておかないと……。

「小父様は、何度もハイド領に来ていたもの。ユージーンは五日間しかここにいなかったんでしょう? 私はまだ十歳だったのよ? でもきっと、何度もユージーンと会っていたら、成人前に貴方を好きだって父に伝えていたはずだわ」

 良かった! 太陽も逃げ出さんばかりの眩い笑顔になったから、これで大丈夫なはず。

「そうだね。学業に専念する時期に出会ったのがいけなかったんだ」

 さて、そうと決まればロシスター領に向かう準備もしていかないと!

 最近、はまってしまった事がもう一つある。お洒落をすることだ。王都をたつ前に、ユージーンと二人で街へ買い物に出掛けた。その時、ユージーンがたくさんの贈り物をくれたのだ。
 彼曰く、「今までプレゼントができなかった分、これからは呆れられるくらい贈り物をしたいんだ」と。

 季節的にすぐに着られるからと買ってもらった、白魔兎の毛皮のコートが最近のお気に入り。毛足が柔らかく密度も濃いので、見た目も肌触りも防寒性も最高の一品! とても高価だったに違いない……。

 真珠と銀糸のタッセルがついた銀の蝶を模した髪飾りも買ってくれた。顔の横で髪を纏め、この飾りをつけてタッセルと一緒に流すのが定着している。
 この髪型は、髪飾りを買ってくれたあとすぐ、ユージーンが私の黒い髪を手串で器用にまとめ、飾りをつけてくれた時から気に入ってしまった。

「荷物が多くなってしまったわ」
「大丈夫ですよ。まだまだ少ないくらいです」
「増えても全部私がお持ちします!」

 エリカとカーラに手伝ってもらい、ユージーンからの贈り物の服を目一杯トランクに詰め準備を整えていく。


 そして二日後。白魔兎のコートと蝶の髪飾りというお気に入りのいでたちで、私はロシスター領に向かった――
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ある公爵令嬢の死に様

鈴木 桜
恋愛
彼女は生まれた時から死ぬことが決まっていた。 まもなく迎える18歳の誕生日、国を守るために神にささげられる生贄となる。 だが、彼女は言った。 「私は、死にたくないの。 ──悪いけど、付き合ってもらうわよ」 かくして始まった、強引で無茶な逃亡劇。 生真面目な騎士と、死にたくない令嬢が、少しずつ心を通わせながら 自分たちの運命と世界の秘密に向き合っていく──。

【完】嫁き遅れの伯爵令嬢は逃げられ公爵に熱愛される

えとう蜜夏
恋愛
 リリエラは母を亡くし弟の養育や領地の執務の手伝いをしていて貴族令嬢としての適齢期をやや逃してしまっていた。ところが弟の成人と婚約を機に家を追い出されることになり、住み込みの働き口を探していたところ教会のシスターから公爵との契約婚を勧められた。  お相手は公爵家当主となったばかりで、さらに彼は婚約者に立て続けに逃げられるといういわくつきの物件だったのだ。  少し辛辣なところがあるもののお人好しでお節介なリリエラに公爵も心惹かれていて……。  22.4.7女性向けホットランキングに入っておりました。ありがとうございます 22.4.9.9位,4.10.5位,4.11.3位,4.12.2位  Unauthorized duplication is a violation of applicable laws.  ⓒえとう蜜夏(無断転載等はご遠慮ください)

契約結婚の相手が優しすぎて困ります

みみぢあん
恋愛
ペルサル伯爵の婚外子リアンナは、学園に通い淑女の教育を受けているが、帰宅すれば使用人のような生活をおくっていた。 学園の卒業が近くなったある日、リアンナは父親と変わらない年齢の男爵との婚約が決まる。 そんなリアンナにフラッドリー公爵家の後継者アルベールと契約結婚をしないかと持ちかけられた。

逆行したので運命を変えようとしたら、全ておばあさまの掌の上でした

ひとみん
恋愛
夫に殺されたはずなのに、目覚めれば五才に戻っていた。同じ運命は嫌だと、足掻きはじめるクロエ。 なんとか前に死んだ年齢を超えられたけど、実は何やら祖母が裏で色々動いていたらしい。 ザル設定のご都合主義です。 最初はほぼ状況説明的文章です・・・

勘違い令嬢の離縁大作戦!~旦那様、愛する人(♂)とどうかお幸せに~

藤 ゆみ子
恋愛
 グラーツ公爵家に嫁いたティアは、夫のシオンとは白い結婚を貫いてきた。  それは、シオンには幼馴染で騎士団長であるクラウドという愛する人がいるから。  二人の尊い関係を眺めることが生きがいになっていたティアは、この結婚生活に満足していた。  けれど、シオンの父が亡くなり、公爵家を継いだことをきっかけに離縁することを決意する。  親に決められた好きでもない相手ではなく、愛する人と一緒になったほうがいいと。  だが、それはティアの大きな勘違いだった。  シオンは、ティアを溺愛していた。  溺愛するあまり、手を出すこともできず、距離があった。  そしてシオンもまた、勘違いをしていた。  ティアは、自分ではなくクラウドが好きなのだと。  絶対に振り向かせると決意しながらも、好きになってもらうまでは手を出さないと決めている。  紳士的に振舞おうとするあまり、ティアの勘違いを助長させていた。    そして、ティアの離縁大作戦によって、二人の関係は少しずつ変化していく。

【完結】契約の花嫁だったはずなのに、無口な旦那様が逃がしてくれません

Rohdea
恋愛
──愛されない契約の花嫁だったはずなのに、何かがおかしい。 家の借金返済を肩代わりして貰った代わりに “お飾りの妻が必要だ” という謎の要求を受ける事になったロンディネ子爵家の姉妹。 ワガママな妹、シルヴィが泣いて嫌がった為、必然的に自分が嫁ぐ事に決まってしまった姉のミルフィ。 そんなミルフィの嫁ぎ先は、 社交界でも声を聞いた人が殆どいないと言うくらい無口と噂されるロイター侯爵家の嫡男、アドルフォ様。 ……お飾りの妻という存在らしいので、愛される事は無い。 更には、用済みになったらポイ捨てされてしまうに違いない! そんな覚悟で嫁いだのに、 旦那様となったアドルフォ様は確かに無口だったけど───…… 一方、ミルフィのものを何でも欲しがる妹のシルヴィは……

憧れの騎士さまと、お見合いなんです

絹乃
恋愛
年の差で体格差の溺愛話。大好きな騎士、ヴィレムさまとお見合いが決まった令嬢フランカ。その前後の甘い日々のお話です。

女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る

小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」 政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。 9年前の約束を叶えるために……。 豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。 「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。 本作は小説家になろうにも投稿しています。

処理中です...