嫌われ黒領主の旦那様~侯爵家の三男に一途に愛されていました~

めもぐあい

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第2章 黒領主の旦那様

21 学生への憧れ

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 ロシスターの領地は、多くの騎士が街に溶け込み、側で領民の生活を守っていた。

「騎士と民との距離が近いし、とても治安が良いのね」
「エリカみたいに目つきの悪いのがウロウロしてたら、誰も犯罪を犯そうと思わないしな」

「エリカはキリっとした美人だものね」
「お褒めに預かり光栄です」

 街のいたるところで騎士の姿を見かけ、領民たちからも騎士様は愛される存在だ。

 馬車から街の景観を眺めていて、ふと疑問に思ったことをユージーンに聞いてみる。

「ユージーンは、オリバー小父様から剣を習ったの?」
「父というよりも、騎士団と一緒に鍛練していたかな。あの人から直接教わるより、鍛錬に混ざる方が数倍楽だったし」

 ユージーンの綺麗な目元に力が入り、オリバー小父様の厳しさがうかがえた。

「魔法も使えるのよね?」
「ああ。剣の方が好きだけれど、魔法も留学先で習ってきた。国内だと光属性の人間が少ないから、他国で習えるうちに習っておいたって感じかな」

 私も、本来なら十三歳から国立学園に通って学ぶはずだった。学園に通える女の子は、相続して領主になる予定の子だけだから、叔父に学園に通わせてもらえなくても、今まではたいした問題ではないと思うようにしてきた。
 それでも、こうして成人すると、学園で勉強できなかったのを悔しく思う。

 もっと学べる時に学びたかったな……。

 黙りこんで過去を思い出していた私を心配したのか、ユージーンが不安げにたずねてきた。

「クローディアは、魔法を使えるようになりたい?」
「うん。色々勉強したかったなって思っていたの。でも、私は闇属性だし……。教わるのも難しいから別にいいかな……」

「いや、闇属性にも身につけておくべき魔法があるはずだ。俺たち光や闇属性の人間が希少だから、良い師匠が少ないだけなんだ。ロシスターに着いたら父に相談してみよう」

 私の気持ちを察してくれたユージーンが、また行動に移してくれそう。こうしていつも先回りをして、私の事を考えてくれていたんだね。
 隣に座るユージーンの手に、そっと自分の手を重ね感謝の気持ちを伝えた。

「いつもありがとう。ユージーン」


 ***


 ロシスター侯爵家のカントリーハウスに到着すると、オリバー小父様とウォルトお兄様、使用人と騎士団のみんなが勢揃いで迎えてくれた。

「「おかえりなさいませ。ユージーン様、クローディア様」」

 おかえりなさいと迎えられ、家族として受け入れてくれるロシスター家のみなさんに嬉しくなる。

「近いとはいえ、馬車の移動は疲れただろう? さあさあ、中に入って」

 完全に私を甘やかすつもりのオリバー小父様は、私のトランクを自ら運び、慌てふためく使用人を意に介さず私を屋敷の中に連れて行く。
 サロンに通され新年のご挨拶を交わし一息つくと、エリカは久しぶりの騎士団に向かった。

 和気あいあいと団欒し、ひとしきりお互いに話した後、ユージーンが切りだす。

「父上にクローディアの事でご相談があります」
「クローディアの事なら、なんだって力になるぞ?」

 ユージーンは、私が学園に通えず、魔法の師匠もおらず、学ぶ機会がなかった事を悔やんでいると、まるで私の心を覗いたかのように、気持ちを代弁してくれた。
 小父様はしばし考えた後、一つの案を出した。

「それなら、私の知り合いの女性に手紙を書いてみよう。忙しい方だから、あまり期待はしないで欲しいが、かなりの闇魔法の使い手だ。何かしら力になってくれるはず。この屋敷に滞在しているうちに返事が来るだろうから、少し待っていておくれ」

「ありがとうございます。小父様」

 オリバー小父様の紹介で、闇魔法の師匠が見つかるかもしれない! 浮かれる私は、小父様が複雑そうに顔を歪めている事に気がついていなかった……。


 ***


 滞在中は、ウォルトお兄様から領地経営について教わっていた。長兄だったウォルト様は騎士科と領地科をニ重専攻し、両立させた強者だ。
 せっかくの旅先で執務室に籠るのはもったいないけれど、他領の経営を優秀な先生に教えてもらえる機会など滅多にない。

「独学でここまで頑張って覚えたのは素晴らしい!」
「まだ分からない事だらけです。ビシバシご指導ください」

「クローディア。ウォルト兄上は他人に厳しいから気をつけて」

 ユージーンはまた拗ねそうになったけれど、頑張りたい気持ちを伝えると理解してくれた。



 やはりハイド領は恵まれた領地だ。王都への交通の要になっているから、商人や旅人の往来で物流も良く、収益も多い。
 平地が多い土地は農・畜産業が盛んで、安定した税収のもう一本の柱になっている。

「もう少ししたら、もう一歩踏み込んだ施策を打ってもいいかもね」
「はい」

 だが、ロシスター領のように何かに特化しているわけではない。ロシスター領はやはり騎士団の貢献が大きい。優秀な騎士を多く輩出してきたロシスター騎士学校は、王国騎士団にも毎年人員を派遣している。その一人が次兄のブルーノお兄様だ。

 他領の話を聞き、ハイド領にも長期的に国に貢献出来るものを作りたいと私は考えていた。


 ***


「この前話をした魔法の師匠についてだけれどね、先方が直々に指導したいと、快くお引き受けくださったよ」
「良かったな、クローディア!」
「ありがとうございます、小父様」

 けれど、オリバー小父様が顔を曇らせながら続けた。

「ただしな……。その方がいらっしゃるのは、ウィンドラ公国なんだよ」
「風の渓谷ウィンドラか……。遠いな……」
「我がイスティリア王国とは、週にニ度の飛竜定期便で往き来出来ます」

「でも……。ただでさえ今もこちらに来ているのに、立て続けに公国に行くのは領地が心配です……」
「メレディスが家令になった事だし、クローディアの話を聞くかぎり、ハイド領の状態なら公国に行っても問題ないよ。むしろ、この時季に行くべきだね」

 ウォルトお兄様が、ウィンドラ公国に行くのを後押ししてくれた。

「……私、ウィンドラ公国に行って、勉強したいです!」
「そうか……。ハイド領の事は心配しなくていいから、悔いなく学んでくるんだよ? ユージーン、クローディアを頼んだぞ」
「父上に言われずとも、クローディアは私の婚約者です。命を掛けて守りますよ」

 国外に出て闇魔法を学べるなんて、人生は思いもよらない事ばかり! ユージーンが来てくれてから、急激に状況が変わっていったけれど、まだまだ流れは止まらないみたい!

 この先に待つ人が、どんな想いでいるのかも知らず、私はただ夢見心地でいた……――
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