嫌われ黒領主の旦那様~侯爵家の三男に一途に愛されていました~

めもぐあい

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第2章 黒領主の旦那様

26 望まぬ邂逅

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 レイラ様からご指導いただき、毎日復習をしながら私の闇魔法は着実に上達していた。コンラッドさんがいつも時間を気にしているから、想像していた以上にお忙しいのだろう。

 けれど、レイラ様は指導に熱が入るといつも時間が押してしまい、今日もレイラ様とコンラッドさんの言い合いが始まった。

「コンラッド! 少しくらい待ちなさいよ! ちょっとは空気を読んだらどうなの!」
「なんと言われようがお時間です!」

 この頃には、レイラ様はキッパリ物を言う方だが、それは限度を見極めているからと分かっていた。今日もギリギリのところでお帰りになるだろう。
 有限な時の使い処も計算済みのはず。それを私への指導時間に費やすのだから申し訳ない。

「もうっ、分かりました! 走って帰るからいいでしょう!? また明日ね、クローディアちゃん、ユージーン君!」

「本日もありがとうございました」

 慌ててお辞儀をする私に軽やかにヒラヒラと手を振り、おおわらわで教本を片付け部屋を出るレイラ様。膝に置いていたのか、ロケットペンダントが足元に落ち、古いものなのか弾みで蓋が開いている。
 レイラ様は落としたことに気づかず、コテージを飛び出して行った。

「レイラ様!」

 コンラッドさんが、レイラ様を追い掛ける。明日にでも忘れ物をお渡ししないと――

 私は拾い上げたペンダントを見て固まった。ハイド家の家紋が入っており、私も同じ物を首から下げている……。そこの私はお父様の隣で、辛いことなど何も知らずに少しはにかんでいた。

「……なぜ? ここにハイド家の家紋の物が……」

 勝手に覗いてはいけないと、一度閉じたペンダントの留め具を恐る恐る外す。ペンダントチャームの中には、若い頃の父とレイラ様の古い姿絵。レイラ様の胸には黒髪の赤子が抱かれていた――

「どうしてレイラ様とお父様が一緒に……」
「クローディア?」

 ユージーンが心配し、私の顔を覗き込む。その時、ペンダントを落とした事に気がついたのか、レイラ様が部屋に戻って来た。

「!? クローディア……。見てしまったのね?」

 私の手元にある開かれたペンダントを見て、レイラ様が悲愴な面持ちで問いかけてくる。私はどう答えたら良いのか分からず、室内に沈黙が流れた。

「「……」」

 母はいないものだと認識していても、生みの親がいるくらい分かっていた……。
 お父様がいればそれで良いと言い聞かせてきたし、お父様が死んだ後はただただ受ける仕打ちを堪え忍んで生きてきた。

 やっとユージーンと出会い過去を抜け出し、幸せを感じられるようになっていたのに……。
 オリバー小父様はなにも言わず、私をここに送り出した。それはきっと、優しさからだろう……。

「……。どうして……、今頃になって現れたの?」

 それでも、最初に私の口から出たのは憎まれ口だった。そんな言葉を言いたかった訳ではない。

「ごめんなさい……」
「……謝って欲しいんじゃない……」

 違う……。違うの。生んでくれた母をちっとも恨んでなんかいない。ただ私は寂しかっただけ……。
 それよりも、お父様がずっと独り身で可哀想だっただけなの……。
 私自身はお父様がいてくれて幸せだったし、会ったこともない母親を、これっぽっちも憎いなんて感じてこなかったのに!

 それでも気持ちの整理がつかず、冷静になりたかった。

「お願いです……。少しの間一人にしてください……」

「……。名乗るつもりはなかったの……。私になんて、会いたくもなかったわよね……。ごめんなさい……」

「あっ……。ちが……」

 誤解を解こうとする言葉はそれ以上声にならなかった。だからと言って、レイラ様の顔さえ見ることができない。

「申し訳ございません」

 耐えきれなくなった私は、項垂れるレイラ様とユージーンを置いてコテージを飛び出した。


「!? どこに行くんだ、待ちやがれ!」
「ごめんなさい。早めに戻ります!」

 コテージの外で待機していたコンラッドさんに腕を掴まれそうになったが、紙一重で躱して駆け出した。

 知らない土地を一心不乱に走る。灯りの少ないウィンドラの夜はほの暗く、何だか不気味で黒を纏って生まれた自分と重なる。

 皆、真っ黒な私を見て、こう感じるのよね……。そりゃあ、日向の方が好きになる……。
 でも、私の未来の旦那様はそんな日向の人なんだ……。こんな私とじゃ釣り合わないよね……。

 そう自分自身を卑下した時だった――

「ピイッ」

 笛の様な音がし、少し経って暗闇に覆われた上空から大きな羽音とともに、鋭い風圧が襲ってきた。

「きゃあぁっ」

 風におされ身体が宙に投げ出される。眼前には切り立った崖が迫っていた。

「まさか!」
「「クローディア!」」

 そのまま地面に身体のいたるところを打ちつけ、擦る。私は転がりながら、崖の真下まで落ちて行った。
 意識が遠退いていく。ヌルっとした生温かい液体が肌に絡みついてくる。――私の血だ……。


「「クローディアーー!!」」

 遠くでユージーンとレイラ様の声が聞こえた気がした……。やっとお母様に会えたのに……。

 伯爵位を継いだにも関わらず、大人としてレイラ様に向き合おうとしなかった罰が当たったのだろう……。

 二度目の自嘲の笑みを浮かべ、私はそのまま意識を手放した――
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