生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう

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63話 慰めてあげるのは優しさじゃない

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 僕は少女の、クロッサちゃんの話を最後まで聞いた。
 リーファさんもチェリムさんも聞いた。

 暗い気分になる。
 リーファさんと、チェリムさんは、重たい話に表情を曇らせるが、僕はその話を聞いても、少女のひとつも曇らせない。

 何せ、僕はもっと酷い目? じゃないかもしれないけど、似たような境遇にある。
 だからだろう。心の身構えが違うんだ。

 少女は勇気を出して、最後まで話をしてくれた。
 その少女は影を落とす。僕はいてもたってもいられなくて、自然と頭に手を置いていた。

「そっか。怖かったね。でも、よく頑張ったよ」
「でも私、そのせいで影に……」
「取り憑かれた。それは仕方ないよ。だって、起きてしまったことだもん」

 僕は起きてしまったことは水に流そうと言った。
 しかしクロッサちゃんは、唇を噛み締めたまま。

 それを見た僕は、少し言葉を変えてみた。

「お父さんからの最後の言葉。覚えてる?」
「えっ……」
「お父さんは言ったんでしょ。やりたいことを見つけろ的なこと。だったら、こんなところでくよくよしてても駄目だって。自分がするべきことは、自分の手で見つけ出さないと。誰かに指図されるんじゃなくて、やりたいことがあるんだったら、他の全てを否定しても逃げてもいい。だから、それだけは忘れないで」

 僕は自分の姿と重ね合わせていた。
 クロッサちゃんは、僕の言葉を聞いて、固まってしまった。

 でも僕がこれ以上に言えることはない。
 これ以上の言葉は、単なる無粋で惑わしにしかならない。

 だからこそ、ここで止めてあげるんだ。
 堰き止める気があるならそれでいい。だけど僕みたいに、何かやりたいことがあるんだったら、どんな屈強だって超えられるはずだ。

 それが夢であり、夢は必ずこの手に掴まなくちゃいけない。
 他の全てを投げ出してでも、どんな逆境や言葉の惑わしすら否定して、そこに向かうための最短距離を進めばいい。

 それが僕なりの心情の一つでもあった。

 だからこそ、僕は馬車を降りた。
 それから草原を少し歩いていると、後ろからリーファさんの声がした。どうやら、心配してくれて来てくれてらしい。

「天月さん!」
「リーファさん。ごめん、心配させちゃった?」

 僕はあどけない笑みを浮かべた。
 するとリーファさんは、首を横に振り、僕の手を掴んだ。

 ぎゅっと掴まれた手は、今日は熱い。
 さっきと違って、顔は赤くない。不思議だ。それから何を言うのかと思えば、リーファさんは僕の顔を見ながら、真剣な眼差しになる。

「どうしたの、リーファさん?」
「私は天月さんのこと、信じてます。さっきの言葉も皆んな、本心から出ていたんですよね?」

 見透かされる。そんな気分ってこんな感じかな。
 僕は短く首を縦に振ると、リーファさんは「やっぱり」と口にする。完全に心を読まれていたらしい。それから、リーファさんは僕にこう返す。

「天月さん。あの子は、クロッサさんは大丈夫でしょうか?」
「それはわからない。でも、本人が立ち直る気があるから、どうにだってなれる。僕たちができるのは、少し背中を押してあげて、倒れないように支えることじゃない」
「では何を?」
「何って、決まってるでしょ。見守ってあげることだよ」

 僕の立ち位置は、彼女にとっては傍観者でいい。
 だからこそそんな言葉が込み上げる。

 それからリーファさんに、僕は短くこうも告げておく。

「今日の空模様は、綺麗だね」
「そうでしょうか? それは薄ら暗いですよ」
「だからだよ」

 僕の言葉はリーファさんの思考と、反対をいた。
 だけどそんなことはどうだっていい。何せ、僕にはこの静けさが一番心の汚れを洗い落とせる。そんな感覚でいた。

「リーファさんはさ、僕の姿を見てどう思った?」
「えっ?」
「僕の声。僕の姿。怖いでしょ?」
「そんなことはありませんよ」
「即答なんだ。だったら今はそれでいいよ。ただね」

 僕はリーファさんに一つだけ忠告しておく。
 さっきのクロッサちゃんに言ったことと重なった。

「僕はね、慰めるためにあんなことを言ったんじゃないんだよ。慰めないため。そのために、あの言葉をかけたんだ」

 矛盾する発言。
 しかしリーファさんは何も言わず、まるで聞き流しているみたいに、夜空を冷たい風が吹いたんだ。
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