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第十一話
しおりを挟む“一年生春の対抗魔法試合”
入学式が終わり、魔法に関する授業が増え、1年生が日々の生活に慣れてきた頃。
生徒の意欲、探究心の向上。互いの力を認め合い、より高みを目指すように、そんなこんなで始まったのがこの大会だ。自分の結果が目に見えて伝えられるため、有力貴族の奴らは家名を汚さぬよう、必死に魔法と向き合うことになる。
「今年はどいつが優勝するのか、見ものだな」
魔法式を書く手を止め、不気味な笑みを浮かべる先生はきっと、今回優勝した生徒をどうコテンパンにしようか考えてるんだろう。本人は生徒の実力を伸ばすためと豪語しているが、こればかりは先生の趣味なんだろうな⋯⋯
「まぁ王子が優勝するんじゃないですか」
「ん?何かそう言い切れる根拠があるのか?」
「え、いや、今の一年の首席は彼ですよね?首席ってことは魔法だって普通に使えるはずだし。今から練習したって、他の一年の大半は彼の足元にも及ばないですよ」
口を開け、少し目を見開いた先生に、俺はそう言葉を付け加えた。それでもなお、先生はその顔を止めることなく、
「⋯お前は、もう少し自分の弟への関心を高めた方がいい」
多くの呆れを含めたその言葉に、俺は間髪入れずに反論した。
「あのっ!!僕よりロイを愛してやまない人、いないと思うんですけど!!!」
「ではなぜ、ロイ-クレシスが一年の首席であることを知らない」
「⋯⋯え?⋯⋯ちょっ、それ、どういう⋯ロ、ロイが首席?あれ、じゃあ王子は!?」
「カイン-ティアトスは次席だ」
あれ、そんな話一切聞いてないが!!?ま、毎晩送ってくれた手紙を食い入るように眺めているが、そんな記述どこにもなかったはずだ。
本当なのか⋯⋯いやでも先生、嘘はつかないからな⋯⋯ロっ、ロイ!!お兄ちゃんになんでそんなめちゃくちゃ大事なこと言ってくれないんだ!!!
―――あれ、でも首席がロイって事は、ウィーリアが熱心に調べていたのはロイ、だよな?じゃあなんで途中でウィーリアは抜けてったんだ?
いや、そもそも―――
「でも、ロイはそんなに魔力を持ってないはず⋯⋯あ、もしかして剣術の方で⋯!?」
「確かに剣術も大切だ。だが剣が上手いというだけで、首席になれるわけがない。ここは魔法学校だ。あいつは魔法含め、王子よりも、優秀だったってわけだ」
⋯そ、そうなのか。ロイはそんなに、凄かったのか。
弟の事が大好きで、弟のことは一番知っている。そう思っていたはずなのに⋯⋯知らなかったという事実が、俺の心臓がキュッと締め付けた。
「で、でもロイの両親はどちらも平民のはず⋯なぜロイが貴族を圧倒できる程の魔力を持ってるんだ⋯?」
「さあな、俺には分からん。⋯それより、弟の方を優先すべきなんじゃないか?昨日だって、貴族と揉めたという話を耳にした。貴族の中には当然あいつを毛嫌いするものもいるだろう。しかしそういう生徒以外にも注目されてるのは確かだ。髪を染めてるのでは、という噂が教師の耳に入るほどにはな」
“貴族と揉めた”その言葉を聞いた途端、俺の脳内はそれまでの疑念を全てほっぽり出し、昨日の記憶を引っ張り出した。
それは昨日のいつだ⋯俺と会う前、会った後?いや、でも会った後は違うか。あの二人が側にいたはずだし、手を出すこともしないだろう。ということは、会う前⋯⋯
段々と、全ての断片が繋がっていく感じがした。
――一年S組のクラスが妙に賑わっていた。
⋯もしかして、その時にロイは他の貴族と揉めていた?もしかして、怪我したんじゃ⋯隠してるだけで本当は殴られたりしてないか、無神経な言葉を浴びせられ、傷ついてるんじゃ⋯⋯
そうして積み重なっていった不安は、俺の手からペンを落とさせ、頭の中を“ロイ”で一色に染めた。
「⋯⋯教えてくれてありがとうございます。俺、ちょっとロイのところ行ってきます!!」
「あぁ⋯⋯⋯兄弟揃って魔法適性がずば抜けてるのは、何か理由があるものなのか⋯」
先生から了承をもらった俺は、その後に続いた先生の独り言などつゆ知らず、魔術室を後にし、ロイの所へ一心不乱に走りだした。
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