155 / 157
第三部 最終話
56 溢れる想いを込めて
しおりを挟む
師匠のことを思い出していると、少し気落ちしてしまった。
そこへ、ぽんと肩に手がかかった。
見上げると、リノが立っていた。
「ディーノ。改めて、おめでとう」
云いながら、リュートが差し出される。
「ありがとう。でも、本当にいいの?」
高価だというリノのリュートを、祝いの品とはいえ、もらってしまっていいのか。まだ迷いがあった。
「もちろんだよ。お師匠さんが喜ぶよ。僕もディーノに使って欲しい」
リノの優しい眼差しを見つめていると、胸が熱くなった。
「ありがとう。大切に使わせてもらうよ。・・・・・・と、父さん」
照れくさくてリノを見て云えなかった。
周りの喧騒にかき消されていないだろうか。聞こえてなくてもいいや。と思っていると、リノの手が頭に乗せられた。髪をくしゃくしゃとされる。
びっくりしているうちに終わってしまって、リノは何も云わず離れていった。
だけど背中が心なしか喜んでいるように見えた。
こんなに親身になってくれる人のことをいつまでも他人だと思っていてはいけない。これを機に、二人のことを両親と呼ぼうと思った。今度はロゼッタにも伝えなければ。
恥ずかしい気持ちがあるけれど、二人を家族と思えるようになった自分の心境が変化した喜びのほうが大きかった。
一度ここから離れたお陰だろうと思う。外に出ていろいろな人と触れ合って、たくさんの経験をして、そして失って。大切なことに気がついた。
見ず知らずの赤の他人に親身になってくれる人たちがいる。それは奇跡のような事なのだとわかった。彼らの気持ちに応えるのに感謝だけでは足りない。自分が心を開かないと。
師匠のことを父親と思っているけれど、もう一人父親がいてくれる。母親もいる。忘れずにいてくれる集落の人たちは親戚で。
たくさんの家族が見守ってくれていることは幸福なことなんだ。
血の繋がりがなくても、心が繋がっていればいい。彼らを信頼し、頼って甘えていいんだ。
これからそうしていこうと、楽しそうな集落の人たちを見てディーノは思う。
リノからもらったリュートをぽろんと爪弾く。
柔らかくて優しい音がする。リノらしく、包容力があって温かい。
師匠の演奏でこの音を堪能したかった。それが叶うことはもうない。
ならオレが奏でよう。
師匠に教わった全てのことを、心を込めて。
師匠に届け。
イレーネに届け。
ピエールに、マウロに届け。
父さん、母さんに、集落のみんなの心に届け。
そして、これから出会う聴衆へ、届け。届け
そこへ、ぽんと肩に手がかかった。
見上げると、リノが立っていた。
「ディーノ。改めて、おめでとう」
云いながら、リュートが差し出される。
「ありがとう。でも、本当にいいの?」
高価だというリノのリュートを、祝いの品とはいえ、もらってしまっていいのか。まだ迷いがあった。
「もちろんだよ。お師匠さんが喜ぶよ。僕もディーノに使って欲しい」
リノの優しい眼差しを見つめていると、胸が熱くなった。
「ありがとう。大切に使わせてもらうよ。・・・・・・と、父さん」
照れくさくてリノを見て云えなかった。
周りの喧騒にかき消されていないだろうか。聞こえてなくてもいいや。と思っていると、リノの手が頭に乗せられた。髪をくしゃくしゃとされる。
びっくりしているうちに終わってしまって、リノは何も云わず離れていった。
だけど背中が心なしか喜んでいるように見えた。
こんなに親身になってくれる人のことをいつまでも他人だと思っていてはいけない。これを機に、二人のことを両親と呼ぼうと思った。今度はロゼッタにも伝えなければ。
恥ずかしい気持ちがあるけれど、二人を家族と思えるようになった自分の心境が変化した喜びのほうが大きかった。
一度ここから離れたお陰だろうと思う。外に出ていろいろな人と触れ合って、たくさんの経験をして、そして失って。大切なことに気がついた。
見ず知らずの赤の他人に親身になってくれる人たちがいる。それは奇跡のような事なのだとわかった。彼らの気持ちに応えるのに感謝だけでは足りない。自分が心を開かないと。
師匠のことを父親と思っているけれど、もう一人父親がいてくれる。母親もいる。忘れずにいてくれる集落の人たちは親戚で。
たくさんの家族が見守ってくれていることは幸福なことなんだ。
血の繋がりがなくても、心が繋がっていればいい。彼らを信頼し、頼って甘えていいんだ。
これからそうしていこうと、楽しそうな集落の人たちを見てディーノは思う。
リノからもらったリュートをぽろんと爪弾く。
柔らかくて優しい音がする。リノらしく、包容力があって温かい。
師匠の演奏でこの音を堪能したかった。それが叶うことはもうない。
ならオレが奏でよう。
師匠に教わった全てのことを、心を込めて。
師匠に届け。
イレーネに届け。
ピエールに、マウロに届け。
父さん、母さんに、集落のみんなの心に届け。
そして、これから出会う聴衆へ、届け。届け
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います
とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。
食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。
もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。
ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。
ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
母の下着 タンスと洗濯籠の秘密
MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。
颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。
物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。
しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。
センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。
これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。
どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる