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第一部 海野麻帆
8 別の道という可能性
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あたしと姉は、四歳違い。
小学生の頃は一緒に通学していたけど、姉が中学校に入学してからは、別々になった。
あたしが中学生になった時、姉は高校生。
でも五年生の看護科に入学してくれたお陰で、一年だけ同じ高校に通える可能性が出た。
だから姉と同じ高校に入ると、早くから決めていた。お姉ちゃんと一緒に登校したくて。
小さな希望は、もう叶わないと思っていた。
駅まで歩き、電車に乗って、学校まで歩く。
40分ほどの通学の時間は、気分が沈んで、足が重かった。
今日からは違う。
隣に姉がいる。
幽霊だろうとなんだろうと、隣に並んで歩き、満員電車に乗って、学校までの道を一緒に向かう。
足取りは軽く、ゆっくり行きたいのに、つい早足になってしまう。
「ご機嫌だね」
「そりゃそうだよ」
お姉ちゃんも制服を着ているから、一緒に通学している感が強い。
透けて、向こうの景色が見えていようが、人と重なって通ってしまおうが、気にならない。
学校に行くのが初めて楽しいと感じた。
「ご機嫌なのは、いいけれど、声は抑えた方がいいよ」
「どうして? あっ」
言った直後に気がついた。お姉ちゃんとのお喋りは、あたし以外の人からは大きな独り言なんだと。
姉との登校が嬉しくても、現実的に考えて、これはない。
「もっと早く言ってよ」
「ごめんごめん」
唇を尖らせて文句を言うと、お姉ちゃんはくすっと笑った。
むう。たまにこういう意地悪をするんだよね。
これからは小声で話さないと。
「海野さん、おはよう」
ふいに声をかけられて振り返る。
ゆっくりと自転車が近づいてきていた。
「木戸さん、おはよう」
自転車から降りて押して歩く木戸さんと、並んで正門に向かう。
「海野さん、何か良い事でもあった?」
「え? どうして?」
「なんだか、楽しそうだから」
「別に何もないよ。久しぶりの学校だからかな」
幽霊の姉との登校が楽しいなんて言えない。
「海野さんって、そんなに学校好きだったの?」
「えっ! 学校は嫌いじゃないよ。勉強がつらいってだけで‥‥‥」
木戸さんに姉の前で図星をつかれて、あわあわしてしまう。
学校も少し面倒だな、って思ってはいるけど、姉には知られたくなかったのに。
ちらりとお姉ちゃんを見ると、違う方を向いていた。聞いてないフリをしてくれたのかな。
ということは、お姉ちゃんにはお見通しだったのかも。
「GWどうだった? 楽しいことあった?」
木戸さんが話しかけてくれる。姉と話がしたかったんだけどな。
「友だちと話して楽しかったけど、それだけ。旅行も行ってないし。木戸さんは?」
「私も何もなかったんだ」
「勉強したの?」
「うん、一応」
「えらいなあ。あたし教科書見もしなかった。落ちこぼれまっしぐらだね」
「そんなこと言わずに、頑張ろうよ」
「そうだね」
お姉ちゃんがいてくれるんだから、頑張ってみようとは思ってる。
「あ、じゃあ、私自転車置いてくる。先に教室行っててね」
「わかった」
正門をくぐって、木戸さんが駐輪場へ。あたしはロッカーに向かう。
上靴に履き替えて、1年A組の教室へ。
「私の時と、同じ教室だね」
「お姉ちゃんも一年の時この教室だったんだ」
「懐かしいな。お姉ちゃんの席は窓際の4番目だったんだよ」
「あたしもだよ」
「麻帆も同じ席なんだ」
思ってなかったところで姉と同じだったことが、嬉しい。
「あ、でも二年生で、前の子が転科しちゃったから、3番目になったけど」
「そうなんだ。やっぱり辞めちゃう子いるんだ」
「そうだね。つらくて思い詰めちゃうぐらいなら、別の科に行くのもありだと思うよ」
「脱落するみたいでかっこ悪くない?」
「かっこ悪くなんてないよ。それも勇気だと思うよ」
「そうなのかな」
「人の目なんて気にしなくていいの。高校生で人生これしかないって決めつけちゃうなんて、早過ぎ。道はひとつじゃないんだから」
転科っていう道もあるんだ、とあたしの中で別の道がわずかに芽生えた。実際にするかはわからないけど、そういう道もあるんだと思うだけで、救われる気がした。
「お姉ちゃん、ちょっとお散歩してくるから、麻帆はちゃんと授業聞くんだよ」
「え? 行っちゃうの?」
姉は笑顔を見せながら、バイバイと手を振って教室を出て行ってしまった。
小学生の頃は一緒に通学していたけど、姉が中学校に入学してからは、別々になった。
あたしが中学生になった時、姉は高校生。
でも五年生の看護科に入学してくれたお陰で、一年だけ同じ高校に通える可能性が出た。
だから姉と同じ高校に入ると、早くから決めていた。お姉ちゃんと一緒に登校したくて。
小さな希望は、もう叶わないと思っていた。
駅まで歩き、電車に乗って、学校まで歩く。
40分ほどの通学の時間は、気分が沈んで、足が重かった。
今日からは違う。
隣に姉がいる。
幽霊だろうとなんだろうと、隣に並んで歩き、満員電車に乗って、学校までの道を一緒に向かう。
足取りは軽く、ゆっくり行きたいのに、つい早足になってしまう。
「ご機嫌だね」
「そりゃそうだよ」
お姉ちゃんも制服を着ているから、一緒に通学している感が強い。
透けて、向こうの景色が見えていようが、人と重なって通ってしまおうが、気にならない。
学校に行くのが初めて楽しいと感じた。
「ご機嫌なのは、いいけれど、声は抑えた方がいいよ」
「どうして? あっ」
言った直後に気がついた。お姉ちゃんとのお喋りは、あたし以外の人からは大きな独り言なんだと。
姉との登校が嬉しくても、現実的に考えて、これはない。
「もっと早く言ってよ」
「ごめんごめん」
唇を尖らせて文句を言うと、お姉ちゃんはくすっと笑った。
むう。たまにこういう意地悪をするんだよね。
これからは小声で話さないと。
「海野さん、おはよう」
ふいに声をかけられて振り返る。
ゆっくりと自転車が近づいてきていた。
「木戸さん、おはよう」
自転車から降りて押して歩く木戸さんと、並んで正門に向かう。
「海野さん、何か良い事でもあった?」
「え? どうして?」
「なんだか、楽しそうだから」
「別に何もないよ。久しぶりの学校だからかな」
幽霊の姉との登校が楽しいなんて言えない。
「海野さんって、そんなに学校好きだったの?」
「えっ! 学校は嫌いじゃないよ。勉強がつらいってだけで‥‥‥」
木戸さんに姉の前で図星をつかれて、あわあわしてしまう。
学校も少し面倒だな、って思ってはいるけど、姉には知られたくなかったのに。
ちらりとお姉ちゃんを見ると、違う方を向いていた。聞いてないフリをしてくれたのかな。
ということは、お姉ちゃんにはお見通しだったのかも。
「GWどうだった? 楽しいことあった?」
木戸さんが話しかけてくれる。姉と話がしたかったんだけどな。
「友だちと話して楽しかったけど、それだけ。旅行も行ってないし。木戸さんは?」
「私も何もなかったんだ」
「勉強したの?」
「うん、一応」
「えらいなあ。あたし教科書見もしなかった。落ちこぼれまっしぐらだね」
「そんなこと言わずに、頑張ろうよ」
「そうだね」
お姉ちゃんがいてくれるんだから、頑張ってみようとは思ってる。
「あ、じゃあ、私自転車置いてくる。先に教室行っててね」
「わかった」
正門をくぐって、木戸さんが駐輪場へ。あたしはロッカーに向かう。
上靴に履き替えて、1年A組の教室へ。
「私の時と、同じ教室だね」
「お姉ちゃんも一年の時この教室だったんだ」
「懐かしいな。お姉ちゃんの席は窓際の4番目だったんだよ」
「あたしもだよ」
「麻帆も同じ席なんだ」
思ってなかったところで姉と同じだったことが、嬉しい。
「あ、でも二年生で、前の子が転科しちゃったから、3番目になったけど」
「そうなんだ。やっぱり辞めちゃう子いるんだ」
「そうだね。つらくて思い詰めちゃうぐらいなら、別の科に行くのもありだと思うよ」
「脱落するみたいでかっこ悪くない?」
「かっこ悪くなんてないよ。それも勇気だと思うよ」
「そうなのかな」
「人の目なんて気にしなくていいの。高校生で人生これしかないって決めつけちゃうなんて、早過ぎ。道はひとつじゃないんだから」
転科っていう道もあるんだ、とあたしの中で別の道がわずかに芽生えた。実際にするかはわからないけど、そういう道もあるんだと思うだけで、救われる気がした。
「お姉ちゃん、ちょっとお散歩してくるから、麻帆はちゃんと授業聞くんだよ」
「え? 行っちゃうの?」
姉は笑顔を見せながら、バイバイと手を振って教室を出て行ってしまった。
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