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第三部 仲良し姉妹
51 おでかけ
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「粉もんフェス行かね」
航から誘われたのは、夏休みに入ってすぐだった。
バイトはフルタイムで週4~5日、入っている。
反対に航は勉強が忙しいのか、土日だけのシフトになっていた。
久しぶりに休憩時間が合い、従食であたしは和風ハンバーグ、航は明太パスタとフライドポテトを食べている。
「粉もんって、お好み焼きとかうどんとか?」
「たこ焼きとかパン屋も出店してるらしい。ほら」
スマホをこっちに向けて、見せてくれる。
全国から有名店がやってきて一堂に会するらしい、そのイベントの写真を見ているだけで、食べたくなってくる。今、ハンバーグを頬張っていても。
「美味しそう」
「だろう」
顔を向けると、航はどや顔で唇の端を上げていた。
翌週、あたしのバイトが休みの平日、航と駅で待ち合わせた。
「珍しい。スカート」
あたしの服を見た航が、目を丸くする。
今日は夏らしい青のノースリーブチュニックワンピを着てきた。
デートだよ!
デートじゃないよ! と否定しても、やたら張り切った姉によって、服を買いに行かされて、あれやこれやと試着して選んだ。
「中にハーフパンツ穿いてるけどね」
ちらっと裾をめくると、
「めくんな」
航に一喝された。なんで?
「行くぞ」
すたすたと先に行ってしまうので、慌てて追いかけた。
♢
「美味しい匂いがする」
「ソースたまんねえ」
イベント会場になっている公園に到着する前から、ソースの匂いが漂っていた。
刺激を受けた胃が、さっきから空腹を訴えている。
航と目合わせると、早足で歩いた。
開店直後に着いたのに、すでに列が出来ているお店もあった。
「決めてるお店あるのか?」
「大阪のお好み焼きと広島のお好み焼きを食べ比べたい。明石のたこ焼きも」
目当てのお店を探す。
お好み焼きの両店舗は離れた場所にあった。
待ち合わせる場所を決めて、あたしたちは二手に分かれた。
買った物をお盆にのせ、航の姿を探していると、名前を呼ばれた。
振り返ると、席を確保した航が手を振っていた。
「何買ったの?」
片方が並んでいる所にやってくるというニアミスが二度あったけど、幸い被らずに購入できていた。
「まず、麻帆が食べたいって言った大阪のお好み焼きな。揚げたピザと、角煮まん。と俺のビール」
白い泡を浮かべた黄金色のカップを掲げた。
「あたしは、広島のお好み焼き、神戸のぼっかけ焼きそば、明石のたこ焼き」
「ぼっかけって何?」
「牛筋が入ってるんだって」
「うまそ」
半分こしたり、二口ほどもらったりしながら食べ終えて、二回目の購入に向かう。
ドーナツ、パンケーキ、ガレットを分けて食べると、お腹がぱんぱんになった。
「食べ過ぎた。でも美味しかった」
お腹も心も満足して、あたしたちはイベント会場を出た。
「イベント誘ってくれてありがとう。美味しかった」
駅方面に向かいながら、とことこと歩く。今日は曇り空だった。暑いけど、日差しが少ない分、過ごしやすかった。
ミストシャワーも設置されていたので、公園を出た今の方が暑い。
「どれもうまかったな。俺も満足だわ。お好み焼きに中華麺が入ってるなんて思わなかった」
「広島にも大阪にも入ってたね。ボリュームがあっていいよね。広島のお好み焼きに並んでる時作り方見てたんだけど、生地をクレープみたいに広げてから具材を重ねてたんだよ。最後に目玉焼きの上に生地を移動させて合体させてからひっくり返してた」
「大阪と違うのか?」
「大阪は豚肉と麺以外の生地と具を全部混ぜてから、麺と豚肉をのせてひっくり返すんだよ」
「へえ」
「麵の太さが違うと食感も違って、楽しかったね」
「違ってたのか?」
「広島は細めだったよ」
「気づかなかった。なんかもったいない食い方した気がする」
「どちらも美味しかったから、いいんじゃないかな」
航が残念そうに言うから、笑って返した。
「麻帆は、いつも分析みたいな事しながら食べてんのか」
「作り手としてはね、一応」
「さすがプロだな」
「まだバイトだけどね」
航に褒められて、少しえっへんと胸を張る。
「だいぶ慣れただろ。他のスタッフと変わらない動きが出来てると思うよ」
「ほんと? 足引っ張らないようにしなきゃって思って、ついていくのに必死だよ。でも、少しは慣れてきたかな」
マニュアル通りに作って、見本通りに決められた盛り付けで提供する。チェーン店なら当たり前だけど、覚えるまでが少し大変だった。
「関口さんにね、『いつもと同じ』であることが安心に繋がるんだよ。って教えられたんだよね」
関口さんは新人の指導係をしてくれている男性社員さん。話し方がとても柔らかくて、何度か同じミスをしてしまっても、声を荒らげたりきつい言葉遣いをしない人。
「いつも同じか。本当にそうだよな。どのお店に行っても同じ物が出てくると安心するもんな。チェーン店ならではだな」
「あたしもそう思った。だからちゃんと覚えて提供しなきゃって。気合入れるようになったよ」
「初めてのバイトでいい人に出会えたかもな」
「うん。関口さんでよかった」
この後どうしようか? という話になり、近くのアウトレットモールをぶらぶらする。
「もんじゃって粉もんだよね」
もんじゃ焼きのお店が目についた。
「そうだろうな」
航も頷く。
「お店は今回なかったね。あたし、実は食べたことないんだよね。もんじゃ」
「そうなんだ。俺は子どもの頃、何度か行ったな。家族で行ったりしねえの」
「なかった」
「食う?」
「うーん。今日はお腹に空きがまだ」
2時間ほど経ったけど、まだ満腹状態。
「ちょっと無理か。じゃ、今度行くか」
「いいの?」
「ああ。俺も久しぶりに食べたいし」
「じゃあ、連れてって」
「まかせとけ」
いつになるかはわからないけど、航ともんじゃを食べに行く約束をした。
航から誘われたのは、夏休みに入ってすぐだった。
バイトはフルタイムで週4~5日、入っている。
反対に航は勉強が忙しいのか、土日だけのシフトになっていた。
久しぶりに休憩時間が合い、従食であたしは和風ハンバーグ、航は明太パスタとフライドポテトを食べている。
「粉もんって、お好み焼きとかうどんとか?」
「たこ焼きとかパン屋も出店してるらしい。ほら」
スマホをこっちに向けて、見せてくれる。
全国から有名店がやってきて一堂に会するらしい、そのイベントの写真を見ているだけで、食べたくなってくる。今、ハンバーグを頬張っていても。
「美味しそう」
「だろう」
顔を向けると、航はどや顔で唇の端を上げていた。
翌週、あたしのバイトが休みの平日、航と駅で待ち合わせた。
「珍しい。スカート」
あたしの服を見た航が、目を丸くする。
今日は夏らしい青のノースリーブチュニックワンピを着てきた。
デートだよ!
デートじゃないよ! と否定しても、やたら張り切った姉によって、服を買いに行かされて、あれやこれやと試着して選んだ。
「中にハーフパンツ穿いてるけどね」
ちらっと裾をめくると、
「めくんな」
航に一喝された。なんで?
「行くぞ」
すたすたと先に行ってしまうので、慌てて追いかけた。
♢
「美味しい匂いがする」
「ソースたまんねえ」
イベント会場になっている公園に到着する前から、ソースの匂いが漂っていた。
刺激を受けた胃が、さっきから空腹を訴えている。
航と目合わせると、早足で歩いた。
開店直後に着いたのに、すでに列が出来ているお店もあった。
「決めてるお店あるのか?」
「大阪のお好み焼きと広島のお好み焼きを食べ比べたい。明石のたこ焼きも」
目当てのお店を探す。
お好み焼きの両店舗は離れた場所にあった。
待ち合わせる場所を決めて、あたしたちは二手に分かれた。
買った物をお盆にのせ、航の姿を探していると、名前を呼ばれた。
振り返ると、席を確保した航が手を振っていた。
「何買ったの?」
片方が並んでいる所にやってくるというニアミスが二度あったけど、幸い被らずに購入できていた。
「まず、麻帆が食べたいって言った大阪のお好み焼きな。揚げたピザと、角煮まん。と俺のビール」
白い泡を浮かべた黄金色のカップを掲げた。
「あたしは、広島のお好み焼き、神戸のぼっかけ焼きそば、明石のたこ焼き」
「ぼっかけって何?」
「牛筋が入ってるんだって」
「うまそ」
半分こしたり、二口ほどもらったりしながら食べ終えて、二回目の購入に向かう。
ドーナツ、パンケーキ、ガレットを分けて食べると、お腹がぱんぱんになった。
「食べ過ぎた。でも美味しかった」
お腹も心も満足して、あたしたちはイベント会場を出た。
「イベント誘ってくれてありがとう。美味しかった」
駅方面に向かいながら、とことこと歩く。今日は曇り空だった。暑いけど、日差しが少ない分、過ごしやすかった。
ミストシャワーも設置されていたので、公園を出た今の方が暑い。
「どれもうまかったな。俺も満足だわ。お好み焼きに中華麺が入ってるなんて思わなかった」
「広島にも大阪にも入ってたね。ボリュームがあっていいよね。広島のお好み焼きに並んでる時作り方見てたんだけど、生地をクレープみたいに広げてから具材を重ねてたんだよ。最後に目玉焼きの上に生地を移動させて合体させてからひっくり返してた」
「大阪と違うのか?」
「大阪は豚肉と麺以外の生地と具を全部混ぜてから、麺と豚肉をのせてひっくり返すんだよ」
「へえ」
「麵の太さが違うと食感も違って、楽しかったね」
「違ってたのか?」
「広島は細めだったよ」
「気づかなかった。なんかもったいない食い方した気がする」
「どちらも美味しかったから、いいんじゃないかな」
航が残念そうに言うから、笑って返した。
「麻帆は、いつも分析みたいな事しながら食べてんのか」
「作り手としてはね、一応」
「さすがプロだな」
「まだバイトだけどね」
航に褒められて、少しえっへんと胸を張る。
「だいぶ慣れただろ。他のスタッフと変わらない動きが出来てると思うよ」
「ほんと? 足引っ張らないようにしなきゃって思って、ついていくのに必死だよ。でも、少しは慣れてきたかな」
マニュアル通りに作って、見本通りに決められた盛り付けで提供する。チェーン店なら当たり前だけど、覚えるまでが少し大変だった。
「関口さんにね、『いつもと同じ』であることが安心に繋がるんだよ。って教えられたんだよね」
関口さんは新人の指導係をしてくれている男性社員さん。話し方がとても柔らかくて、何度か同じミスをしてしまっても、声を荒らげたりきつい言葉遣いをしない人。
「いつも同じか。本当にそうだよな。どのお店に行っても同じ物が出てくると安心するもんな。チェーン店ならではだな」
「あたしもそう思った。だからちゃんと覚えて提供しなきゃって。気合入れるようになったよ」
「初めてのバイトでいい人に出会えたかもな」
「うん。関口さんでよかった」
この後どうしようか? という話になり、近くのアウトレットモールをぶらぶらする。
「もんじゃって粉もんだよね」
もんじゃ焼きのお店が目についた。
「そうだろうな」
航も頷く。
「お店は今回なかったね。あたし、実は食べたことないんだよね。もんじゃ」
「そうなんだ。俺は子どもの頃、何度か行ったな。家族で行ったりしねえの」
「なかった」
「食う?」
「うーん。今日はお腹に空きがまだ」
2時間ほど経ったけど、まだ満腹状態。
「ちょっと無理か。じゃ、今度行くか」
「いいの?」
「ああ。俺も久しぶりに食べたいし」
「じゃあ、連れてって」
「まかせとけ」
いつになるかはわからないけど、航ともんじゃを食べに行く約束をした。
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