【完結】二度目のお別れまであと・・・

衿乃 光希

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第三部 仲良し姉妹

50 不穏の足音

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「麻帆さん、夏休みはどうするの? バイト?」
 今日、最後の選択授業を受けるため、教科書やノートなどの準備をしていると、教室にやってきた食物栄養科の友人、高橋理子りこさんに、声をかけられた。

 8月から夏休みに入るけど、今は7月半ば。
 7月下旬から前期試験の期間になる。あたしの頭の中はテストでいっぱいなのに、夏休みの予定を考える余裕のある理子さんが羨ましい。

「夏休みは、勉強とバイトかな」
 聞かれて、あたしは即答する。旅行どころか、近くで遊ぶ予定もない。

 大学でスポーツ健康科学を学ぶ志乃ちゃんはリゾート地でのバイトで、夏の間はこっちにいない。
 木戸さんはいるけど、勉強漬けの毎日で、遊ぶ余裕はないみたい。

「海、行かない?」
「え!? 海?」
 唐突に出てきた海という言葉に、困惑する。
 高校一年の夏、夜の海に入るというバカなことをして以来、まったく近寄りもしていない。

「来年就職が決まっていたらいいけど、どうなるかわからないじゃない。だから今しかないかなって」
 理子さんは隣の席に腰掛けながら、楽しそうに話す。

 どう話そうかと考え、
「あたしは‥‥‥ごめん、やめとく。海苦手で」
 詳しいことは話さず、苦手という体で断ることにした。

「ええ? そうなの? 名前に海がついてるのに、苦手なんだ」
 大きな目をさらに大きくしたあと、曖昧な笑みを浮かべた。

「子供の頃は好きだったんだけど、いろいろあって、苦手になったんだ」
「溺れたとか? トラウマになったのかな。そっか、残念」
 訳知り顔で頷く。理子さんは詳しく聞き出そうとはしなかった。

 理子さんたち数人と、たまにお昼を一緒に食べたり、授業終わりにスイーツを食べに行ったりするけど、あたし的にはまだ打ち解けてはいない。だから、姉のことは話せない。
 でも声をかけてくれるし、いろいろ誘ってくれるので、友だちとかな、とは思っている。

 教室にやってきた町田このみさんは、理子さんに誘われて、
「行きたい。行こう行こう」
 ノリノリだった。

「何人? 理子ちゃんと麻帆ちゃんと私だけ? まだ数人声かける? 別の科の男の子誘おうか?」
 理子さんが何人誘うつもりだったのか知らないけど、けっこうな大人数になりそうな気配がしてきた。

「あたしのことは気にしないで行ってきて。楽しんできてね」
「麻帆さんは行かないの? あ、苦手なんだ。でも入らなくてもいいじゃん。砂浜で遊ぶだけでもいいし。一緒に行こうよ」

 理子さんが事情を説明してくれたけど、このみさんは何度も誘ってくれる。強引ではないけど、少し閉口する程度には困った。

「海は私たちだけで行ってくるね。でも、どこか遊びに行こうね」
 理子さんが、このみさんの誘いを断ってくれたところで、授業開始のベルが鳴った。

 ♢

 授業が終わってからも、このみさんはまだ誘ってくれるので、仕方なく、
「海で溺れた事があって、見るのも怖い」
 と話すと、やっと諦めてくれた。

 家に戻ってから、姉に話しかける。
「このみさん、どうしてあんなに誘ってくるんだろうね。思い出作りなら、別にあたしいなくてもよくない? どうしても一緒に行きたいなら、遊園地とか誘ってくれたらいいのにね」

 テスト前なので、今日はバイトのシフトに入っていない。
 部屋着に袖を通して、机に向かい、今日取ったノートを広げる。
 高校の頃はテスト前に集中して勉強をしていたけど、短大に進んでから、毎日復習をきちんとするようになった。

「このみさん、派手だから、大人数でパーティとかするの好きなのかな」

 このみさんはとてもおしゃれな子だった。ロングの茶髪はいつもきれいに巻いているし、体育の授業以外でパンツ姿を見たことがない。体育の時にもきれいなネイルをしているから、爪が取れてしまわないか、ハラハラしてしまう。
「付け爪だから、取れても大丈夫よ」とあっけらかんとしていて、そんなところが、男性に気に入られるんだろうなと勝手に思っている。

「服の趣味はお姉ちゃんと合いそうだよね」
 ワンピースや、センスのいいトップスとボトムスの組み合わせに、お姉ちゃんのクローゼットを思い浮かべた。

 あたしの服の好みは、短大生になっても変わらない。毎日ジーンズだったり、パンツだったり。夏は暑いのでハーフパンツが主流。トップスはTシャツだと飽きるので、少し変わったデザインの物を選んでいるけど、メンズっぽい恰好が楽チンで、おしゃれとは言いがたい恰好で通学している。

「短大生になっても、変わらないね」
 入学直後、お姉ちゃんには軽く呆れられたけど、麻帆らしいとも言われた。
「最高の褒め言葉だよ」と返したら、お姉ちゃんは楽しそうに笑った。

「お姉ちゃん?」
 話しかけていたはずなのに、返事も相づちも、ないのに気がついた。

「どうしたの? お姉ちゃん!」
 やっぱり返事がない。

「いやだっ!」
 思わず立ち上がり、部屋をうろうろ。

 突然消えてしまうとか、あり得るの?
 不安になった。どうしたら、いい? どうやったら、姉から返事があるの?

「お姉ちゃん! お姉ちゃん!」
 自分の頭を振り、ぽかぽかと叩く。
 肉体の痛みより、張り裂けそうな心の方が痛い。

 どうしよう。どうしよう。

「お姉ちゃん! 起きてよ! ねえ!」

 必死の思いで呼びかけ続けると、

「あ‥‥‥麻帆?」
 寝ぼけた声で、反応があった。

「良かった。戻ってきた」
 姉の声が聞こえて、安心した。力が抜けて、へなへなと床に座り込む。

「どうかした?」
「どうかした? じゃないよ。話しかけてたのに反応ないから、消えちゃったかと思った。良かったよぉ」

 すっかり迷子の心境で、目尻に涙が滲む。

「ごめん。少し深く寝ちゃってて、気づかなかった」
「もう。びっくりさせないで」

「ほんとにごめんね」
「ちゃんと見守っててよ」

「最近、自主的に頑張ってるから、邪魔しちゃ悪いなって思って。ここ居心地良いから」
「それはわかる」

 麻帆も数ヶ月間、今の姉がいる場所にいた。意識を戻してからは、何にも縛られない環境に、つい惰眠を貪ることもあった。

「いつから寝てたの? 意識が飛んでたとかじゃないよね」
「麻帆がお昼に冷やし中華を食べてたのは知ってる。その後、自習室で勉強してたでしょ。そこからかな」

「半日経ってるよ。最後の授業前に、理子さんから海に誘われてね‥‥‥」
 姉がいたことにほっとして、勉強も忘れて姉に語りかけた。
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