【完結】二度目のお別れまであと・・・

衿乃 光希

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第三部 仲良し姉妹

54 航と料理

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 退院して、体調が落ち着いた頃、あたしと航は買い物に出かけた。
 事前に冷蔵庫の中身を訊ねたら、ろくな物が入っていなかった。ドリンク類・お酒と言われ、調味料や食材を訊ねると、ケチャップ、マヨネーズ、缶詰、魚肉ソーセージがあった。
 他に塩と砂糖としょう油はあるけど、油はなかった。

 調理道具は包丁、まな板、フライパン、お玉、鍋、電子レンジはあるとのこと。

「お米は炊けるよね」
「バカにすんな。米くらい炊けるわ」
 と笑いながら言われた。

 スーパーには百均が入っていたから、調理器具をいくつか買い、スーパーで食材を買う。
 航のマンションに向かう道中。
「で、何から作るんだ?」

「簡単で、手間のかからないものって何だろうって考えてね、今日はお粥と、まだ暑いけどうどんを作ろうと思ってさ。一人分だったら氷入れて二人で食べられるかなって。あと、何品か作り置きしておくよ」

「お粥とうどんって、病人食みたいだな」
「風邪引いたときにすぐにできるといいでしょ」

「体調悪い時は、食欲なくね?」
「でも、何か食べないとお薬飲めないし」

「食後の薬は、そうだな」
「家に何もなくって、ご飯だけあったら、おかゆが食べられるよ」

「わかった。覚えるよ」
「ゆっくりレベル上げていこうね」

 いきなり長時間煮る物や、天ぷらとか、危ない事はさせられない。短時間で簡単にできる、生活に必要そうなご飯を教えることにした。

 航の部屋は、すっきりしている姉の部屋以上に、物が少なかった。ベッドと勉強机、ハンガーラックと服を入れてあるんだろう収納ボックス。
 玄関は四・五足でいっぱいになるほどの狭さ。入ってすぐに台所があった。一口コンロのガス台と、流し、小さな冷蔵庫が設置されていた。

「備え付けの冷蔵庫小さすぎるから、使ってないんだ。冷凍庫は欲しかったから、買い足した。こっちのを使って」

 小型とはいえ、ちゃんと冷蔵庫と冷凍庫の扉が分かれているタイプを置いていた。
 冷蔵庫に食材をしまい、上の冷凍庫を開けると、ラップで蓋をしたお茶碗の中にご飯が入っていた。

「冷凍ご飯あるね。これ使おう」
 お粥用にご飯を炊くつもりだったけど、冷蔵ご飯でも作れるから。

「お粥は生米から作るんだけど、火加減みたり、焦げないように気をつけたり、なんてできないでしょ」
「忘れる自信あるな」
 自信満々の顔で頷くから、おかしくて軽く吹いた。

「そうだよね。だから、冷凍ご飯を使うの。凍ったままをお水に入れて火にかけて、ゆっくりほぐすか、レンチンするか。どっちがいい」
「レンチンで」
「だと思った。はい、じゃレンチンしてください」

 温めたご飯を、沸かしたお湯に入れて、コトコトと煮る。
「好みの柔らかさまで煮込んで、塩を入れておしまい」
「これだけ?」

「そ。簡単でしょ。塩だけじゃ物足りないなら、卵を溶いて入れるとか、梅干し、昆布とかと食べてもいいよね」
「これならできそうだよ」
「じゃ、次はうどんね」
 
 買ってきたのはうどんスープ。そんなに高くないし、美味しいし、うどん以外にもおでんや炊き込みご飯にも使えるからとても便利だよ。と買う時に航に教えておいた。

「袋に必要なお水の量が書いてあるから、計量カップで量って」
「そのために百均で買ったんだな」
 航がお水を量り、鍋に入れる。

「沸騰したら、一袋入れて溶かしてね」
「作り方、ちゃんと書いてあるんだな。なあ、湯通しってなんだ?」
 小袋に書いてある作り方を読んでいた航に質問される。

「さっとお湯にくぐらせること。生麺や乾麺だったらゆがくのは当然だけど、さっき買ってきたのは湯で麺だよね。面倒だったらそのままお出汁に入れてもいいよ。レンチンしてから入れてもいいし」

「絶対湯通ししないといけないってわけじゃないんだな」
「より美味しく食べたかったら、した方がいいかな。コシが欲しい時とかね」

「外でだったら旨いもんを食べたいけど、自炊ならそこそこでいいかな俺は」
「手間をかけず、時短が理想でしょ」

「だな」
「忙しいもんね」

 スープを溶かした鍋にうどんを放り込み、少し煮て完成。
「ねぎは切ってある物を使えば楽だよ。冷凍しとけばいいし」
 さっき買ってきたねぎのみじん切りをちょこんと乗せる。

「卵入れたかったら、蓋をして煮込んだらいいよ。もし、牛とか豚が余ってたら、入れたらいいし。ああ、でも一緒に煮ちゃうと灰汁あくが出るから、別茹でするか、炒めてからの方がいいと思う」
「あくって?」

「茹でると白っぽいのが浮かぶんだよ。食べても害はないけど、つゆが濁るし、美味しくなくなるから取り除くの」
「そうなのか」
 航の顔が曇る。

「面倒って思ったでしょう。見たらなんだこれってなるよ。あたし、ちっちゃい時に見て、なにこの汚いのってドン引きしたもん」
「汚いのか?」
 ぎょっと表情を変える。

「見た目だけだって。神経質になって全部取らなくても平気。動物性の場合はたんぱく質と脂質だから。お肉だけじゃなくて魚も野菜からも出るんだよ。植物性の場合は、体に悪いのもあるから、取らないとダメだけど」

「ダメなのあるじゃないか」
「あるよ。シュウ酸は大量摂取すると結石の原因になるし、ふきとかわらびとかの山菜は、毒性があるからちゃんと灰汁抜きしないとダメなんだよ」

「なんか、怖いんだけど」
「ごめん、脅かすつもりはないんだけど。航が料理に目覚めたら、詳しく教えてあげるよ」

「目覚めるかな」
 ひきつった笑みを浮かべた。

 出来上がったうどんとお粥を、半分こして食べる。
「これくらいなら、簡単でしょ」
「うん。できそう」
 うどんをちゅるちゅるとすすりながら、航は頷く。

「炒めるだけだったら、時間はあまりかからないし、作り過ぎたらタッパに入れてチンすればすぐに食べられるでしょ。カップ麵とかお弁当ばかりだと、栄養面が心配だよ。野菜苦手だって言ってたし」

「オカンが週一・二回飯作って届けてくれる事になった。バイトは辞めるから」
「航がいないと寂しいけど、無理してバイトしなくてもいいよね。今は勉強が大切な時期だし」

「一人じゃどうにもできなくなったら、実家に戻るよ」
「実家の楽チンさに、もう一人暮らしはできないってなるよ」

「依存しすぎだろ。戻っても、いつか出るよ」
「あたしも、いつか離れないとダメなのかな」

 ぽつりと呟くと、航は食べる手を止めた。あたしの顔を見てくる。

「別にいいんじゃねえの。麻帆にとって、家は大切な場所だろ。汐里さんのこともあるし」

 航の言う通り。家には、お姉ちゃんがいた痕跡がたくさん遺っている。
 姉の部屋、姉の服、食器類。使わなくなった今でも、ママは大切にとっている。
 それらは、あたしたち家族にとっては宝物みたいに、大切な物だ。
 そこにある生活が当たり前になっていて、家を出て一人で生活していけるか、自信がない。
 頭の中に姉がいるとはいっても、視界に姉の物が入ると安心する。

「でもさ、就職先によっては出なきゃいけなくなるかもな」
「そうなんだよね。来年早々、就職準備始めなきゃ」

「希望はあるのか?」
「関東圏の食品メーカーに行きたいなって」
「食品メーカーか。内定もらえるといいな」
「うん。頑張るよ」

 食事を終えると、作り置きおかずを作るために立ち上がった。
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