【完結】二度目のお別れまであと・・・

衿乃 光希

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第三部 仲良し姉妹

53 お見舞い

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「航‥‥‥」
 小声で声をかけてみる。目を覚ます気配はない。
「勉強とバイト、頑張り過ぎちゃったんだね」

 今の航は顔色が悪い。土気色で、唇は青白い。こんな航、見たことない。
 若くても、無理をしたら倒れちゃうんだ。

「あれ? 病院?」
「お姉ちゃん!」
 大声を出しそうになって、口を抑える。

「お姉ちゃん、何やってたの?」
「眠くって。どうして病院にいるの? 航くん、どうしたの?」
「過労で倒れて、入院したんだよ。お姉ちゃん出てこないから、一人で不安だった」
 つい、姉を責めてしまう。

「麻帆と一緒にいる時に倒れたの?」
「そうじゃないけど」
 いきさつを話す。

「そうだったんだ。ごめんね、頼ってくれたのに、肝心な時に眠ってて」
「ほんとだよ」
「過労なら、点滴を打ってバランス良くご飯食べて、しっかり休んだら、すぐに元気になるよ。大丈夫」
 お姉ちゃんがそう言ってくれて、やっと人心地がついた。

「若いからって、過信しちゃダメだね。麻帆は、無理してない?」
「どうだろう。無理してるつもりはないけど、頑張らないとって思うから、気づかないうちに無理してるかも」
「倒れるなんて、思わないもんね。頑張るのもいいけど、ちゃんと食べて寝るんだよ」
「うん。気をつける。あっ、起きた」

 小声でお姉ちゃんと話していると、航の瞼がぴくぴくと震え、すっと開いた。
 目があっちへこっちへと動く。ここがどこなのか、わかっていないのかも。
「病院だよ。入院になったから」
 そっと話しかけると、航の視線が定まった。あたしを見て、うっすらと笑みを浮かべた。

「あー、そうだった。途中で気持ち悪くなって、そこから先の記憶ないや」
 かすれた声で、ゆっくりと話す。いつもみたいな、元気さがなかった。

「親切な人が救急車呼んでくれたらしいよ。助けてもらえて良かったね」
「そうだったのか」

「日高さんが代わりに来てくれたから、バイトは大丈夫だよ」
「迷惑かけたな。日高くん怒ってなかった?」

「あたしが怒らせたと思う。今日はミスばっかしてたから」
「心配かけたな。ごめんな」
「ううん。事故とか大変な病気じゃなくて、良かった」
 航はうんと頷いた。

「おばさん、今ちょっと出てて。戻ってくるまであたし待ってるけど、航は寝てていいよ。まだしんどいんじゃない?」
「うん。眠い」

「元気になったら、いっぱい話そう。だから、今はしっかり疲れを取って」
 あたしが話している途中で、航は瞼を閉じた。

 しばらくして戻って来たおばさんに、航が少しの間だけ目を覚ましたと伝えた。
 おばさんは真っ赤になっている目を、うるうるさせた。

 日曜日も、朝から夕方までバイトで、終わってから病院に行った。
 昨日のように扉をノックすると、「はーい」と返ってきたのは航の声だった。

「航、今日は体調どう?」
 入りながら訊ねた。
「おう、元気だ」
「良かった」
 声にも表情にも、力が戻っていた。

「点滴は、まだしてるんだね」
 昨日と同じ位置にあるイスに座りながら、点滴の袋を見上げた。

「そうなんだよ。トイレ行く時も持って行くから、面倒でさ。あ、明日、大部屋に移るから」
 今は個室に入っていた。しっかり睡眠をとる必要があったからかな。

「退院は? まだ無理そう?」
「ニ・三日で出来ると思うけどな。豚カツ食いたいよ」

「豚カツって。今は、揚げ物は避けた方がいいと思うよ。倒れるほどって、よっぽどだよ。どんな生活してたの?」
「勉強してたら飯買いに行く時間がもったいなくって、カップ麺ばっか食ってた」

「一日三食カップ麺?! それ、何日やったの?」
「食ったのは夜だけ。二週間ぐらいかな。従食が頼りだったけど、テストでしばらく入ってなかったから」
「ああ、そういえば。シフトに入ってなかったね」

「朝は俺、飯食わねえし、昼も抜いてたからさすがにダメだったなって昨日反省してた」
「そんな生活してたら、倒れてもおかしくないよ。ご飯はちゃんととらなきゃ」

「飯食ったら眠くなるだろう。それを避けたくてさ」
「やり過ぎちゃったね」

「だな。人に迷惑かけらんないから、もうやらないよ」
「人に迷惑もそうだけど、航もきつかったでしょう」

「うん、きつかった」
「自分の体も労わってあげなきゃ。昨日、お姉ちゃんに言われたんだ。若いからって過信しちゃダメだって」

 病室で姉に言われたことを思い出して、航にも伝えた。今の航にこそ、必要な言葉だと思ったから。
 でも、航が変な顔をしたのを見て、やらかしたのに気づいた。

「昨日?」
「あ、えっと。違うくて。前にお姉ちゃんが言ってたのを、昨日思い出したんだ。うん、そう」
 うまくごまかせたかな?

「汐里さん、ばあちゃんみたいなこと言ってたんだな」
「そうだねえ」
 焦りながらも、ごまかせたことにほっとする。

 航の言葉に相づちをうったけど、お姉ちゃんが聞いてたら怒りそうだなと、ひやりとする。年変わらないでしょって。

 姉の気配を探ってみると、また眠ってるみたいだった。良かった、と胸をなでおろす。でも最近、お姉ちゃん寝過ぎな気がするんだよね。

「あー、麻帆? 大丈夫か?」
 姉の気配を探っていたら、航に気遣われた。落ち込んだと思われたのかも。

 心配されないように、笑顔を浮かべて、話を替える。
「ん? うん、大丈夫だよ。航さ、家戻ったら? あと、バイト辞めた方がいいのかも」
 今日来たのは、実家に戻ることを勧めたかったから。

「オカンからも言われた。戻って来いって。家なら三食洗濯付きで、集中して勉強できるって。でも、一人暮らししたいんだよな」
「実家の方が絶対楽だよ」

「それは、そうだけどさ」
「どうして一人暮らしにこだわるの?」

 高校生の時、木戸さんも一人暮らしをしたいと言っていた。あれから3年過ぎたけど、あたしはまだ実家を出たいと思わない。

「俺、寮生活が長かったから、いまさら親と住むのは嫌だなって。口うるさそうでさ。炊事はできないけど、洗濯も掃除も自分でやってたから、出来ない事はないし。一人は楽でいいんだよ」

「女の子連れ込み放題だし?」
「連れ込んでねえよ」
 冗談で言ったのに、航の口調が鋭くなった。

「冗談だよ。じゃ、まだ一人暮らし続けるんだ」
「親に強引に連れて帰られなければ、だけど」

「連れて帰られるのが嫌なら、生活改めるしかないんじゃない。問題は炊事だけなんでしょ? 料理やってみたら? 最初は難しく思うけど、やってみるとそうでもないんだよ。面倒がらずにやれるかどうかだね」

「覚えておいて損はないと思うけど、さ」
「あたしがご飯作りに行ってもいいけど、毎日は無理だよ。あたしだって勉強とバイトで忙しいし」

「そんな、奥さんみたいな真似はさせられねえよ。たまに来てくれると嬉しいけど」」
 なぜかほんのりと航の耳が赤くなる。ちょっと話し過ぎたかな。

「多くて週一、もきついかな。二週間に一度とかなら行けるかも。それか、おばさんに頼んで、ご飯運んでもらうとか」

 その提案をすると、航はすぐに頷いた。親を納得させるためには、自炊しかないと思ったんだろう。
「自分でやってみるよ。麻帆教えてくれねえか」
「わかった。教えてあげるよ」
 あたしはにこっと笑って、頷いた。
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