【完結】婚約者と養い親に不要といわれたので、幼馴染の側近と国を出ます

衿乃 光希(キャラ文芸大賞短編で参加中)

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第一部 出立

9話 望まない再会

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 トマとアランの三人で話し合った結果、外務大臣からの依頼を、私たちは引き受けた。
 準備期間は三か月。人数は両国合わせて10人。
 短い時間でのメニュー決めや、食材の手配の依頼など、日々はあっという間に過ぎた。

 会食当日は官邸専属の料理人の手を借り、コース料理を作り上げた。
 アランもサーブをするウエイターの一人に加わり、会食の様子を伝えてくれた。
 両国ともに満足し、食も会話も進んでいるようで、私とトマはほっと胸を撫で下ろす。

 デザートの提供を終えて片付けをしていると、ウエイターのまとめ役から呼ばれた。
 連れて行かれたのは、会食を行っていた客間だった。

 テーブルを挟んで左右に座る要人たちが、入室した私とトマに注目する。
 要人たちをじろじろと見ては失礼かと思い、私は先を歩くトマの踵に目をやって歩いた。

「さきほどお話したシェフです。我が国で唯一の、貴国の料理店の経営者と、若いのに確かな腕を持つ女性シェフです」

 紹介してくれたのは、外務大臣だった。
 私とトマはコック帽を取り、頭を下げる。

「シェリーヌ? そなたシェリーヌではないか? なあ、ブランヴィル侯」
「そのようですな。どこで暮らしているのかと思っていたが、アノルド国にいたとはな」

 聞き覚えのある声に、私は顔を上げる。末席に座っていたのは元婚約者ジュスト様と、養父だった。

「知り合いなのか?」

 ルクディア側の中央に座る男性の質問に、隣のジュスト様が答える。

「殿下、彼女は婚約者だったシェリーヌで、ブランヴィル侯の娘です」
「遠縁の娘で、ゆえあって引き取りましたが、ジュスト様との婚約を破棄して、当家を出て行きました」

 養父が事実と違うことを言う。
 反論したい。けれど、両国の重要人物たちが集まる場での発言が許されるのか。
 わからなくて私は握った拳を強く握りしめる。

 中央の人物をジュスト様は殿下と呼んだ。ということは、ルクディア国王のご子息、アドリック殿下だ。
 ジュスト様より10歳ほど年上だろうか。二人は従兄弟同士だから、顔つきが少し似ている。

「ルクディアの国民だったのだな。銀髪ということは貴族の出だな。シェリーヌ、なぜ祖国を出た」
 殿下の声は詰問口調ではないけれど、穏やかでもない。私の背中に、芯のような物がすっと通った。

「アドリック殿下、初めてお目にかかります。シェリーヌ・ボーヴォワールと申します」
 右膝を深く落として挨拶をする。

「8歳の時に両親を病で亡くした後、遠縁のブランヴィル侯爵が私を引き取ってくださいました。祖国を出ましたのは、ジュスト様から婚約破棄を告げられましたので、居場所を失ったためです」

「居場所を失ったとは、大げさではないか。別の貴族との婚姻も可能であるのに。婚約破棄の理由は?」
「私は存じ上げません」
 久しぶりに感情を押し殺して、殿下の質問に私は答えた。

 殿下は顔をジュスト様に向ける。
「ジュスト。この者との破棄の理由は?」

「躾のためです。未来の夫に対する敬意と従順さを持っていないようなので、一度灸を据えようと。まさか反省もせず、国を出るとは思いませんでした」

「だということだ。シェリーヌ。元令嬢の身でありながら料理人であるというのは、そなたが我が国の貴族から外れた性格であるという可能性を示唆していると思うのだが」

「本来の性格は、そうかもしれません。ですが、貴族たるもの感情を抑えるよう躾られております。ですので、ジュスト様に向けても感情を出さないようにしておりました」

「俺に興味がなかっただけのくせに」
 ジュスト様が小声で吐き捨てるように言った。

 それは正解。けれど、元をただせば、ジュスト様が私に愛情を向けていたとは感じられなかったからだ。幸せになれそうな未来を思い描けなかった。私は夫となる人とも、本音では話せない、感情を見せられないと悟ったからだ。

「灸を据えたかったということのようだから、ジュストは本気で破棄するつもりはなかったのだと思うが。例えばだが、ジュストが心からそなたとの結婚を望んでいるのなら、シェリーヌは受けるか」


 次回⇒10話 勇気をもらって
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