目線の先には。僕の好きな人は誰を見ている?

綾波絢斗

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「湊、俺も帰る」

「え? 陸、今日は花井さんと勉強するって言ってなかった?」

「それがさ。花井さん、友達とやるからって。」

「……そっか」

「今日さ~パスタ作って。」

「え~。仕方ないな。」

「やった。」

陸の笑顔を見た瞬間、胸の奥が少しだけ熱くなった。
高瀬陸(たかせ りく)。
幼稚舎の頃からの幼なじみ。
そして――僕、一ノ瀬湊(いちのせ みなと)が、誰にも言えずに想い続けている人。

僕たちは東雲桜花大学附属第一高等学園の三年生。大学まで内部進学できるエスカレーター制で、三年生になると大学の講義を一部受けられる。陸が最近好きになった花井さんは、大学から入ってきた外部生だ。

僕たちの両親はどちらも仕事が忙しく、家にいることは滅多にない。僕は一人っ子だけど、陸には大学に通う兄がいる。その兄が少し干渉気味で、陸は中学生のころから僕の家に転がり込むようになった。週の半分どころか、ほとんど一緒に暮らしているようなものだ。

陸は昔から大人びていて、整った眉に高い鼻筋、クールな目元の下にある小さな泣きぼくろが印象的だった。知的で、どこか影のある表情をしているのに、人懐っこくて、誰とでもすぐに打ち解ける。小さい頃から性別を問わず人気者で、いつだって誰かに好かれてきた。

だけど不思議なことに、陸の恋はいつも長く続かない。
「相手が振り向くと、急に興味がなくなるんだよな」
いつだったか、そんなふうに笑いながら言っていた。どんなに相手が陸を想っても、陸自身がふと熱を冷ましてしまう。

僕には、その感覚がどうしても理解できなかった。ただ一つだけ確かなのは、陸が僕を好きではないということ。その現実が、時々どうしようもなく苦しかった。けれど――もしこの想いが届いてしまえば、陸は僕から離れていくかもしれない。だから僕は、ずっとこのままでいいと思っている。彼のそばにいられるなら、それで十分だと自分に言い聞かせてきた。

今日も、本当なら花井さんとレポートをまとめる予定だった。それが急になくなって、「湊の家に行っていい?」と、当たり前のように言う陸。その自然さが、かえって嬉しかった。

誰かの代わりでもいい。ただ、今日も陸が僕の隣にいる――それだけで十分だ。情けないほど浮かれた気持ちを、僕はどうしても隠せなかった。
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