目線の先には。僕の好きな人は誰を見ている?【高瀬陸×一ノ瀬湊 編】

綾波絢斗

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2 苦しい恋心

「なあ、湊。花井さんって、ほんとかわいいんだよ」

その声を聞いた瞬間、胸の奥が微かにざわめく。僕はペンを走らせる手を止めずに、「そうなんだ」とそっけなく答える。

「この前さ、講義が終わって少し話したんだ。花井さん、話すと楽しいんだよね。なんか趣味も合うみたいでさ」

陸の声は、いつもより軽く弾んでいた。僕の部屋に広がる静けさが、陸の楽しげな調子にのみ込まれていく。

「へぇ……趣味?」自然に聞こえるように返したつもりだった。

「映画とか。俺が好きな監督、花井さんも知ってて。それで盛り上がってたら……なんか、距離が近くなって。でさ、うなじとかさ。なんか……やばかった」

その一言で、空気が止まった。ペン先がノートに強く押しつけられ、インクが滲む。

「……うなじ?」かろうじて声が出た。

「うん。髪をちょっとかき上げたときに見えたんだよ。なんか……ああいうの、反則じゃね?」

陸は笑って、頭をかく。無邪気なその仕草が、僕にはどうしようもなく残酷だった。

「……そうだね」唇の裏を噛みながら、僕は答えた。

——どうしてそんなこと、僕に言うんだよ。そんなの聞きたくない。でも言えない。言ってしまえば、この距離が壊れてしまう。

陸は気づかないまま、ソファに寝転んだ。白いシャツが少しめくれて、腹筋のラインがちらりと見える。無防備なその姿が、余計に苦しい。

「なあ、今度さ。どうやって花井さんを誘おうかな。一緒にカフェで課題とかやったら、もっと仲良くなれるかな」

「いいんじゃない?」やっと絞り出した声は、かすかに震えていた。

「だよな。……でも、断られたら慰めてくれよ?」陸が笑って、僕の肩を軽く叩く。

一瞬、その手の熱が肌に残る。その温度を消したくなくて、僕は息を詰めた。

「……いつでも」

氷の溶ける音だけが響く。静かな夜。言葉にできない想いが、胸の奥でひたひたと広がっていく。

——その笑顔が、やけに眩しくて。僕は、何も言えなかった。
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