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第9章 ラスボス確定:縁故採用と「ルールの悪用」
公の場で守る
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社長はマイクを持たなかった。マイクを持つと、演説になる。演説になると、切り貼りされる。
だから、机の上の紙だけを見て言った。声は低く、短い。
「……俺が言う」
外部弁護士が目線だけで合図する。“記録します”の合図。
社長は続けた。
「今回の件で、福本を“特別扱い”したと思われるのが一番危険だ」
「だから、公の場で言っておく」
一拍。ここで“恋愛”に踏み込むと燃える。踏み込まないのに守る言い方があるか。社長は、それを選んだ。
「福本は、俺の私情では動いていない」
「俺が守っているのは、福本じゃない」
もう一拍。
「手続きだ」
その言葉が、会議室の中心に落ちた。私を守る、ではなく、手続きを守る。守る対象をずらすことで、噂の餌を奪う。
社長はさらに言う。これが“告白”だった。感情の告白ではなく、責任の告白。
「ここ数日、法務と人事が“守秘”と“協力”の名で、現場を締め付けた」
「説明会でテンプレを出し、例外がない運用を正当化した」
「参考人を“正当理由なし”と周知した」
一拍。
「それを止めなかった責任は、俺にある」
——責任の告白。公の場で責任を引き受けると、誰かに押し付けられなくなる。責任の所在が固定されると、懲戒の刃は鈍る。
監査室長が息を呑む。法務が顔を上げる。佐伯が、初めて社長を見た。
社長は続けた。最後の一文が、いちばん強い。
「だから、福本への懲戒はしない」
「ここから先、守るのは現場と参考人だ」
「守るために必要なら、俺が矢面に立つ」
矢面。それは“守る”という言葉を、首輪ではなく盾に戻す言い方だ。
外部弁護士が確認する。
「社長、今の発言を“調査記録”に残してよいですね」
社長は頷く。
「残せ」
吉岡のペンが走る。情シス担当が、時刻を小さく口にする。
12:31 社長発言(責任の告白/懲戒否定/参考人保護宣言)
私はまだ喋らない。喋れば“守られている”になる。社長が守っているのが“手続き”だと宣言した以上、私はその手続きを壊さない。
法務が、ようやく言葉を探して言った。
「社長、それは組織の統制が——」
社長が短く返す。
「統制は、恐怖で取らない」
「恐怖で取った統制は、外に漏れる」
——告発者の拉致未遂と、遠隔初期化の時刻が、黙って頷く。
外部弁護士が、ここで場を締めた。
「本日以降、懲戒を用いた圧の運用は禁止。違反は調査妨害として扱う」
「参考人保護・接触禁止・不利益取扱い停止を即時発効」
「勤務地変更テンプレ運用は凍結」
「ログ保全は第三者主導」
社長が言う。
「やれ」
再び二文字。決裁。
社長は私を庇ったわけじゃない。恋愛を否定したわけでもない。代わりに、責任を自分の名前で引き受けた。
それが、公の場で守る、ということだった。守られるのは私の立場じゃない。守られるのは、現場と、参考人と、手続き。
私の胃の石はまだある。でも、石の重さが“孤立”じゃなくなった。孤立が消えると、人は折れにくい。
会議室の外で、また通知が鳴った。でももう、期限の刃は怖くない。
本丸で——守る言葉が、首輪から盾に戻ったから。
だから、机の上の紙だけを見て言った。声は低く、短い。
「……俺が言う」
外部弁護士が目線だけで合図する。“記録します”の合図。
社長は続けた。
「今回の件で、福本を“特別扱い”したと思われるのが一番危険だ」
「だから、公の場で言っておく」
一拍。ここで“恋愛”に踏み込むと燃える。踏み込まないのに守る言い方があるか。社長は、それを選んだ。
「福本は、俺の私情では動いていない」
「俺が守っているのは、福本じゃない」
もう一拍。
「手続きだ」
その言葉が、会議室の中心に落ちた。私を守る、ではなく、手続きを守る。守る対象をずらすことで、噂の餌を奪う。
社長はさらに言う。これが“告白”だった。感情の告白ではなく、責任の告白。
「ここ数日、法務と人事が“守秘”と“協力”の名で、現場を締め付けた」
「説明会でテンプレを出し、例外がない運用を正当化した」
「参考人を“正当理由なし”と周知した」
一拍。
「それを止めなかった責任は、俺にある」
——責任の告白。公の場で責任を引き受けると、誰かに押し付けられなくなる。責任の所在が固定されると、懲戒の刃は鈍る。
監査室長が息を呑む。法務が顔を上げる。佐伯が、初めて社長を見た。
社長は続けた。最後の一文が、いちばん強い。
「だから、福本への懲戒はしない」
「ここから先、守るのは現場と参考人だ」
「守るために必要なら、俺が矢面に立つ」
矢面。それは“守る”という言葉を、首輪ではなく盾に戻す言い方だ。
外部弁護士が確認する。
「社長、今の発言を“調査記録”に残してよいですね」
社長は頷く。
「残せ」
吉岡のペンが走る。情シス担当が、時刻を小さく口にする。
12:31 社長発言(責任の告白/懲戒否定/参考人保護宣言)
私はまだ喋らない。喋れば“守られている”になる。社長が守っているのが“手続き”だと宣言した以上、私はその手続きを壊さない。
法務が、ようやく言葉を探して言った。
「社長、それは組織の統制が——」
社長が短く返す。
「統制は、恐怖で取らない」
「恐怖で取った統制は、外に漏れる」
——告発者の拉致未遂と、遠隔初期化の時刻が、黙って頷く。
外部弁護士が、ここで場を締めた。
「本日以降、懲戒を用いた圧の運用は禁止。違反は調査妨害として扱う」
「参考人保護・接触禁止・不利益取扱い停止を即時発効」
「勤務地変更テンプレ運用は凍結」
「ログ保全は第三者主導」
社長が言う。
「やれ」
再び二文字。決裁。
社長は私を庇ったわけじゃない。恋愛を否定したわけでもない。代わりに、責任を自分の名前で引き受けた。
それが、公の場で守る、ということだった。守られるのは私の立場じゃない。守られるのは、現場と、参考人と、手続き。
私の胃の石はまだある。でも、石の重さが“孤立”じゃなくなった。孤立が消えると、人は折れにくい。
会議室の外で、また通知が鳴った。でももう、期限の刃は怖くない。
本丸で——守る言葉が、首輪から盾に戻ったから。
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