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第9章 ラスボス確定:縁故採用と「ルールの悪用」
懲戒未遂
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外部弁護士が「誰が圧をかけたか」に入ろうとした、その瞬間だった。会議室の端で、法務が一枚の紙を滑らせた。
紙は、折り目が一つもない。——用意してきた紙だ。
法務の声が、また“柔らかい声”に戻る。柔らかい声は、刃を隠す。
「調査とは別に、会社として“内部秩序”の観点から確認すべき点があります」
外部弁護士が目を上げる。
「どうぞ」
どうぞ、と言うのは余裕じゃない。ここが本丸だと分かっている声だ。
法務が、紙の見出しを読み上げた。
【懲戒手続き開始通知(案)】
対象:福本
理由:守秘義務違反の疑い/会社信用毀損の疑い
措置:自宅待機(本日付)/関係者接触禁止
——来た。“守秘”で締め、隔離で折る。勤務地強制テンプレの上位互換。
胃が、また痛む。でも私は呼吸を崩さなかった。崩すと、相手の勝ち筋になる。
外部弁護士が、静かに確認した。
「“案”ですね」
法務が頷く。
「はい。手続きに則り——」
外部弁護士が遮らず、続けて聞く。
「根拠となる具体的行為は?」
法務は一拍置き、言った。
「社内情報の外部流出が発生しており、福本さんは当該案件の中心に——」
中心。また“中心”。証拠じゃなく、空気で中心にする言い方。
外部弁護士が、紙を指で叩いた。軽い音なのに、刃の音。
「中心であることは理由になりません」
「流出の証拠、または守秘違反の具体を提示してください」
法務の口が、わずかに開く。閉じる。閉じるのが、ないという答えだ。
そこで、監査室長が入ろうとした。
「疑いの段階でも、暫定措置として——」
外部弁護士が視線だけで止める。言葉は使わない。止まるとき、人は一番弱い。
「暫定措置は可能です」
外部弁護士が言う。
「ただし、今日は“第三者調査の場”です」
一拍。
「この場で、調査対象者へ圧をかける措置は——調査妨害になり得ます」
法務が反射で言う。
「圧ではありません。秩序です」
外部弁護士が淡々と返す。
「秩序なら、根拠と事実で示してください」
私はここで、社長の方を見ない。見たら“守られている”になる。だから私は、机の上の紙だけを見て言った。
「その通知は、いつ作られましたか」
法務が一瞬だけ詰まる。詰まったのが答えだ。
情シス担当が、声を足す。
「その文書のテンプレID、HR-SEP-015と同系統です。作成者メタが残っている可能性があります」
法務が急に、紙を引き寄せた。引き寄せる動作は、もう“保全対象”だ。
外部弁護士が、即座に言う。
「その紙、こちらで受領します」
吉岡が時刻を取る。
12:16 懲戒通知(案)提示/受領要求
法務が言い訳を探す間に、外部弁護士が結論を置いた。
「現時点で、福本さんの守秘違反の具体証拠は提示されていません」
「一方で、説明会直後の勤務地変更テンプレ、同席不可運用、個別案内の即時送付——圧の運用証拠は提示されています」
一拍。
「この状況で“自宅待機”を出すことは、通報者保護違反の疑いを強めます」
——順番が逆だ。だから折れる。
ここで社長が、初めてマイクを取った。短く、二つだけ。
「却下」
一拍。
「福本への自宅待機も、懲戒開始も、今日この場ではしない」
法務が言う。
「社長、それでは——」
社長は目を上げずに言った。
「運用が歪んだ会社が、まず“人を切る”のは違う」
「まず原本。まず手続き。——順番だ」
外部弁護士が頷く。
「社長決裁として記録します」
吉岡がペンを走らせる。
12:18 懲戒措置停止(社長口頭決裁)
法務の柔らかい声が、消えた。消えたのは感情じゃない。台本の勝ち筋だ。
私は、ようやく息を吐いた。助かった、とは思わない。未遂は未遂で残る。未遂ほど危ないものはない。
外部弁護士が、法務へ淡々と言った。
「この“懲戒案”は、いつ誰が、どの目的で準備したのかを調査事項に追加します」
「調査対象者への圧の設計として扱います」
法務が言った。
「……誤解です」
外部弁護士が返した。
「誤解なら、ログで示してください」
ログ。またログに戻る。戻る場所がある限り、私は折れない。
私は最後に一言だけ置いた。感情じゃない。線引きだ。
「懲戒は、条項の再定義に反します」
「“疑い”を根拠に人を隔離しない。根拠は原本と手続きだけです」
会議室の空気が、さらに冷えた。冷えた空気は、切り貼りを止める。
そして私は知る。懲戒は止まった。でも彼らは次に、別の形で私を黙らせようとする。
だからこそ、未遂を残す。未遂を“原本”として記録に残す。
——本丸で、懲戒は失敗した。その失敗自体が、次の一手を封じる武器になる。
紙は、折り目が一つもない。——用意してきた紙だ。
法務の声が、また“柔らかい声”に戻る。柔らかい声は、刃を隠す。
「調査とは別に、会社として“内部秩序”の観点から確認すべき点があります」
外部弁護士が目を上げる。
「どうぞ」
どうぞ、と言うのは余裕じゃない。ここが本丸だと分かっている声だ。
法務が、紙の見出しを読み上げた。
【懲戒手続き開始通知(案)】
対象:福本
理由:守秘義務違反の疑い/会社信用毀損の疑い
措置:自宅待機(本日付)/関係者接触禁止
——来た。“守秘”で締め、隔離で折る。勤務地強制テンプレの上位互換。
胃が、また痛む。でも私は呼吸を崩さなかった。崩すと、相手の勝ち筋になる。
外部弁護士が、静かに確認した。
「“案”ですね」
法務が頷く。
「はい。手続きに則り——」
外部弁護士が遮らず、続けて聞く。
「根拠となる具体的行為は?」
法務は一拍置き、言った。
「社内情報の外部流出が発生しており、福本さんは当該案件の中心に——」
中心。また“中心”。証拠じゃなく、空気で中心にする言い方。
外部弁護士が、紙を指で叩いた。軽い音なのに、刃の音。
「中心であることは理由になりません」
「流出の証拠、または守秘違反の具体を提示してください」
法務の口が、わずかに開く。閉じる。閉じるのが、ないという答えだ。
そこで、監査室長が入ろうとした。
「疑いの段階でも、暫定措置として——」
外部弁護士が視線だけで止める。言葉は使わない。止まるとき、人は一番弱い。
「暫定措置は可能です」
外部弁護士が言う。
「ただし、今日は“第三者調査の場”です」
一拍。
「この場で、調査対象者へ圧をかける措置は——調査妨害になり得ます」
法務が反射で言う。
「圧ではありません。秩序です」
外部弁護士が淡々と返す。
「秩序なら、根拠と事実で示してください」
私はここで、社長の方を見ない。見たら“守られている”になる。だから私は、机の上の紙だけを見て言った。
「その通知は、いつ作られましたか」
法務が一瞬だけ詰まる。詰まったのが答えだ。
情シス担当が、声を足す。
「その文書のテンプレID、HR-SEP-015と同系統です。作成者メタが残っている可能性があります」
法務が急に、紙を引き寄せた。引き寄せる動作は、もう“保全対象”だ。
外部弁護士が、即座に言う。
「その紙、こちらで受領します」
吉岡が時刻を取る。
12:16 懲戒通知(案)提示/受領要求
法務が言い訳を探す間に、外部弁護士が結論を置いた。
「現時点で、福本さんの守秘違反の具体証拠は提示されていません」
「一方で、説明会直後の勤務地変更テンプレ、同席不可運用、個別案内の即時送付——圧の運用証拠は提示されています」
一拍。
「この状況で“自宅待機”を出すことは、通報者保護違反の疑いを強めます」
——順番が逆だ。だから折れる。
ここで社長が、初めてマイクを取った。短く、二つだけ。
「却下」
一拍。
「福本への自宅待機も、懲戒開始も、今日この場ではしない」
法務が言う。
「社長、それでは——」
社長は目を上げずに言った。
「運用が歪んだ会社が、まず“人を切る”のは違う」
「まず原本。まず手続き。——順番だ」
外部弁護士が頷く。
「社長決裁として記録します」
吉岡がペンを走らせる。
12:18 懲戒措置停止(社長口頭決裁)
法務の柔らかい声が、消えた。消えたのは感情じゃない。台本の勝ち筋だ。
私は、ようやく息を吐いた。助かった、とは思わない。未遂は未遂で残る。未遂ほど危ないものはない。
外部弁護士が、法務へ淡々と言った。
「この“懲戒案”は、いつ誰が、どの目的で準備したのかを調査事項に追加します」
「調査対象者への圧の設計として扱います」
法務が言った。
「……誤解です」
外部弁護士が返した。
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ログ。またログに戻る。戻る場所がある限り、私は折れない。
私は最後に一言だけ置いた。感情じゃない。線引きだ。
「懲戒は、条項の再定義に反します」
「“疑い”を根拠に人を隔離しない。根拠は原本と手続きだけです」
会議室の空気が、さらに冷えた。冷えた空気は、切り貼りを止める。
そして私は知る。懲戒は止まった。でも彼らは次に、別の形で私を黙らせようとする。
だからこそ、未遂を残す。未遂を“原本”として記録に残す。
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