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第六章「みんな、幸せに」
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「ねぇ。ルシフォード、ケイティベル。今日はなんの日かしら?」
そんな二人に、リリアンナは務めて穏やかな声色で尋ねる。
「今日はえっと……。僕らの誕生日?」
「ええ、そうよ。大正解」
最近のリリアンナは、よく笑うようになった。それは少しでも弟妹を安心させたいからという気遣いもあり、純粋に幸せでたまらないという感情が溢れている証でもある。
「改めて、お誕生日おめでとう。二人がこの世に生まれてきてくれたことを、私は何より神に感謝しているわ」
「お姉様……」
「来年もこうして、盛大にお祝いしましょう。その時までに、もっと素晴らしいプレゼントを考えておくから」
ふわふわとした愛らしい頬に手を伸ばし、掌で優しく包み込む。様々な感情がないまぜになり気を抜けば無意識に涙が溢れ落ちそうだったが、リリアンナはぐっと奥歯を噛み締めそれに耐えた。
「約束するわ、必ずよ」
力強い姉の言葉は、不安と恐怖に怯える二人の心にぴたりと寄り添う。リリアンナがいれば心配いらないと、澱んでいた双子の瞳に少しずつ光が差し込んでいく。
まるで分厚い雲に覆われていた空が、すべてを吹き飛ばす疾風の力を借りて輝きを取り戻すように。
「さぁ、そろそろ支度を始めましょうか。今日の主役が、暗い顔ばかりしていてはだめよ。うんと可愛くて凛々しい姿を、皆に見てもらうの」
リリアンナがちらりと視線を向けた先には、この日の為にあつらえた三人分のお揃いの衣装がトルソーに並んでいる。リリアンナのドレスは、二人の記憶とは違うレモンイエローだ。
「お姉様の言う通りだよ、ベル!僕達はもう十歳になったんだ、いつまでもくよくよしてばかりいられない」
「ええ、そうね!せっかくのお誕生日ですもの!思いきり楽しまなきゃ!」
大丈夫、もう二度と悲劇は繰り返さない。最大の味方をつけた双子は、正に怖いものなし。ぽっちゃり愛されボディをふるふると揺らしながら、二人は手を取り合い再びプレゼントの海に飛び込んだのだった。
豪奢に飾り付けられたエトワナ公爵家は、それはそれは賑わいに満ちていた。双子の誕生日は毎年盛大なパーティーが催されるが、今年はさらに気合が入っている。
なんといっても自国の第二王子と他国の第二王子が来訪するとのことで、朝から屋敷はてんやわんや。
母ベルシアと姉リリアンナが競って陣頭指揮を取り合ったおかげで、大きな問題もなく準備は完了。父アーノルドはふんぞり返っているだけで、自身の労力は使わない。エトワナ家ではそれが常だが、例年と違うのはリリアンナが意志を持って働いていることだった。
愛する弟妹を守る為、警備のすべてを掌握すると譲らない。招待客の綿密なリスト化と配置図の作成、僅かな抜けも許さないその背中は、まるで歴史に名を残す軍師のようだったと使用人達が噂していた。
大仰過ぎる護衛の人数、そこにはレオニルとエドモンドが直々に選任した近衛騎士すら混ざっている。これにはさすがのアーノルドも狼狽えたが、両王子の圧には勝てなかった。
「一見隙がないように見えて、ちゃんと抜け道も用意してあるわ」
リリアンナは、目が痛くなりそうなほどに書き込まれた配置図に指を這わせる。ルシフォードとケイティベルの話では、殺される直前シーツを被っていたせいでいまいち場所を覚えていないらしい。
けれど、前が良く見えない状況では会場からさほど離れてはいないはず。階段を使った覚えもなく、足元は絨毯だった。それに二人の力でも開けることが出来る扉は、限られているのだ。
「……きっと、現場はここだわ」
愛の力は偉大なり、世紀の名探偵のごとき推理を披露したリリアンナは、形の良い爪で配置図のその位置をとんとんと叩く。彼女が示したのは、なんとホールの隣にあるパーラーだった。そこはベルシアが客人を招く自慢の空間で、貴重な調度品や立派な花瓶に生けられた花がところ狭しと置かれている。つまり、身を隠す場所はいくらでもあった。
普段ならば無人であるなどほぼあり得ないが、パーティーとなれば話は別。警備は「ここには侵入しないだろう」という先入観とベルシアのテリトリーであることから、部屋の中を隅々までチェックしなかったのだろう。
そう推測したリリアンナは、今回もわざとパーラーの見回りを指示していない。レオニルとエドモンドが信頼する近衛騎士数名にだけ、刺客の件を伝えていた。
そんな二人に、リリアンナは務めて穏やかな声色で尋ねる。
「今日はえっと……。僕らの誕生日?」
「ええ、そうよ。大正解」
最近のリリアンナは、よく笑うようになった。それは少しでも弟妹を安心させたいからという気遣いもあり、純粋に幸せでたまらないという感情が溢れている証でもある。
「改めて、お誕生日おめでとう。二人がこの世に生まれてきてくれたことを、私は何より神に感謝しているわ」
「お姉様……」
「来年もこうして、盛大にお祝いしましょう。その時までに、もっと素晴らしいプレゼントを考えておくから」
ふわふわとした愛らしい頬に手を伸ばし、掌で優しく包み込む。様々な感情がないまぜになり気を抜けば無意識に涙が溢れ落ちそうだったが、リリアンナはぐっと奥歯を噛み締めそれに耐えた。
「約束するわ、必ずよ」
力強い姉の言葉は、不安と恐怖に怯える二人の心にぴたりと寄り添う。リリアンナがいれば心配いらないと、澱んでいた双子の瞳に少しずつ光が差し込んでいく。
まるで分厚い雲に覆われていた空が、すべてを吹き飛ばす疾風の力を借りて輝きを取り戻すように。
「さぁ、そろそろ支度を始めましょうか。今日の主役が、暗い顔ばかりしていてはだめよ。うんと可愛くて凛々しい姿を、皆に見てもらうの」
リリアンナがちらりと視線を向けた先には、この日の為にあつらえた三人分のお揃いの衣装がトルソーに並んでいる。リリアンナのドレスは、二人の記憶とは違うレモンイエローだ。
「お姉様の言う通りだよ、ベル!僕達はもう十歳になったんだ、いつまでもくよくよしてばかりいられない」
「ええ、そうね!せっかくのお誕生日ですもの!思いきり楽しまなきゃ!」
大丈夫、もう二度と悲劇は繰り返さない。最大の味方をつけた双子は、正に怖いものなし。ぽっちゃり愛されボディをふるふると揺らしながら、二人は手を取り合い再びプレゼントの海に飛び込んだのだった。
豪奢に飾り付けられたエトワナ公爵家は、それはそれは賑わいに満ちていた。双子の誕生日は毎年盛大なパーティーが催されるが、今年はさらに気合が入っている。
なんといっても自国の第二王子と他国の第二王子が来訪するとのことで、朝から屋敷はてんやわんや。
母ベルシアと姉リリアンナが競って陣頭指揮を取り合ったおかげで、大きな問題もなく準備は完了。父アーノルドはふんぞり返っているだけで、自身の労力は使わない。エトワナ家ではそれが常だが、例年と違うのはリリアンナが意志を持って働いていることだった。
愛する弟妹を守る為、警備のすべてを掌握すると譲らない。招待客の綿密なリスト化と配置図の作成、僅かな抜けも許さないその背中は、まるで歴史に名を残す軍師のようだったと使用人達が噂していた。
大仰過ぎる護衛の人数、そこにはレオニルとエドモンドが直々に選任した近衛騎士すら混ざっている。これにはさすがのアーノルドも狼狽えたが、両王子の圧には勝てなかった。
「一見隙がないように見えて、ちゃんと抜け道も用意してあるわ」
リリアンナは、目が痛くなりそうなほどに書き込まれた配置図に指を這わせる。ルシフォードとケイティベルの話では、殺される直前シーツを被っていたせいでいまいち場所を覚えていないらしい。
けれど、前が良く見えない状況では会場からさほど離れてはいないはず。階段を使った覚えもなく、足元は絨毯だった。それに二人の力でも開けることが出来る扉は、限られているのだ。
「……きっと、現場はここだわ」
愛の力は偉大なり、世紀の名探偵のごとき推理を披露したリリアンナは、形の良い爪で配置図のその位置をとんとんと叩く。彼女が示したのは、なんとホールの隣にあるパーラーだった。そこはベルシアが客人を招く自慢の空間で、貴重な調度品や立派な花瓶に生けられた花がところ狭しと置かれている。つまり、身を隠す場所はいくらでもあった。
普段ならば無人であるなどほぼあり得ないが、パーティーとなれば話は別。警備は「ここには侵入しないだろう」という先入観とベルシアのテリトリーであることから、部屋の中を隅々までチェックしなかったのだろう。
そう推測したリリアンナは、今回もわざとパーラーの見回りを指示していない。レオニルとエドモンドが信頼する近衛騎士数名にだけ、刺客の件を伝えていた。
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