55 / 75
第六章「みんな、幸せに」
6
しおりを挟む
♢♢♢
「ルシフォード、ケイティベル。お誕生日おめ……」
いよいよ双子の十歳の誕生日当日、早朝。自身の支度もそこそこに真っ先に弟妹の寝室に突撃したリリアンナ。祝いの言葉を口にした彼女は、最後まで言い終わる前に背後からやって来た母ベルシアにぐい!っと体を押しのけられた。
「まぁまぁ二人とも!私の可愛い可愛い双子ちゃん!誕生日おめ……」
「おめでとう!」
ベルシアは満面の笑みで我先にと喋り出すが、すかさず体勢を立て直したリリアンナに結局先を越された。
「ちょっとリリアンナ!邪魔をしないでちょうだい!」
「お言葉ですがお母様。私は愛する弟妹を、心から祝福したいのです」
リリアンナは母に面と向かって口答えをするのは、今までならば考えられないことだった。自身についてどれだけ非難されようともまったく動じない彼女だが、二人への祝辞だけは誰よりも先に伝えたかったのだ。
「母である私が先に決まっているでしょう!」
「私はこの子達の姉です!」
「母が先よ!」
「いいえ姉です!」
ぎゅうぎゅうと押し合いながら、双子の寝室にて譲れない女の戦いが繰り広げられている。本日の主役であるルシフォードとケイティベルは、朝早くから起こされてまだ夢の世界へ片足を突っ込んだまま。
頭の隅の方で何やら母と姉が揉めているが、それが現実なのかいまいち区別がついていない。
「お母様……?それに、お姉様も……?」
「ううん……、僕まだ眠い……」
いまだに同じ部屋で寝起きしている二人は、開かない瞼を手の甲でごしごしと擦る。膨れた髪はまるでふわふわのうさぎのようで、ゆらゆらと揺れている体は金の振り子時計に良く似ていた。と、これらはすべてリリアンナの脳内で繰り広げられている比喩であるが、ベルシアもさほど違いはなかった。
「おはよう、良い朝ね。今日は肌寒いけれど、すっきりとした快晴よ」
「きっと夜には、素晴らしい満月が空に浮かぶわ」
母と姉は競って身を乗り出しながら、ベッドの上でいまだに微睡んでいるルシフォードとケイティベルに向かって声を掛ける。つまるところ、この二人は良く似ているということだ。
「お母様もお姉様も、仲良しなのね……」
ケイティベルには言い争いが仲睦まじい掛け合いに見えているらしく、ふにゃりと微笑みながらそう口にする。
「誕生日の朝だから、素敵なサプライズかな……」
同じく寝ぼけ眼のルシフォードも、ふっくらとした頬を膨らませて喜んでいる。事実ではないが愛する双子をがっかりさせたくはないと、リリアンナとベルシアは互いに頷き合ったのだった。
その後無事に朝の支度を終えた二人は、子ども部屋の絨毯が見えないほどに埋め尽くされたプレゼントの海の中に、勢いよく飛び込む。
「ねぇ、ルーシー。このお人形、前に見たのとまったく同じだわ」
「こっちの箱の中身も、きっと帆船の模型だ」
彼が蓋を開けると、言葉通りの品が顔を出す。側に控えていた乳母は首を傾げるが、リリアンナがさり気なく間に割って入った。
「凄く嬉しいけど、ちょっと複雑だな……」
「ええ、そうね。最初は何も知らなかったから、あんなにはしゃげたけれど」
プレゼントをひとつ開けるごとに、二人の表情がだんだんと曇っていく。運命の分岐点は、もう間近に迫っていた。最悪の結末を変える為、ずっと嫌われていると思っていたリリアンナに助けを求めた。彼女は快く手を貸してくれ、迎え撃つ準備は万全に整っている。
けれどもし、あれが自分達の変えられない未来であるならば。どんなに足掻いても、決まったルートを歩かされているのだとしたら。
今日が産まれて十回目の誕生日であり、同時に命日となるかもしれない。だって、こんなにたくさんのプレゼントも全部、あの日の記憶とそっくり同じなのだから。
「ルシフォード、ケイティベル。お誕生日おめ……」
いよいよ双子の十歳の誕生日当日、早朝。自身の支度もそこそこに真っ先に弟妹の寝室に突撃したリリアンナ。祝いの言葉を口にした彼女は、最後まで言い終わる前に背後からやって来た母ベルシアにぐい!っと体を押しのけられた。
「まぁまぁ二人とも!私の可愛い可愛い双子ちゃん!誕生日おめ……」
「おめでとう!」
ベルシアは満面の笑みで我先にと喋り出すが、すかさず体勢を立て直したリリアンナに結局先を越された。
「ちょっとリリアンナ!邪魔をしないでちょうだい!」
「お言葉ですがお母様。私は愛する弟妹を、心から祝福したいのです」
リリアンナは母に面と向かって口答えをするのは、今までならば考えられないことだった。自身についてどれだけ非難されようともまったく動じない彼女だが、二人への祝辞だけは誰よりも先に伝えたかったのだ。
「母である私が先に決まっているでしょう!」
「私はこの子達の姉です!」
「母が先よ!」
「いいえ姉です!」
ぎゅうぎゅうと押し合いながら、双子の寝室にて譲れない女の戦いが繰り広げられている。本日の主役であるルシフォードとケイティベルは、朝早くから起こされてまだ夢の世界へ片足を突っ込んだまま。
頭の隅の方で何やら母と姉が揉めているが、それが現実なのかいまいち区別がついていない。
「お母様……?それに、お姉様も……?」
「ううん……、僕まだ眠い……」
いまだに同じ部屋で寝起きしている二人は、開かない瞼を手の甲でごしごしと擦る。膨れた髪はまるでふわふわのうさぎのようで、ゆらゆらと揺れている体は金の振り子時計に良く似ていた。と、これらはすべてリリアンナの脳内で繰り広げられている比喩であるが、ベルシアもさほど違いはなかった。
「おはよう、良い朝ね。今日は肌寒いけれど、すっきりとした快晴よ」
「きっと夜には、素晴らしい満月が空に浮かぶわ」
母と姉は競って身を乗り出しながら、ベッドの上でいまだに微睡んでいるルシフォードとケイティベルに向かって声を掛ける。つまるところ、この二人は良く似ているということだ。
「お母様もお姉様も、仲良しなのね……」
ケイティベルには言い争いが仲睦まじい掛け合いに見えているらしく、ふにゃりと微笑みながらそう口にする。
「誕生日の朝だから、素敵なサプライズかな……」
同じく寝ぼけ眼のルシフォードも、ふっくらとした頬を膨らませて喜んでいる。事実ではないが愛する双子をがっかりさせたくはないと、リリアンナとベルシアは互いに頷き合ったのだった。
その後無事に朝の支度を終えた二人は、子ども部屋の絨毯が見えないほどに埋め尽くされたプレゼントの海の中に、勢いよく飛び込む。
「ねぇ、ルーシー。このお人形、前に見たのとまったく同じだわ」
「こっちの箱の中身も、きっと帆船の模型だ」
彼が蓋を開けると、言葉通りの品が顔を出す。側に控えていた乳母は首を傾げるが、リリアンナがさり気なく間に割って入った。
「凄く嬉しいけど、ちょっと複雑だな……」
「ええ、そうね。最初は何も知らなかったから、あんなにはしゃげたけれど」
プレゼントをひとつ開けるごとに、二人の表情がだんだんと曇っていく。運命の分岐点は、もう間近に迫っていた。最悪の結末を変える為、ずっと嫌われていると思っていたリリアンナに助けを求めた。彼女は快く手を貸してくれ、迎え撃つ準備は万全に整っている。
けれどもし、あれが自分達の変えられない未来であるならば。どんなに足掻いても、決まったルートを歩かされているのだとしたら。
今日が産まれて十回目の誕生日であり、同時に命日となるかもしれない。だって、こんなにたくさんのプレゼントも全部、あの日の記憶とそっくり同じなのだから。
2
あなたにおすすめの小説
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています
窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。
シナリオ通りなら、死ぬ運命。
だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい!
騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します!
というわけで、私、悪役やりません!
来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。
あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……!
気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。
悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
わたしにしか懐かない龍神の子供(?)を拾いました~可愛いんで育てたいと思います
あきた
ファンタジー
明治大正風味のファンタジー恋愛もの。
化物みたいな能力を持ったせいでいじめられていたキイロは、強引に知らない家へ嫁入りすることに。
所が嫁入り先は火事だし、なんか子供を拾ってしまうしで、友人宅へ一旦避難。
親もいなさそうだし子供は私が育てようかな、どうせすぐに離縁されるだろうし。
そう呑気に考えていたキイロ、ところが嫁ぎ先の夫はキイロが行方不明で発狂寸前。
実は夫になる『薄氷の君』と呼ばれる銀髪の軍人、やんごとなき御家柄のしかも軍でも出世頭。
おまけに超美形。その彼はキイロに夢中。どうやら過去になにかあったようなのだが。
そしてその彼は、怒ったらとんでもない存在になってしまって。
ぽっちゃり令嬢の異世界カフェ巡り~太っているからと婚約破棄されましたが番のモフモフ獣人がいるので貴方のことはどうでもいいです~
翡翠蓮
ファンタジー
幼い頃から王太子殿下の婚約者であることが決められ、厳しい教育を施されていたアイリス。王太子のアルヴィーンに初めて会ったとき、この世界が自分の読んでいた恋愛小説の中で、自分は主人公をいじめる悪役令嬢だということに気づく。自分が追放されないようにアルヴィーンと愛を育もうとするが、殿下のことを好きになれず、さらに自宅の料理長が作る料理が大量で、残さず食べろと両親に言われているうちにぶくぶくと太ってしまう。その上、両親はアルヴィーン以外の情報をアイリスに入れてほしくないがために、アイリスが学園以外の外を歩くことを禁止していた。そして十八歳の冬、小説と同じ時期に婚約破棄される。婚約破棄の理由は、アルヴィーンの『運命の番』である兎獣人、ミリアと出会ったから、そして……豚のように太っているから。「豚のような女と婚約するつもりはない」そう言われ学園を追い出され家も追い出されたが、アイリスは内心大喜びだった。これで……一人で外に出ることができて、異世界のカフェを巡ることができる!?しかも、泣きながらやっていた王太子妃教育もない!?カフェ巡りを繰り返しているうちに、『運命の番』である狼獣人の騎士団副団長に出会って……
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる