死に戻りぽっちゃり双子、悪役お姉様を味方につける。

清澄 セイ

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最終章「ぽっちゃり双子は暗躍する!」

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 リリアンナを妻に娶るまで一切浮いた話のなかった彼の瞳には、新婚夫婦のように初々しい甘さが見てとれる。仕事一筋だったのが、今では妻や子どもの話をさせたら国一面倒な男と影で囁かれるほどには、リリアンナに骨抜きにされている。
 幼少期より甘えることが不得意だった彼女は、一見エドモンドに対しても冷ややかな態度で接しているように感じられる。けれど六年の時を経て、彼の前でだけは素直に弱音を吐けるようになった。
 強い意志の宿るロイヤルブルーの瞳がふにゃりと蕩けるその瞬間は、生涯死ぬまで自分だけのものだと、エドモンドは己の剣に固く誓っている。
「エドガーとリリは?」
 ケイティベルの口から紡がれたのは、可愛い甥と姪の名前。双子の兄エドガーとその妹リリは先月無事に一才の誕生日を迎えたばかりだ。
「あの子達のことなら心配要らないわ。オリビアがちゃんと面倒を見てくれているから」
「オリビアはしっかりしているものね、私と違って」
「まぁ、ケイティベルったら」
 口元に手を添え優雅に微笑むリリアンナを見て、ケイティベルも幸せそうに笑う。大好きな姉が自分の代わりに外国へ嫁いでしまったことを、彼女はずっと申し訳ないと感じていた。
 けれどそんな考えはお見通しで、リリアンナに愛のある説教をされたことは良い思い出なのかそうでないのか。身代わりなどとは思っていない、自分で決めたことだと、リリアンナはきっぱりと口にした。

――離れてしまうのは寂しいけれど、何があっても私は永遠に貴方達の姉だと忘れないで。

 その言葉通り、ルシフォードとケイティベルが不安を感じた時には必ず彼女から手紙や贈り物が届き、頻繁に会いに来てくれる。タイミングが良過ぎて、もしや姉は魔法でも使えるのではと少々本気で考えたほど。
 エドモンドとの仲も良好で、両国の交易も年々規模を拡大している。双子はリリアンナの評判をさらに高める為、吟遊詩人や演出家の手を借りて「弟妹想いの美しい姉」というテーマで曲や観劇を盛り立てた。
 そのおかげで悪役令嬢という嘘はすっかり消え去り、エトワナ家の仲良し三姉弟はセントラ国の象徴とし老輩から小さな子ども達にまで大人気。おまけにルシフォードはそれに便乗してエトワナ領産の宝石もちゃっかり売り捌いているのだから、若くして見事な経営手腕といえる。
 とこのようにぽっちゃり双子の暗躍ぶりは現在であり、民衆や王族すらもふかふかとした掌の上でくるくると踊っているのであった。
「オリバーも来ていないの?」
「いいえ、彼はエドモンドの護衛騎士として一緒に同行させたの」
「じゃあ、後で会えるのね!」
 ぱっと声を弾ませるケイティベルを見て、リリアンナは改めて彼女の懐の深さに感銘を受ける。六年という月日の中で、双子達はまるで四つ子かと思うほど仲良くなった。オリバー達はいまだに遠慮があるようにも見えるが、ルシフォードとケイティベルはそんなことお構いなしに二人を抱き締める。
 傷付いた心と体は少しずつ癒され、罪悪感はやがて親愛へと形を変える。さすが過酷な環境を子どもながらに生き抜いてきた彼らは、学ぶ場さえ整えてやれば誰よりも完璧にそれを吸収していった。
 数年前にエドモンドの外戚である侯爵家に養子として引き取られ、現在オリバーは近衛騎士団見習い筆頭、オリビアはリリアンナ付きの侍女としてそれは目覚ましい活躍を見せている。
 健康的で人間らしい生活を続けるうちに、オリバーの病もすっかり回復している。それを心から喜んだオリビアも、今では見違えるような美少女へと変貌した。
 痣のことを気味悪がる者がいないわけではないが、当の本人はまったく動じない。彼らが怒りを露わにするのは、エトワナ三姉弟を悪く言う輩が現れた時だけ。

――目には目を、歯には歯を。

 などと呟きながら、瞳孔をかっ!と見開く様は普段の穏やかな二人からは想像もつかない。おかげでリリアンナが危険に晒されることもなく、産まれた子ども達もすくすくと健康に育っている。
 愛され双子とは別の意味で、オリバーとオリビアも暗躍しているというわけだ。
「愛するエドガーとリリには、また今度会いに行くわ」
「ええ、そうしてちょうだい。きっと皆喜ぶから」
「オリビアにも、たくさんお土産を持って行くわね!」
 彼女が飛び跳ねるたびにドレスのドレープがゆらゆらと揺れ、リリアンナがそれをさり気なく整える。
「ほら、あまりはしゃぐと髪の宝石が取れてしまうでしょう?」
「ごめんなさい、お姉様」
「ふふっ。いつまで経っても可愛らしい子」
 このまま時間を気にせずお喋りに興じていたいところだが、そうもいかない。夫婦揃ってもう一度祝辞を述べると、愛らしい花嫁を美しい花婿へ任せその場から去っていった。
「本当に、見るたびに綺麗になっていくわ」
 無駄な肉のないすらりとした姉の後ろ姿を見ながら、ケイティベルはほうっと溜息を吐く。レオニルの隣に相応しいのは、彼女のような才色兼備の女性。ちらりと目に入った自身の手は、とても細いとは言えない。
「どうした?ケイティベル。何か不安なことが?」
 ほんの一瞬曇った彼女の表情に誰よりも早く気付いたのは、恋人から晴れて夫となったレオニル。彼の澄んだ瞳には、どんなに絶世の美女も決して映らない。
「いいえ。ただ幸せを噛み締めていただけよ」
 前向きで自己肯定感の高いケイティベルは、あまり他人を恨まない。それはたくさんの愛に包まれてきたおかげであり、目の前の夫も大いに一躍買っている。
「ありがとう、レオ!」
 長躯の彼を見上げながら、空色の瞳をきらきらと輝かせてケイティベルは破顔する。その威力たるや抜群の破壊力で、レオニルが立てた「今日は鼻血を出して服を汚さない」という誓いは、彼女の笑顔の前に脆くも崩れ去ってしまうのだった。
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