73 / 75
最終章「ぽっちゃり双子は暗躍する!」
5
しおりを挟む
「平気かい?ほら、顔をこっちへ向けて」
「……ええ、ごめんなさい」
新郎の流血に騒めく教会の裏庭にて、姉リリアンナもその二の舞にならないよう、人知れず堪えていた。エドモンドは慣れた様子で紺色のハンカチを彼女の鼻に当てると、人差し指で優しく鼻翼の辺りを抑える。
「以前会ったのは二ヶ月も前だったから、少し刺激が強過ぎたわ」
「しかもウェディングドレス姿だったしね」
「本当に、空から天使が舞い降りたのかと……!」
齢二十四になり、双子の母となり、王族の妻となった。普段滅多なことでは表情を崩さないリリアンナだが、やはり弟妹を異常に溺愛する姉心は健在のまま。
さすがに教会で流血するなど、そんな人間はいないだろうと彼女は必死に自重した。あのエドモンドでさえ懸命に涼しい顔を繕っていたのだから、自分が耐えねばどうするのだと。
「リリアンナ様、ご容体はいかがですか」
音もなく現れたのは、痣持ち双子の一人であるオリバー。現在は近衛騎士団所属、見習い筆頭として頭角を表している才人である。
昨年仲間を庇って負傷した彼は、顔に浮かぶ痣の上に刀傷まで負ってしまった。本人は「目立たなくなってちょうど良い」とけろりとしており、多くの団員から称賛を得た。
怖いもの知らずで仲間思い、十六の若さですぐに先陣を切ろうとするところは長所だが、彼を大切に思う妹オリビアやリリアンナ達からすれば短所でもある。
「必要とあらば担架を」
「大げさね、オリバー。私なら平気よ」
彼は自分を救ったリリアンナを女神化している節があり、どんな要望でも喜んで聞き入れる忠実な番犬だと周囲から揶揄われている。それはオリビアも同じで、うっとりとした視線で「命を賭して侍女職を全うします」と、物騒な物言いをするものだからよくリリアンナに叱られている。
――お母様やお姉様が守ってくださった尊い命を、決して粗末に扱ってはならないわ。
ぴしゃりと冷たい言い方だが、二人の胸にそれはそれはぐさりと刺さる。かつてルシフォードとケイティベルの暗殺を企てた自分達を尊んでくださるなんてと、涙を流しながら喜びに悶えた。
「……あまり私が言えることではないけれど、随分と変わっているわね」
エドモンド然りレオニル然り、愛情表現に偏りのあるものばかりが集まっている。側から見るとその筆頭はリリアンナなのだが、本人達にそれほど自覚はないようだった。
「ご入用の際はなんなりとお申し付けください」
恭しく頭を垂れるオリバーに、リリアンナは穏やかな溜息をひとつ落とした。
「今は私達しかいないから、そんな仰々しい物言いをする必要はないのよ」
「……しかし」
「立場は変わっても、関係性は変わらないわ」
僅かに微笑む彼女に視線をやるオリバーの瞳には、もじもじとした気恥ずかしさが見てとれる。思春期男子には、滅多にお目にかかれない彼女の笑みは少々刺激が強過ぎる。
「……仕事とか関係なく、普通に心配なので」
「ふふっ、ありがとうオリバー」
照れたように唇を尖らせながら口早にそう言うと、彼はくるりと踵を返してあっという間に姿を消した。
「エドモンドも、もう離して」
「……ああ、うん」
もはや日常過ぎて、彼に鼻を押さえられていた状態だったのをすっかり忘れていたリリアンナ。この状態でオリバーに説教めいたことを口にしたのかと、今さら頬が熱くなった。
「夜のパーティーまで、少し休みましょうか。明日はパレードもあるし、さすがに体力を温存しておかなければ」
「……そう、だよね」
愛する妻の前でだけ、エドモンドはめっぽう子どものようになる。先ほどまでぴっちりと整えられていた前髪も、今はしゅんと力無く垂れていた。
「……ええ、ごめんなさい」
新郎の流血に騒めく教会の裏庭にて、姉リリアンナもその二の舞にならないよう、人知れず堪えていた。エドモンドは慣れた様子で紺色のハンカチを彼女の鼻に当てると、人差し指で優しく鼻翼の辺りを抑える。
「以前会ったのは二ヶ月も前だったから、少し刺激が強過ぎたわ」
「しかもウェディングドレス姿だったしね」
「本当に、空から天使が舞い降りたのかと……!」
齢二十四になり、双子の母となり、王族の妻となった。普段滅多なことでは表情を崩さないリリアンナだが、やはり弟妹を異常に溺愛する姉心は健在のまま。
さすがに教会で流血するなど、そんな人間はいないだろうと彼女は必死に自重した。あのエドモンドでさえ懸命に涼しい顔を繕っていたのだから、自分が耐えねばどうするのだと。
「リリアンナ様、ご容体はいかがですか」
音もなく現れたのは、痣持ち双子の一人であるオリバー。現在は近衛騎士団所属、見習い筆頭として頭角を表している才人である。
昨年仲間を庇って負傷した彼は、顔に浮かぶ痣の上に刀傷まで負ってしまった。本人は「目立たなくなってちょうど良い」とけろりとしており、多くの団員から称賛を得た。
怖いもの知らずで仲間思い、十六の若さですぐに先陣を切ろうとするところは長所だが、彼を大切に思う妹オリビアやリリアンナ達からすれば短所でもある。
「必要とあらば担架を」
「大げさね、オリバー。私なら平気よ」
彼は自分を救ったリリアンナを女神化している節があり、どんな要望でも喜んで聞き入れる忠実な番犬だと周囲から揶揄われている。それはオリビアも同じで、うっとりとした視線で「命を賭して侍女職を全うします」と、物騒な物言いをするものだからよくリリアンナに叱られている。
――お母様やお姉様が守ってくださった尊い命を、決して粗末に扱ってはならないわ。
ぴしゃりと冷たい言い方だが、二人の胸にそれはそれはぐさりと刺さる。かつてルシフォードとケイティベルの暗殺を企てた自分達を尊んでくださるなんてと、涙を流しながら喜びに悶えた。
「……あまり私が言えることではないけれど、随分と変わっているわね」
エドモンド然りレオニル然り、愛情表現に偏りのあるものばかりが集まっている。側から見るとその筆頭はリリアンナなのだが、本人達にそれほど自覚はないようだった。
「ご入用の際はなんなりとお申し付けください」
恭しく頭を垂れるオリバーに、リリアンナは穏やかな溜息をひとつ落とした。
「今は私達しかいないから、そんな仰々しい物言いをする必要はないのよ」
「……しかし」
「立場は変わっても、関係性は変わらないわ」
僅かに微笑む彼女に視線をやるオリバーの瞳には、もじもじとした気恥ずかしさが見てとれる。思春期男子には、滅多にお目にかかれない彼女の笑みは少々刺激が強過ぎる。
「……仕事とか関係なく、普通に心配なので」
「ふふっ、ありがとうオリバー」
照れたように唇を尖らせながら口早にそう言うと、彼はくるりと踵を返してあっという間に姿を消した。
「エドモンドも、もう離して」
「……ああ、うん」
もはや日常過ぎて、彼に鼻を押さえられていた状態だったのをすっかり忘れていたリリアンナ。この状態でオリバーに説教めいたことを口にしたのかと、今さら頬が熱くなった。
「夜のパーティーまで、少し休みましょうか。明日はパレードもあるし、さすがに体力を温存しておかなければ」
「……そう、だよね」
愛する妻の前でだけ、エドモンドはめっぽう子どものようになる。先ほどまでぴっちりと整えられていた前髪も、今はしゅんと力無く垂れていた。
13
あなたにおすすめの小説
侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました
下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。
ご都合主義のSS。
お父様、キャラチェンジが激しくないですか。
小説家になろう様でも投稿しています。
突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
悪役令嬢ですが、ヒロインの恋を応援していたら婚約者に執着されています
窓辺ミナミ
ファンタジー
悪役令嬢の リディア・メイトランド に転生した私。
シナリオ通りなら、死ぬ運命。
だけど、ヒロインと騎士のストーリーが神エピソード! そのスチルを生で見たい!
騎士エンドを見学するべく、ヒロインの恋を応援します!
というわけで、私、悪役やりません!
来たるその日の為に、シナリオを改変し努力を重ねる日々。
あれれ、婚約者が何故か甘く見つめてきます……!
気付けば婚約者の王太子から溺愛されて……。
悪役令嬢だったはずのリディアと、彼女を愛してやまない執着系王子クリストファーの甘い恋物語。はじまりはじまり!
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
わたしにしか懐かない龍神の子供(?)を拾いました~可愛いんで育てたいと思います
あきた
ファンタジー
明治大正風味のファンタジー恋愛もの。
化物みたいな能力を持ったせいでいじめられていたキイロは、強引に知らない家へ嫁入りすることに。
所が嫁入り先は火事だし、なんか子供を拾ってしまうしで、友人宅へ一旦避難。
親もいなさそうだし子供は私が育てようかな、どうせすぐに離縁されるだろうし。
そう呑気に考えていたキイロ、ところが嫁ぎ先の夫はキイロが行方不明で発狂寸前。
実は夫になる『薄氷の君』と呼ばれる銀髪の軍人、やんごとなき御家柄のしかも軍でも出世頭。
おまけに超美形。その彼はキイロに夢中。どうやら過去になにかあったようなのだが。
そしてその彼は、怒ったらとんでもない存在になってしまって。
ぽっちゃり令嬢の異世界カフェ巡り~太っているからと婚約破棄されましたが番のモフモフ獣人がいるので貴方のことはどうでもいいです~
翡翠蓮
ファンタジー
幼い頃から王太子殿下の婚約者であることが決められ、厳しい教育を施されていたアイリス。王太子のアルヴィーンに初めて会ったとき、この世界が自分の読んでいた恋愛小説の中で、自分は主人公をいじめる悪役令嬢だということに気づく。自分が追放されないようにアルヴィーンと愛を育もうとするが、殿下のことを好きになれず、さらに自宅の料理長が作る料理が大量で、残さず食べろと両親に言われているうちにぶくぶくと太ってしまう。その上、両親はアルヴィーン以外の情報をアイリスに入れてほしくないがために、アイリスが学園以外の外を歩くことを禁止していた。そして十八歳の冬、小説と同じ時期に婚約破棄される。婚約破棄の理由は、アルヴィーンの『運命の番』である兎獣人、ミリアと出会ったから、そして……豚のように太っているから。「豚のような女と婚約するつもりはない」そう言われ学園を追い出され家も追い出されたが、アイリスは内心大喜びだった。これで……一人で外に出ることができて、異世界のカフェを巡ることができる!?しかも、泣きながらやっていた王太子妃教育もない!?カフェ巡りを繰り返しているうちに、『運命の番』である狼獣人の騎士団副団長に出会って……
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる