偽者に奪われた聖女の地位、なんとしても取り返さ……なくていっか! ~奪ってくれてありがとう。これから私は自由に生きます~

日之影ソラ

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 案内された応接室で、お茶とお菓子が用意された。

「すまないね。料理長は外に出ていて、こんなものしか出せない」
「いえ、ありがとうございます」

 この国が貧しいのは知っていたけど、王族もなのだろうか?
 王城の広さはスパーク王国と変わらない。
 ただ、働いている人が極端に少ないように見える。

「さて、話を聞かせてもらえないか?」
「そうですね……信じて頂けるかわかりませんが」

 私は話した。
 理解に苦しむ、本当の出来事を。
 話しながら自分でも思う。
 こんな話、誰が信じるのかと。

「そんなことがあったのか。ひどすぎるな……それがスパーク王国のやり方……」
「信じてくれるのですか? 今の話を」
「ん? 嘘だったのかい?」
「いえ、真実です」
「なら信じるさ。聖女が人を傷つける嘘をつくとは思えないし、俺は人を見る眼には自信があるんだ。君は嘘をついていないと思う」
「……」

 なんだろう?
 この人は、今まで出会った誰とも違う。
 話しているだけで、心が落ち着く。
 そういう声色?
 そういう口調?
 雰囲気に引き込まれるような……。

「じゃあ、君は行く当てがないのか」
「はい」
「そういうことなら、しばらくうちにいるのはどうだ?」
「え、いいんですか?」
「ああ、というより……いてほしい」

 殿下は改まったような表情をみせる。
 そして、頭を下げた。

「イリアス。国民を支えるため、この国の聖女になってくれないか?」
「――! 何を……」
「今の状況の君に、これを頼むのは卑怯だとは思う。だが、この国の代表としてお願いしたい! 君も知っていると思うが、この国は戦後長く苦しい状況だ。民たちは貧困に苦しみ、病が広がっても俺にはなにもできない……それがもどかしい」
「殿下……」

 この国にはまともな医者すらいないそうだ。
 荒れた土地が多く、作物を育てるのも大変で、人々は常に空腹と戦っている。
 それでも……。

「この国が好きで残ってくれている人たちに、どうにか応えたい。力を貸してほしい! もし願うなら、君の願いもすべて聞き入れる」
「す、すべて?」
「ああ、俺が叶えられる範囲の願いならすべてだ! 俺の全部を捧げても構わない」

 それは……王子が言っていいセリフじゃないですよ。
 私は呆れてしまった。
 これが国を、民を心から思う王子の姿だ。
 私が知っている王子は、偽者だったのかもしれない。

「わかりました」
「――! いいのか?」
「はい。私は聖女です。迷える人がいるなら救いの手を差し伸べる……それが役目ですから」

 そういうものだと教育された。
 言われた通りに、役目だから祈り続けた。
 初めてかもしれない。
 自分の意志で、役目を果たしたいと思うのは。

「ありがとう……」
「いえ、私も」

 おかげで気づいたことがある。
 私は聖女だ。
 この事実は変わらない。
 困っている人を放っておけず、迷っていたら手を差し伸べる。
 それが当たり前だと、魂に刻まれている。

 嫌じゃないんだ。
 どうやら私は、聖女として祈りを捧げ、誰かを助けられることが……。
 嬉しいと思っていたらしい。

「よろしくお願いします。殿下」
「ああ、よろしく頼むよ」

 私たちは握手を交わす。
 出会いは偶然、しかし必然かもしれない。
 この出会いが後に、私の運命を大きく動かすことになることを……今の私は知らない。

 ただ、予感はあった。

 この国が、この街が、私にとって故郷よりも長い時間を過ごす場所になると。
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