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9.失って初めて【追放側】
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ルンの祈りはアンデッドを浄化できる。
死霊も、ゾンビも例外なく光に包まれれば天に還る。
元ドラゴンとは言え、リンドブルムもアンデッドモンスターの一体。
彼女の祈りからは逃れならない。
――はずだった。
「あ、あれ?」
「おいルン……効いてないぞ」
「何で? え、どうして効かないの?」
祈りの光に包まれても、リンドブルムは浄化されない。
アンデッドであれば有効な攻撃手段だったにも関わらず、一切のダメージを感じさせない。
リンドブルムは朽ちた翼を広げ、彼らを威嚇する。
「冗談だろ? ちゃんと祈ったのかよ!」
「祈ったわ! ワタシが出せる最高の祈りを捧げたわよ。それなのに……」
リンドブルムには効いていない。
否、効いてはいる。
彼女たちは気付いていない様子だが、リンドブルムにも浄化の力は有効だった。
しかし、彼女たちは知らない。
リンドブルムがただのアンデッドではないことを。
多重魂アンデッド。
それがリンドブルムの正確な分類。
簡単に言うと、リンドブルムには複数の魂が宿っている。
主となるのは朽ちたドラゴン。
そこに複数の魂、つまり屍が集まって誕生したのが、地を這う竜の成れの果て。
ルンの祈りは有効だったが、表面の屍を浄化するばかりで、本体であるドラゴンまでは届いていなかった。
加えてこの地は屍の山。
浄化されようと、次から次へと補充できてしまう。
主であるドラゴンの屍に攻撃を届かせない限り、リンドブルムは無敵だ。
「くそっ、だったら魔法だ! ローラ!」
「あたしの出番ね」
魔法使いのローラが前に出る。
アンデッドに有効な攻撃は、祈りだけではない。
炎魔法による攻撃なら、腐った肉体ごと焼き尽くしてしまえる。
「ヘルフレア!」
魔法陣が展開され、燃え盛る業火の渦が放たれる。
ヘルフレアは炎魔法の中でも高威力かつ広範囲。
ローラは優れた魔法使いだったから、平然と高度な魔法が使える。
彼女の存在が、ロイたちにとってピンチを覆してくれる希望だったし、ローラ自身もそれを理解していた。
だが、今回ばかりはそう簡単にいかない。
放たれた炎はリンドブルムに届かない。
地中から伸びた触手によって阻まれてしまった。
「何よあの気持ち悪いの!」
「あれもリンドブルムの一部なのか? 炎が効いていないぞ」
地中から伸びる触手は、リンドブルムの腹から伸びていた。
見た目はドラゴンのままだが、ドラゴンだと思って戦うと理解に追いつかない。
さらに触手が地面から湧き出て、ロイたちに襲い掛かる。
「ゴルドフ!」
「任せてくれ」
ゴルドフが盾を構えて応戦する。
彼の盾は、かつて十メートルを超える巨人の一撃をも防いだことがある。
守りにおいて絶対の自信を持つ彼は、ロイたちを守るために立ちふさがる。
「ローラ、もう一回燃やせないのか?」
「無理よ。触手が邪魔で当てられない」
「だったらルン! 触手を浄化して退かしてくれ!」
「もうやってる。やってるけど……」
触手もリンドブルムの一部。
彼女の祈りでは、表面の屍を削るばかり。
完全に浄化させるまでには足りていなかった。
悔しそうな表情を浮かべるルンに、ロイはきつく当たる。
「何やってんだよ! お前が浄化できないんじゃ話にならないだろーが!」
「さっきから何よ! ワタシに文句を言う前に自分が戦ったどうなのかしら?」
「無理に決まってるだろ? こっちは剣士なんだ。アンデッドに有効な攻撃が出来るのは、お前とローラだけなんだよ!」
「なら文句言わないでもらえるかしら?」
「ちょっと二人ともうるさい」
モンスターを目の前にしてギスギスし出すロイたち。
その間もゴルドフが必死に攻撃から三人を守っていたが、徐々に限界が近づいていた。
「すまないがそろそろ限界だ。ロイ、何かいい案はないのか?」
「は? もうって早すぎるだろ。いつものお前なら……」
ここでロイは思い出す。
かつてゴルドフが巨人の一撃を防いだ時、シオンが防御強化を付与していたことを。
彼の不在が、小さな綻びを生んでいる事実に、わずかな焦りを感じ始める。
そして、同じことをゴルドフも感じていた。
彼の場合は特に、自分が持ちこたえられないことを実感している。
「いや、そんなはずない。あんなおっさんいなくても俺たちは戦える」
「だがこのままでは……」
もしも……もしもの話をする。
この場にシオンがいたのなら、状況は変わっていたかもしれない。
彼の付与でロイの剣にアンデッド特攻を付与すれば、触手を切り裂くことが出来る。
ルンの祈りと、ローラの魔法も強化出来ていたら。
ゴルドフも前線を維持し続けられたはずだ。
しかし、彼はこの場にいない。
全員が意見を一致させ、もう必要ないと切り捨てたからだ。
「まだだ……まだ負けてない!」
ロイが叫んだ。
自分は間違っていないと証明するため、彼は剣を抜く。
だが、彼の剣には何も付与されていない。
付与されていたとしても、術者が一定の距離にいなければその効果は発揮されない。
ただの剣では、アンデッドを倒せない。
「くそっ、くそ!」
がむしゃらに切りつけても、触手の壁は破れない。
ルンの祈りは届かず、ローラの魔法も防がれる。
ゴルドフの盾はボロボロになり、彼自身も膝をついていた。
もはや勝敗は決したのだ。
そうして、彼らは逃げ帰る。
無様にも敵に背を向け、こんなはずじゃなかったと愚痴を漏らしながら。
失って初めて気づくことがある。
自分たちがどうして強くなれたのか。
その理由を知った時には……もう手遅れだ。
死霊も、ゾンビも例外なく光に包まれれば天に還る。
元ドラゴンとは言え、リンドブルムもアンデッドモンスターの一体。
彼女の祈りからは逃れならない。
――はずだった。
「あ、あれ?」
「おいルン……効いてないぞ」
「何で? え、どうして効かないの?」
祈りの光に包まれても、リンドブルムは浄化されない。
アンデッドであれば有効な攻撃手段だったにも関わらず、一切のダメージを感じさせない。
リンドブルムは朽ちた翼を広げ、彼らを威嚇する。
「冗談だろ? ちゃんと祈ったのかよ!」
「祈ったわ! ワタシが出せる最高の祈りを捧げたわよ。それなのに……」
リンドブルムには効いていない。
否、効いてはいる。
彼女たちは気付いていない様子だが、リンドブルムにも浄化の力は有効だった。
しかし、彼女たちは知らない。
リンドブルムがただのアンデッドではないことを。
多重魂アンデッド。
それがリンドブルムの正確な分類。
簡単に言うと、リンドブルムには複数の魂が宿っている。
主となるのは朽ちたドラゴン。
そこに複数の魂、つまり屍が集まって誕生したのが、地を這う竜の成れの果て。
ルンの祈りは有効だったが、表面の屍を浄化するばかりで、本体であるドラゴンまでは届いていなかった。
加えてこの地は屍の山。
浄化されようと、次から次へと補充できてしまう。
主であるドラゴンの屍に攻撃を届かせない限り、リンドブルムは無敵だ。
「くそっ、だったら魔法だ! ローラ!」
「あたしの出番ね」
魔法使いのローラが前に出る。
アンデッドに有効な攻撃は、祈りだけではない。
炎魔法による攻撃なら、腐った肉体ごと焼き尽くしてしまえる。
「ヘルフレア!」
魔法陣が展開され、燃え盛る業火の渦が放たれる。
ヘルフレアは炎魔法の中でも高威力かつ広範囲。
ローラは優れた魔法使いだったから、平然と高度な魔法が使える。
彼女の存在が、ロイたちにとってピンチを覆してくれる希望だったし、ローラ自身もそれを理解していた。
だが、今回ばかりはそう簡単にいかない。
放たれた炎はリンドブルムに届かない。
地中から伸びた触手によって阻まれてしまった。
「何よあの気持ち悪いの!」
「あれもリンドブルムの一部なのか? 炎が効いていないぞ」
地中から伸びる触手は、リンドブルムの腹から伸びていた。
見た目はドラゴンのままだが、ドラゴンだと思って戦うと理解に追いつかない。
さらに触手が地面から湧き出て、ロイたちに襲い掛かる。
「ゴルドフ!」
「任せてくれ」
ゴルドフが盾を構えて応戦する。
彼の盾は、かつて十メートルを超える巨人の一撃をも防いだことがある。
守りにおいて絶対の自信を持つ彼は、ロイたちを守るために立ちふさがる。
「ローラ、もう一回燃やせないのか?」
「無理よ。触手が邪魔で当てられない」
「だったらルン! 触手を浄化して退かしてくれ!」
「もうやってる。やってるけど……」
触手もリンドブルムの一部。
彼女の祈りでは、表面の屍を削るばかり。
完全に浄化させるまでには足りていなかった。
悔しそうな表情を浮かべるルンに、ロイはきつく当たる。
「何やってんだよ! お前が浄化できないんじゃ話にならないだろーが!」
「さっきから何よ! ワタシに文句を言う前に自分が戦ったどうなのかしら?」
「無理に決まってるだろ? こっちは剣士なんだ。アンデッドに有効な攻撃が出来るのは、お前とローラだけなんだよ!」
「なら文句言わないでもらえるかしら?」
「ちょっと二人ともうるさい」
モンスターを目の前にしてギスギスし出すロイたち。
その間もゴルドフが必死に攻撃から三人を守っていたが、徐々に限界が近づいていた。
「すまないがそろそろ限界だ。ロイ、何かいい案はないのか?」
「は? もうって早すぎるだろ。いつものお前なら……」
ここでロイは思い出す。
かつてゴルドフが巨人の一撃を防いだ時、シオンが防御強化を付与していたことを。
彼の不在が、小さな綻びを生んでいる事実に、わずかな焦りを感じ始める。
そして、同じことをゴルドフも感じていた。
彼の場合は特に、自分が持ちこたえられないことを実感している。
「いや、そんなはずない。あんなおっさんいなくても俺たちは戦える」
「だがこのままでは……」
もしも……もしもの話をする。
この場にシオンがいたのなら、状況は変わっていたかもしれない。
彼の付与でロイの剣にアンデッド特攻を付与すれば、触手を切り裂くことが出来る。
ルンの祈りと、ローラの魔法も強化出来ていたら。
ゴルドフも前線を維持し続けられたはずだ。
しかし、彼はこの場にいない。
全員が意見を一致させ、もう必要ないと切り捨てたからだ。
「まだだ……まだ負けてない!」
ロイが叫んだ。
自分は間違っていないと証明するため、彼は剣を抜く。
だが、彼の剣には何も付与されていない。
付与されていたとしても、術者が一定の距離にいなければその効果は発揮されない。
ただの剣では、アンデッドを倒せない。
「くそっ、くそ!」
がむしゃらに切りつけても、触手の壁は破れない。
ルンの祈りは届かず、ローラの魔法も防がれる。
ゴルドフの盾はボロボロになり、彼自身も膝をついていた。
もはや勝敗は決したのだ。
そうして、彼らは逃げ帰る。
無様にも敵に背を向け、こんなはずじゃなかったと愚痴を漏らしながら。
失って初めて気づくことがある。
自分たちがどうして強くなれたのか。
その理由を知った時には……もう手遅れだ。
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