おっさん付与術師の冒険指導 ~パーティーを追放された俺は、ギルドに頼まれて新米冒険者のアドバイザーをすることになりました~

日之影ソラ

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8.リンドブルム【追放側】

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 シオンを追放したロイたち。
 彼らはその後、クエストを受注してギルド会館を後にした。
 受注したクエストは【リンドブルム討伐】。
 指定エリアは戦士の墓場と呼ばれている荒野だ。
 
 戦士の墓場は、かつて魔王軍との大規模戦闘が起こった場所。
 激しい戦闘の末、のどかな草原だったエリアは、雑草すら育たない枯れた大地に変貌してしまった。
 そして、戦いは魔王軍の勝利に終わり、多くの人々が命を落としてしまった。
 未練を残した戦士の魂は、今でも荒野に漂い、一部はアンデッドと化してさまよっている。

「出来れば行きたくないわね。あそこ、湿っぽくて最悪よ」
「ワタシも同感ね。死霊のたまり場というだけでも、背筋が寒くなるわ」
「仕方あるまい。依頼は完遂せねば、Sランクの名に恥だからな」
「まぁなるべく早く終わらせちまおーぜ。なーに、俺たちなら余裕だろ」

 自信満々に言い切ったロイ。
 他の三人も、彼と意見を同じくしている様子だった。
 彼らは意気揚々と足を進め、北の門を潜った。
 戦士の墓場までは距離がある。
 門前で馬車を借りて、途中までは移動する。
 
 馬車を走らせること一時間。
 彼らは指定されたエリアの近くに到着した。
 エリアに入る直前で停車し、安全そうな場所を探す。
 見つけた岩と木の陰に馬車を停め、モンスター除けの簡易結界を張れば、馬車の安全は確保できる。
 簡易結界はテントの張り方と似ていて、四か所に杭を打ち、加工用に杭同士を紐でつなげる。
 その作業は男の二人、ロイとゴルドフが担当していた。

「少々面倒ではあるな」
「だよな~ 今までこういうのって、全部おっさんに任せてたし」
「うむ。そう考えると、中々役立っていたということか」
「まぁな、雑用係としてだけど」

 クスクスと笑いながら悪口を言う二人。
 女性二人がまだかと待っている中、手間取りながらも準備が完了した。

「よし、終わったな」
「ちょっと遅いわよ」
「仕方ないだろ~ こんな雑用に慣れてないんだから」

 ブツブツと文句を言われながらも、準備の整った彼は移動を始める。
 戦士の墓場は目と鼻の先。
 適度に生えた草や木が、進んでいくとパッタリなくなっていく。
 明らかに土の色が変わって、空気が重くなる。
 ここは誰もが避けて通る場所で、出来るなら近づきたくないと思う。
 その気持ちは、一度その眼で確かめれば誰でも理解できるだろう。

「相変わらず不気味だな」
「ああ。以前に来た時と同じだ」
「何か臭いし……」
「刺激臭……いえ、死臭ですね。ワタシの加護をかけてありますけど、長くいると影響が出るかもしれません」

 戦士の墓場全域には、黒く淀んだ霧がかかっている。
 この霧は枯れてしまった大地から発生したもので、生物には有毒なガスだ。
 僧侶であるルンの加護がなければ、人間でも数分で眩暈や吐き気を催し、最悪の場合は死に至る。
 その影響で、アンデッド以外のモンスターは生息していない。
 ある意味、道中は安全だ。

「出たな」
「アンデッド……死した騎士か」

 とは言え、モンスターがいないわけではない。
 この地には大量の死霊が彷徨っている。
 つまり、この地にはそれだけの死体が埋まっているということ。
 死体はアンデッドと化して動き出し、生者に襲い掛かる。

 彼らの前に現れたのはアンデッドナイト。
 戦士の死体がアンデッドとなったモンスターだ。

「ルン、頼むぞ」
「わかっているわ」

 アンデッドに通常の攻撃は効かない。
 物理攻撃はもちろん、弱点以外の魔法攻撃を受けても、時間が経てば再生する。
 効果のある攻撃は炎属性の魔法、もしくは僧侶や神官の祈りのみ。

「迷える悲しい魂よ、天へ還りなさい」

 僧侶であるルンは、アンデッドを浄化する祈りを唱えた。
 彼女から発せられる白い光が、アンデッドを包み込み、魂を天へと返す。
 アンデッドナイトは鎧だけを残して消滅した。

「さすがだな」
「このくらいはなんてことないわ」
「頼もしいぜ。その調子で、リンドブルムもちゃちゃっと浄化してくれ」
「ええ、任せて」

 ルンも乗り気にそう答えた。
 この時の彼らは、案外早く終わるかもしれない……なんてことを思っていた。
 だが、そう簡単には終わらない。

 彼らは奥地へと進んでいく。
 現れるアンデッドは、ルンの祈りとローラの炎魔法で退けていく。
 順調に進んでいったことで、彼らは自信をつけていった。
 余裕が慢心へと変化しきった頃、彼らはたどり着く。

 竜が眠る墓場へ――

 リンドブルム。
 死したドラゴンのなれの果て。
 生前は空高く飛びたてた翼も、今は朽ちて使えない。
 睨むだけで弱者を怯えさせた両目は、つぶれて黒い液体が流れ出る。
 腐り朽ちた身体は、小さな虫がたかっている。
 偉大なドラゴンは地を這う屍となっていた。
 それでも、ドラゴンであることに変わりはない。

 リンドブルムは激しい咆哮を繰り出す。
 常人なら怖気づいてしまう迫力に、彼らは動じない。
 恐怖を感じながらも、自分たちなら勝てるという自信が身体を動かす。

「ルン!」
「ええ」

 戦闘開始直後、ルンが祈りを開始した。
 相手はアンデッドのドラゴンだ。
 彼女も気合を入れ、今出せる最大の祈りを唱えようとしている。
 時間を稼ぐため、前で盾を構えるゴルドフ。

 そして――

「主よ……我々は願い奉る。悪しき魂に裁きを……汚れた魂に救いを与え給え」

 彼女の祈りが、光となってリンドブルムを包む。
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