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17.最強と呼ばせた男
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付与術師は不遇職と呼ばれている。
その理由は大きく二つ。
一つは、基本的に一人では戦えないということ。
戦闘力が低い支援職の中でも、極めて攻撃の手段がない。
そしてもう一つは、付与をする最低条件が接触であること。
直接触れて、武器にのせて、魔法にのせて。
方法こそ多く見えるが、どれも当てなければ効果を発揮できない。
味方への付与は事前に済ませておくのがセオリーだ。
だから、戦闘中はほとんど役に立てない。
が、俺は違う。
俺の付与は、言葉一つで効果を発揮する。
味方への強化はもちろん、相手への弱体効果すら言葉一つ。
ただしこれは、付与術師としての能力ではない。
ユニークスキル――『呪言使い』。
言葉に魔力をのせ、強制力を高めることで相手を支配できるスキル。
止まれと言えば止まり、動けと言えば動く。
死ねと言えば……死ぬ。
強い言葉を使う分、魔力消費と肉体への反動は大きくなるが、弱いモンスターなら一言で殺せる。
まさに呪いの言葉。
かつてこの力は、魔王の動きすら封じたほどだ。
「【動くな】」
トロール程度のモンスターなら、いともたやすく動きを封じられる。
呪言の効果でトロールはピタリと動きを止めた。
その間に、俺は彼女たちのほうを振りむく。
怪我はしているようだが、命に別状はなさそうだ。
ほっと胸をなでおろし、優しく微笑みかける。
「大丈夫だったか?」
俺がそう言うと、三人の瞳からは一斉に涙があふれ出た。
恐怖に負けじと堪えていた緊張が、今の言葉で解けたのだろう。
三人の後ろには、倒れた男性の姿がある。
どうして逃げなかったのか、なんて聞く必要はない。
「ミルア、ステラ、ソフィア……よく頑張ったな」
格上の相手に善戦し、戦えない冒険者を守り抜いたんだ。
以前に俺は、ピンチのときは自分の命を優先しろと教えた。
その教えを破ったのは事実だし、説教は必要かもしれない。
だけど、それは今じゃない。
「よく頑張ったな」
むしろほめてやるべきだ。
生きているのだから、正しい行いをしたのだから。
俺は彼女たちを誇りに思う。
「ぅ……シオン」
俺の言葉を聞いて、涙はもっと溢れてしまった。
特にステラなんかは、鼻水まで垂らしてぐちゃぐちゃだ。
怖いからなのか、嬉しいからなのか。
その涙はどっちなんだろう。
いや、きっと両方なんだろうな。
俺は小さく笑い、腰のバックからポーションを四本取り出す。
「これを使え。一本は倒れている人に」
「……はい!」
ミルアが涙をぬぐい、ポーションを受け取って返事をした。
二人もポーションを受け取り、ごくりと飲み干す。
これで傷は回復するし、時間が経てば魔力も戻るだろう。
さて――
「後は俺に任せておけ」
俺はトロールに目を向ける。
呪言の強制力は続いており、一切の動きは封じられたままだ。
視認できる数は八体。
道中に周囲の気配を辿ったが、他にトロールはいない。
ここに残っている八匹を倒せば終わる。
一歩前に出る。
それだけでトロールは怯えた表情を見せる。
モンスターの中でも、トロールは知性を持ち合わせている方だ。
奴らは理解している。
自分たちでは俺に勝てないことも、これから死ぬということも。
そのことに怯え、恐怖している。
「まったく、随分と勝手してくれたなぁ」
この世界は弱肉強食だ。
負けた者が食われ、殺されるのは仕方がない。
「何人食った? どうしてこんな浅い場所に出てきた?」
冒険者もモンスターを狩って生計を立てている。
狩る側に立つのなら、同時に狩られる覚悟も持っておくべきだ。
「いや、そんなことどうでもいいか」
それでも、腹が立ってしまう。
自然のルールも、冒険者の立ち位置も理解した上で――
「よくもこいつらを傷つけたな」
許せないと思ってしまう。
「【潰れろ】」
呪いの言葉がトロールの耳に入る。
直後、トロールは上から岩でも降って来たように押しつぶされた。
一瞬で、一斉に、ぐちゃぐちゃになった。
俺は咳ばらいをして、喉の具体を確かめる。
「久々にやったからかな? 喉が痛い」
その頃にはトロールの死体は消滅し、薄緑色の結晶が転がっていた。
一度に八体に呪言を使うと、魔力消費だけではなく喉へもダメージがいく。
場合によっては喉が潰れることもある。
ただ、そのデメリットを差し引いても、強力なスキルであることは変わりない。
俺の力は異端だ。
だから、一般人は俺のことを恐れていたよ。
特に最初の頃なんて、仲間以外みんな俺のことを避けていた。
まぁ実際、悪魔より悪魔みたいな力だからな。
「ふぅ……やっぱり良い気分じゃないな、これ」
そういう理由もあって、俺はこのスキルが嫌いだ。
しかし、それで救える命は多い。
嫌いでも、嫌われようとも、誰かを助けられるのなら立派な力だ。
少なくとも今は、そう思えるようになっている。
その理由は大きく二つ。
一つは、基本的に一人では戦えないということ。
戦闘力が低い支援職の中でも、極めて攻撃の手段がない。
そしてもう一つは、付与をする最低条件が接触であること。
直接触れて、武器にのせて、魔法にのせて。
方法こそ多く見えるが、どれも当てなければ効果を発揮できない。
味方への付与は事前に済ませておくのがセオリーだ。
だから、戦闘中はほとんど役に立てない。
が、俺は違う。
俺の付与は、言葉一つで効果を発揮する。
味方への強化はもちろん、相手への弱体効果すら言葉一つ。
ただしこれは、付与術師としての能力ではない。
ユニークスキル――『呪言使い』。
言葉に魔力をのせ、強制力を高めることで相手を支配できるスキル。
止まれと言えば止まり、動けと言えば動く。
死ねと言えば……死ぬ。
強い言葉を使う分、魔力消費と肉体への反動は大きくなるが、弱いモンスターなら一言で殺せる。
まさに呪いの言葉。
かつてこの力は、魔王の動きすら封じたほどだ。
「【動くな】」
トロール程度のモンスターなら、いともたやすく動きを封じられる。
呪言の効果でトロールはピタリと動きを止めた。
その間に、俺は彼女たちのほうを振りむく。
怪我はしているようだが、命に別状はなさそうだ。
ほっと胸をなでおろし、優しく微笑みかける。
「大丈夫だったか?」
俺がそう言うと、三人の瞳からは一斉に涙があふれ出た。
恐怖に負けじと堪えていた緊張が、今の言葉で解けたのだろう。
三人の後ろには、倒れた男性の姿がある。
どうして逃げなかったのか、なんて聞く必要はない。
「ミルア、ステラ、ソフィア……よく頑張ったな」
格上の相手に善戦し、戦えない冒険者を守り抜いたんだ。
以前に俺は、ピンチのときは自分の命を優先しろと教えた。
その教えを破ったのは事実だし、説教は必要かもしれない。
だけど、それは今じゃない。
「よく頑張ったな」
むしろほめてやるべきだ。
生きているのだから、正しい行いをしたのだから。
俺は彼女たちを誇りに思う。
「ぅ……シオン」
俺の言葉を聞いて、涙はもっと溢れてしまった。
特にステラなんかは、鼻水まで垂らしてぐちゃぐちゃだ。
怖いからなのか、嬉しいからなのか。
その涙はどっちなんだろう。
いや、きっと両方なんだろうな。
俺は小さく笑い、腰のバックからポーションを四本取り出す。
「これを使え。一本は倒れている人に」
「……はい!」
ミルアが涙をぬぐい、ポーションを受け取って返事をした。
二人もポーションを受け取り、ごくりと飲み干す。
これで傷は回復するし、時間が経てば魔力も戻るだろう。
さて――
「後は俺に任せておけ」
俺はトロールに目を向ける。
呪言の強制力は続いており、一切の動きは封じられたままだ。
視認できる数は八体。
道中に周囲の気配を辿ったが、他にトロールはいない。
ここに残っている八匹を倒せば終わる。
一歩前に出る。
それだけでトロールは怯えた表情を見せる。
モンスターの中でも、トロールは知性を持ち合わせている方だ。
奴らは理解している。
自分たちでは俺に勝てないことも、これから死ぬということも。
そのことに怯え、恐怖している。
「まったく、随分と勝手してくれたなぁ」
この世界は弱肉強食だ。
負けた者が食われ、殺されるのは仕方がない。
「何人食った? どうしてこんな浅い場所に出てきた?」
冒険者もモンスターを狩って生計を立てている。
狩る側に立つのなら、同時に狩られる覚悟も持っておくべきだ。
「いや、そんなことどうでもいいか」
それでも、腹が立ってしまう。
自然のルールも、冒険者の立ち位置も理解した上で――
「よくもこいつらを傷つけたな」
許せないと思ってしまう。
「【潰れろ】」
呪いの言葉がトロールの耳に入る。
直後、トロールは上から岩でも降って来たように押しつぶされた。
一瞬で、一斉に、ぐちゃぐちゃになった。
俺は咳ばらいをして、喉の具体を確かめる。
「久々にやったからかな? 喉が痛い」
その頃にはトロールの死体は消滅し、薄緑色の結晶が転がっていた。
一度に八体に呪言を使うと、魔力消費だけではなく喉へもダメージがいく。
場合によっては喉が潰れることもある。
ただ、そのデメリットを差し引いても、強力なスキルであることは変わりない。
俺の力は異端だ。
だから、一般人は俺のことを恐れていたよ。
特に最初の頃なんて、仲間以外みんな俺のことを避けていた。
まぁ実際、悪魔より悪魔みたいな力だからな。
「ふぅ……やっぱり良い気分じゃないな、これ」
そういう理由もあって、俺はこのスキルが嫌いだ。
しかし、それで救える命は多い。
嫌いでも、嫌われようとも、誰かを助けられるのなら立派な力だ。
少なくとも今は、そう思えるようになっている。
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