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9.ようやく告げられる
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「気付いていると思うが。ずっと、昔から好きだった。好きな男はいないと言っていたよな。だったら試しでいいから付き合って欲しい」
突然晴輝からそう告げられたのは大学四年生の秋の終わりごろだった。とうとう、というか漸くと言うか。彼がなにか焦りを感じているようにも思えた。
またしても同じ大学から多数が就職している、地元では有名なそこそこ大きな企業に内定が決まった。そのうちの何人かでお祝いの食事会をして、もちろん、というかやっぱりというか、その何人かに晴輝と凛香が含まれていた。中学校から考えてかれこれ十年くらいの付き合いになるし、同じ会社に就職となればどちらかが辞めない限りそれはずっと続いていくのだろう。それは互いのライフスタイルにも関わってくる。晴輝がこれから先、誰かと付き合って結婚するのを近くで見ないといけない、ということだ。そう考えると、チクリと胸が苦しくなる。これはいつからかレベッカがクライヴに抱いていた気持ちと同じだと、とっくに気付いていた。
もう今となってはレベッカの記憶というのは、昔何度も見た映画のような感覚だ。いつでも場面ごとに思い出しては感情移入してしまうけれど、今の自分とは別物だと考えられる。未だに夢にも見るけれど、エルバートだって好きでもない政略結婚の相手が高圧的な令嬢より、自分を慕ってくれる可愛い女性のほうに靡くのも無理はないと思えた。少しずつ冷静に分析できるようになってきたのは、レベッカの物語は終わりを迎え、完全な当事者ではなくなったからかもしれない。
それとは別に晴輝に対して、もしかしてクライヴなのではないかと期待してしまうこともあって。なんせ晴輝との空気感は心地よくて、懐かしさすらある。けれども辺境に連れて行き、人生を奪ったも同然の主人が今世までも彼を縛り付けるなんて、という気持ちが大きい。それでも今の凛香たちならばなんの障害もなく繋がっていられる。例えそれが友情だとしても。
――そんな最中の告白。
「これまでは殆どが対等な相手に牽制をするだけで済んだが、これから先は上の立場の人間も出てくる。太刀打ちできなくなる前に関係を確かなものにしたい」
「あ、えっと……」
晴輝はいつになく真剣な表情をしている。クライヴの顔は未だに思い出せないけれど、彼が柔和な空気を纏っていたのに対して、晴輝は切れ長の瞳も相まっていつも表情が硬くシャープな印象だ。決して似てはいないはず。それなのに、あの日、辺境に移住するレベッカに連れてって欲しいと懇願してきた彼を彷彿とさせた。そんなクライヴにレベッカは弱かったから、例え告白に有無を言わせない強引さがあっても、凛香が突っ撥ねられるはずがない。それにもう既に絆されていた。これまでの日々で晴輝が凛香を大切に思ってくれていることはひしひしと感じられていたから。
ドキドキと高鳴る胸の内は、照れくささよりも嬉しさが上回っている。 彼に惹かれ始めていたところに、告白されたのだから。
「これから意識してもらえるようずっと精進しつづける。だから俺を選んで欲しい」
勢いに押された凛香の様子に気付いたのか、晴輝はさらに言い募った。表情だけじゃなくて口調までかたい。が、いつの間にか両手を握られているから逃げ出すことさえ封じられた気がする。これはまさかの『イエス』か『はい』以外、選択肢にないのでは?
食事会も終わり、凛香の家まで送ってくれるという晴輝の好意に甘えて二人きりだったし、街頭が少ない夜道で暗かったのが幸いだ。顔は絶対真っ赤になっている。 皆の前でされていたら、と思とさらに居たたまれなくなるが、凛香が嫌がることを長年の付き合いで晴輝はしないと分かっている。だからといって恥ずかしくないわけではないのだけれど。羞恥のせいではなく、どうしてだか晴輝の手の感触に何故か泣きそうになる。知り合って随分経つが、初めて手を握ったというのに。
今の凛香にとって晴輝の告白の返事は、
「うん。よろしくお願いします」
これ以外になかった。緊張からか声が小さくなってしまったのだが、静かな場所で二人きりとあって、しっかりと届いたらしい。
「……わっぷ」
突然抱きしめられて間抜けな声が漏れる。思わず涙がこぼれてしまったのは、晴輝の体型がクライヴにとても似ていたからだろうか。いや、でもレベッカはクライヴと抱きしめ合ったことなど一度もない。そんな場面があれば流石に覚えているだろう。ではこの覚えのある感触は何なのか?
確認したくて、恐る恐る晴輝の背に手を伸ばせば、さらに強く抱きしめられた。でもこの胸に宿っている愛おしさは、凛香が感じているものかレベッカのものなのか、いっぱいいっぱいで分からない。けれど、あまりにも涙が止まらなかった。
「い、嫌だっただろうか? でも、もうなかったことにしたくない。どうか頼む……」
それに気づいた晴輝が今までにないくらい慌てて、誤解を解こうとするも喉が引き攣って言葉にならない。さらにオロオロとする晴輝の姿に、吹き出してしまったお陰で、断ったわけではないことに気付いてくれたらしい。
「……えっと、これからもよろしくね」
晴輝の胸の中でそう呟けば、再び抱きしめられて、凛香のこめかみ辺りに彼が何度も頷いた感触だけがあった。
突然晴輝からそう告げられたのは大学四年生の秋の終わりごろだった。とうとう、というか漸くと言うか。彼がなにか焦りを感じているようにも思えた。
またしても同じ大学から多数が就職している、地元では有名なそこそこ大きな企業に内定が決まった。そのうちの何人かでお祝いの食事会をして、もちろん、というかやっぱりというか、その何人かに晴輝と凛香が含まれていた。中学校から考えてかれこれ十年くらいの付き合いになるし、同じ会社に就職となればどちらかが辞めない限りそれはずっと続いていくのだろう。それは互いのライフスタイルにも関わってくる。晴輝がこれから先、誰かと付き合って結婚するのを近くで見ないといけない、ということだ。そう考えると、チクリと胸が苦しくなる。これはいつからかレベッカがクライヴに抱いていた気持ちと同じだと、とっくに気付いていた。
もう今となってはレベッカの記憶というのは、昔何度も見た映画のような感覚だ。いつでも場面ごとに思い出しては感情移入してしまうけれど、今の自分とは別物だと考えられる。未だに夢にも見るけれど、エルバートだって好きでもない政略結婚の相手が高圧的な令嬢より、自分を慕ってくれる可愛い女性のほうに靡くのも無理はないと思えた。少しずつ冷静に分析できるようになってきたのは、レベッカの物語は終わりを迎え、完全な当事者ではなくなったからかもしれない。
それとは別に晴輝に対して、もしかしてクライヴなのではないかと期待してしまうこともあって。なんせ晴輝との空気感は心地よくて、懐かしさすらある。けれども辺境に連れて行き、人生を奪ったも同然の主人が今世までも彼を縛り付けるなんて、という気持ちが大きい。それでも今の凛香たちならばなんの障害もなく繋がっていられる。例えそれが友情だとしても。
――そんな最中の告白。
「これまでは殆どが対等な相手に牽制をするだけで済んだが、これから先は上の立場の人間も出てくる。太刀打ちできなくなる前に関係を確かなものにしたい」
「あ、えっと……」
晴輝はいつになく真剣な表情をしている。クライヴの顔は未だに思い出せないけれど、彼が柔和な空気を纏っていたのに対して、晴輝は切れ長の瞳も相まっていつも表情が硬くシャープな印象だ。決して似てはいないはず。それなのに、あの日、辺境に移住するレベッカに連れてって欲しいと懇願してきた彼を彷彿とさせた。そんなクライヴにレベッカは弱かったから、例え告白に有無を言わせない強引さがあっても、凛香が突っ撥ねられるはずがない。それにもう既に絆されていた。これまでの日々で晴輝が凛香を大切に思ってくれていることはひしひしと感じられていたから。
ドキドキと高鳴る胸の内は、照れくささよりも嬉しさが上回っている。 彼に惹かれ始めていたところに、告白されたのだから。
「これから意識してもらえるようずっと精進しつづける。だから俺を選んで欲しい」
勢いに押された凛香の様子に気付いたのか、晴輝はさらに言い募った。表情だけじゃなくて口調までかたい。が、いつの間にか両手を握られているから逃げ出すことさえ封じられた気がする。これはまさかの『イエス』か『はい』以外、選択肢にないのでは?
食事会も終わり、凛香の家まで送ってくれるという晴輝の好意に甘えて二人きりだったし、街頭が少ない夜道で暗かったのが幸いだ。顔は絶対真っ赤になっている。 皆の前でされていたら、と思とさらに居たたまれなくなるが、凛香が嫌がることを長年の付き合いで晴輝はしないと分かっている。だからといって恥ずかしくないわけではないのだけれど。羞恥のせいではなく、どうしてだか晴輝の手の感触に何故か泣きそうになる。知り合って随分経つが、初めて手を握ったというのに。
今の凛香にとって晴輝の告白の返事は、
「うん。よろしくお願いします」
これ以外になかった。緊張からか声が小さくなってしまったのだが、静かな場所で二人きりとあって、しっかりと届いたらしい。
「……わっぷ」
突然抱きしめられて間抜けな声が漏れる。思わず涙がこぼれてしまったのは、晴輝の体型がクライヴにとても似ていたからだろうか。いや、でもレベッカはクライヴと抱きしめ合ったことなど一度もない。そんな場面があれば流石に覚えているだろう。ではこの覚えのある感触は何なのか?
確認したくて、恐る恐る晴輝の背に手を伸ばせば、さらに強く抱きしめられた。でもこの胸に宿っている愛おしさは、凛香が感じているものかレベッカのものなのか、いっぱいいっぱいで分からない。けれど、あまりにも涙が止まらなかった。
「い、嫌だっただろうか? でも、もうなかったことにしたくない。どうか頼む……」
それに気づいた晴輝が今までにないくらい慌てて、誤解を解こうとするも喉が引き攣って言葉にならない。さらにオロオロとする晴輝の姿に、吹き出してしまったお陰で、断ったわけではないことに気付いてくれたらしい。
「……えっと、これからもよろしくね」
晴輝の胸の中でそう呟けば、再び抱きしめられて、凛香のこめかみ辺りに彼が何度も頷いた感触だけがあった。
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