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第15話 夕方のトライト邸前
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次の日、やりかけだった仕事をする為にトライト家に行くと、執事から私が帰ってきたと聞いたビューホ様が慌てて執務室までやって来た。
ビューホ様とシェーラ様には言わないでほしいと頼んだけれど、執事が伝えてしまったみたいだった。
もしかすると、ビューホ様に私が帰ってきたら伝える様に頼まれていたのかもしれない。
当主の言うことには逆らえないといったところかしら?
「どこへ行っていたんだ! 男の所か!?」
「あなたと一緒にしないで下さい。この家にいると、身の危険を感じましたから避難させていただいただけです」
「だから、どこに泊まったんだ!? まさか、イシュル公爵令息の家じゃ…」
「だから違うと言っていますでしょう? 宿に泊まっております。どこの宿かは教えられませんが」
「どうしてだ!? やましい事があるからか?」
「何度も言いますが、身の危険を感じているんです! それなのに、わざわざ居場所を言うとお思いですか?」
素直に答えてしまったら避難した意味がなくなってしまう。
宿には私を探している人物が訪ねてきても、泊まっていないと伝えてほしいとお願いしているし、そんな人が来たら教えてほしいともお願いしている。
「俺にチャンスをくれるんじゃなかったのか?」
「ですから、こうやって戻ってきています。シェーラ様に気付かれたらすぐに帰らなければなりませんから、静かにしていただけませんか?」
大きく息を吐いてからお願いすると、ビューホ様は何度か深呼吸してから頷いた。
「取り乱して悪かった」
「わかっていただけたのなら良いです。ところで、ビューホ様、私と離婚後の仕事はシェーラ様にまた戻すという事でよろしいのですか? それともビューホ様が引き継がれるのですか?」
「その辺の事もあって別れたくないと言ってるんだ」
ビューホ様は困った顔をして言った。
そんな顔をしたいのは私の方だわ。
「ビューホ様、私は今まで自分に価値がないと思い込んでいました。だから、あなたとの初夜の日に何も言わずに、お飾りの妻を受け入れました」
「そうだろう!? 約束したんだからお飾りの妻でいるのが筋だろう!?」
「口約束も効力がありますので、その点についてはあなたの言う事が正しいのかもしれませんが、その時に聞かされていない事がたくさんありましたので、契約違反をしたのはそちらです」
「契約違反?」
「ビューホ様は自分とフィナさんの間に入る隙はないと仰られましたよね?」
「そ…、そうだが」
「では、先日のイボンヌ様の件はどうなのでしょうか?」
冷たい口調で聞くと、ビューホ様は視線を彷徨わせた後、笑顔になって私を見る。
「彼女だってフィナと俺との間には入れない。だから、嘘は言っていない」
「ですが、私には話しておいてくださるべきだったのでは? 私はフィナさんの為にお飾りの妻になる事は了承致しましたが、フィナさん以外の為にそうなる事は了承しておりません」
いつまでも立ち話をしている訳にはいかず、仕事をする為に執務机の椅子に座ると、ビューホ様は机をはさんで目の前に立って言う。
「じゃあ、フィナに戻ってきてもらえばいいのか?」
「あなたの身が危なくなりますけど、それでもよろしければ…」
「そ、それは…っ」
私の言葉によって、フィナさんが別れ際に言っていた言葉を思い出したらしく、ビューホ様は体を震わせた。
フィナさんは嘘を言っている様には見えなかったし、ビューホ様がフィナさんを探せば彼女が言っていた事が現実のものにされそうだわ。
それでビューホ様に怪我をされたり、万が一死んだりされたら、さすがに良い気分にはならない。
出来れば控えてほしいけれど、どうしても彼女が好きなら命を賭けてでも行くでしょうし、その時はビューホ様の本望だったと思って気にしない様にする事にした。
「とにかく、中途半端になっていた仕事をすすめます。仕事を手伝っていただけないと言うのであれば、この部屋から出てもらえませんか?」
「わかった。ただ、夕食は一緒に食べないか?」
「今までも別々でしたし、私はこの家で夕食はとりません」
「じゃあ、外で一緒に食べよう。予約してくる」
私の返事も待たずに、ビューホ様は勝手に決めて部屋から出ていく。
そのため慌てて、廊下で待ってくれていたミオナにビューホ様を止める様にお願いしたのだった。
数時間経ち、昼食を抜いてまで仕事をしていたからか、お腹も減ってきたので、きりの良い所で仕事を終えて、日が沈んでしまわない内にここを出る事にした。
ミオナにシェーラ様がいないか確認してもらってから執務室を出て、屋敷を出ようとしたのだけれど、屋敷を出たところで、ビューホ様が立っているのに気が付き、慌てて屋敷の中に入り姿を隠した。
そして、ゆっくりと小さく扉を開けて外を覗き見る。
門の所に私に背を向ける形でビューホ様が立っていた。
そして、その周りには貴族らしい女性達がいて、口々に叫んでいる。
「結婚しても私が一番だって言ったじゃないですか!」
「私にもあなたはそう言ったわ!」
「ちょ、待ってくれ。ここではやめてくれないか! 場所を変えて1人ずつゆっくり話そう!」
あたふたしているビューホ様を見て、私が離縁する為の良い材料をくれそうだと思い、その場にいる令嬢達の名前を、しっかり頭に叩き込んだのだった。
ビューホ様とシェーラ様には言わないでほしいと頼んだけれど、執事が伝えてしまったみたいだった。
もしかすると、ビューホ様に私が帰ってきたら伝える様に頼まれていたのかもしれない。
当主の言うことには逆らえないといったところかしら?
「どこへ行っていたんだ! 男の所か!?」
「あなたと一緒にしないで下さい。この家にいると、身の危険を感じましたから避難させていただいただけです」
「だから、どこに泊まったんだ!? まさか、イシュル公爵令息の家じゃ…」
「だから違うと言っていますでしょう? 宿に泊まっております。どこの宿かは教えられませんが」
「どうしてだ!? やましい事があるからか?」
「何度も言いますが、身の危険を感じているんです! それなのに、わざわざ居場所を言うとお思いですか?」
素直に答えてしまったら避難した意味がなくなってしまう。
宿には私を探している人物が訪ねてきても、泊まっていないと伝えてほしいとお願いしているし、そんな人が来たら教えてほしいともお願いしている。
「俺にチャンスをくれるんじゃなかったのか?」
「ですから、こうやって戻ってきています。シェーラ様に気付かれたらすぐに帰らなければなりませんから、静かにしていただけませんか?」
大きく息を吐いてからお願いすると、ビューホ様は何度か深呼吸してから頷いた。
「取り乱して悪かった」
「わかっていただけたのなら良いです。ところで、ビューホ様、私と離婚後の仕事はシェーラ様にまた戻すという事でよろしいのですか? それともビューホ様が引き継がれるのですか?」
「その辺の事もあって別れたくないと言ってるんだ」
ビューホ様は困った顔をして言った。
そんな顔をしたいのは私の方だわ。
「ビューホ様、私は今まで自分に価値がないと思い込んでいました。だから、あなたとの初夜の日に何も言わずに、お飾りの妻を受け入れました」
「そうだろう!? 約束したんだからお飾りの妻でいるのが筋だろう!?」
「口約束も効力がありますので、その点についてはあなたの言う事が正しいのかもしれませんが、その時に聞かされていない事がたくさんありましたので、契約違反をしたのはそちらです」
「契約違反?」
「ビューホ様は自分とフィナさんの間に入る隙はないと仰られましたよね?」
「そ…、そうだが」
「では、先日のイボンヌ様の件はどうなのでしょうか?」
冷たい口調で聞くと、ビューホ様は視線を彷徨わせた後、笑顔になって私を見る。
「彼女だってフィナと俺との間には入れない。だから、嘘は言っていない」
「ですが、私には話しておいてくださるべきだったのでは? 私はフィナさんの為にお飾りの妻になる事は了承致しましたが、フィナさん以外の為にそうなる事は了承しておりません」
いつまでも立ち話をしている訳にはいかず、仕事をする為に執務机の椅子に座ると、ビューホ様は机をはさんで目の前に立って言う。
「じゃあ、フィナに戻ってきてもらえばいいのか?」
「あなたの身が危なくなりますけど、それでもよろしければ…」
「そ、それは…っ」
私の言葉によって、フィナさんが別れ際に言っていた言葉を思い出したらしく、ビューホ様は体を震わせた。
フィナさんは嘘を言っている様には見えなかったし、ビューホ様がフィナさんを探せば彼女が言っていた事が現実のものにされそうだわ。
それでビューホ様に怪我をされたり、万が一死んだりされたら、さすがに良い気分にはならない。
出来れば控えてほしいけれど、どうしても彼女が好きなら命を賭けてでも行くでしょうし、その時はビューホ様の本望だったと思って気にしない様にする事にした。
「とにかく、中途半端になっていた仕事をすすめます。仕事を手伝っていただけないと言うのであれば、この部屋から出てもらえませんか?」
「わかった。ただ、夕食は一緒に食べないか?」
「今までも別々でしたし、私はこの家で夕食はとりません」
「じゃあ、外で一緒に食べよう。予約してくる」
私の返事も待たずに、ビューホ様は勝手に決めて部屋から出ていく。
そのため慌てて、廊下で待ってくれていたミオナにビューホ様を止める様にお願いしたのだった。
数時間経ち、昼食を抜いてまで仕事をしていたからか、お腹も減ってきたので、きりの良い所で仕事を終えて、日が沈んでしまわない内にここを出る事にした。
ミオナにシェーラ様がいないか確認してもらってから執務室を出て、屋敷を出ようとしたのだけれど、屋敷を出たところで、ビューホ様が立っているのに気が付き、慌てて屋敷の中に入り姿を隠した。
そして、ゆっくりと小さく扉を開けて外を覗き見る。
門の所に私に背を向ける形でビューホ様が立っていた。
そして、その周りには貴族らしい女性達がいて、口々に叫んでいる。
「結婚しても私が一番だって言ったじゃないですか!」
「私にもあなたはそう言ったわ!」
「ちょ、待ってくれ。ここではやめてくれないか! 場所を変えて1人ずつゆっくり話そう!」
あたふたしているビューホ様を見て、私が離縁する為の良い材料をくれそうだと思い、その場にいる令嬢達の名前を、しっかり頭に叩き込んだのだった。
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