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38 不審な動き ②
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私とイライアス様が並んでソファに座ると、ベェたちは自分も話をすると言わんばかりに、それぞれの主人の太ももの上に飛んできた。
パンナがお茶を淹れて出ていくまでは、ロガンがどんな様子だったか話してくれた。
「本人が気づいてるかはわからないけど、かなり疲れ切っているように見えたね。世話をしてくれる人がいないのか、着ていた服もしわくちゃだった」
「食事を運ぶことくらいは、宿屋の給仕係がやってくれるでしょうけれど、それ以外は自分でやらなければなりませんし、ずっと同じ服を着ているのかもしれませんね」
今までのロガンは服を脱ぎ捨てれば、使用人が拾ってくれるし、朝には新しい服を用意してくれる。
そんな生活が当たり前だった。
今回の件でありがたみに気づいていればいいけど――。
パンナがお茶を淹れ終えて出ていき、話が途切れたところで、イライアス様はベェの話を始めた。
「オウガ卿が馬鹿なことを言ったり、言おうとしたら、ベェがシルバートレイで叩いていたんだ」
「そうだったんですね」
一緒に行くと言い出した時は驚いたけれど、私のために行ってくれたのね。
「ありがとう、ベェ」
「ベェェー」
撫でながらお礼を言うと、ベェは嬉しそうに私の太ももに体を擦り寄せた。
「これで大人しくなるとは思うよ」
「ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。それから、ありがとうございました」
「悪いのは向こうなんだから謝らなくていいよ」
「自分で解決しなければならないことでしたのに、イライアス様に頼ってしまいましたから」
「一人でなんとかしようとすることは悪いことじゃないけど、人に頼ったほうがいい時もあるんだよ。それに、僕は君に頼ってもらえるほうが嬉しいしね」
私が遠慮しないように言ってくれているのよね。
イライアス様は本当に思いやりのある人だわ。
そう思った私は、にこりと微笑んだイライアス様に「ありがとうございます」ともう一度お礼を伝えた。
******
イライアス様が帰ってきてから三日ほどは、特に動きはなく平穏に暮らすことができた。
イライアス様と一緒に過ごす日々は楽しいし、ベェやルピもいる。
ミティ様もラックス殿下とうまくいっているし、ロガンや王妃陛下たちも大人しくしている。
時戻しの魔法はもう使う必要はないかと思い始めた時のことだった。
イライアス様と一緒に執務室で仕事をしていると、こちらに近づいてくる足音が聞こえた。
いつもよりも勢いのあるノックに、イライアス様が目を丸くしながらも返事をすると、執事が中に入ってきた。
いつも穏やかな彼の表情が悲痛のものになっており、嫌な予感がする。
「どうかしたのかい?」
「使用人のパンナが、通り魔被害に遭い、命を落としたと連絡がありました」
尋ねたイライアス様に答えたあと、執事は悲しそうに目を伏せた。
驚きで、私もイライアス様もすぐには、言葉が出せなかった。
そんなの嘘よ。
パンナは今日は休暇で、家族と食事に出かけるのだと嬉しそうにしていた。
今日は楽しい一日になる日じゃないの!
現実を受け入れられない、私の頭の上でベェが大きな声で鳴いた。
「ベェェー!」
その瞬間、私の体は執務室ではなく、自分の自室に移動していた。
※
お祝いコメントやエールを本当にありがとうございました!
本当に嬉しいです!
パンナがお茶を淹れて出ていくまでは、ロガンがどんな様子だったか話してくれた。
「本人が気づいてるかはわからないけど、かなり疲れ切っているように見えたね。世話をしてくれる人がいないのか、着ていた服もしわくちゃだった」
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今までのロガンは服を脱ぎ捨てれば、使用人が拾ってくれるし、朝には新しい服を用意してくれる。
そんな生活が当たり前だった。
今回の件でありがたみに気づいていればいいけど――。
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「オウガ卿が馬鹿なことを言ったり、言おうとしたら、ベェがシルバートレイで叩いていたんだ」
「そうだったんですね」
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「ありがとう、ベェ」
「ベェェー」
撫でながらお礼を言うと、ベェは嬉しそうに私の太ももに体を擦り寄せた。
「これで大人しくなるとは思うよ」
「ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。それから、ありがとうございました」
「悪いのは向こうなんだから謝らなくていいよ」
「自分で解決しなければならないことでしたのに、イライアス様に頼ってしまいましたから」
「一人でなんとかしようとすることは悪いことじゃないけど、人に頼ったほうがいい時もあるんだよ。それに、僕は君に頼ってもらえるほうが嬉しいしね」
私が遠慮しないように言ってくれているのよね。
イライアス様は本当に思いやりのある人だわ。
そう思った私は、にこりと微笑んだイライアス様に「ありがとうございます」ともう一度お礼を伝えた。
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イライアス様が帰ってきてから三日ほどは、特に動きはなく平穏に暮らすことができた。
イライアス様と一緒に過ごす日々は楽しいし、ベェやルピもいる。
ミティ様もラックス殿下とうまくいっているし、ロガンや王妃陛下たちも大人しくしている。
時戻しの魔法はもう使う必要はないかと思い始めた時のことだった。
イライアス様と一緒に執務室で仕事をしていると、こちらに近づいてくる足音が聞こえた。
いつもよりも勢いのあるノックに、イライアス様が目を丸くしながらも返事をすると、執事が中に入ってきた。
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「どうかしたのかい?」
「使用人のパンナが、通り魔被害に遭い、命を落としたと連絡がありました」
尋ねたイライアス様に答えたあと、執事は悲しそうに目を伏せた。
驚きで、私もイライアス様もすぐには、言葉が出せなかった。
そんなの嘘よ。
パンナは今日は休暇で、家族と食事に出かけるのだと嬉しそうにしていた。
今日は楽しい一日になる日じゃないの!
現実を受け入れられない、私の頭の上でベェが大きな声で鳴いた。
「ベェェー!」
その瞬間、私の体は執務室ではなく、自分の自室に移動していた。
※
お祝いコメントやエールを本当にありがとうございました!
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