元聖女になったんですから放っておいて下さいよ

風見ゆうみ

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4  燃やしてました

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 後から、やっぱり私じゃなかったから、王城に残れだとか言われたくないので、私とリュークはあまり長居はせずに、王城を出る事にした。
 聖女達にお別れの挨拶は出来ないけれど、人に罪をなすりつけてくる相手に、わざわざ、さよならは言わなくてもいいと思ったし、挨拶ができなかったと後悔する事もないように思えた。

 聖女の侍女達は誰が結界を張ったか知っているから、私の無実を訴えると言ってくれたけれど、国王陛下の意見に逆らう事になるので、あの陛下の事だし、自分に意見をするなんてけしからん、とか言って、意見をした彼女達に罰を与えるとか言いだしかねない。
 気持ちは有り難いけど、私の事については何もしない様にお願いした。

 侍女達はスケジュール管理をもっときっちりして、抜け駆け出来る人がいない様に、全員が同じ日に休み、同じ日に遠征とする事を決めてくれて、もし、それに従ってくれないのなら、侍女の必要がないからと言って、侍女の仕事を辞めるとまで言ってくれた。

 皆、残念そうにしてくれて、泣いてくれる子もいたから、そんな姿を見ると、さすがに私も鼻がツンと痛くなった。

 あと王城を出て行く事で、心残りといえば、心配してくれていた、リーフ殿下とカイン殿下にさよならを言えなかった事。
 聖女でなくなったのであれば、もう王子とあんな風に世間話をしたり出来なくなってしまう。

 リュークにお願いして、リーフ殿下とカイン殿下には事情だけ説明してもらう様にお願いしよう。
 きっと驚かれるだろうなあ。
 まさか、追放されるとは思っていなかっただろうし。

 世間話は出来なくても、また会えるわよね?
 だって、リュークと彼らは従兄弟なんだから。

 去り際に王太子殿下の側近の人から、王太子殿下が「クズなりに頑張っていたようだから、今までの褒美として男爵の爵位をやる。もしくは出ていきたくなければ、俺に泣いてすがれ」と言っていたと教えてくれたので、落ち着くまで、領土の管理は他の人にお願いする事にして、ありがたく男爵の爵位はいただく事にした。

「ミーファ様、本当によろしいのですか?」
「悪いのはあなたではありません。今からでも陛下に無実を…」
「国王陛下の決めた事ですし、機嫌をそこねて殺されたくないんですよ。死人に口無しみたいな感じに扱われるのは嫌なんで」

 王太子殿下の側近や宰相は私に残ってほしそうだったけれど、リュークと一緒に行くとはっきり告げると諦めてくれた。

 無責任だと言われかねないけど、これは、国王陛下の決定なんだから。

 責任は国王陛下にある!

 転移の魔法を使える人間が、ローストリアには限られているのもあり、転移魔法が付与された魔道具も売られてはいるけれど、それはもう、びっくりするくらいのお値段だ。
 でも、リュークがその魔道具を持っていたおかげで、私はそう多くない荷物と共に、リュークの家に一瞬で辿り着いたのだった。

 ローストリアは全方位、山に囲まれていて、山を越えたところが隣国になる。
 その山の中に魔物や魔族が暮らしていて、隣国も結界を張って、侵入を防いでいる。
 他国がこちらに攻め込むにも魔物がウジャウジャいる山の中を通らないといけない為、こちらの国にたどり着くまでに兵がやられてしまう可能性があるからか、人間同士での戦いは、ほぼない。
 だから、辺境伯といっても、今のところ、相手が魔族の場合が多い。
 結界がしっかりと張られていれば、魔族と戦う事もないので、私が頑張れば、リューク達も領民の人達も安全だという事だ。

 スコッチ辺境伯の事を当主様と夫人の事を奥様と呼んでいるんだけど、リュークから事情を聞いた二人は、自分の事の様に怒ってくれた。

「いくら、国王陛下とはいえ、調べもせずに、聖女様達の発言だけで決めつけるとは…」

 当主様はこめかみを手でおさえてから続ける。

「昔から怪しいとは思っていたが、ここまでとはな…。何を考えていらっしゃるんだ。ミーファ、大変だったな。これからは、うちでゆっくりすればいい」
「そうよ。あなたは回復魔法も使えるし、結界も張れるのだから、紛れもない聖女だけれど、あなたはもう国王陛下が認めた聖女ではないのでしょう? その事を隠して、これから生きていっていいのよ? あなたは今まで十分、頑張ってくれたもの」
「ありがとうございます」

 私が聖女になって、初めて訪れた先がここで、リューク達とは、もう10年近い付き合いになる。

 昔からリュークのご両親は、私が良ければ、リュークを婿に、と言ってくれているほど、私を可愛がってくれていた。

 最初は私が聖女だから、そう言ってくれているのだと思ったけれど、最近は、そんな事を思わなくなる程、お二人は優しかった。

 今だって、突然、やって来た私の為に、メイドさん達が部屋を用意してくれている間に、私と当主様と奥様、長男であるリュークと彼の妹であるアンナと私の五人で、スコッチ家の談話室で話をしていた。
 当主様と奥様は、確か四十歳を越えているのだと思うけれど、そんな事を感じさせられないくらい、お二人共若々しく、リュークはお父様似だという事が、はっきりわかるくらい。

「自分の家だと思って過ごしてね。こんな事を言ってはいけないけれど、リュークの初恋が実りそうで良かったわ!」
「は、母上!」
「何を照れてるの。そんな奥手じゃ駄目よ。ミーファに嫌がられない程度にグイグイ押していかないと! ミーファには悪いけれど、リュークにとっては今回の件は良かったでしょう?」
「そ、そりゃあまあ。だけど、ミーファが悪くないのに、彼女のせいにされている事には納得いきません。だけど、ミーファだけがこき使われているのも、リーフ殿下から聞いてましたから、うちに来れる事になって、その点は良かったと思いますが…」

 リュークが心配げな顔で私を見たので、礼を言う。

「心配してくれて、ありがとう、リューク」
「礼を言われる事ではないから」
「心配して当たり前ですものね。たぶん。明日の新聞には、聖女追放の話が載るでしょう。でも、すぐに、ミーファのせいではないとわかるんじゃないかしら?」

 奥様に言われ、首を傾げて聞き返す。
 
「どういう事でしょうか?」
「だって、私達はあなたの仕事ぶりを見てきているから、あなたがどんな人かはわかるわ。それと同じ様に、あなたが結界を張りに行った領民の多くは、あなたの仕事ぶりを見ているはず。そして、今回、結界が破られた地域の領民は、あなたが結界を張ったのではなく、他の人間が張っていたのを見ている人がいるはずよ」
「お母様の言うとおりだわ。領民だって馬鹿じゃないはずよ」

 アンナが奥様の言葉に頷いてから続ける。

「ミーファさんの仕事は時間はかかるかもしれないけれど、とても丁寧だもの。命に関わるのだから、慎重にしてくれた方が助かるし」
「ありがとう、アンナ」

 私の結界の張り方は、透明なブロックを積み上げていく感じで、結構、手間のかかる事をしている。
 一気にドーム状の結界を張れる事も出来るのだけど、均等の強さで張るのが難しく、今回の様に弱い部分が出来てしまうため、私は一度、ドーム状の結界を張ってから、山に近い付近は、手間のかかる層の厚い結界を張る事にして、二重に結界を張る様な形にしていた。
 私達、聖女は結界が上手く張れていない所は、その向こうの景色がクリアに見えるので、その部分が目立つ。
 だから、見直せば漏れに気付ける。

 もちろん、私にだって失敗はあったから、何度も見直すクセがついた。
 ただ、他の聖女達は、少しでも早く王城に帰る事が優先なので、本当に穴が多かった。
 特に、高い場所は…。

 結界はそう高い場所には張られていないから、空の一部分がクリアに見えたら穴があると思って、結界を張っていた。
 住民の人は、私が何をやっているかはわからなかったみたいだけど、優しく声を掛けてくれる人が多かった。

 だから、今回、私が追放されたと公表されても、私の頑張りをわかってくれている人もいるはず。

「とにかく、明日から結界が弱まっている所がないか、見て回ろうと思います、百日前にここに来たのは、私以外の聖女でしょうし」

 結界は百日くらい経つと弱まり始めるので、張り直さないといけない。
 たぶん、私がいなくなったから、今まで私に仕事をさせていた分、他の聖女は手が一杯になるだろうし、この地には私がいると思って来ないだろうから、私がちゃんとしなくっちゃ。

 せめて、スコッチ領内だけでも私が守るわ。
 他の人達は聖女が助けるはずよ。
 もちろん、違う領地に行く事があれば、そっちの結界をチェックはするけど…。

 でも、もう聖女じゃないんだし、気にしなくていいのかな。
 いやいや、助けられる人を助けるというのは人として当たり前の事よね!

「ミーファ、あまり思いつめない様にしろよ?」
「わかってるわ」

 リュークの言葉に、笑顔で大きく頷く。

「実家には連絡したのか?」

 当主様に聞かれ、すぐに首を横に振って答える。

「いいえ。聖女になると決まった時に、縁を切るかわりに、お金を渡しましたので、会う予定はありません」
「男爵の爵位を持っていても、ミーファはまだ未成年だ。成人になる十九歳までは、私が親権者になろう。手続きを進めてもいいか?」
「ありがとうございます!」

 ローストリアは十九歳になって、やっと成人と認められる。
 だけど、貴族や王族は親権者が了承を出せば、十五歳から結婚は出来る。

 当主様が私の親権を持ってくださるなら、変な縁談がきても断ってもらえるだろうし、ぜひ、お願いしたい。
 
「もし私の所に、他の聖女達から連絡や手紙が来ても、取り次がないようにしてもらえますか」
「わかった。誰かわからない場合や他の人間の場合はどうする?」
「王太子殿下からの場合は、中身だけ確認していただいて、私には見せないようにしてもらえますか?」

 お願いすると、当主様が不思議そうな顔をする。

「何かあるのか?」
「昔から、ブスだの、可愛くない、無能、役立たずなど、私を中傷する手紙をわざわざ書いてくれてたんですよ。いつも最後には、こんな事をされたくなければ、俺に泣いてすがれ、と書いてあるので、毎回、すぐに破り捨てて、暖炉に火がついている日は即効、燃やしてました」

 笑顔で答えると、私以外の全員が顔を歪めて「殿下が幼稚すぎる」と呟いたのだった。
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