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11 あなた達の部下じゃないのよ
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「ミーファ! ねぇ、聞こえないの!? ミーファったら! 私よ、キュララよ!」
大声出さなくてもわかってる。
こっちは知らないフリしてるだけなのに。
それくらい気付きなさいよ。
顔を横に向けて周りの通行人は、一人で叫んでいるキュララを不思議そうな顔をして見ていたけれど、何人かは彼女が聖女だという事に気が付いた様で、彼女の近くで立ち止まっている人がいた。
すると、リュークが言う。
「俺の後ろにまわって、自分の顔を出来るだけ隠してくれ」
「え? うん」
よくわからないけれど、リュークに言われた通り、彼の後ろにまわり、彼の背中に軽く自分の額を当てて、両手で自分の顔を覆ったと同時に、リュークが叫んだ。
「皆さん! あそこに聖女様がいらっしゃいます! 今なら無料で回復魔法をかけてくれるそうですよ! 私も無料で回復魔法をかけてもらいました!」
私が聖女の時にリュークに回復魔法をかけた事があるので、嘘ではない。
「え? どこに聖女様が?」
一瞬、静まり返った後、すぐにざわつきはじめたので、リュークは続ける。
「あちらです。さっきまで何か叫んでおられたピンクの髪の方です」
「え!? ちょ、何なの!?」
キュララの困惑の声が聞こえた。
「本当に聖女様ですか?」
「え、ええ。そうだけど、今の私は休みをとって来ているの。あなたになんてかまっていられないわ!」
「無料だと誰かが言っていたじゃないですか!」
「私はそんな事はしないわ!」
キュララの声が焦ったものになっていく。
「今のうちに行こう」
「うん!」
リュークが身体をこちらに向け、私の手を取って歩き出す。
気になって、キュララの声が聞こえていた方向を見ると、たくさんの人だかりが出来ていて、キュララが叫ぶ声が聞こえた。
「ちょ、ちょっと待って下さい! 聖女なら向こうにもいるから! あっちにお願いします!」
「本当に無料なんですよね!? ここ最近、なぜかお金をとられるようになって困っていたんですよ」
「聖女様、私もお願いします!」
「だから、それは私じゃないのよ!」
どんどん、彼女を取り囲む人の輪が広がっていく。
それを見届けてから、ちゃんと前を向いて早足で歩く。
「ありがとう、リューク」
「彼女が聖女なのは間違いないからな。嘘は言ってない」
「そうね。たまには無料で奉仕もするべきよ。本来なら、お茶会に来れるような暇はないんだから」
キュララがお茶会に出席したい理由は一つしかないだろう。
私に接触して、自分達の仕事を手伝わせる、いや、させようとしているんだろう。
その手にはのらない。
私はお茶会には参加しないし、リュークに付き合ってもらって、朝から夜遅くまで明日は結界の見回りをするつもりだから。
明日は待ち伏せされても困るから、ギークス公爵邸に泊まるのではなく、宿に泊まった方がいいのかもしれない。
突然の話になってしまうけれど、きっと、ギークス公爵夫妻も、それが失礼な事ではないとわかってくださるはず。
絶対にキュララとは会わないし、会いたくなんかない。
そう思っていたのに、次の日の昼過ぎ、後から聞いた話によると、なんと、自分から来たがっておいた、お茶会にキュララは参加せず、結界を張り直している私を朝から探し回り、夕方近くなって、とうとう見つけ出したのだった。
リュークはちょうど近くにあるお店に、私の食べる物を買いに行ってくれていて、その場にいなかった。
だから、彼女を遠ざけてくれる人がいなかった。
本当にタイミングが悪い。
もちろん、リュークが悪い訳ではない。
たぶん、私の運の悪さだ。
無視しようかと思ったけど、やはり結界を張るには、落ち着いた環境の方が良い。
だから、片付けてしまう事にする。
「ミーファ、ひどいわ! ずっと連絡していたのよ? 何の連絡もないなんて、どうして連絡してくれなかったの?」
「そうだったの、手紙をもらっていたなんて知らなかったわ。ごめんね」
「ごめんね、って、もう少し言い方があるんじゃない? 私達がどれだけ大変だったかは知ってるんでしょう?」
なぜ、私が怒られないといけないのかわからない。
結界を張る作業を止めて、彼女をちゃんと見てみると、久しぶりに会ったキュララはかなり痩せていて、若いのに肌荒れがすごかった。
私が聖女だった時には、考えられない姿だった。
「ねえ、ミーファ。あなたがいなくなった穴を私達が埋めてあげているのよ!?」
「文句があるなら、国王陛下に言いなさいよ。私を追放したのは国王陛下なのよ?」
「あの時、あなたが泣いて謝っていれば、違う結果になっていたわよ!」
「ねえ、キュララ、あなた、よく私の目の前に現れる事が出来たわね」
「な、なんの事よ…」
睨みつけたからか、キュララは引きつった笑みを浮かべながら後退る。
「北の辺境伯の領土の結界を張ったのは私じゃなかった。それを知っていたくせに、私だと嘘をついたわね?」
「そ、それは、皆が言うから…」
「皆が言うから言ったって? あなたの事情なんて私には関係ないわよ!」
「落ち着いてよ、ミーファ」
「落ち着ける訳ないでしょ。もう私の事は放っておいて。もう私は聖女じゃないのよ」
「でも、力は使えるじゃない! その力を私達の為に」
そこまで言って、キュララは慌てて口をおさえて、笑顔を作った。
「ミーファ、あなたの代わりに色んな所へ行ったけれど、あなたはどうしてるか聞かれたわ。顔を見せに行ってあげてもいいと思うの。そのついでに、結界を」
「嫌よ。あ、勘違いしないでね。私を気にしてくれている人に会いに行くのが嫌なんじゃなくて、あなたの思う通りにするのが嫌だって事だから」
「ミーファ、一体どうしちゃったの? どうしてそんなに変わってしまったの?」
「ねえ、キュララ、見たらわかるでしょう? 私は結界を張っている途中なの。あなたは聖女なんでしょう? なら、結界が見えるはずよね? どうして邪魔をしてくるの」
キュララは一瞬、私を睨みつけたけれど、すぐにまた笑顔に戻る。
もう演技なんてしなくていいのに。
「私も手伝うわ。だから、早く仕事を終わらせて、二人でゆっくり話しましょう」
「聖女様が元聖女に話す事なんてないでしょう」
キュララの言葉に答えたのは、私ではなく、戻ってきてくれたリュークだった。
真剣な表情をしているけれど、両手にいっぱい食べ物の入った袋を抱えているものだから、緊張感がなくなってる感じもあるけど、キュララの方は突然現れた彼に驚いた後、我に返って言い返す。
「そんな事はないわ。友人だもの。話す事があってもおかしくはないでしょう?」
「友人ですか? ミーファに罪をなすりつける様な方がよく言えたものですね」
「あなた、私にそんな口のききかたをしていいと思ってるの!」
「間違った事を言ったわけではないと思いますが?」
「それはそうかもしれないけれど、あなたに言われる事でもないでしょう。私だって後悔しているのよ! 酷い事をしてしまったって!」
相手は聖女だから、本来なら王族と貴族が話をしているようなもの。
だからか、リュークは彼女を睨みつける事などは一切せずに、無表情で淡々と、キュララと会話をする。
「聖女様はご存知ないかもしれませんが、ミーファと私は婚約関係にあります。私が婚約者の心配をして何が悪いんです?」
「婚約者!? ミーファ、あなたいつの間に!?」
「別にあなたに知らせる必要はないでしょ? 友達でもないんだから」
キュララが私の方に振り返って聞いてきたので答えると、彼女は私を睨んで言った。
「あなただって男にかまけてるんじゃないの!」
「あなた達と一緒にしないでよ。私の場合は婚約者だし、それに、私はもう聖女じゃない! 私がどう生きようがキュララにどうこう言われる筋合いはないわ!」
「お願いよ、ミーファ。私達、もういっぱいいっぱいなのよ。フランソワが逃げようとしているから余計になの」
そう言って、キュララが私の腕をつかもうとしたけれど、両手がふさがっているからか、リュークが私とキュララの間に身体を割り込ませてきた。
「聖女様、こんな事をしている場合ではないですよ」
リュークが言うと、キュララはリュークの視線の先を追ったのか、勢い良く振り返った。
私も気が付いてなかったけれど、商店街の裏の通りにある民家が多く建ち並ぶ場所で結界を張っていたため、私達の言い争う声が聞こえたのか、野次馬らしき人達が集まり始めていた。
昨日の事が頭に思い浮かんだのか、キュララは焦った表情になった後、まだ、諦めるつもりはないのか、リュークの後ろから顔だけ出した私に笑顔を向けてきた。
「今日のところは諦めるわ。そのかわり、この近くにある北西を統治している辺境伯の所へ行ってくれない? 頼んだわよ!」
「行かないから。私を当てにしないでよ。何があっても行かないから! 私はあなた達の部下じゃないのよ」
「信じてるからね!」
「行かないから」
キュララは私の言葉を聞いて、なぜか泣き出しそうな顔になった。
もしかしたら、彼女も限界にきているのかもしれない。
だけど、私だって、半年くらいは休みなく働いてきたし、魔力は食べれば回復する。
朝昼夕は結界を、晩は回復魔法を、日付が変わるまでに寝れば、理想的な生活とはいえなくても、必要な睡眠はとれるはず。
「ミーファ、助けて下さい!」
「あなた達が今やっている事は、私が今まで一人でやってきた事なのよ」
泣き出しそうなキュララに私はきっぱりと答えた。
それと同時に、キュララに誰かが話しかける。
「聖女様ですか?」
「ええ。そうだけど…」
「やはり聖女様だ! 昨日、回復魔法をかけてもらえなかったんです! お願いできますか!」
一人が頼み始めると、たくさんの人が集まり、昨日の様に彼女の周りを取り囲んだので、リュークに声を掛ける。
「リューク、もう今日は帰りましょう」
「いいのか?」
「ええ。ここはまた明日にするわ。明日は学校は休みを取ってくれているのよね?」
「ああ」
「じゃあ、明日も一緒に付いてきてほしい。キュララに邪魔されたくないから、彼女が起きれない、朝早くに来る事になるけど」
「わかった」
「ありがとう」
別に護衛してくれるのはリュークじゃなくていいのかもしれないけど、ギークス公爵の騎士さんを借りたとして、キュララからは私を遠ざけにくい気がした。
リュークは辺境伯令息という立場だから、私の護衛にするには身分が高すぎるけど、騎士さんでは身分が低すぎて、キュララに対して尻込みしてしまうかもしれないから。
それだと、護衛の意味がないからね。
「それから、当主様に連絡を取れる?」
「いいけど、どうしたんだ?」
リュークが私と一緒に歩きながら、不思議そうな顔をして聞いてくる。
「当主様と友好的な人達だけでもいいんだけど、聖女達から、私が結界を張りに行くと言われている領土がないか調べたいの」
「さっき、聖女様が言ってたみたいに、ミーファが行くって勝手に決めて連絡してるかもしれないって事か?」
「うん。その可能性が高いと思うわ。だけど、私が行く訳にはいかないの。だから、もし私が来るのを待っている場所があれば、聖女達に自分の所へ来るようにお願いしなおしてもらわないと…」
本当は私が行って、結界を張れば済む問題なのかもしれないけれど、それではいつまでたっても、聖女達にいいように使われて終わってしまう。
彼女達は自分達が苦労してると思ってるようだけど、元々は、彼女達の仕事の怠慢が原因だ。
それをわからせないと。
そして、私が来ると信じて待ってくれている人がいるなら、それが聖女達の嘘だと伝えておかなければ、大変な事になってしまう気がした。
「ちょっと、無料で治療は出来ないわ!」
キュララの声が聞こえて、頭が痛くなった。
大声出さなくてもわかってる。
こっちは知らないフリしてるだけなのに。
それくらい気付きなさいよ。
顔を横に向けて周りの通行人は、一人で叫んでいるキュララを不思議そうな顔をして見ていたけれど、何人かは彼女が聖女だという事に気が付いた様で、彼女の近くで立ち止まっている人がいた。
すると、リュークが言う。
「俺の後ろにまわって、自分の顔を出来るだけ隠してくれ」
「え? うん」
よくわからないけれど、リュークに言われた通り、彼の後ろにまわり、彼の背中に軽く自分の額を当てて、両手で自分の顔を覆ったと同時に、リュークが叫んだ。
「皆さん! あそこに聖女様がいらっしゃいます! 今なら無料で回復魔法をかけてくれるそうですよ! 私も無料で回復魔法をかけてもらいました!」
私が聖女の時にリュークに回復魔法をかけた事があるので、嘘ではない。
「え? どこに聖女様が?」
一瞬、静まり返った後、すぐにざわつきはじめたので、リュークは続ける。
「あちらです。さっきまで何か叫んでおられたピンクの髪の方です」
「え!? ちょ、何なの!?」
キュララの困惑の声が聞こえた。
「本当に聖女様ですか?」
「え、ええ。そうだけど、今の私は休みをとって来ているの。あなたになんてかまっていられないわ!」
「無料だと誰かが言っていたじゃないですか!」
「私はそんな事はしないわ!」
キュララの声が焦ったものになっていく。
「今のうちに行こう」
「うん!」
リュークが身体をこちらに向け、私の手を取って歩き出す。
気になって、キュララの声が聞こえていた方向を見ると、たくさんの人だかりが出来ていて、キュララが叫ぶ声が聞こえた。
「ちょ、ちょっと待って下さい! 聖女なら向こうにもいるから! あっちにお願いします!」
「本当に無料なんですよね!? ここ最近、なぜかお金をとられるようになって困っていたんですよ」
「聖女様、私もお願いします!」
「だから、それは私じゃないのよ!」
どんどん、彼女を取り囲む人の輪が広がっていく。
それを見届けてから、ちゃんと前を向いて早足で歩く。
「ありがとう、リューク」
「彼女が聖女なのは間違いないからな。嘘は言ってない」
「そうね。たまには無料で奉仕もするべきよ。本来なら、お茶会に来れるような暇はないんだから」
キュララがお茶会に出席したい理由は一つしかないだろう。
私に接触して、自分達の仕事を手伝わせる、いや、させようとしているんだろう。
その手にはのらない。
私はお茶会には参加しないし、リュークに付き合ってもらって、朝から夜遅くまで明日は結界の見回りをするつもりだから。
明日は待ち伏せされても困るから、ギークス公爵邸に泊まるのではなく、宿に泊まった方がいいのかもしれない。
突然の話になってしまうけれど、きっと、ギークス公爵夫妻も、それが失礼な事ではないとわかってくださるはず。
絶対にキュララとは会わないし、会いたくなんかない。
そう思っていたのに、次の日の昼過ぎ、後から聞いた話によると、なんと、自分から来たがっておいた、お茶会にキュララは参加せず、結界を張り直している私を朝から探し回り、夕方近くなって、とうとう見つけ出したのだった。
リュークはちょうど近くにあるお店に、私の食べる物を買いに行ってくれていて、その場にいなかった。
だから、彼女を遠ざけてくれる人がいなかった。
本当にタイミングが悪い。
もちろん、リュークが悪い訳ではない。
たぶん、私の運の悪さだ。
無視しようかと思ったけど、やはり結界を張るには、落ち着いた環境の方が良い。
だから、片付けてしまう事にする。
「ミーファ、ひどいわ! ずっと連絡していたのよ? 何の連絡もないなんて、どうして連絡してくれなかったの?」
「そうだったの、手紙をもらっていたなんて知らなかったわ。ごめんね」
「ごめんね、って、もう少し言い方があるんじゃない? 私達がどれだけ大変だったかは知ってるんでしょう?」
なぜ、私が怒られないといけないのかわからない。
結界を張る作業を止めて、彼女をちゃんと見てみると、久しぶりに会ったキュララはかなり痩せていて、若いのに肌荒れがすごかった。
私が聖女だった時には、考えられない姿だった。
「ねえ、ミーファ。あなたがいなくなった穴を私達が埋めてあげているのよ!?」
「文句があるなら、国王陛下に言いなさいよ。私を追放したのは国王陛下なのよ?」
「あの時、あなたが泣いて謝っていれば、違う結果になっていたわよ!」
「ねえ、キュララ、あなた、よく私の目の前に現れる事が出来たわね」
「な、なんの事よ…」
睨みつけたからか、キュララは引きつった笑みを浮かべながら後退る。
「北の辺境伯の領土の結界を張ったのは私じゃなかった。それを知っていたくせに、私だと嘘をついたわね?」
「そ、それは、皆が言うから…」
「皆が言うから言ったって? あなたの事情なんて私には関係ないわよ!」
「落ち着いてよ、ミーファ」
「落ち着ける訳ないでしょ。もう私の事は放っておいて。もう私は聖女じゃないのよ」
「でも、力は使えるじゃない! その力を私達の為に」
そこまで言って、キュララは慌てて口をおさえて、笑顔を作った。
「ミーファ、あなたの代わりに色んな所へ行ったけれど、あなたはどうしてるか聞かれたわ。顔を見せに行ってあげてもいいと思うの。そのついでに、結界を」
「嫌よ。あ、勘違いしないでね。私を気にしてくれている人に会いに行くのが嫌なんじゃなくて、あなたの思う通りにするのが嫌だって事だから」
「ミーファ、一体どうしちゃったの? どうしてそんなに変わってしまったの?」
「ねえ、キュララ、見たらわかるでしょう? 私は結界を張っている途中なの。あなたは聖女なんでしょう? なら、結界が見えるはずよね? どうして邪魔をしてくるの」
キュララは一瞬、私を睨みつけたけれど、すぐにまた笑顔に戻る。
もう演技なんてしなくていいのに。
「私も手伝うわ。だから、早く仕事を終わらせて、二人でゆっくり話しましょう」
「聖女様が元聖女に話す事なんてないでしょう」
キュララの言葉に答えたのは、私ではなく、戻ってきてくれたリュークだった。
真剣な表情をしているけれど、両手にいっぱい食べ物の入った袋を抱えているものだから、緊張感がなくなってる感じもあるけど、キュララの方は突然現れた彼に驚いた後、我に返って言い返す。
「そんな事はないわ。友人だもの。話す事があってもおかしくはないでしょう?」
「友人ですか? ミーファに罪をなすりつける様な方がよく言えたものですね」
「あなた、私にそんな口のききかたをしていいと思ってるの!」
「間違った事を言ったわけではないと思いますが?」
「それはそうかもしれないけれど、あなたに言われる事でもないでしょう。私だって後悔しているのよ! 酷い事をしてしまったって!」
相手は聖女だから、本来なら王族と貴族が話をしているようなもの。
だからか、リュークは彼女を睨みつける事などは一切せずに、無表情で淡々と、キュララと会話をする。
「聖女様はご存知ないかもしれませんが、ミーファと私は婚約関係にあります。私が婚約者の心配をして何が悪いんです?」
「婚約者!? ミーファ、あなたいつの間に!?」
「別にあなたに知らせる必要はないでしょ? 友達でもないんだから」
キュララが私の方に振り返って聞いてきたので答えると、彼女は私を睨んで言った。
「あなただって男にかまけてるんじゃないの!」
「あなた達と一緒にしないでよ。私の場合は婚約者だし、それに、私はもう聖女じゃない! 私がどう生きようがキュララにどうこう言われる筋合いはないわ!」
「お願いよ、ミーファ。私達、もういっぱいいっぱいなのよ。フランソワが逃げようとしているから余計になの」
そう言って、キュララが私の腕をつかもうとしたけれど、両手がふさがっているからか、リュークが私とキュララの間に身体を割り込ませてきた。
「聖女様、こんな事をしている場合ではないですよ」
リュークが言うと、キュララはリュークの視線の先を追ったのか、勢い良く振り返った。
私も気が付いてなかったけれど、商店街の裏の通りにある民家が多く建ち並ぶ場所で結界を張っていたため、私達の言い争う声が聞こえたのか、野次馬らしき人達が集まり始めていた。
昨日の事が頭に思い浮かんだのか、キュララは焦った表情になった後、まだ、諦めるつもりはないのか、リュークの後ろから顔だけ出した私に笑顔を向けてきた。
「今日のところは諦めるわ。そのかわり、この近くにある北西を統治している辺境伯の所へ行ってくれない? 頼んだわよ!」
「行かないから。私を当てにしないでよ。何があっても行かないから! 私はあなた達の部下じゃないのよ」
「信じてるからね!」
「行かないから」
キュララは私の言葉を聞いて、なぜか泣き出しそうな顔になった。
もしかしたら、彼女も限界にきているのかもしれない。
だけど、私だって、半年くらいは休みなく働いてきたし、魔力は食べれば回復する。
朝昼夕は結界を、晩は回復魔法を、日付が変わるまでに寝れば、理想的な生活とはいえなくても、必要な睡眠はとれるはず。
「ミーファ、助けて下さい!」
「あなた達が今やっている事は、私が今まで一人でやってきた事なのよ」
泣き出しそうなキュララに私はきっぱりと答えた。
それと同時に、キュララに誰かが話しかける。
「聖女様ですか?」
「ええ。そうだけど…」
「やはり聖女様だ! 昨日、回復魔法をかけてもらえなかったんです! お願いできますか!」
一人が頼み始めると、たくさんの人が集まり、昨日の様に彼女の周りを取り囲んだので、リュークに声を掛ける。
「リューク、もう今日は帰りましょう」
「いいのか?」
「ええ。ここはまた明日にするわ。明日は学校は休みを取ってくれているのよね?」
「ああ」
「じゃあ、明日も一緒に付いてきてほしい。キュララに邪魔されたくないから、彼女が起きれない、朝早くに来る事になるけど」
「わかった」
「ありがとう」
別に護衛してくれるのはリュークじゃなくていいのかもしれないけど、ギークス公爵の騎士さんを借りたとして、キュララからは私を遠ざけにくい気がした。
リュークは辺境伯令息という立場だから、私の護衛にするには身分が高すぎるけど、騎士さんでは身分が低すぎて、キュララに対して尻込みしてしまうかもしれないから。
それだと、護衛の意味がないからね。
「それから、当主様に連絡を取れる?」
「いいけど、どうしたんだ?」
リュークが私と一緒に歩きながら、不思議そうな顔をして聞いてくる。
「当主様と友好的な人達だけでもいいんだけど、聖女達から、私が結界を張りに行くと言われている領土がないか調べたいの」
「さっき、聖女様が言ってたみたいに、ミーファが行くって勝手に決めて連絡してるかもしれないって事か?」
「うん。その可能性が高いと思うわ。だけど、私が行く訳にはいかないの。だから、もし私が来るのを待っている場所があれば、聖女達に自分の所へ来るようにお願いしなおしてもらわないと…」
本当は私が行って、結界を張れば済む問題なのかもしれないけれど、それではいつまでたっても、聖女達にいいように使われて終わってしまう。
彼女達は自分達が苦労してると思ってるようだけど、元々は、彼女達の仕事の怠慢が原因だ。
それをわからせないと。
そして、私が来ると信じて待ってくれている人がいるなら、それが聖女達の嘘だと伝えておかなければ、大変な事になってしまう気がした。
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キュララの声が聞こえて、頭が痛くなった。
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