16 / 29
13 絶対にありえません!
しおりを挟む
「王太子殿下が先程、突然やって来られまして、ミーファ様に会わせろと仰っています」
「今、どんな状態だ?」
呆気にとられている私の代わりに、当主様が尋ねると、バトラーが答える。
「エントランスホールでお待ちいただいておりますが、相手は王太子殿下ですので、応接間にお通ししてもよろしいでしょうか」
「そうせざるをえんだろう。いつまでもエントランスホールで待たせておくわけにはいかんからな」
当主様の言葉を聞いて、バトラーは一礼すると、慌てて部屋を出て行った。
普通なら王太子殿下をエントランスホールで待たせる事も無礼なのかもしれないけど、それだけ招かれざる客だという事を暗に伝えているような気がする。
もちろん、この家の中で一番偉いのは当主様だし、当主様の許可なしに、バトラーといえども勝手に案内できないというのはあるかもしれないけど。
「ミーファ、王太子殿下はお前に会いたいと言っておられるようだが、どうしたい? 悪いが、私は今すぐやらないといけない事ができてしまったから、お前の代わりに行ってやれん。お前が嫌なら、王太子殿下のお相手はリュークにさせよう」
「いえ、大丈夫です。私が行きます」
「じゃあ俺も一緒に行くよ」
リュークが微笑んでから続ける。
「婚約者を他の男性と二人きりにさせる訳にはいかないから」
「その事だが…」
リュークの言葉を聞いて、当主様が提案してくれた案に、私とリュークは大きく頷いて、肯定の意を示した。
再度、当主様から意思確認があり、それについて先程と同じ答えを返した後、私とリュークは、その場で当主様と別れ、私とリュークは王太子殿下が待っている応接間に向かう。
部屋の扉をノックしてから開けると、コの字に並べられているソファーの一人がけの席に、王太子殿下が足を組んでふんぞり返って座っていた。
「お待たせ致しました」
リュークがそう言った後、私と二人でお決まりの挨拶の言葉を王太子殿下にした後、リュークはお辞儀を、私はカーテシーをした。
「遅い! それにリューク、俺はお前は呼んでいないぞ」
「申し訳ございません。婚約者を他の男性と二人きりにさせる訳にはいかないんです。ご理解いただけませんか?」
リュークは笑顔を作って王太子殿下に言う。
「理解などできん!」
「そう仰られるのでしたら、ミーファと話は出来なくなりますが?」
「何だと!?」
リュークの言葉に王太子殿下が立ち上がって叫ぶ。
「何を偉そうに! どうして、俺がミーファと話が出来ないんだ!」
「先程もお伝えしましたが、いくら王太子殿下であらせられても、婚約者と男性を二人きりにさせる訳にはいきません」
王太子殿下に対して、命知らずともとられかねないリュークの発言にドキドキしながらも、見守っている場合ではないと気付き、私も口を開く。
「王太子殿下、私に御用との事ですが、リュークが言いました様に、私には婚約者がいる身ですから、他の男性と二人きりになる訳にはいきません。リュークの同席を認めていただけないのであれば、申し訳ございませんが、本日はお帰りいただき、用件を改めて書面でいただけますでしょうか」
「何だと! ミーファ! お前は自分が何を言っているのかわからないのか!」
「失礼ながら殿下、あなたの方こそ、自分が何をしていらっしゃるのか、おわかりになられないのですか? 約束もなしに屋敷に押しかけてきて、婚約者のいる女性と二人きりで話したい? 王太子殿下と噂なんて立てられましたら困るのは私の方なんですが?」
「ミーファ、本気で言っているのか?」
最後の方は丁寧な口調が消え失せ、本音を発してしまった私を、王太子殿下は睨みつけながら聞いてきた。
不敬罪で殺されてしまうかしら?
いや、元聖女とはいえ、わたしの名前は世間に知られているから、さすがにそこまでは出来ないはず。
ここまできたら、なるようになれだわ。
「本気で言っております」
「どうしてだ! 俺はお前の事をあんなにも気にかけてやっていたのに!」
「気にかける…?」
意味がわからなくて聞き返す。
王太子殿下が何か言う前に扉がノックされ、扉付近に立っていたリュークが扉を開けると、バトラーがリュークに二つ折りにされた紙と、小さなメモを差し出した。
そして、メモを受け取って確認したリュークが、バトラーに向かって頷き、二つ折りの紙は持ったまま、メモだけ返すと、それを受け取ったバトラーは、目があった私に軽く会釈をして、静かに扉を閉めた。
バトラーが割って入った事により、一度は途切れた会話だったけれど、王太子殿下が口を開く。
「ミーファ、俺は十分、お前の事を気にかけてやったいただろう。城内で出会えば声を掛け、手紙だって何通も送った! 他の聖女にはしていない事なんだぞ!」
「他の聖女にはしていないと言われましても、あなたが私にして下さった事は、私にとっては嫌がらせにしか受け取れなかったのですが…」
「ミーファ、何を言ってるんだ! 言わないとわからないのか? それだけ俺がお前を特別扱いしてやっていたという事だろう!」
信じられない様なものを見る目で言ってくる王太子殿下だけれど、はっきり言って、私の方が信じられない気持ちで一杯なんだけど?
暴言を吐いたり、嫌がらせみたいな手紙を送ってくるのが特別扱い?
そんな特別扱いなんていらないわ。
「王太子殿下は私を特別扱いして下さっていたようですが、私はその行動によって不快な思いしかしておりません」
「不快だと!? ミーファ、お前、俺が誰だかわかっているのか! 王族なんだぞ! 俺に対して、そんな口のきき方が許されると思っているのか!」
王太子殿下が顔を真っ赤にして叫ぶと、リュークが王太子殿下に近付きながら言う。
「もちろん、ミーファも自分の立場をわかっていますよ。ですが、ミーファの立場も私の立場も、今、現在はあなたと同等の発言をしても良いという立場にあります」
「何だと! いくら、元聖女と従兄弟だからって、そんな事があるわけないだろ!」
「残念ながら、それを許すという許可をいただいております」
リュークはそう言って、二つ折りにされていた紙を開き、王太子殿下の目の前に突きつけた。
「何だいきなり!」
そう言って、王太子殿下は紙を奪おうとしたけれど、奪われたらいけない為か、リュークが腕を上にあげた為、背の低い彼には背伸びをしても届かなかった。
王太子殿下の背丈は、この国の女性の平均身長くらいしかないので、男性にしてみれば低い方だし、逆にリュークは男性でも高い方なので、子供と大人までとはいかないけれど、大きな身長差がある。
ぴょんぴょんと飛び跳ねる王太子殿下が滑稽で笑いたくなったけれど、何とかこらえて、リュークに尋ねる。
「一体、何が書いてあるの?」
リュークは王太子殿下から離れ、扉付近で立ったままの私の所までやって来ると、紙を渡してくれた。
紙の下の方には、リーフ殿下とカイン殿下の名前が書かれてあり、対王太子殿下にのみ、私とリューク、当主様に自分たちと同一の権限を与え、発言の責任については二人が取ると書かれてあり、直筆の署名もされていた。
「これって…」
「詳しい話は落ち着いてからするつもりだけど、前にミーファからリーフ殿下とカイン殿下に連絡を取ってくれって言われてたろ? その後も何度か連絡を取ってたんだ」
「そうだったのね…」
「おい! 俺を無視して話をするな! 一体、何なんだ!」
「落ち着いてお読み下さい」
そう言って、リュークがまた王太子殿下に近付き、目の前に紙を差し出すと、今度は奪い取ろうとはせずに、王太子殿下は文面を読み始め、そして、怒り始めた。
「俺に対してのみだと! 何を考えてるんだ、あいつらは! 邪魔だから他国に追いやったのに、こんな風に邪魔をするのか!」
「王太子殿下、そういえば、今日はお一人でいらっしゃったのですか?」
リュークが尋ねると、王太子殿下は憤慨したまま答える。
「転移の魔道具で来たんだ、当たり前だろう!」
「誰かに連絡はされているのですよね?」
「していない! いや、キュララは知っているはずだ」
「聖女様ですか」
リュークが呆れた顔で呟く様に言った。
側近に何も言わずに出てくるなんて、今頃、彼がいなくなったと、側近の人が探し回ってなければいいけど…。
といっても、どこに行ったかは見当はつくかしらね。
でも、たぶんそこにいるだろうという理由で探さない訳にはいけないだろうから、迷惑な話だわ。
これで責任を取れだなんて言われたら、喜んで辞めてしまいそう。
キュララが知っていると王太子殿下は言ったけれど、キュララはわざわざ教えてあげる様な親切なタイプじゃないし。
そういえば…。
「でも、なぜ、キュララ限定なんですか?」
「やはり俺の事が気になるんだな!?」
「いえ…、そういう訳ではなくてですね」
「俺と婚約したいなら、はっきりと言え! 今、素直に言うのなら、今までも無礼は水に流してやる」
「ですから、そんな気は全くありません!」
リーフ殿下とカイン殿下のお許しも出ている事だし、正直な気持ちを伝えさせてもらう事にする。
「私は王太子殿下の事を今まで一度たりとも、異性として意識した事はございません。それはこの先もそうです。ですから、王太子殿下との婚約を望む事なんて、絶対にありえません! ですから、もうその話をするのは止めていただけませんか」
「意地を張るなと言ってるだろう!」
何なのこの人。
全然、話が通じないんだけど!
「王太子殿下、いいかげんにして下さい。たとえ殿下とはいえ、婚約者のいる女性に、その様な発言は許されませんよ」
「うるさい! 偉そうに! 大体、リューク! お前は年下の分際で俺よりも背が高いからって馬鹿にしやがって」
「殿下、仰っておられる意味がわかりません。私は背丈の事で殿下を馬鹿にした事など一度もありませんが?」
リュークが低い声で言う。
背丈の事では馬鹿にしていないというのは嘘じゃないわね。
他の事では馬鹿にしてると思うけど。
あ、でも、さっきの行動は馬鹿にしてた様になるのかしら?
リューク的には馬鹿にしたつもりはないだろうけれど、王太子殿下にしてみれば、馬鹿にされた様に感じたのかもしれない。
「俺だって背が高ければ…!」
悔しそうに殿下が言った後、私を指差して叫ぶ。
「ミーファ! 絶対にお前を俺のものにしてやるからな!」
「ありえません! そんな悪夢みたいな事を嘘でも口にしないで下さい!」
「悪夢だと!?」
王太子殿下の言葉に対して、私が言い返そうとした時、何の前触れもなく扉が開いた。
振り返ると、当主様が難しい顔をして入ってくると、王太子殿下に向かって頭を下げた。
「王太子殿下、ご尊顔を拝見でき光栄にございます」
言葉とは正反対の重々しい声で当主様は言った後、言葉を続ける。
「ご報告がありまして、こちらへやって来させていただきました」
「報告だと…?」
突然の当主様の出現に、王太子殿下は焦った表情で聞き返す。
「はい。先程、リュークとミーファ、この二人の婚姻が認められました事を、王太子殿下にご報告いたします」
当主様の言葉に、王太子殿下は口をぽかんと開けたのだった。
「今、どんな状態だ?」
呆気にとられている私の代わりに、当主様が尋ねると、バトラーが答える。
「エントランスホールでお待ちいただいておりますが、相手は王太子殿下ですので、応接間にお通ししてもよろしいでしょうか」
「そうせざるをえんだろう。いつまでもエントランスホールで待たせておくわけにはいかんからな」
当主様の言葉を聞いて、バトラーは一礼すると、慌てて部屋を出て行った。
普通なら王太子殿下をエントランスホールで待たせる事も無礼なのかもしれないけど、それだけ招かれざる客だという事を暗に伝えているような気がする。
もちろん、この家の中で一番偉いのは当主様だし、当主様の許可なしに、バトラーといえども勝手に案内できないというのはあるかもしれないけど。
「ミーファ、王太子殿下はお前に会いたいと言っておられるようだが、どうしたい? 悪いが、私は今すぐやらないといけない事ができてしまったから、お前の代わりに行ってやれん。お前が嫌なら、王太子殿下のお相手はリュークにさせよう」
「いえ、大丈夫です。私が行きます」
「じゃあ俺も一緒に行くよ」
リュークが微笑んでから続ける。
「婚約者を他の男性と二人きりにさせる訳にはいかないから」
「その事だが…」
リュークの言葉を聞いて、当主様が提案してくれた案に、私とリュークは大きく頷いて、肯定の意を示した。
再度、当主様から意思確認があり、それについて先程と同じ答えを返した後、私とリュークは、その場で当主様と別れ、私とリュークは王太子殿下が待っている応接間に向かう。
部屋の扉をノックしてから開けると、コの字に並べられているソファーの一人がけの席に、王太子殿下が足を組んでふんぞり返って座っていた。
「お待たせ致しました」
リュークがそう言った後、私と二人でお決まりの挨拶の言葉を王太子殿下にした後、リュークはお辞儀を、私はカーテシーをした。
「遅い! それにリューク、俺はお前は呼んでいないぞ」
「申し訳ございません。婚約者を他の男性と二人きりにさせる訳にはいかないんです。ご理解いただけませんか?」
リュークは笑顔を作って王太子殿下に言う。
「理解などできん!」
「そう仰られるのでしたら、ミーファと話は出来なくなりますが?」
「何だと!?」
リュークの言葉に王太子殿下が立ち上がって叫ぶ。
「何を偉そうに! どうして、俺がミーファと話が出来ないんだ!」
「先程もお伝えしましたが、いくら王太子殿下であらせられても、婚約者と男性を二人きりにさせる訳にはいきません」
王太子殿下に対して、命知らずともとられかねないリュークの発言にドキドキしながらも、見守っている場合ではないと気付き、私も口を開く。
「王太子殿下、私に御用との事ですが、リュークが言いました様に、私には婚約者がいる身ですから、他の男性と二人きりになる訳にはいきません。リュークの同席を認めていただけないのであれば、申し訳ございませんが、本日はお帰りいただき、用件を改めて書面でいただけますでしょうか」
「何だと! ミーファ! お前は自分が何を言っているのかわからないのか!」
「失礼ながら殿下、あなたの方こそ、自分が何をしていらっしゃるのか、おわかりになられないのですか? 約束もなしに屋敷に押しかけてきて、婚約者のいる女性と二人きりで話したい? 王太子殿下と噂なんて立てられましたら困るのは私の方なんですが?」
「ミーファ、本気で言っているのか?」
最後の方は丁寧な口調が消え失せ、本音を発してしまった私を、王太子殿下は睨みつけながら聞いてきた。
不敬罪で殺されてしまうかしら?
いや、元聖女とはいえ、わたしの名前は世間に知られているから、さすがにそこまでは出来ないはず。
ここまできたら、なるようになれだわ。
「本気で言っております」
「どうしてだ! 俺はお前の事をあんなにも気にかけてやっていたのに!」
「気にかける…?」
意味がわからなくて聞き返す。
王太子殿下が何か言う前に扉がノックされ、扉付近に立っていたリュークが扉を開けると、バトラーがリュークに二つ折りにされた紙と、小さなメモを差し出した。
そして、メモを受け取って確認したリュークが、バトラーに向かって頷き、二つ折りの紙は持ったまま、メモだけ返すと、それを受け取ったバトラーは、目があった私に軽く会釈をして、静かに扉を閉めた。
バトラーが割って入った事により、一度は途切れた会話だったけれど、王太子殿下が口を開く。
「ミーファ、俺は十分、お前の事を気にかけてやったいただろう。城内で出会えば声を掛け、手紙だって何通も送った! 他の聖女にはしていない事なんだぞ!」
「他の聖女にはしていないと言われましても、あなたが私にして下さった事は、私にとっては嫌がらせにしか受け取れなかったのですが…」
「ミーファ、何を言ってるんだ! 言わないとわからないのか? それだけ俺がお前を特別扱いしてやっていたという事だろう!」
信じられない様なものを見る目で言ってくる王太子殿下だけれど、はっきり言って、私の方が信じられない気持ちで一杯なんだけど?
暴言を吐いたり、嫌がらせみたいな手紙を送ってくるのが特別扱い?
そんな特別扱いなんていらないわ。
「王太子殿下は私を特別扱いして下さっていたようですが、私はその行動によって不快な思いしかしておりません」
「不快だと!? ミーファ、お前、俺が誰だかわかっているのか! 王族なんだぞ! 俺に対して、そんな口のきき方が許されると思っているのか!」
王太子殿下が顔を真っ赤にして叫ぶと、リュークが王太子殿下に近付きながら言う。
「もちろん、ミーファも自分の立場をわかっていますよ。ですが、ミーファの立場も私の立場も、今、現在はあなたと同等の発言をしても良いという立場にあります」
「何だと! いくら、元聖女と従兄弟だからって、そんな事があるわけないだろ!」
「残念ながら、それを許すという許可をいただいております」
リュークはそう言って、二つ折りにされていた紙を開き、王太子殿下の目の前に突きつけた。
「何だいきなり!」
そう言って、王太子殿下は紙を奪おうとしたけれど、奪われたらいけない為か、リュークが腕を上にあげた為、背の低い彼には背伸びをしても届かなかった。
王太子殿下の背丈は、この国の女性の平均身長くらいしかないので、男性にしてみれば低い方だし、逆にリュークは男性でも高い方なので、子供と大人までとはいかないけれど、大きな身長差がある。
ぴょんぴょんと飛び跳ねる王太子殿下が滑稽で笑いたくなったけれど、何とかこらえて、リュークに尋ねる。
「一体、何が書いてあるの?」
リュークは王太子殿下から離れ、扉付近で立ったままの私の所までやって来ると、紙を渡してくれた。
紙の下の方には、リーフ殿下とカイン殿下の名前が書かれてあり、対王太子殿下にのみ、私とリューク、当主様に自分たちと同一の権限を与え、発言の責任については二人が取ると書かれてあり、直筆の署名もされていた。
「これって…」
「詳しい話は落ち着いてからするつもりだけど、前にミーファからリーフ殿下とカイン殿下に連絡を取ってくれって言われてたろ? その後も何度か連絡を取ってたんだ」
「そうだったのね…」
「おい! 俺を無視して話をするな! 一体、何なんだ!」
「落ち着いてお読み下さい」
そう言って、リュークがまた王太子殿下に近付き、目の前に紙を差し出すと、今度は奪い取ろうとはせずに、王太子殿下は文面を読み始め、そして、怒り始めた。
「俺に対してのみだと! 何を考えてるんだ、あいつらは! 邪魔だから他国に追いやったのに、こんな風に邪魔をするのか!」
「王太子殿下、そういえば、今日はお一人でいらっしゃったのですか?」
リュークが尋ねると、王太子殿下は憤慨したまま答える。
「転移の魔道具で来たんだ、当たり前だろう!」
「誰かに連絡はされているのですよね?」
「していない! いや、キュララは知っているはずだ」
「聖女様ですか」
リュークが呆れた顔で呟く様に言った。
側近に何も言わずに出てくるなんて、今頃、彼がいなくなったと、側近の人が探し回ってなければいいけど…。
といっても、どこに行ったかは見当はつくかしらね。
でも、たぶんそこにいるだろうという理由で探さない訳にはいけないだろうから、迷惑な話だわ。
これで責任を取れだなんて言われたら、喜んで辞めてしまいそう。
キュララが知っていると王太子殿下は言ったけれど、キュララはわざわざ教えてあげる様な親切なタイプじゃないし。
そういえば…。
「でも、なぜ、キュララ限定なんですか?」
「やはり俺の事が気になるんだな!?」
「いえ…、そういう訳ではなくてですね」
「俺と婚約したいなら、はっきりと言え! 今、素直に言うのなら、今までも無礼は水に流してやる」
「ですから、そんな気は全くありません!」
リーフ殿下とカイン殿下のお許しも出ている事だし、正直な気持ちを伝えさせてもらう事にする。
「私は王太子殿下の事を今まで一度たりとも、異性として意識した事はございません。それはこの先もそうです。ですから、王太子殿下との婚約を望む事なんて、絶対にありえません! ですから、もうその話をするのは止めていただけませんか」
「意地を張るなと言ってるだろう!」
何なのこの人。
全然、話が通じないんだけど!
「王太子殿下、いいかげんにして下さい。たとえ殿下とはいえ、婚約者のいる女性に、その様な発言は許されませんよ」
「うるさい! 偉そうに! 大体、リューク! お前は年下の分際で俺よりも背が高いからって馬鹿にしやがって」
「殿下、仰っておられる意味がわかりません。私は背丈の事で殿下を馬鹿にした事など一度もありませんが?」
リュークが低い声で言う。
背丈の事では馬鹿にしていないというのは嘘じゃないわね。
他の事では馬鹿にしてると思うけど。
あ、でも、さっきの行動は馬鹿にしてた様になるのかしら?
リューク的には馬鹿にしたつもりはないだろうけれど、王太子殿下にしてみれば、馬鹿にされた様に感じたのかもしれない。
「俺だって背が高ければ…!」
悔しそうに殿下が言った後、私を指差して叫ぶ。
「ミーファ! 絶対にお前を俺のものにしてやるからな!」
「ありえません! そんな悪夢みたいな事を嘘でも口にしないで下さい!」
「悪夢だと!?」
王太子殿下の言葉に対して、私が言い返そうとした時、何の前触れもなく扉が開いた。
振り返ると、当主様が難しい顔をして入ってくると、王太子殿下に向かって頭を下げた。
「王太子殿下、ご尊顔を拝見でき光栄にございます」
言葉とは正反対の重々しい声で当主様は言った後、言葉を続ける。
「ご報告がありまして、こちらへやって来させていただきました」
「報告だと…?」
突然の当主様の出現に、王太子殿下は焦った表情で聞き返す。
「はい。先程、リュークとミーファ、この二人の婚姻が認められました事を、王太子殿下にご報告いたします」
当主様の言葉に、王太子殿下は口をぽかんと開けたのだった。
74
あなたにおすすめの小説
王命での結婚がうまくいかなかったので公妾になりました。
しゃーりん
恋愛
婚約解消したばかりのルクレツィアに王命での結婚が舞い込んだ。
相手は10歳年上の公爵ユーグンド。
昔の恋人を探し求める公爵は有名で、国王陛下が公爵家の跡継ぎを危惧して王命を出したのだ。
しかし、公爵はルクレツィアと結婚しても興味の欠片も示さなかった。
それどころか、子供は養子をとる。邪魔をしなければ自由だと言う。
実家の跡継ぎも必要なルクレツィアは子供を産みたかった。
国王陛下に王命の取り消しをお願いすると三年後になると言われた。
無駄な三年を過ごしたくないルクレツィアは国王陛下に提案された公妾になって子供を産み、三年後に離婚するという計画に乗ったお話です。
誰でもイイけど、お前は無いわw
猫枕
恋愛
ラウラ25歳。真面目に勉強や仕事に取り組んでいたら、いつの間にか嫁き遅れになっていた。
同い年の幼馴染みランディーとは昔から犬猿の仲なのだが、ランディーの母に拝み倒されて見合いをすることに。
見合いの場でランディーは予想通りの失礼な発言を連発した挙げ句、
「結婚相手に夢なんて持ってないけど、いくら誰でも良いったってオマエは無いわww」
と言われてしまう。
婚約破棄された侯爵令嬢ですが、帝国の次席秘書官になりました ――王の隣ではなく、判断を誤らせない場所へ
ふわふわ
恋愛
王太子の婚約者として王宮に仕える侯爵令嬢ゼクレテァ。
彼女は華やかな場に立つことはなく、ただ静かに、しかし確実に政務と外交を支えていた。
――その役割が、突然奪われるまでは。
公の場で告げられた一方的な婚約破棄。
理由はただひとつ、「愛している相手がいるから」。
ゼクレテァは感情を見せることなく、その決定を受け入れる。
だが彼女が王宮を去った後、王国には小さな歪みが生じ始めた。
些細な行き違い、遅れる判断、噛み合わない政策。
それらはやがて、国家全体を揺るがす事態へと発展していく。
一方、行き場を失ったゼクレテァの前に、思いもよらぬ「選択肢」が差し出される。
求められたのは、身分でも立場でもない。
彼女自身の能力だった。
婚約破棄から始まる、
静かで冷静な逆転劇。
王の隣に立つことを拒んだ令嬢は、
やがて「世界を動かす場所」へと歩み出す――。
-
【完結】嫌われ公女が継母になった結果
三矢さくら
恋愛
王国で権勢を誇る大公家の次女アデールは、母である女大公から嫌われて育った。いつか温かい家族を持つことを夢見るアデールに母が命じたのは、悪名高い辺地の子爵家への政略結婚。
わずかな希望を胸に、華やかな王都を後に北の辺境へと向かうアデールを待っていたのは、戦乱と過去の愛憎に囚われ、すれ違いを重ねる冷徹な夫と心を閉ざした継子だった。
侍女から第2夫人、そして……
しゃーりん
恋愛
公爵家の2歳のお嬢様の侍女をしているルイーズは、酔って夢だと思い込んでお嬢様の父親であるガレントと関係を持ってしまう。
翌朝、現実だったと知った2人は親たちの話し合いの結果、ガレントの第2夫人になることに決まった。
ガレントの正妻セルフィが病弱でもう子供を望めないからだった。
一日で侍女から第2夫人になってしまったルイーズ。
正妻セルフィからは、娘を義母として可愛がり、夫を好きになってほしいと頼まれる。
セルフィの残り時間は少なく、ルイーズがやがて正妻になるというお話です。
【電子書籍化進行中】声を失った令嬢は、次期公爵の義理のお兄さまに恋をしました
八重
恋愛
※発売日少し前を目安に作品を引き下げます
修道院で生まれ育ったローゼマリーは、14歳の時火事に巻き込まれる。
その火事の唯一の生き残りとなった彼女は、領主であるヴィルフェルト公爵に拾われ、彼の養子になる。
彼には息子が一人おり、名をラルス・ヴィルフェルトといった。
ラルスは容姿端麗で文武両道の次期公爵として申し分なく、社交界でも評価されていた。
一方、怠惰なシスターが文字を教えなかったため、ローゼマリーは読み書きができなかった。
必死になんとか義理の父や兄に身振り手振りで伝えようとも、なかなか伝わらない。
なぜなら、彼女は火事で声を失ってしまっていたからだ──
そして次第に優しく文字を教えてくれたり、面倒を見てくれるラルスに恋をしてしまって……。
これは、義理の家族の役に立ちたくて頑張りながら、言えない「好き」を内に秘める、そんな物語。
※小説家になろうが先行公開です
お妃候補を辞退したら、初恋の相手に溺愛されました
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のフランソアは、王太子殿下でもあるジェーンの為、お妃候補に名乗りを上げ、5年もの間、親元を離れ王宮で生活してきた。同じくお妃候補の令嬢からは嫌味を言われ、厳しい王妃教育にも耐えてきた。他のお妃候補と楽しく過ごすジェーンを見て、胸を痛める事も日常茶飯事だ。
それでもフランソアは
“僕が愛しているのはフランソアただ1人だ。だからどうか今は耐えてくれ”
というジェーンの言葉を糧に、必死に日々を過ごしていた。婚約者が正式に決まれば、ジェーン様は私だけを愛してくれる!そう信じて。
そんな中、急遽一夫多妻制にするとの発表があったのだ。
聞けばジェーンの強い希望で実現されたらしい。自分だけを愛してくれていると信じていたフランソアは、その言葉に絶望し、お妃候補を辞退する事を決意。
父親に連れられ、5年ぶりに戻った懐かしい我が家。そこで待っていたのは、初恋の相手でもある侯爵令息のデイズだった。
聞けば1年ほど前に、フランソアの家の養子になったとの事。戸惑うフランソアに対し、デイズは…
「地味で無能」と捨てられた令嬢は、冷酷な【年上イケオジ公爵】に嫁ぎました〜今更私の価値に気づいた元王太子が後悔で顔面蒼白になっても今更遅い
腐ったバナナ
恋愛
伯爵令嬢クラウディアは、婚約者のアルバート王太子と妹リリアンに「地味で無能」と断罪され、公衆の面前で婚約破棄される。
お飾りの厄介払いとして押し付けられた嫁ぎ先は、「氷壁公爵」と恐れられる年上の冷酷な辺境伯アレクシス・グレイヴナー公爵だった。
当初は冷徹だった公爵は、クラウディアの才能と、過去の傷を癒やす温もりに触れ、その愛を「二度と失わない」と固く誓う。
彼の愛は、包容力と同時に、狂気的な独占欲を伴った「大人の愛」へと昇華していく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる